119.動くことと、実戦は違う 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ヴィクトリアが最後の数値を読み上げたとき、空は白み始めていた。
日の出じゃない。地平の端がただ白くなっただけだ。死人の白目みたいな色。冷たくて、硬くて、温度がない。
採石場にはまだ硝煙の匂いが残っていた。焦げたタール。燃料。それから金属が熱を受けた後の、乾いて苦い匂い。風が吹くと、全部が混ざり合う。解体したばかりの火葬場の機械室みたいだ。
シュトゥルムシュライターは砕石の斜面の下に立っていた。
動かない。
両側の排熱スリットからはまだ白い蒸気が吐き出されている。肩のロケットポッドの外殻には、明らかな変色が一枚。左腕の火炎モジュールは外装が半分外され、中の供給管が露出している。右腕にぶら下がっていた発射ラックはもう外されていて、固定座と焦げたボルト穴の輪だけが残っていた。胸部装甲には新しい擦り傷がいくつか。膝関節の外側には石粉と乾いた油がこびりついている。
さっきまで、あれは動いていた。
砕石の斜面を一歩一歩踏みしめ、四連装MG-42で長い火線を引き、肩のロケットで石壁を白い霧に変え、火炎モジュールで前方を一掃して、障害壁全体を火の海にした。
今は戦場から引きずり戻されてきた鉄の死体だ。
不気味なほど静かだった。
俺はクレーン車のそばに立って、ヴィクトリアがコクピットから降りてくるのを見ていた。
外部のハンドルを伝ってゆっくり降りてくる。動きは速くない。格好をつけているわけじゃない。脚が震えているのだ。顔色はひどく悪く、額と顎には汗。唇はひび割れている。それでも目だけは冴えていた。あの光り方は知っている。興奮じゃない。技師が問題を見つけた後、頭が高速で噛み合い始めるときの光だ。
カミラは彼女の下で立っていたが、手は出さない。
ただ見ている。
ヴィクトリアの両足が地面を踏みしめるのを確認してから、カミラが口を開いた。
「結論。」
余計な前置きは一言もない。
ヴィクトリアは手で口元の汗を拭い、二度ほど息を整えた。
「歩ける。撃てる。殺せる。」彼女は言う。「でも今の状態では、短時間・高強度・予測可能な地形に限定される。条件が一つでも増えたら、事故る。」
カミラは彼女を見た。
「どこから先に死ぬ。」
「腰部補正。次に右腕の反動。その次が左腕の供給逆流。」ヴィクトリアは淡々と言う。検死報告書でも読み上げているみたいだ。「今日が採石場じゃなくて、市街地で、長距離で、連続旋回だったら、まずバランスを崩して、それから自分で自分をバラす。」
俺は口を挟まない。
間違っていないからだ。
さっき最後の急停止テストで、シュトゥルムシュライターの上半身が前に突っ込んだあの一瞬、俺は横ではっきり見ていた。小さな問題じゃない。パイロットの背骨を真っ二つに折るタイプの問題だ。
マレクが外周から戻ってきて、手で合図を送る。工兵二人とあの老整備士がすぐに動いて、回収前チェックを始める。
手順は半装軌装甲車の回収と大差ない。ただ、もっと遅くて、もっと面倒だ。
まず冷却。
次にメイン電源遮断。
バックパック給弾モジュールの待機ロック確認。
肩部ロケットポッドの残弾装填状態チェック。
外部冷却接続。
最後に固定。
カミラが空を見上げた。
「十分後に積み込み。全隊撤収。林雨瞳の方は。」
すぐにイヤホンから林雨瞳の声が返ってきた。遠隔にいるのに、声は相変わらずだ。冷たくて、細くて、腹の立つ。
「北側道路、異常なし。南東方向で採石車列が予定より早くルート変更したが、影響なし。二十分以内に離脱推奨。昼間の世界は、全高三メートルの鋼鉄の化け物を隠すのに向いていない。」
「了解。」カミラは言う。
通信を切り、俺を見た。
「周士達。積み込みについて。ロックポイントを監視すること。今日こいつがクレーン車から転がり落ちたら、あなたをフロントバンパーに縛りつけて引きずって帰る。」
「了解。」
冗談みたいな口調だ。
冗談じゃないのはわかっている。
俺たちのクレーン車は昨日ようやく第一版の改造が終わったばかりだ。シャーシはまだ使える。クレームアームは半壊。本当に頼りになるのは後部の低床プレートと、溶接したばかりのロック構造だけだ。シュトゥルムシュライターを積むために、元の工事用固定座は全部切り落として、新しいメインロックポイントを四組溶接した。脚部に二組。骨盤に一組。胸部前面に一組。バックパック給弾モジュールは独立サポートを組んである。後部フラップも二段折り畳みスロープに改造して、搭載時に膝への過負荷を防いでいる。
説明だけ聞けば、それらしい。
実際に使ってみれば、老朽トラックで戦略級の産廃を無理やり運んでいるようなものだ。
工兵がスロープを下ろした。
鋼板が地面に落ちる鈍い音と同時に、クレーン車全体が揺れた。
ヴィクトリアはすでにシュトゥルムシュライターの背面メンテナンス位置に登り直し、外部点検ラインを繋いでいた。コクピットには入らない。外部から低速牽引モードを起動するだけだ。正式な操縦じゃない。あの鉄の塊に最小出力で自力で這い上がらせるためだけの操作だ。
彼女が数値を読み上げる。下の連中がそれに従う。
「左脚メインシリンダー圧力、三まで降下。」
「三。」
「腰部補正、切断。」
「切断。」
「バックパック給弾モジュール、ロック。」
「ロック。」
「前進。一歩。」
シュトゥルムシュライターが動いた。
ゆっくりと。
テスト中よりずっとゆっくりだ。
まず左脚を上げる。砕石を引きずりながら前へ。スロープに着地する。鋼板全体が低く唸る。次に右脚が続く。重心が前に移る。もう一歩。クレーン車全体が荷重を受けて沈み込み、後輪のサスペンションが下に押される。老朽フレームが歯の浮くような金属の軋み声を上げる。
俺は車の側面に立ち、ロックポイントを一つずつ凝視していた。
もしここでスロープが折れるか、左脚が滑れば、シュトゥルムシュライターはそのまま横転する。クレーン車も道連れだ。周囲にいる人間も巻き添えになる。
誰も口をきかない。
聞こえるのは金属の摩擦音と、油圧の音と、息を殺している音だけだ。
三歩目で低床部分に踏み込んだとき、右側がわずかにずれた。
俺はすぐに怒鳴った。
「右に半足分ずれてる!」
ヴィクトリアが即座に応じる。
「見えてる。停止。左膝微調整。もう少し前。」
鉄の塊が止まる。調整する。また前へ。
機体全体が低床部分の中央に完全に収まるまで。
工兵が一斉に群がり、チェーンを掛け始める。
太いチェーンが脚部のロックアイに噛み合う。油圧固定バーが骨盤位置を押し込む。胸部の押さえバーが閉じる。後方のバックパックサポートフレームが起き上がり、給弾モジュール下端を咬む。左右にさらに二組の保険ベルトを追加する。
俺は一つずつ確認した。
一つずつ手で触れる。
冷たい。粗い。溶接点にはまだバリが残っている場所もある。こんな突貫工事の代物、普段なら見向きもしない。でも今は選り好みしている余裕はない。
カミラも近づいてきて、自分でもう一度確認した。
最後に手を上げて、シュトゥルムシュライターの脛の外装を叩いた。
「噛みつく熊を縛りつけてるみたい。」
「熊は一万二千発の機銃弾を食わない。」俺は言う。
「だから、もっと高くつく。」
そう言って、彼女は車に乗り込んだ。
帰路の隊形は来たときより締まっていた。
先導車一台。
護衛車二台。
中央にクレーン車。
俺は助手席に座り、カミラが運転する。運転手が足りないわけじゃない。彼女が他人を信用していないだけだ。この女は、部隊ごと吹き飛ばしかねない代物については、常に自分でハンドルを握る。
マレクは後続車で殿を務める。ヴィクトリアは後続車には乗らず、クレーン車の側面メンテナンスシートに直接座り、安全ベルトを締めて、小さなボードを手に道中ずっとモニタリングデータを見続けた。あの位置は風で顔が裂けそうな場所だ。それでも座った。帰り道でシュトゥルムシュライターが機嫌を損ねることを、今誰よりも恐れているのは彼女だとわかる。
車列が採石場を離れる頃には、空はさらに明るくなっていた。
砕石の斜面。白い霧。残った弾痕。焼け焦げた障害フレーム。全部がバックミラーの中で後ろへ流れていく。
書き終えたばかりの答案用紙みたいだ。
きれいじゃない。
でも、本物だ。
カミラは片手でハンドルを押さえ、もう一方の手で保温カップの蓋を開けて、冷めたコーヒーを一口飲んだ。俺を見ずに、そのまま口を開く。
「どう見た。」
何を訊いているかはわかっている。
「使える。」俺は言う。「でも、雑に振り回すもんじゃない。」
「当たり前のことを言うな。」
「じゃあ、もっとはっきり言う。」俺は前方の路面を見ながら続ける。「あれは万能兵器じゃない。突破兵器だ。道が要る。燃料が要る。弾が要る。整備する人間が要る。牽引車が要る。エリア封鎖が要る。情報が要る。一つでも欠けた時点で、ただの背が高い棺桶になる。」
カミラが薄く笑った。
「それは、わりとまともな言い方ね。」
「今日あいつがあれだけ見栄えよく動いたのは、場所をあんたが選んで、火力の段取りをヴィクトリアが組んで、外周を全部こっち側の人間で固めたからだ。本当の実戦になったら、敵は大人しく的になってくれたりはしない。」
「それで。」
「だから、今のあれはまだ刀じゃない。」俺は言う。「刃は研いであるけど、柄がついていない鋼の塊だ。」
彼女は何も返さなかった。
そのまま車をさらに十キロ進めた。
道沿いの林が流れていく。朝霧がまだ畑の上に漂っている。遠くに農家がたまに見える。煙突から細い煙が上がっている。この光景はあまりにも普通だ。普通すぎて、現実感が薄い。もう少し走れば市場や学校や修理工場が見えてきそうだ。この世に地下工場も、ゴーレムも、圧縮エーテル(Compressed Aether)も、地獄の使いも、ドイツ人が八十年前に作りかけた鋼鉄の化け物も、最初から存在しなかったみたいに。
でも、違うとわかっている。
手にはまだ機械油の匂いが残っている。
ブーツの底には採石場の砕石粉が詰まっている。
後ろのクレーン車には、これから先の俺たちの一歩一歩を変えていく何かが縛りつけられている。
カミラが不意に言った。「さっきあれを見ていたとき、目つきがおかしかった。」
「どうおかしかった。」
「計算してる目だった。」
「俺はいつだって計算してる。」
「死傷者の数じゃない。」彼女は言う。「別の何か。」
俺は二秒黙った。
「あいつがどれだけ食い潰すか、計算してた。」
「言ってみなさい。」
「弾薬。燃料。予備パーツ。輸送。場所。技師。秘匿コスト。それから、出動するたびの露出リスク。」俺は言う。「拾った銃じゃない。穴だ。金を食い続ける。時間を食い続ける。人間を食い続ける。」
カミラがうなずく。
「いいわ。少なくとも、あの火花に目をやられてはいない。」
「タダの火力なんて、最初から信じちゃいない。」
彼女はまた薄く笑った。
それから保温カップをホルダーに押し込み、話題を一旦棚上げした。
その後の道のりは安定していた。
シュトゥルムシュライターは拗ねなかった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




