117.準備作業 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
結局、俺は眠った。
眠りたかったからじゃない。このまま横にならなかったら、この先何を話しても、何を見ても、何を判断しても、全部がふわふわしてくるとわかっていたからだ。その状態で戦場に出れば死人が出る。格納庫に入るのも同じことだ。
部屋の中は相変わらず、基地特有の匂いがこもっている。
埃。金属。古いコンクリート。薄くて煮立っていない消毒液みたいな何か。ベッドは硬い。枕はレンガを二個詰め込んだみたいだ。銃を手の届く位置に置き、ブーツも脱がずに背中を預けた。目を閉じた瞬間、ほぼそのまま電源が落ちた。
どのくらい眠ったかはわからない。
二時間か。三時間か。
俺を起こしたのは夢じゃない。壁越しに伝わってくる低周波の振動だ。基地の向こう側で、重機が吊り上げられ、下ろされ、また吊り上げられている。ドン。ドン。規則的で、重い。
目を開けて、まず時計を見る。
短い時間だった。でも十分だ。
外の廊下は、完全に昼の当直モードに入っていた。足音が多い。放送が多い。話し声は少ない。基地は昨夜の戦闘を終えて、今日もまた人と燃料と弾薬を飲み込みながら、無理やり自分を回し続ける機械みたいだ。
起き上がって、顔を洗い、口をすすいで、頭にこびりついていた疲労を半分ほど流し落とし、外に出た。
メインの廊下に出た瞬間、最初に嗅いだのはコーヒーの匂いだった。
いいコーヒーじゃない。軍事基地で人間を生かしておくためだけに煮出された、真っ黒い液体。苦い。熱い。目が覚める。情緒はゼロ。
次に嗅いだのは、溶接の匂い。
つまり、格納庫の方ではもう作業が始まっている。
いい。
まず食堂に向かう。腹が減って倒れそうだからじゃない。今何か食べておかないと、この後で技術データや車両改造図、冷却数値を見たとき、脳より先に胃が反乱を起こすとわかっていたからだ。
基地の食堂は広くない。飾り気もない。長テーブル。鉄の椅子。壁際に保温タンク。二列のトレイラック。照明は取調室みたいに白い。ここは幸せになるために食う場所じゃない。食って、立ち上がって、銃を取るための場所だ。
中に入ると、すでに何人かいた。
シキは壁際の席に座っていて、目の前には湯気のほとんど立っていない濃いスープと、パンが一切れ。食べるペースが遅い。食欲がないからじゃなくて、体が反動を食らっている最中だ。昨夜あれだけ無理やり踏ん張った分の反動が、今ちゃんと来ている。左手首には新しい包帯が巻かれていて、顔色はいつもより白いが、目の焦点はもう戻っていた。
葉綺安が向かいに座っている。テーブルの端に、新しく支給された訓練用の長柄武器が立てかけてある。本物の槍じゃない。本物は昨夜使いすぎて、今頃まだ手入れと点検の最中だろう。手にはブラックコーヒーのカップ。飲まずに、ただ匂いを嗅いでいるみたいだ。
エリザヴェータは一番奥、逆光になる位置に座っていた。今日は身なりがきちんと整っている。服も着替えた。顔も洗った。髪も結い直した。昨夜、妾が血霧に変じて人に絡みつき、巨大な七鰓鰻のように相手の喉を引き裂くのを直接見ていなければ、今の彼女はどこかの病弱な磁器人形にしか見えないだろう。
だが、食堂にいる連中は誰も忘れていない。
A.K.-DUCHの若い兵士が何人か彼女の近くを通るとき、無意識に少し迂回する。わかりにくい迂回だ。かなり抑えている。それがかえって本物だった。
林雨瞳は別の席に座っていた。テーブルの上には食事の他に、地図と数枚のブリーフィング資料が広がっている。食事をしているんじゃない。仕事を続けるために、ついでに飯を口に押し込んでいるだけだ。
ヴィクトリアはいない。
当然だ。
今頃は四番庫で大型クレーン車を見ているか、三番格納庫でシュトゥルムシュライターの分解を続けているかのどちらかだ。
俺は食器を取って、席に座った。
シキが目を上げてこちらを見た。
「交渉、終わった?」
「終わった。」
「結果は。」
「機体はここに置く。資料は共有。ヴィクトリアが技術を仕切る。こっちは優先実戦使用権をもらった。それと、大型クレーン車が一台。」
葉綺安がカップを持ち上げて一口飲んだ。
「車まで出したのか、あの人。」
「プレゼントじゃない。」俺は言う。「投資だ。」
林雨瞳は手元の紙を一枚めくった。顔は上げない。
「ようやく、あの人に通じる言葉で話せるようになったのね。」
「それ、褒めてる?」
「違う。」彼女は言う。「昨夜、工場で脳みそを一緒に吹き飛ばしてこなかったことを確認しただけ。」
エリザヴェータが、そこでゆっくり目を上げた。
「つまり今の妾らには、歩く鋼鉄の棺桶が一台と、頭が痛くなるドイツ語の設計図が一箱と、格納庫でスパナを振り回して工兵を脅しておる女が一人いる、ということじゃな。」
「だいたいそんなとこだ。」俺は言う。
彼女はうなずいた。
「だんだん正規軍らしくなってきたわね。」
「もし正規軍の定義を『整備マニュアルのページを一枚めくり間違えただけで全員が吹き飛ぶ可能性がある組織』とするなら、確かに相当それっぽいわね。」
これはヴィクトリアの声だった。
いつ入ってきたのかわからない。手には印刷されたシャーシ積載データと赤ペン。上着の袖は高くまくり上げられていて、顔色は数時間前よりさらに悪いが、目だけは妙に冴えている。彼女が歩いてくると、近くに座っていたポーランド兵が二人、自然に少し道を空けた。怖いからじゃない。今の彼女から漂う「仕事中、邪魔したら殺す」という気配が、あまりにも明確だからだ。
データシートをテーブルにパンと置く。
「四番庫のクレーン車、見てきた。」彼女は言う。「シャーシは使える。クレームアームは半壊。油圧ラインが老化してる。サスペンションが荷重をかけると左に六センチ偏る。工事機材の牽引用に組まれた今の構成はシュトゥルムシュライターの輸送には向かないけど、改造は可能。」
「どのくらい大変?」
「アタシ一人なら二日半。カミラが手のまともな工兵二人と頭の回る整備士を一人出してくれるなら、明日の夜には固定架の第一版ができる。」
「頭が回る、って条件はかなりハードル高いな。」俺は言う。
彼女は俺を一瞥した。
「だから今のところ、半人前しか見つかってない。」
葉綺安の口元がわずかに動いた。笑ったというより、笑いに近い何かだ。
シキはスープを飲み干して、スプーンを置いた。
「試走はいつ。」
「試走じゃない。」ヴィクトリアがすかさず訂正する。「ローボードのクレーン車よ。それに、試走じゃなくてテストランと言って。」
「時間は。」
「カミラ次第。」彼女は言う。「でも、条件はもう渡してある。主構造再点検。冷却回路の圧力テスト。歩行補正の調整。武装の単項テスト。緊急停止手順の訓練。頭が正常なら、どこかの場所を封鎖して一回走らせてくれるはずよ。」
林雨瞳がようやく顔を上げた。
「場所は先に確認しておいた。」彼女は言う。「北に二十六キロ、廃棄された採石場。道は通れる。視界は開けてる。三方向に高地があって外周警戒に向いてる。地面は砕石と斜面があって、歩行補正を確認するのにちょうどいい。」
ヴィクトリアは彼女を見た。
「手伝ってくれてたのね。」
「疑ってたの。」
「確認しただけ。」
林雨瞳が低く鼻を鳴らした。
この二人の間には、まだ薄いトゲが残っている。噛み合うわけじゃない。仲良いふりをするつもりもない。それでいい。馴れ合いが早すぎると、かえって嘘くさくなる。
俺は皿の上の、武器みたいに硬いパンを最後まで食べ切り、コーヒーを飲み干して立ち上がった。
「四番庫を見に行く。」
「一緒に行く。」ヴィクトリアが言う。
言い終わる前に、食堂の入り口から若い士官が入ってきた。A.K.-DUCHの腕章をつけていて、姿勢が正しく、息がまだ少し上がっている。速足でここまで来たらしい。
「周さん。ヴィクトリアさん。」彼は言う。「カミラ指揮官が二十分後に四番庫に来るよう言っています。クレーン車を引き出しました。改造案をその場で見たいと。」
「今すぐ?」ヴィクトリアが訊く。
「今すぐです。」
彼女はうなずいた。余計なことは言わない。テーブルの上のデータシートをまとめて挟み直し、そのまま歩き出す。
俺もついていく。
食堂を出るとき、振り返った。
シキはもう立ち上がっていた。葉綺安は座ったまま動かない。いつでも立てる体勢だ。エリザヴェータは椅子の背にもたれ、金属のカップをゆっくり手の中で回しながら、俺たちの背中を見送っていた。その目は、自分はまだ手を出すつもりはないが、絶対に面白いことになる厄介事を眺めているときの目だった。
四番庫は三番格納庫よりずっと汚い。
戦闘後の汚れじゃない。重機が長年出入りしてきた種類の汚れだ。床の油染みは深い。壁には古い溶接飛沫が残っている。天井のクレーンレールには黒い煤が積もっている。空気はディーゼルと熱した鉄と、年代物の潤滑グリスの匂いで満ちている。
クレーン車は中央に停まっていた。
思ったより大きい。六軸。低床フラットトレーラー後部。前部キャビンの装甲は一度剝がして補修した跡がある。シャーシは壁にぶつけるために作ったみたいに分厚い。車体の塗装は古びてグレーがかっていて、元の識別番号は半分消えかけている。側面には、かつて工事用発電機を牽引したときについたらしい長い引っかき傷が何本か残っている。クレームアームは後部に収まっていて、関節は太く、錆の斑点が多いが、主梁は歪んでいない。車頭は老犬みたいだ。不細工で、重くて、まだ生きている。
マレクが左前輪の横に立っていた。手にスパナを持っていて、車を見ているのか人を見ているのかよくわからない。カミラは車の右後方に立っていて、工兵二人、整備士一人、記録担当の女性士官を連れていた。
俺たちが近づいたとき、彼女は挨拶なしに手を上げた。
「見てちょうだい。」彼女は言う。
ヴィクトリアはもう先に歩いていた。
解体待ちの死体を検分するみたいな動き方だ。一周する。溶接点を触る。固定穴の位置を確認する。ステップを踏む。ホイールアーチを叩く。サスペンションを確認する。速いが、雑じゃない。どこを見るべきかが最初からわかっているからだ。隣にいた整備士が最初は説明を加えようとしたが、半周もしないうちに黙った。自分のペースで話すと邪魔になり、速く話そうとすると彼女の確認作業についていけないと気づいたからだ。
俺はカミラの横に立った。
「動きが早いな。」
「買ったものを埃まみれにしておくのが嫌いなの。」彼女は言う。
「それ、『買った』って認めたのか。」
「取引だったことは最初から否定してない。」彼女はフラットに俺を見る。「喜んでいいわ。少なくとも、踏み倒すつもりはないってことだから。」
「安心した。」
カミラは折り畳んだ地図を手に持っていた。それを広げて、クレーン車のボンネットの上に置いた。
あの採石場の周辺図だった。
「テストランの場所は決まった。」彼女は言う。「北の廃採石場。今夜、道路封鎖。明日の午前四時に出発。五時前に現地着。夜明けまでに空荷での歩行補正テスト第一ラウンドを終わらせる。日の出後に武装の単項テスト。九時までに撤収完了。」
俺は地図を見下ろした。
時間の組み方が厳しい。でも理にかなっている。短ければ短いほど安全だ。昼間にテストするのは機体の反応と射界をはっきり確認するため。夜明け前に出発するのは、余計な目を避けるためだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




