115.猿でもわかるバージョン 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「理由は。」
「あんた、自分で黒板に書いたろ。」俺は言う。「後勤、だ。あれは、毎回自走で戦場まで行かせるもんじゃない。目立ちすぎる。燃料も喰う。バカのやることだ。こっちには、あれを積める車が要る。できれば、回収と吊り上げもできるやつ。」
「ずいぶん、欲張るのね。」
「じゃなきゃ、毎回ポーランド半分をあれで横断しろってか? ついでに、みんなに双眼鏡配って、『ほら、あそこが俺たちだ』って手でも振らせるか?」
そこで、林雨瞳がやっと、低く笑い声を漏らした。
短く、ひと声だけ。
カミラは笑わない。ただ、数秒ほどじっと俺を見つめる。
「大型のクレーン付きトレーラー?」彼女が言う。
「少なくとも、重機用クレーン車だな。固定架付きで、牽引もできるやつ。状況によっては、その場で損傷機体を回収できること。」
ついに、マレクが口を開いた。
「一台ある。」彼は言う。「元は重機輸送用だ。シャーシは持つ。車両自体の状態は、まあ普通。改造は必要だ。」
「改造できる。」ヴィクトリアが即座に引き取る。「シャーシ構造と積載データを一回見れば、固定架をどう組むかすぐわかるわ。」
カミラが首を傾げて彼女を見る。
「本当に何でもできるのね。」
「一つのことしかやってる暇なんて、なかったから。」
この一言で、部屋がまた静かになった。
カミラはテーブルに戻り、チョークを置く。座らない。立ったまま俺を見る。
「つまり、あなたの条件はこういうこと。」彼女は言う。「資料の完全引き渡しとバックアップ権。彼女がオリジナル資料を整理して一冊の——」
ヴィクトリアがすかさず続ける。
「猿でもわかるバージョン。」
カミラが、今度こそ笑った。
大きくはない。だが、確かに笑った。
「いいわ。」彼女は言う。「猿でもわかるバージョンを一冊。」
そして、また俺に視線を戻す。
「交換条件はこう。シュトゥルムシュライターを共同作戦資産として登録。機体はこちらの基地に駐機し、秘匿・封存・後勤はこちらが担う。ヴィクトリアが第一技術権限を持つ。あなたたちには優先実戦使用権を付与する。それから、重機用クレーン車を一台、あの機体専用の運搬・回収プラットフォームとして提供する。」
これは俺が求めていたものにかなり近い。
だが、まだ一語足りない。
俺は口を開く。
「優先実戦使用権、そこをはっきりさせておく。」
カミラの眉がわずかに動く。
「どの程度?」
「共同任務の際、俺が使用要請を出したら、正当な理由なく拒否できない。」俺は言う。「基地自体が攻撃を受けているか、あの機体を待機させる方が出撃させるより明確に有利だと、あんたが証明できる場合を除いてな。」
「法律の条文でも書いてるつもり?」彼女が言う。
「後で誰かがとぼけないようにしてるだけだ。」
マレクの口元がかすかに動いた。林雨瞳は手元のノートに二行書き足している。明らかに俺の条件を補足している。
カミラは数秒俺を見つめ、怒った様子はない。
むしろ、さらに満足そうだった。
「いいわ。」彼女は言う。「ようやく、条件交渉のできる人間らしくなってきた。」
「最初からできてる。」
「違うわ。」彼女は言う。「前のあなたは、いきなり銃を抜くタイプに見えた。」
「今でも抜く。」
「わかってる。」
彼女はそう言って、死傷リストをわきに寄せ、林雨瞳に目配せした。
林雨瞳はノートを新しいページに開き、本格的に条件を書き始める。正式な契約書じゃない。この場所では、そういうものは流行らない。だが彼女が書くものは、後で突き合わせるには十分だ。それで足りる。
書きながら、彼女は淡々と読み上げる。
「第一条。シュトゥルムシュライターを共同作戦資産とする。
第二条。機体はA.K.-DUCH指定施設に平時駐機。
第三条。ヴィクトリアが第一技術責任権および分解検査権を保有。
第四条。F.A.B.R.I.K.回収資料、双方で完全バックアップ構築。
第五条。ヴィクトリアが簡略版操作・保守マニュアル再編を担当。
第六条。周士達側が優先実戦使用権を保有。基地攻撃時または明確な戦術的必要性がある場合を除き、正当理由なく拒否不可。
第七条。A.K.-DUCH、重機用クレーン車一台を専用運搬・回収プラットフォームとして提供。
第八条。以降の改修、武装補充、作戦展開については双方再協議。」
読み終えて、顔を上げる。
「他に追加。」
俺はすぐには言わなかった。
先に口を開いたのはヴィクトリアだった。
「一つ足す。」彼女は手のファイルをテーブルにパンと置いた。「アタシの許可なしに、誰も主反応区の外装を勝手に開けるな。」
カミラが言う。「理由は。」
ヴィクトリアは彼女を見て、天気予報でも読み上げるような口調で言った。
「中身は圧縮エーテル(Compressed Aether)駆動コアだから。下手に開けたら、軽くて機体廃棄。最悪、この倉庫の半分が吹き飛ぶ。」
林雨瞳のペン先が一瞬止まり、それからその条件を書き足した。
カミラはうなずく。
「妥当ね。」
俺はテーブルの上の紙を眺めながら、ふと思う。この交渉は昨夜の突入よりよほど戦闘らしい。
銃声は少ない。
死人も今のところ少ない。
だが一言一言が陣地を釘で打ちつけていく。誰が何に触れていいか、誰が触れてはいけないか、誰がそれをどこへ動かす権限を持つか。それこそが、この先の多くの戦いを左右するものだ。
カミラは林雨瞳が書き終えるのを待ってから、椅子に座り直した。
手を差し出してはこない。ここでは、そういうやり方は流行らない。彼女はただ、そのページの向きを変えてテーブルの中央に押し出した。
「これは契約書じゃない。」彼女は言う。「お互いの理解を、まず言葉にしただけ。」
「十分だ。」俺は言う。
「ええ。」彼女は俺を見る。「少なくとも今は十分。」
俺は手を伸ばしてそのページを引き寄せ、一通り目を通した。
大きな問題はない。
誰かが全部を持ち去るわけでもない。誰かが施しを受けるわけでもない。それでいい。本当に長続きする協力関係というのは、こうして交渉で生まれる。感情じゃない。口先だけの信頼でもない。自分が何を手に入れて、何を差し出したかを、互いにわかっているから成立する。
俺は紙をテーブルに戻した。
「いい。」俺は言う。
カミラもうなずく。
それだけだ。儀式はない。立会人もいない。印鑑もない。
だが、この瞬間から、シュトゥルムシュライターはもう俺たちが地下から力ずくで引きずり出してきた化け物じゃなくなった。あれには場所ができた。条件ができた。後勤ができた。次に戦場へ出る可能性ができた。
あの数箱の設計図も、もう戦利品じゃない。
それは俺たちとA.K.-DUCHを結びつける線になった。
ヴィクトリアがそのとき初めて壁から肩を離し、テーブルに近づいてきて、ファイルをカミラの方へ押し出した。
「これ、アタシが先に整理した第一陣の目録。」彼女は言う。「原資料はぐちゃぐちゃだから、まずインデックスを作って、いくつかのブロックに分ける。起動、停止、給弾、冷却、外装分解検査、基礎エラー判定。そっちに渡す分は書き直す。」
カミラが訊く。「どのくらいで。」
「三日。」
「昨日も同じことを言ってたわね。」
「昨日の時点で、今日あなたがまたその質問をするってわかってたから。」
マレクがついに低く咳払いをした。笑いを堪えようとして、堪えきれなかった、そういう音だった。
カミラはファイルを受け取り、二ページほどめくる。
「いいわ。」彼女は言う。「クレーン車は今日の午後に引き出しておく。シャーシデータと積載記録は一緒に格納庫に届ける。見終わったら、改修要件をリストアップして。」
「工具が要る。」ヴィクトリアが言う。
「リストを出して。」
「人手も要る。」
「工兵二人と整備士一人、まず貸す。使えなかったら、また交代させる。」
ヴィクトリアは今度こそ本当に笑った。
「その言い方、気に入った。」
俺はそこに座ったまま、もう口を開かなかった。
言うべきことは全部言い終えたから。
外の廊下から当直の交代ベルが聞こえてきた。短く一声。新しい交代が始まる合図。基地は前へ進み続けている。俺たちが取引を一つ終えたからといって、立ち止まって待ってはくれない。
カミラはその記録を手元に収め、最後にもう一度俺を見た。
「周さん。」
「何だ。」
「昨夜あなたが持ち帰ってきたのは、戦利品だけじゃない。」彼女は言う。「厄介事でもある。」
「わかってる。」
「よかった。」彼女は言う。「なら、厄介事は使い方次第で道を開けることも、使い方を誤れば先に自分を潰すこともある——それもわかってるわね。」
俺は立ち上がった。
「だったら、誤らなきゃいい。」
彼女は一秒俺を見て、うなずいた。
交渉終了。
俺は振り返って外へ歩いた。ドアを開けると、廊下の冷たい白い光が差し込んで、部屋全体を現実に引き戻すみたいだった。林雨瞳はまだ元の位置に座ってノートを整理している。ヴィクトリアはもうファイルに書き込みを始めている。カミラは机の向こうで次のページをめくっていて、この取引が今日の多くの案件のうちの一つに過ぎないみたいな顔をしていた。
でも、そうじゃないのはわかってる。
彼女もわかってる。
俺もわかってる。
今この瞬間から、俺たちの手には全高三メートル、圧縮エーテル(Compressed Aether)駆動、MG-42四挺とロケットポッドを背負ったシュトゥルムシュライターがある。それから、いずれ専用運搬プラットフォームに改造されるクレーン車が一台。それから、狂った設計図を「猿でもわかる」バージョンに書き直してくれる技師が一人。
これは終わりじゃない。
これは俺たちが正式に、戦略級の厄介事を自分たちの生活の中に持ち込んだ、最初の一日だ。
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