114.帰還 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
基地に戻った時、空はまだ完全には明けていなかった。
夜でもない。朝でもない。
その中間にある、一番みっともない灰色だ。冷凍庫から引きずり出されて、まだ完全には固まっていない死体みたいな色。ヘッドライトは消してある。エンジン音も抑えている。先頭車が短い点滅を二度送る。山肌の偽装ゲートが、ようやくゆっくりと隙間を開け始めた。中はまず真っ暗で、その後に冷たい白のガイドライトが一本だけ浮かび上がる。
ゲートの向こうのA.K.-DUCHの哨兵たちから、出迎えはない。
あるのは銃口とサーチライト、ハンドサインと合言葉だけだ。
それでいい。そうじゃなきゃおかしい。
一台目が入った途端、後ろではもう負傷者の搬出が始まっていた。誰も大声を張り上げない。野次馬もいない。医療班二組がストレッチャーを押して側面ドアから駆け込み、一人ずつ引き継いでいく。脚をやられた奴。耳から血を流している奴。顔の半分を煤で真っ黒にしたまま、なおもタバコを吸っている奴。爆発の余韻が全員にくっついていて、灰みたいに落ちてこない。
俺は最後のトラックでゲートをくぐった。
殿を買って出たわけじゃない。シュトゥルムシュライターが最後尾だからだ。
あの機体が地上のスロープを降りてきた瞬間、地下車庫全体が一度、静まり返った。場慣れしていない新兵の歓声じゃない。本当に武器を知っている人間が、「本来存在しているはずのないもの」が目の前に立っているのを見た時にだけ出す種類の静けさだ。
あいつは、目立ちすぎる。
三メートルの全高。全身に刻まれた弾痕。装甲外殻には焼け跡と乾いた血がこびりついている。肩部ロケット巣は火を落とし、両腕の四連装MG-42は静かに下を向いているが、さっきまで人骨を噛み千切っていたノコギリ四本にしか見えない。背部中央の給弾モジュールはまだ低速で回っていて、冷却フィンが開閉を繰り返しながら熱気を吐き出している。光学鏡の冷たい青が灯っていて、車庫の天井灯の下でも銃口よりよほど性質が悪い。
そいつが一歩入るたびに、床が揺れた。
ドン。ドン。ドン。
機械というより、
戦争そのものを基地の中へ引きずり込んだみたいだった。
カミラはランプウェイの脇に立っていた。着ているのは昨夜と同じ濃灰色の軍服だが、新しく煙と灰と血と泥が上塗りされている。彼女はシュトゥルムシュライターが中へ入ってくるのを見つめていたが、顔には何の感情も出していない。その隣の工兵と軍需係たちも喋らず、本能的に半歩だけ後ろへ退いて、通り道を空けた。
「第三重機械格納庫。」彼女は言った。
声は大きくない。だが車庫全体に届く。
「閉鎖。外線遮断。私の許可があるまで、誰も近づくな。」
「了解。」
部下たちがすぐに動き始める。
分厚いシャッターが持ち上がる。中は半分閉じた重機整備用のハンガーで、昨夜俺たちが居座っていたブリーフィングルームの二倍は奥行きがある。床は補強鋼板。壁際にはハンガーフック、油圧スタンド、工具台、大型クレーンが揃っている。A.K.-DUCHが重装ユニットを回収するのは、これが初めてじゃない。ただ、これほどぶっ飛んだ代物は、さすがに初体験だろう。
シュトゥルムシュライターは入口で止まり、その場からしばらく動かなかった。
ヴィクトリアはまだ中にいた。
彼女はすぐにはコックピットを開けない。
俺は歩み寄って、胸部の半開きになった操縦席を見上げた。中はやや暗く、拘束フレームにもたれるように座っている彼女の姿がかろうじて見える。頭をわずかに後ろに預け、片手はまだ操縦レバーにかかっている。顔色は悪い。唇が白い。目だけがやけに冴えている。高熱を出した患者にも、今しがた獲物を噛み殺した狼にも見えた。
「生きてるか。」俺は言った。
彼女は俺を見ず、一拍遅れて口を開いた。
「少なくとも、外にいた連中よりはね。」
「降りられるか?」
そこで初めて視線を下げてきた。目の焦点は少し揺れているが、芯はまだ硬い。
「降りられるわよ。ただ、見知らぬ軍需チンパンジーどもの前で、この鉄の棺桶からどうやって這い出るか見せてやる趣味はない。」
車庫をぐるりと見渡した。
A.K.-DUCHの連中が大勢、確かに見ていた。節度は守っているが、見ていることは見ている。
「じゃ、好きなだけ這え。」俺は言った。「今お前を急かす度胸のある奴は、一人もいない。」
口元がわずかに動いた。笑おうとしたのかもしれない。結局、笑いにはならなかった。
俺は他の連中の様子を見に行った。
希は自力で車を降りていた。足取りは遅い。普段よりさらに顔色が悪い。左腕の袖には乾いた血がべったりついていて、誰のものかわからない黒い油汚れも混じっている。衛生兵が支えようとしたが、彼女は手を払って、危うく自分でふらついた。最終的には、葉綺安が横からそっと支えた。短い動きだ。気遣いというより、反射に近い。
牛小琴が退いた後の彼女は、目に見えて小さくなっていた。さっきまで工場の中で人間を真っ二つにしていたあの剛力は消え、代わりに残っているのは純粋な疲労だ。祖霊の山刀を一時保管の担当に預ける時、手が震えていた。怖くて震えているわけじゃない。ただ、力が抜けている。
葉綺安は逆に、一番「何もなかった人間」に見えた。
弾痕もある。擦り傷も、焼け跡もある。それでも背筋はまっすぐで、背骨にまだあの槍が通っているみたいに、身体を曲げることを許していない。数人のポーランド兵が彼女の横を通る時、無意識に一拍長く目を留める。美人だからじゃない。「銃弾がこの女に通じない」事実を、まだ飲み込めていないからだ。
一番厄介なのは、エリザヴェータだ。
車から降りる頃には、いつものきれいな顔に戻っていた。血も拭き取ってある。袖口にだけ、まだ濃い色の染みが少し残っている。それでも基地の人間は、彼女を見ると本能的に距離を取った。特に、彼女が血霧になって敵の首を噛み千切るのを目の前で見たポーランド兵たちだ。取り乱しはしない。極端に離れもしない。ただ、顔色は総じて良くない。
当のエリザヴェータは、そのあたりをちゃんとわきまえている。さっきの連中に、礼儀正しく軽く会釈までしてから、小声で俺に言った。
「そなたらの新しき友人たち、妾を見る目が、歩く疫病でも見ておるようじゃ。」
「今日のお前の戦い方、確かにあまり文明的じゃなかった。」俺は言った。
彼女は冷ややかに鼻を鳴らした。
「これでも随分、抑えておる方じゃ。」
その一言に、たまたま横を通りかかった若いポーランド兵の喉仏が、はっきり上下した。
放っておいた。
車庫の反対側で、金属のロックが外れる音がした。
顔を上げる。シュトゥルムシュライターのコックピットがようやく開いたところだった。ヴィクトリアがそこから降りてくる。普段よりずっと遅い。芝居じゃない。本当に体力が切れかけている。外付けのステップに右足を乗せた時、一瞬バランスを崩しかけた。手を貸そうとしたが、自分で外殻の縁を掴み、ひと段ずつ降りてくる。
最後の一段で、本格的に足が抜けた。
俺は肘を支えた。
冷たかった。
彼女は俺を一瞥し、振り払わなかった。
「今は、『よくやった』なんて言葉、一言も聞きたくない。」彼女は言った。
「じゃあ言わない。」
「それでいい。」
しっかりと立ち、機体の方へ振り向く。その視線には、一片の名残惜しさもない。あるのは評価だけだ。心臓が止まったばかりの患者を手術室から引きずり出した外科医が、まず感傷ではなく、「どこが壊れていたか、どこが壊れかけているか、次にどこまで持たせられるか」を考えるのと同じ目だ。
カミラが近づいてきた。
最初に機体を一度見る。次にヴィクトリア。最後に俺の背中の工具箱と書類袋に目を移した。
「それが、あんたたちが中からかき集めてきたデータ?」彼女は聞いた。
「大半は。」俺は答えた。
彼女は一度だけ頷いた。追及はしない。ただ隣の部下たちに顎をしゃくる。
「二重封印。機体の冷却が終わるまで、誰もパネルを開けるな。資料はまず技術班へ。封は切らない。私が行くまで保管。」
ヴィクトリアがすぐに口を挟んだ。
「その資料、あなたの部下にむやみにいじらせないで。」
カミラが彼女を振り返る。
「理由は。」
「中身の半分は原始設計稿で、残り半分は後期改修記録。フォーマット混在、用語めちゃくちゃ。旧式のドイツ語略号、現場の略記、素材コード、意味不明な狂人のメモ書きが一緒くたになってる。」ヴィクトリアの声は乾いていたが、揺れない。「今、あなたの部下が好き勝手に開いたら、まず上下のページすら合わせられない。」
「お前は読めるのか。」
「全部は無理。でも、どこを先に触っちゃいけないかくらいは、わかる。」
カミラは二秒ほど黙っていた。
「……なら、一緒に来なさい。」
「息が整ってから。」
「十分。」カミラは言った。「その後で、一次判読を出してもらう。」
ヴィクトリアは肯定も否定もしなかった。
カミラは、それを了承と受け取った。この女はいつもそうだ。
そのまま踵を返し、自分の傷病者と封鎖と弾薬と警戒と死者の処理に向かう。背中を見送りながら、この戦いはまだ本当に終わっていないと、俺はよくわかっていた。ただ、戦場が工場から基地の机の上に移っただけだ。
工具箱を受付カウンターに預け、仮の管理名義に署名する。渡すとき、わざと誰にも内側のロックに触らせなかった。向こうは俺を一瞥しただけだが、その視線は覚えておくことにしたようだ。
それでいい。皆、この中身がどれだけの値打ちかは理解している。
車庫を出て、メインの通路を奥へ進んだ。
基地はまだ動いている。あちこちに人がいる。弾薬箱を運ぶ奴。血を拭き取る奴。分解した武器部品を種類ごとにラックに戻す奴。壁の放送は止まらず、階層、封鎖区域、医療アサイン、巡回の交代を延々と流し続けている。ここは避難所じゃない。廃車寸前なのにまだ無理やり回されている機械に近い。全員、自分がどのギアの位置にいるかを知っていた。
医療区画の灯りは明るすぎるくらいだった。
近づいたところで、洗面台の前に立つ希の姿が目に入った。
洗っている。
流すじゃない。本気で洗っている。水量は全開だ。白い泡が指の間から流れ落ちていく。彼女は俯いたまま、一言も発さず、その動作だけを繰り返していた。血が残っているように扱っているが、実際には何もついていない。指の関節まで赤くなるほど擦っていて、残っているのは小さな洗い落とせない傷だけだ。
葉綺安は少し離れた壁にもたれ、槍は手元になく、新しい包帯のロールを一本手に持っていた。俺を見ると、少しだけ顎を上げた。
俺は希の後ろに歩み寄り、その場で立ち止まる。
彼女は振り向かない。鏡越しに俺を一度だけ見る。
「医者は休めと言ってたぞ。」俺は言った。
「知ってる。」
まだ洗っている。
「今日は、ちゃんと抑えたな。」俺は言った。
手の動きが一瞬止まった。
水はまだ流れている。
数秒の後、彼女は低く答えた。
「……ギリギリ。」
「ギリギリでも、抑えたのは抑えた。」
それ以上は何も言わない。水を止め、両手を洗面台についたまま、頭を垂れて、長い息を一つ吐き出した。それは崩れでも安堵でもない。張り詰めた鋼線が、ほんの少しだけ緩んだ瞬間に近い。
長居はしなかった。
こういう話は、言葉を足しすぎると駄目になる。言い過ぎると、俺が彼女の今夜の行動に「名前」をつけてしまう。それは俺の仕事じゃない。
医療区画を出ると、曲がり角のベンチにエリザヴェータが座っていた。外套を脱ぎ、手には濃い色の金属カップを持っている。中身の匂いは酒じゃない。かといってコーヒーでもない。俺が近づくと、まず俺の手の包帯と煤を見てから、その後ろを一瞥する。
「彼奴は大事ないか。」彼女は聞いた。
「今のところは。」
「それならよい。」
「それ、何飲んでる。」
「医療班には知られたくない代物じゃ。そなたも知らぬがよかろう。」カップを軽く揺らし、淡々と言う。「今宵の連中よりは、よほど口に合うがな。」
俺は彼女の隣に一秒だけ立った。
「基地の中でも、そんな喋り方を続ける必要があるのか。」
「これでも随分と抑えておる方じゃ。」彼女は言った。「むしろ褒めてほしいくらいじゃな。少なくとも戻る前に、口元は拭いてきたのじゃから。」
俺は彼女を一瞥した。
彼女も俺を見返す。その瞳はきれいなままで、何もしていないみたいだ。そこが、こいつの一番腹立たしいところだ。
「言いたいことがあるなら言え。」俺は言った。
エリザヴェータの口元が、ゆっくりと持ち上がった。
「別に。」彼女は言った。「ただ、そなたが一度地下へ潜って、歩く鉄の棺桶を一台持ち帰り、おまけにそれより手のかかる技師まで連れてきた。なかなか効率的じゃと思っただけじゃ。」
「お前、暇すぎないか。」
「違う。」彼女は俯いてカップをもう一口飲んだ。「妾はただ、他の者が認めたがらない場所に問題を見つけるのが得意なだけじゃ。」
「で、何が見えた。」
彼女は目を上げて俺を見た。
「今、そなたにとって一番値打ちがあるのは、あの機体ではない。次にあれを動かせる人間の方じゃ。」
それだけ言って、口を閉じた。
腹立たしい。
だが、正しい。
俺は踵を返して先へ進んだ。数歩も行かないうちに、後ろからイヤホンを引っ張られた。振り返ると、通信室のドア口に林雨瞳が立っていて、手には紙の束を持っていた。顔色が普段より白い。怪我じゃない。徹夜だ。一晩中外線指揮をやって、頭の中の配線を全部一度焼き切ったみたいな顔をしている。
「生きてる?」彼女は聞いた。
「まあな。お前は。」
「私はあんたより安定して生き続けてる。」彼女は記録の束を俺の手に押しつけた。「撤退ルート、起爆タイミング、外周火力の接触記録、敵増援方向。先に一部渡しておく。後で誰かに聞かれた時、自分がどう突っ込んだかしか覚えてない、なんてことにならないように。」
二ページほどめくった。
記録は完璧だった。時刻、座標、火力点の変化、外線狙撃班の切り替え、車列の撤収時刻、通信が何秒途切れたかまで全部入っている。
「今夜、何度も助けられた。」俺は言った。
彼女は俺を一瞥した。
「やめて。」彼女は言った。「あんたが人を褒める時って、大抵次の一言で何か頼んでくる。」
「よくわかってるな。」
「わからざるを得ないでしょ。」彼女は前髪を後ろへ払い、淡々とした口調で続けた。「あんたが一度潜って、機甲一台と設計図一箱と、さらに面倒な技師一人を連れて帰ってきた。効率は確かに悪くない。」
笑えなかった。
彼女も冗談で言っているわけじゃない。
「カミラは今どこだ。」
「先に死傷統計を見に行った。五分前にブリーフィングルームへ。十分以内に技術室へ回って、それから格納庫に戻る。」林雨瞳は俺を見た。「あんたは先に、自分がどっち側に立つか決めておいた方がいい。」
「どういう意味だ。」
「今夜、あの機体がどれだけの価値を持つか、全員が知ってるということよ。」彼女は言った。「あんたも、私も、カミラも、ヴィクトリアも、全員。問題は誰のものかじゃない。誰が触る資格を持つか、誰が動かす命令を出せるか、そして誰が次に自爆させずに済むか。」
彼女は俺の手の中の記録を指先で叩いた。
「それと、相手を早めに仲間だと思わないこと。今夜は一緒に一つの戦いに勝っただけ。家族になったわけじゃない。」
「わかってる。」
「本当にわかってるといいけど。」
彼女は通信室へ戻った。
ドアが閉まる。中の無線機のインジケーターランプだけが、まだ点滅していた。
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長い通路を技術室の方へ向かった。ドアに入る前から、古い紙と機械油と現像液が混ざった匂いがしてくる。中は騒がしい。人が多いからじゃない。紙をめくる音、椅子を引く音、ライトボックスを開ける音、封筒を破る音、キーボードを叩く音、低声での議論が重なり合っている。
ヴィクトリアはすでに中にいた。
清潔な作業着に着替え、髪を束ねて、顔色はまだ白いが、さっきのほぼ絞り尽くされた状態から、完全にいつもの仕事モードに切り替わっていた。机の上には図面が山積みになっている。原始設計図、整備マニュアル、操作手順書、材料校正表、それに字と呼べるかどうかも怪しいレベルの手書き補注。
A.K.-DUCHの技術員が数人、横に立って彼女がめくるのを見ていた。
動きたくないからじゃない。どう動けばいいかわからないからだ。
ヴィクトリアは半透明のトレーシングペーパーを一枚取り上げ、ライトボックスに押し当てた。機体胸腔と主エネルギー結合構造の断面図が浮かび上がる。鉛筆で二か所叩いてから、口を開くやいなや罵倒した。
「これ、人間に見せるための図面じゃないわね。元の設計チームが互いに顔色を窺うためだけに書いたものよ。」
横の技術員が眉をひそめる。
「どういう意味ですか。」
「つまり、このシステム全体が『図面を描く人間は、見る人間も自分と同じくらい頭がおかしいと想定している』前提で成り立ってるってこと。」彼女は顔も上げない。「ここに書いてあるのは材料代替の注記なのに、隣に計器校正の公式が混じってる。このページの左下は溶接工の記録みたいで、右側は試運転時の振動補正データ。それにこれ――」別の一枚を引き抜く。「操作手順書のはずなのに、脚注に旧式の部品番号が羅列されてる。誰がこんな技術文書の整理をするのよ。」
「狂人だな。」俺は言った。
彼女は頷く。
「そう。狂人よ。」
カミラは机の向こう側に立ち、腕を組んで俺を一瞥したが、何も言わなかった。
ヴィクトリアはさらに数ページめくり、最後に図面の束を横へ押しやった。
「原資料は保存できる。むしろ完全な形で保存すべきね。」彼女は言った。「でも、あなたたちが一週間以内にこれを使ってあの機体を再起動させようと思うなら、神棚に飾るんじゃなくて、別に編集し直した版を作ることをお勧めする。」
横の技術員が聞いた。「どのくらい完全に?」
ヴィクトリアは顔を上げ、初めて少し意地の悪い表情を見せた。
「軍需チンパンジーでも読めるくらい完全に。」
部屋が半秒、静まり返った。
俺は笑いそうになるのをこらえた。
カミラは笑わなかった。ただ、わずかに目付きが変わっただけだ。
「お前にできるか。」彼女は聞いた。
「できる。」ヴィクトリアは言った。「ただし条件がある。」
「何だ。」
「完全なアクセス権が必要よ。機体、資料、整備庫、分解検査の権限、記録権限。それと、私が作業している間、あなたの部下に余計なものを触らせないこと。」
非常に強気な物言いだ。
技術員二人の顔色がすぐに悪くなる。だがカミラは即座には拒絶しなかった。ただヴィクトリアを見つめ、一振りの刃物の重さを測り直しているような目で。
「要求が多いな。」彼女は言った。
「あの機体も十分複雑よ。」ヴィクトリアは返す。「本当に使える版が欲しいなら、使える人間に触らせるしかない。」
カミラは答えなかった。
机の上の設計図を一度見下ろし、それから俺を見た。
その瞬間、俺には全体像がはっきりと見えた。
シュトゥルムシュライターそのものは重要だ。圧縮エーテル(Compressed Aether)も重要だ。だが、この二つを単なる戦果から長期的な資産に変えるのに必要なのは、鋼でも燃料でも、あの冷光を放つコアでもない。この紙だ。そして、この紙を人間の言葉に翻訳できる人間だ。
カミラは機体を欲しがっている。
それ以上に、資料を欲しがっている。
機体だけあって資料もヴィクトリアもなければ、あれはいずれ高価な鉄の棺桶になる。だが完全な設計図と整備記録と操作ロジックが手元にあれば、すぐに二台目を作れなくても、少なくともこの技術体系を理解し始めることができる。
それが、この取引の値段だ。
俺は何も言わず、ただそれを心に刻んだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




