109.カミラ 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
それに、さっきあの地図を見たときのヴィクトリア(ヴィクトリア・ローヴォヴァ・ベン・ベザレル)の目の中に灯った光のことも。
そこまで考えていたとき、ドアの外から二度、ごく軽いノックが聞こえた。
当直の衛兵がやる、短く硬くリズミカルな叩き方じゃない。
中の人間がまだ起きているかどうか、そっと確かめるような叩き方だ。
俺は顔を上げる。
「誰だ?」
ドアの外が半拍静まり、それからヴィクトリアの声が返ってきた。
「あたしよ」
俺はドアを見たまま、すぐには動かなかった。
開けたくないからじゃない。この時間、この場所、丸一日限界まで追い詰められてきたこの状態で彼女がノックしてくるのは、ペンを借りに来たなんて話じゃないとわかっているからだ。
俺は立ち上がり、歩いてドアを引いた。
ヴィクトリアが外に立っていた。髪がまだ少し湿っていて、清潔な濃い色の長袖とゆったりした作業ズボンに着替えている。手に工具はなく、資料も抱えていない。それがむしろ、レンチを持って立っているよりも奇妙に見えた。顔色はまだ白く、目の下には限界まで酷使した後の影があるが、目だけは光っている。発熱のような光じゃない。何かに食いつかれて、まだその中から完全に抜け出せていない人間の光だ。
「何か用か?」俺は訊く。
彼女は俺を見て、この部屋のドアが本当に開くかどうか確かめ直しているみたいだった。
「あるわ」彼女は言う。
「仕事の話か?」
彼女の口元がわずかに上がった。
「半分はね」
俺は二秒ほど彼女を見つめ、体を横にずらした。
「入れ」
彼女が部屋に入ると、温かいお湯と石鹸の淡い匂いが一緒に入ってきた。その下には、どれだけ洗っても落ちない機油と金属の匂いが滲んでいる。ドアが閉まると、空間が一気に狭くなった。もともと広くない部屋に一人増えただけで、空気ごと一歩詰められる感じがする。
ヴィクトリアは座らなかった。
まず部屋を一通り確認する。ベッド、机、ランプ、壁際の小さな洗面台へと視線が滑り、最後に軽く鼻を鳴らした。
「ずいぶん気前がいいじゃない」
「日本にいたときよりはマシだ」
彼女はそれを聞いて俺を一瞥した。俺の頭の中も同じ場所に向かっていたとは思わなかったらしい。それから彼女は笑った。短く、疲労の中から漏れた亀裂みたいな笑いだった。
俺は机の縁に背中を預け、腕を組む。
「で、半分が仕事の話?」
彼女はすぐには答えなかった。
まず視線を俺の肩の、まだ少し滲んでいる傷に落とし、それからゆっくり上へ移して、俺の顔で止める。男を見る目でも、純粋に仲間を見る目でもない。俺が今まだ踏ん張れるのか、それともあのタトラ(Tatra)より半息多いだけなのか、確かめようとしているみたいだった。
「さっきカミラの前で、あんたはあたしを前に出さなかった」彼女はようやく言う。
俺は眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「やろうと思えばできたはずよ」彼女は言う。「彼女があたしのことを訊いてきた瞬間、あんたは流れに乗って全部あたしに投げて、あたしに自分の価値を証明させることができた。その方が、あんたは安全だった」
俺は彼女を見る。
「そうしたら、お前に一つ借りを作ることになる」
「もうたくさん記録してある。一つ増えても変わらないわ」
「ならそれでいいだろう」
彼女は二秒黙り、それから一歩前に出た。
近い一歩だった。
もともと狭い部屋で、彼女が近づくと、机横のデスクライトが彼女の横顔に当たり、首筋と鎖骨のラインを鮮明に切り取った。俺はふと気づいた。荷台の上でも、銃架の横でも、魔偶の残骸の傍でも、彼女はいつも冷たく、硬く、精密機械の一部みたいに見えていた。でも今は風呂を浴びた後で、髪にまだ湿り気があって、シングルベッドの横に立っていて、印象が全然違う。柔らかくなったんじゃない。長い間押さえ込まれていて、今ようやく滲み出す場所を見つけた何かが、そこにある。
「カミラが何を考えているか、わかる?」彼女は低い声で訊く。
「いろいろとな。どれを当てればいい?」
「彼女が見ているのは、あたし自身じゃない」ヴィクトリアは言う。「あたしがF.A.B.R.I.K.のどの部分を持ち出せるか、どの部分を燃やして捨てるか、その機能よ」
「意外でもない」
「あたしも意外じゃない」彼女は言う。「でも、さっきあんたはあたしに別の何かを残してくれた」
俺は彼女を見たまま、何も言わなかった。
彼女は手を伸ばし、指先を俺の肩の傷の横に止めた。触れていない。ただ、止まっている。近い。彼女の指先が持ってくる温度が感じられるくらいに。
「あんたは彼女に、あたしを道具として先に使わせなかった。使えるかどうか確かめてから保管するかどうか決める、そういう扱いをさせなかった」
その言葉は平坦だった。
何かを告白しているようには、まったく聞こえない。
だからこそ、重かった。
俺は宙に止まった彼女の手を見下ろした。
「お前はもともと道具じゃない」
彼女は目を上げて俺を見る。
「それ、ずっと忘れるなよ」
「記憶力はまあまあだ」
「ならいいわ」
彼女はようやく手を下ろし、俺の肩の、傷のない部分にほんの短く触れた。軽い接触だった。でも、今日チェコからここまで一路やってきて、全員が限界まで消耗した後では、普通の人間の体温がどんなに鮮明に感じられるか、わかってしまう。
「もう半分は?」俺は訊く。
彼女は俺を見て、口元をわずかに上げた。
「もう半分は仕事の話じゃない」
「少し怖いな」
「怖がっておけ」彼女は言う。
彼女は半歩後ろへ引いた。触れてはこないが、本当に安全な距離まで戻ったわけでもない。互いの呼吸を意識せざるを得ない範囲に、ちょうど立っている。灯りが彼女の横顔と、湿って完全にはまだ落ち着いていない髪に当たり、洗い流した後の方がかえって危うく見える。
「一人でいたくない」彼女はふいに言った。
それまでの言葉より、ずっと直接的だった。
俺がとぼけた一言で受け流そうとしたら、彼女の次の言葉の方が早かった。
「怖いからじゃない」彼女は言う。「一人でいたら、頭があの地図のことを考え続けるから。熱源、搬送ライン、回収炉、何を間に合ううちに持ち出せるか」
「いかにもお前らしいな」
「問題はね」彼女は俺を見る。「このまま考え続けたら、今夜は眠れない」
俺は机の縁に背中を預けたまま、肩は痛く、頭もまだ少しふらついていて、正直なところ自分もあと半息しか残っていない。でも彼女を見ていると、その感覚がよくわかった。単純な興奮じゃない。前方に、行かずにはいられない場所があって、それが地下で待ち構えていて、一度その構造と音を想像し始めたら、止められなくなる。
二人の間が、しばらく静かになった。
風もなく、換気ダクトの奥から届くかすかな唸りだけがある。部屋は狭く、灯りは近く、ベッドはすぐそこにあり、机の上のペン一本まで、何かを傍観しているみたいだ。あらゆるものが「ここは休める場所だ」と告げている。そして俺たちは二人とも、まだ完全には戦場から帰ってきていない。
俺は彼女を見て、最後に少しだけ横へずれ、机の横の椅子を引き出した。
「座れ」俺は言う。
彼女はすぐには座らなかった。
その椅子を一度見て、ベッドを見て、最後にまた俺の顔に視線を戻した。その目には疲れと、試すような色と、壁まで追い詰められてようやく、一人で全部踏ん張り続けなくてもいいかもしれないと気づいたような、そんな何かが混ざっていた。
「紳士みたいな真似するじゃない」彼女は言う。
「今日は血を流しすぎて、悪役を演じる元気がない」
「残念ね」
「ほんとに残念だ」
彼女はそれでようやく座った。
近すぎず、遠すぎない。手を伸ばせば届くが、誰もまだ踏み越えていない、ちょうどそういう位置に。
俺は机の縁に戻り、彼女を見下ろした。彼女は見上げてくる。灯りの下で、その目は静かで、それがかえって危うかった。
外では地下シェルター全体がまだ動いている。負傷者の包帯が替えられ、補給区では誰かが物資を数え、カミラはたぶんまだあの机の向こうに立って、次の死者リストをめくっている。でもこの狭すぎる部屋の中では、時間が半拍だけ遅くなっていた。
明日の朝十時には、F.A.B.R.I.K.のブリーフィングがある。
ワイスマンは、先にいる。
カミラはまだ俺たちを評価している最中だ。
そしてヴィクトリアは俺の部屋に座っていて、帰るそぶりを見せなかった。
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