120.二度目の交渉 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
テーブルの上の原資料の束、ヴィクトリアの再編草稿、損耗表、通信ログ、煙草の灰、白磁のカップ。全てが俺たちの間に横たわっている。テーブルに引かれた境界線みたいに。
数秒後、俺はうなずいた。
「いい。」俺は言う。「ただし、逆も同じだ。」
カミラの目がわずかに動く。
「どういう意味。」
「俺が部隊を率いて、正面を俺が突いて、撤退線を俺が守っているとき。あんたは土壇場でシュトゥルムシュライターを引き上げることはできない。気が変わったという理由で。」俺は言う。「出動を拒否することはできる。でも一度同意したら、途中で刃を鞘に戻すことはできない。」
今度は、マレクも口を挟まなかった。
これもまた現実だからだ。
武器で一番怖いのは、来ないことじゃない。
中途半端に来ることだ。
カミラは数秒俺を見つめ、最後にうなずいた。
「取引成立。」
その一言が出た瞬間、部屋にずっと張り詰めていた力がようやく少し抜けた。
弛緩じゃない。
着地だ。
林雨瞳が記録板に素早く何行か書き込む。マレクも姿勢を正し、頭を警戒から実行に切り替えたようだった。
ヴィクトリアは迷わず、自分の手稿の束の半分を俺の前に押し出した。
「取引成立なら、今夜から第一版の再編を始める。」彼女は言う。「あなたが覚えている現場での取り出し順序、隠し棚の位置、キャビネット番号、あのとき何を取って何を後回しにした判断理由。全部書き出して。」
俺は彼女を一瞥した。
「今すぐか。」
「そう。」彼女は言う。「まだ覚えているうちに。」
カミラがそこで付け加える。
「クレーン車は一台出す。」彼女は言う。「新品じゃない。夢を見るな。うちの車庫から一番状態のいいものを選んで、シュトゥルムシュライター仕様に固定架と横方向リミッターを作り直す。車籍、人員、整備は全部こっち名義。あなたにあるのは使用権だけ。所有権じゃない。」
「十分だ。」
彼女の口元がわずかに動く。
「今のあなたに文句を言う立場がないのはわかってるでしょ。」
その通りだ。
見栄を張る局面じゃない。
この輸送ラインをここで縛りつけられるだけで、十分に大きな意味がある。
カミラはテーブルから空白の書類を一枚引き寄せ、ペンでいくつかの条文を書き始めた。正式な契約書じゃない。ここの人間はそういうものを信用しない。彼女が書いているのは、実行できる約束だ。
機体の帰属はA.K.-DUCH管制下。
資料の完全移管と二重封存保管。
ヴィクトリアを第一技術責任者とする。
周士達側はシュトゥルムシュライターの優先実戦使用権を取得。
大型クレーン車一台を機体輸送用として紐付ける。
全実戦・テスト記録の返送義務。
許可なき貸与・展示・譲渡を禁ず。
A.K.-DUCHが直接脅威にさらされた場合、機体は基地防衛を優先。
出動承認後、正当な理由なき中途撤収を禁ず。
書き終えて、彼女はペンをテーブルに放り投げた。
「確認して。」
俺は一通り読んだ。
仕掛けはない。
巧みな言い回しで穴を掘るような文章もない。全部、硬い条件だ。
それがかえっていい。
「問題ない。」俺は言う。
彼女は紙を俺の方に向けた。
「覚えておきなさい。今日からシュトゥルムシュライターは、拾ってきた戦利品じゃない。」彼女は言う。「資産。道具。そして人を殺しかねない責任。使いたいなら、ただ『撃て』と叫ぶだけの人間でいるな。」
「そんなふうに自分を見たことは一度もない。」
「そうであってほしい。」
彼女は紙を引き戻し、折り畳んで林雨瞳に渡した。
「二部作って。封存。一部はアタシのところ。一部は技術室。」
「了解。」林雨瞳は言う。
ヴィクトリアはすでに立ち上がり、自分の手稿の半分を脇に挟み直していた。
「猿版を書きに行く。」
そう言って歩き出す。
カミラが目を上げた。
「二日よ。」
「わかってる。」
「本当に猿向けに書かないこと。」
ヴィクトリアが初めて即座に返した。
「それはあなたの部下の識字レベル次第ね。」
マレクの顔が一瞬曇った。
林雨瞳は視線を落として、声を出して笑った。
俺も口元を抑えるのがやっとだった。
ヴィクトリアは全員の反応を無視して、そのまま出ていった。足が速い。頭の中ではもうインデックスの分解、図表の描き直し、そして誰かへの悪態が始まっているらしい。
扉が閉まると、部屋には俺たちだけが残った。
カミラは椅子の背にもたれ、眉間を揉んだ。
動作は短い。
自分が疲れているところを見せたくないみたいに、短い。
「周士達。」
「何だ。」
「これはアタシが譲歩したわけじゃない。」彼女は俺を見る。「ウィンウィンよ。勘違いしないで。」
「わかってる。」
「シュトゥルムシュライターの使用権を渡すのは、あなたがそれを正しい場所で使うと判断したから。」彼女は言う。「口が達者だからでも、運がよかったからでもない。」
「運だけでここまで来たわけじゃない。」
彼女はうなずいた。
「だから取引が成立した。」
そう言って立ち上がり、椅子を後ろに押しやった。
「現場の記録を書いてきなさい。細ければ細いほどいい。今夜中にヴィクトリアに渡すこと。」彼女は煙草の箱をポケットに収める。「それと、クレーン車の状態は午後にアタシが案内する。命綱にこだわるなら、自分で選べばいい。」
「わかった。」
彼女はドアの前で一度止まり、振り返った。
「もう一つ。」
「何だ。」
目線は平坦だ。
氷の表面みたいに。
「シュトゥルムシュライターの使用権を手に入れた以上、次に本当にあれを引っ張り出すときは——」
一拍置く。
「——この投資に見合う戦いを見せてもらう。」
扉が閉まった。
俺はそのまま座っていた。動かなかった。
テーブルの上にはまだ煙草の匂いが残っている。紙もある。白い照明は相変わらず冷たい。
でも、何かが変わった。
今日から、四番庫の鋼鉄の化け物は、もうカミラの基地の秘密だけじゃない。
ヴィクトリアの手の中の工学難問だけでもない。
俺の手の一部になり始めた。
不完全だ。
きれいでもない。
安くもない。
でも、十分に重い。
俺はゆっくり立ち上がり、テーブルに残っていたヴィクトリアの草稿を数枚手に取った。図は雑で、文字は硬い。その一枚の隅に、彼女の小さな文字で一行書いてあった。
猿版第一章:まず赤いものを勝手に触らないことを覚えろ。
二秒眺めてから、紙を仕舞った。
これでいい。
今の俺たちに必要なのは、これだ。
神話でも伝説でもない。シュトゥルムシュライターを囲んで呆然と立ち尽くすことでもない。
手順。車。ロックポイント。補給。権限。そして、本当にあいつを戦場に送り出して、また引き戻せる一本の線。
俺はブリーフィングルームを出た。
外では人が動いている。基地は回り続けている。四番庫の方角では、シュトゥルムシュライターがまだ照明の下に立ち、冷却ホースを繋がれたまま、繋ぎ止められた重い獣みたいにそこにいるはずだ。
でも今、その鎖の一端が、俺の手の中に落ちてきた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




