112.生体改造工場 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
鉄の棺の胸の赤いスリットがまた光を増した瞬間、この階でぐずぐずしてる余裕はもうないと悟った。
ああいうのは、人とも違うし、さっきの半完成品のゴーレムとも違う。人は怖くなれば引く。量産魔偶は、ラインにセットされたクソ部品にすぎない。急所を撃てば倒れる。だが鉄の棺は違う。立ち上がっただけで、空間全体の重心をごっそり持っていく。中身を鋼と火薬と悪意でぎっちり詰めた本物の棺桶に、足を生やして歩かせたみたいな代物だ。
一体目が前に出てきたところで、二本目の赤いスリットにも火が入る。
その奥、三つ目の輪郭が棺棚の向こうから、前へ割り込んできていた。
「三体かよ。」低く呪う。「ずいぶん、俺たちを高く買ってくれるじゃねえか。」
鉄の棺の前腕に並んだ発射孔が再び開き、金属の弾雨がメインラインに沿ってこちらを薙ぎ払う。棺棚、搬送レール、満杯の棺の外殻が次々に弾け飛び、いくつかの魂の電池が直撃を食らって破裂した。中にいた灰白色の「叫び」が、銃声に煽り立てられたみたいに錯乱し、床と鉄骨の上を縦横無尽に走り回る。
「頭を下げろ! 中線に立つな!」俺は怒鳴った。
馬三娘が紅い槍を一気に沈め、身体ごと左へスライドして、一体目の鉄の棺の射線を半分ほどずらしてくれる。弾丸が彼女に向かって叩き込まれるが、目に見えない鉄板にぶつかったみたいに火花を散らすだけで、身体はまったく揺らがない。今度の槍先は胸ではなく、膝の側面の関節を狙って差し込まれた。装甲に当たった瞬間、歯の根が浮くような金属音が鳴り、火花を撒き散らしながら、外殻の上を弾かれていく。それでも、真っ赤な傷跡を一本刻むことには成功した。
抜けてはいない。
だが、それだけで鉄の棺の重心が、わずかに傾ぐ。
その一瞬に、牛小琴が入り込んだ。
彼女の周りの、理不尽なほどの「重さ」の気配が、さらに濃くなる。真正面からは行かず、右側で歪んだ搬送レールに沿って、身を極限まで低くしたまま踏み込んでいく。祖霊の山刀が床の鋼板を削り、ギィィと耳障りな火花を引く。固定台から降りてきたばかりの量産魔偶が二体、進路を塞ぐ。胸の赤い光もまだ安定していないうちに、一薙ぎでまとめて斬り飛ばされ、土台ごと横倒しになった。
俺は銃口を抑えつつ、右後方で別の問題が起きているのを目の端で捉えた。砕けた魂の電池の一つが、さっきのポーランド兵の死体にまとわりついていた。胸を撃ち抜かれているはずの傭兵の遺体が、上半身を異様な角度で跳ね上げ、頭をあり得ないほど後ろに折り曲げ、顎を自分の下顎がちぎれるところまで開く。横にいたA.K.-DUCHの男が機転を利かせ、胸に向けて二度、三度と連射するが、あれはもう筋肉で動いているわけじゃない。弾は肉を叩き潰すだけで、動きは止まらない。
俺が銃を上げて止めを刺そうとした瞬間、エリザヴェータが先に動いた。
突撃ではない。
彼女の輪郭が一度ふっと薄くなり、次の瞬間には、この空間から身体ごと塗り消されたみたいに、暗紅色の血の霧に変わっていた。銃火と砕けたガラス片の間に開いた、最も細い隙間をなぞるように、一直線に滑っていく。
その光景を見て、さすがの俺も一瞬、思考が止まった。
彼女が速いのは、見慣れている。だが、ここまで――野蛮なのは初めてだ。
血霧はまず、その灰白い悲鳴に取り憑かれた死体にまとわりつき、濡れた赤布で上半身を丸ごと包み込むみたいに覆い尽くす。次の瞬間、霧の中から「何か」がパックリと開いた。人の口でも、獣の顎でもない。半ば強引に拡張され、縁じゅうが湿った棘で覆われた七腮鰻の口に近い。円形で、どす黒い赤が底に沈み、幾重もの歯の輪が喉の奥へ向かってすぼまっている。それが、死体の喉から首にかけてを丸ごと噛みついた。
バキ、と一音。
噛む、というより搾り切る音だ。
頸椎と気管と片側の鎖骨まで、全部まとめて引き千切る。灰白い悲鳴は、その場で誰かにスイッチを切られたみたいに途切れ、死体は再び崩れ落ちる。血の霧は一度だけ脈打つように膨らみ、今度は床を這い、棺棚を伝いながら、後方で顔を出しかけていた別の傭兵へと飛びかかった。
そいつは悲鳴を上げる間もなく、顔を紅い霧に覆いかぶさられた。すぐにあの七腮鰻の大口がもう一度開き、今度は顎の下から耳までを飲み込む。喉と喉仏を丸ごと噛み潰し、血をポンプで吸い出すみたいに、全部霧の中に引き込んでいく。
俺はその場に立ったまま、本気で一秒ほど、先に銃を撃つべきか、先に悪態を吐くべきか迷った。
後ろにいるポーランド兵たちの方が、反応は正直だ。
振り向かなくてもわかる。顔がどんな色になっているか。イヤホン越しに、誰かが喉を詰まらせたみたいに息を呑む音と、別の二人の射撃リズムが半拍ほど崩れるのが聞こえたからだ。単に「死体に慣れていない」ってレベルじゃない。PTSDを強引に蹴り起こすような映像に、脳が一瞬、「目の前のこれは味方だ」という情報と結び付け損ねている状態だ。
エリザヴェータは二秒後には再び人の姿に戻り、ひっくり返ったゴーレムの残骸の上に着地していた。
口元から顎にかけて、血がついている。舌先でその暗い色をゆっくり舐め取るが、眉間にははっきりとした不快感が刻まれている。
「……まずいのう。」彼女は言った。
通信が一瞬、全部黙り込む。
牛小琴が真っ先に正気に戻り、斬りながら悪態を返す。「贅沢言うなや。」
馬三娘は鉄の棺の前で重装を押さえ込みながら、「飲み干してから文句言うだけ、まだ上等なほうや」とぶつけ返す。
そこでようやく、喉元に引っかかっていた息を吐き出し、再び銃床をきっちり肩に押し付けた。
こうなってくると、むしろ状況がはっきりする。
俺たちは、普通の意味での「部隊」じゃない。
ポーランド連中も、その事実をようやく目の前で思い知らされた。
「奴がどう飲もうが気にするな!」俺は扇面全体に向かって怒鳴る。「鉄の棺を見ろ! 右側の二体目が火を噴き始めてる。先に脚を潰せ!」
マレクが最初にリズムを立て直す。
「RPG、準備!」ポーランド語で指示を飛ばし、それから俺たちにもわかるように通信で補足する。「正面を抑えろ! 二秒だけ隙をくれ!」
さすが職業軍人だ。吸血鬼が人の首を食いちぎるのを見て固まっても、背中に背負っているロケット弾の存在を忘れはしない。
A.K.-DUCHの兵士が二人、すぐ後ろの倒れた棺棚の死角に飛び込み、一人がRPG-7を背中から引きずり下ろして、片膝をつきながら装填を開始する。隣の一人は前方に向けて短い点射を続け、彼にその二秒を稼ぐ。
意図はわかる。俺は半歩左に出て、鉄の棺一体目の胸と頭のスリットに向けて火力を集中させ、正面の装甲板を全展開させるよう強いる。馬三娘も躊躇なく合わせてくる。長槍で三度突き込んで、鉄棺全体の姿勢を彼女側へ引きつけた。
「今だ!」マレクが叫ぶ。
背後で低い発射音が鳴り、RPG-7が短い炎の尾を引いて飛び出した。
一体目の鉄の棺は、おそらく最初から避ける気などない。そもそも、そういう回避を前提に設計されていない種類の兵器だ。火箭弾は胸の右側に直撃し、B1の中ほどで白熱した火球が膨れ上がり、周囲の満杯の棺が二列分、まとめて吹き飛ぶ。透明な窓が一斉に砕け、中に封じられていた顔と悲鳴が、灰白色の光と霧になって、かき混ぜられた洗濯物のように外へ噴き出した。
一体目の鉄の棺は、それでもその場で倒れはしなかった。
だが右半身の装甲はめくれ上がり、その奥に黒々としたフレームと、まだ痙攣している暗赤色の束が幾重にも重なっているのが剥き出しになった。機械の筋肉。鋼殻の中に押し込められた内臓とでも呼ぶべきもの。まだ腕を上げようとする。俺はそこへ一気に弾を叩き込み、エリザヴェータは上方から飛び降り、今度は霧にならず、むき出しになった裂け目に腕を突っ込んだ。獣の胸を抉るみたいに。
引き抜いた彼女の手には、黒と赤がまだ痙攣しているコアの塊が握られていた。
鉄の棺は、その瞬間に体勢を崩し、骨を抜かれた人間みたいに前へ崩れ落ち、その下でいくつもの魂の電池を粉々に踏み潰した。
二体目と三体目は、その間にも前方へ出てきていた。
そのうちの一体は、さっきのよりさらに完成度が高く、左腕の先端は盾板ではなく、一本丸ごとの超重破砕ハンマーになっていた。その一撃で、隣の搬送レールがまるごと歪んでスクラップになる。もう一体の背中には外付けのグレネードボックスが据え付けられており、棺身を半分だけ覗かせたところで、こちらに向けて二発を放ってきた。
「散開!」
爆発で中段の床が丸ごとめくれ上がり、俺は衝撃波に叩き飛ばされて後ろの鉄柱に叩きつけられた。耳の中が一瞬で「ジー」という音だけになる。左側からヴィクトリアが飛び込んできて、俺を柱の裏へさらに半歩引き込む。いくつかの破片が彼女の肩をかすめ、コートに大きな裂け目を開けた。
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