109.カミラ 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
マレクが厚い鉄扉を押し開けたとき、最初に聞こえたのは紙の音だった。
銃のスライドでも、ブーツのかかとでも、「ここが誰の縄張りか」を思い知らせるための咳払いでもない。紙だ。分厚い束が、めくられるたびに端が机の面をこすって、乾いた、軽い、しかし大抵の命令よりずっと冷たい音を立てている。
部屋は小さい。俺の想像より、さらに小さかった。
壁際に大きな机があり、その上には地図数枚、ファイル、マーキングされたトレーシングペーパー、通信機、そして机全体を白々しく照らす作業灯が並んでいる。隅には行軍ベッドが一台、その横に折り畳み椅子、コート掛けには赤いパイピングの入った軍用マントが掛かっている。ここは地下抵抗組織のリーダーの執務室というより、誰かが三十時間ぶっ続けで籠もり、コーヒーと「まだ死ねない人間の数」だけで自分を支えてきた場所に近い。
カミラは机の横に立ち、振り返るという動作さえ省エネにこなした。
俺が入ってくると、彼女がまず見たのは俺たちの歩き方と立ち方、次に傷、最後に顔だった。
その視線が気に入らない。なぜかというと、それが人を「認識する」目じゃないとすぐわかるからだ。彼女は計算している。誰がまだ戦えるか、誰が倒れかけているか、誰が最初にやられるか、誰がやられたら残りも一緒に崩れるか。
マレクは扉を引き、余計な一言も発さず、右後方に立つ。退室したわけじゃない。「補佐射撃もできるし、状況の全体も見える」ポジションに自分を置いたのだ。この場所の人間は全員、正確な角度に釘付けにされているみたいだ。
カミラがようやく口を開く。
「傷の状態は」
たった一語だ。
俺は彼女を見て、この会談が思っていたよりクリーンだと感じた。探りを入れるような挨拶もなく、無駄話もなく、最初だけ愛想よく振る舞ってからゆっくり刃を抜くような安っぽい演技もない。彼女はまっすぐ、一番現実的な問いから入ってきた。お前たちの残存戦力はどれくらいか。明日まで生き延びられるか。話を続ける価値があるか。
俺も回り道をする気はない。
「小琴が一番重い」俺は言う。「他は擦り傷と打撲だ、死ぬほどじゃない。あいつの身体にはいくつか縫合が必要な傷がある」
カミラの視線がすぐに牛小琴へ向く。
牛小琴は今、風呂を浴びた後で、さっきの「死体の山から引き上げられた直後」よりは顔色がいい。だが傷は傷だ。左上腕の応急処置は少し滲んでいて、脇腹の包帯も一度替えてある。大きく動けば、痛みが骨の奥まで響くはずだ。カミラのその視線を受けて、牛小琴はまだ眉を一つ上げる余裕があった。
「ウチはまだ戦える」
「わかってる」カミラは言う。
その語調に、一切の空気読みはない。本当にわかっているのだ。
「でも今夜は戦わなくていい。あとで外科医が傷の洗浄、消毒、縫合をする。解熱剤、鎮痛注射、抗生物質も補充する」彼女は一拍置く。「明日の朝まで、重力術式は使用禁止」
「ウチは——」
「提案じゃない」
カミラがそう言ったとき、声は半音も上がらなかった。それでも牛小琴は後半の言葉を飲み込み、排湾族の祖霊しか聞き取れないような低い悪態を一言だけ吐いて、白目を剥いた。
俺は笑いかけた。
この女、なかなかやる。牛小琴に黙らせること自体は難しくない。だが「不満を抱えたまま黙らせる」のは、全然別の話だ。カミラは一言でそれをやり遂げた。
彼女の視線が戻り、俺の肩の、かさぶたが剥がれてまた裂けた擦り傷に落ちる。
「あんたは?」
「まあまあだ」
彼女は俺を見る。
その目が平坦すぎて、「まあまあ」という言葉で誤魔化せる気がしない。仕方なく続ける。
「打撲、擦り傷、火薬の煤が少々。穴は空いていない、骨も折れていない、頭はまだ動いている」
「最後の一項は、様子見が必要だな」彼女は言う。
俺は一瞬固まり、それから短く笑った。
「マレクより口が悪いな」
「あいつは先にお前たちを食わせてから話す必要があった。私はそうじゃない」
鋭い。そして正しい。部屋の暖気が、その一言で半段落ちた気がした。俺はこの女の輪郭がわかってきた気がした。命令を下すだけじゃない。どこで強く出て、どこで「まだ面子が保てる」という錯覚を相手に残すか、きっちり計算している。
彼女は机上の書類をめくり直す。傷の話は終わった、とでも言うように。
「二つ目だ」彼女は言う。「なぜポーランドへ来た?」
これが本題だと俺にはわかる。
こういう人間が一番嫌うのは、梳かしていない話を延々と聞かされることだ。喋りすぎれば「時間を無駄にしている」と判断される。少なすぎれば「話す価値なし」と切り捨てられる。最善の方法は、手の内を全部開くことじゃない。相手が自分から前に踏み出したくなる名前を、一つだけ投げることだ。
だから俺は、たった一語だけ言った。
「ワイスマン」
空気が一瞬止まった。
ドラマチックに全員が息を飲む、というのとは違う。部屋の中にあった何らかの秩序が、突然すべての注意をひとつの点に集中させた感じだ。マレクは動かない。扉脇の衛兵も動かない。通信機は相変わらず低い電流ノイズを立て続けている。それでも部屋全体が、あの一語に押さえ込まれたような感覚がある。
カミラの表情に目立った変化はない。ただ、右手の指先が書類の端の上でわずかに止まったのが見えた。
一瞬だけ。
それから俺は続ける。
「因縁がある。公的にも、私的にも」
彼女は俺を見る。半秒ほど経ち、肩のラインがほんのわずかに下がった。
緩んだのではない。引き金にかかっていた指が、第一段階の圧力から第二段階へ戻った、そういう感じだ。
「それなら、仲間だな」彼女は言う。
その言葉が出るのが早すぎた。まるでずっと、それだけ清潔な理由を待っていたかのように。ワイスマンという名前を出しさえすれば、「見知らぬ武装勢力」から「話せる相手」へ半格ずらせる。「公的にも私的にも」という言葉が加われば、さらにもう半歩前に出てくれる。
問題は、俺が他人にそんなに早く関係を定義されるのが好きじゃないことだ。
だから俺は手を出さず、うなずきもせず、ただその場に立ったまま彼女を見る。
「次はそっちの番だ」
マレクが俺のすぐ横でわずかに動いた。「わざわざ藪を突かなくていいところを突く奴だな」とでも思っているのだろう。扉脇の衛兵たちも動かないが、耳はこちらに向いていると分かる。カミラは、しかし気分を害した様子がない。手の書類を置き、机の縁に少し体重を預け、視線が先よりまっすぐになった。
「いいだろう」彼女は言う。
「この私設武装が相手にするのは、二種類だけだ」
一拍置く。それぞれの言葉が自分の足で立てるように。
「共産党」
もう半拍。
「とナチス」
俺はまず一瞬固まり、それから本当に笑った。
おかしいからじゃない。その言葉があまりにも直接的で、硬くて、この時代にまだ正式な立場として掲げる人間がいるとは思えなくて、それが地下シェルターと銃器と情報網と前線接触チームを持つ女の口から出てきたことで、荒唐無稽なほどリアルだったからだ。
俺は笑いながら首を振る。
「ワイスマンは共産党には見えない」俺は言う。「だとしたら……本気で言ってるのか?」
彼女は俺を見る。灰色がかった目が、一度も揺れない。
「私がお前と冗談を言い合う仲に見えるか、周さん」
俺の口元の笑いが、自然に消えた。
彼女は姿勢を取っているのではない。本当にそう定義しているのだ。共産党、ナチス。抽象的なスローガンでも、外向けの資金集めの口上でもない。戦場の最前線に置いた敵味方識別の基準だ。
こういう人間は、生きている限り厄介だ。
そして、生きている限り使える。
俺はうなずく。
「今のところ、俺たちとは衝突しない」
「今のところはな」彼女は言う。
いい。この「今のところ」が、ちょうどいい温度だ。冷たく、現実的で、「義兄弟の契りを結んだわけじゃない」とはっきり伝わってくる。
彼女はマレクの方を向く。
「小琴の医療手配は済んでいるか?」
「済んでいる。医師が待機している」
「他の者の鎮痛剤と抗生物質は?」
「配布済みだ」
彼女はうなずき、その話題を切り上げる。彼女の手の上では、どの事案も切り分けられていて、一言も余計に使われない。
それから机の上の別の資料を引き抜き、今度は紙をこちらへ少し押し出してくる。
「三つ目だ」彼女は言う。「ヴィクトリア・ローヴォヴァ・ベン・ベザレル」
ヴィクトリア(ヴィクトリア・ローヴォヴァ・ベン・ベザレル)が目を上げる。
今の彼女は清潔で、髪にはまだ拭ききれていない湿り気があるが、補給区に立っていた時よりずっと、「鞘に収め直された刃」に近い。自分のフルネームを呼ばれた瞬間、肩一つ動かさなかったが、目の色が変わった。
カミラは彼女を見る。機械部品の寸法を確認するような、静かな目だ。
「機巧工匠。魔偶技術工。ベザレル家の後継。軍用魔偶の構造認識、分解工程、動力伝達、コア室配置の特定が可能。非標準的な接合設備のリバースエンジニアリングにも対応できる」一拍置く。「この説明、正確か?」
ヴィクトリアは考える間もなく答える。
「控えめすぎるわ」
カミラの口元は動かなかったが、その答えを気に入ったのが俺にはわかった。
「いいだろう」彼女は言う。「では、直接訊く」
彼女の指が、机上の地図を二度叩く。平面図ではない。工業地帯と地下施設が重なり合った複合図で、赤い丸印、矢印、注記、そして俺には読めない記号が書き込まれている。昇降機のシャフト、搬送ベルトの節点、熱源区画、倉庫ライン、そして地下工場の断面図のような構造が描かれている。
普通の工場の平面図じゃない。
巨大な獣を解剖して、骨も内臓も全部書き起こしたような設計図だ。
「ある施設がある」カミラは言う。「霊魂駆動型の機巧ユニットを長期的に製造、整備、回収、改造している。工芸水準には中欧軍工の系譜、戦時期のユダヤ人工房強制労働システムの残滓、そして後期の生体接合の痕跡が混在している」
彼女はヴィクトリアを見る。
「その施設に入ったとして、十五分以内にコア節点の位置を特定できるか?」
ヴィクトリアはすぐには答えなかった。
まず地図に目を落とし、それからカミラを見上げる。そして言った。
「あんたが渡してくる図が本物かダミーかによるわね」
その一言は硬かった。
俺の中で、すぐに笑いが込み上げた。そうだ、それでいい。このポーランド人たちに「拾ってきてすぐ使える部品」だと思わせるのは、まだ早い。
カミラは眉一つ動かさなかった。
「ダミーを渡すつもりなら、十五分などという数字は出さない」
「なら、できる」ヴィクトリア(ヴィクトリア・ローヴォヴァ・ベン・ベザレル)は言う。「ただし熱源、動力ライン、予備炉室、回収区画の相対位置を見せてもらう必要がある。あんたの言う通りの施設なら、平面的な思考で動いているはずがない。層を重ねながら人を喰う構造のはずだから」
部屋が半拍、静まり返る。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




