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106.境界線 5

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

「持たない!」彼女の顔色が恐ろしいほど白くなっていて、奥歯が鳴っていた。


「持たなくていい!」エリザヴェータが助手席で振り返らずに、刃を落とすみたいな声で言った。「葉綺安、正面衝突は避けろ。左前角を擦れ!」


「了解」


葉綺安がハンドルを右へ思い切り切って、すぐに左へ修正した。単純な回避じゃない。大型トラック全体の重量を使って、最も有効な衝突角度を探している。車頭が少し右へ逸れた。BTRはこちらが怯んだと思ったのか、損傷した前輪組を無理やり前へ送ってきて、直接俺たちを正面から潰しにかかった。だが次の瞬間、葉綺安はアクセルを逆に踏み込んだ。Tatra全体が狂牛みたいに斜めに切り返して、正面からじゃなく、BTRの左前角へ思い切り食い込んでいった。


その衝撃で目の前が白くなった。


鋼鉄が鋼鉄を噛む音は、歯を全部鉗子で引き抜かれるみたいだった。BTRの元々歪んでいた左前輪組がその場で完全に爆ぜて、装甲のスカートが俺たちの車頭と路肩に挟まれて引き裂かれた。BTRの車体が右へ激しく振られ、砲塔の角度が一瞬滅茶苦茶になった。そのまま車体が路面を外れて斜めに突っ込み、タイヤの半分が排水溝に落ちて、路肩の低いコンクリート壁に重く叩きつけられた。


「抜けた!」シキが叫んだ。


「抜けてない、まだ動ける!」ヴィクトリアが給弾帯を繋ぎ直しながら怒鳴った。


彼女は正しかった。


BTRは横転していない。傾いているだけだ。砲塔はまだ回れる。後輪はまだ路面を噛んでいる。頭を切り落とされてまだ痙攣している蛇みたいだ。さらに厄介なのは、後方の車灯二組が俺たちとBTRの格闘中の短い減速を利用して、また距離を詰めてきていることだ。


振り返って一瞥して、心の中で毒を吐いた。


追いついてきたのはもう単純なパトカーじゃない。先頭の二台は改造された重警迎撃車で、車頭に粗暴な衝突フレームが溶接してある。人を撥ね飛ばすために作られた牙みたいだ。さらに後ろの一台は車灯がより低く、サーモの輪郭がより太い。また装甲輪式車だろう。これは見えているものだけだ。見えていない冷たいやつらの方が、本当に厄介だ。


「後ろが食いついてくる」俺は言った。


エリザヴェータが素早く後方サイドミラーを確認して、声に一切の起伏なく言った。「前方一キロに分岐がある。左は旧村道、右は農機サービス道。右へ行け。左は第二の封鎖にぶつかる」


「右には何がある?」俺は聞いた。


「開けてる」


「開けてるってことは、打たれやすいってことだ」


「左の方が早く死ぬ」


「いい答えだ」


銃口を後方へ転換しようとした瞬間、右後方の夜の中に極めて小さな冷たい反射光が一点跳んだ。


車灯じゃない。


何かの表面が月光を掠めた。


考える前に、その一点へ向けて一連射した。大口径弾が路肩のガードレールと土の斜面を一緒にめくり上げた。元々何もなかったはずの暗がりから輪郭が引き裂かれて飛び出してきた——リヴァイアサンが地面すれすれを滑り出てきたが、俺の一連射に片方の肩を削り取られて、体ごと路肩の草溝へ転がり込んだ。


「右に一体!」俺は叫んだ。


「一体じゃない」林雨瞳が言った。


多くは語らなかった。だが彼女が正しいのはもう分かっていた。


左からも来ていた。


別の一体が排水溝から生えてきたみたいに、俺たちの車体の左後方と並走して全力疾走していた。速度が驚異的で、追いかけているんじゃない。自分を曲がれる砲弾にして角度を待っている。ヴィクトリアが頭を出して一瞬見てからすぐに引っ込んだ。「荷台に上がらせるな!」


「そりゃ当たり前だ!」


「じゃあ行動で見せろ!」


俺は銃身を左後角へ向けようとしたが、車が高速で右側の農機サービス道へ切り込んでいて、荷台全体が遠心力で引っ張られていた。銃口がようやく向いた時、そのリヴァイアサンはもう跳び上がっていた。


跳び乗ったんじゃない。


路肩の廃棄されたコンクリート護杭を一度踏んで、その反力で荷台の棚架へ向かって飛びかかった。全身が爪の生えた黒い鋼の矛みたいだった。あの瞬間、本当に俺たちの人の群れに直接突き刺さると思った。シキが悲鳴を上げて、両手を左後方へ猛然と突き出した。重力シールドは完全には防がなかった。飛びかかってくる軌道を十数センチだけ強引にずらした。


十数センチで十分だった。


その鉄の怪物は本来なら荷台に飛び込んでくるはずだったのに、最後の瞬間で左側の幌架の骨組みにまともにぶつかり、もともと錆びきっていた弧を描く鋼管を二本まとめて内側へへし折った。前肢がフレームに引っかかり、そいつの頭がほとんど俺の顔の目前まで突き出てくる。感応スリットの奥で、暗紅色の光がチラリと瞬いた。


全部はっきり見えた。俺は銃口をそのままねじ込んで、引き金を絞る。


一発目が胸をぶち抜く。

二発目で上半身まるごとミンチにした。


残った下半身だけが、幌架の外側にぶら下がってぶらぶら揺れている。俺はそいつを一発蹴り飛ばして、道路へと蹴り戻した。後ろで一番距離を詰めていた重装警察のインターセプターがブレーキしきれず、フロントタイヤでその残骸の塊をまともに踏みつけ、その反動で車体がぐにゃっと傾いて、そのまま街路樹の植栽帯に突っ込んだ。


「見事や!」

牛小琴(ニウ・シャオチン)がまた叫ぶ。


「お前、今日ボキャブラリーそれしかねえのかよ」

俺は銃身を正面に戻しながら毒づく。


「あるで」

彼女は息が荒くて、顔色は紙みたいに白い。

「『死にそう』っていうのが、まだ残ってるわ」


「先別死。」

俺は言う。

「お前が死ぬと、直すのもっと面倒になる」


ヴィクトリア(ヴィクトリア・ローヴォヴァ・ベン・ベザレル)がそれを聞きつけて、冷たく一言刺してきた。

「そうね。あたし、魂は修理しないから」


前方の分岐が迫ってくる。


葉綺安(イェ・キアン)はほとんど減速もせず、ハンドルを思い切り切って、右側の、もっと狭くて、もっとボロくて、トラクターとか農業用車両専用としか思えない農道へ車頭をねじ込んだ。両側にはもはや工業用フェンスはなく、低い生け垣と畦道、半分は干からびかけた灌漑用水路と、ときどき真っ黒な小ぶりの倉庫小屋がぽつぽつ立っている。


路面は砲撃で何度も耕し直されたみたいな穴だらけで、乗り込んだ瞬間から車体全体が跳ねまくり、俺は舌を噛み切りかけた。


「なんだこのクソ道!」

俺は怒鳴る。


運転席から、葉綺安の声が返ってくる。

「まだ生きてるってことは、いい道ってこと」


エリザヴェータが続けて言葉を継いだ。

「この先二キロでまた舗装路に戻る。持ちこたえよ」


「それ誰に言ってんだよ」


「全員に決まっておろう」


(わらわ)がそう言い終えた瞬間、後方から、さっきよりもっと腹に響くエンジン音の塊が押し寄せてきた。


俺が振り返ると、さっき半壊したはずのBTRが、まだ完全には戦線離脱していなかった。もう正面から追いすがってはこず、横っ腹をこちらに向けたまま、別の平行道路を、左後方からじりじりと追ってくる。そのさらに後ろでは、別の装甲輪車が新たに追いつき、ほかにも二台の軽車両が左右に散開して、俺たちをより大きな弧で包み込もうとしているのが見えた。


「頭はついてる連中だな」

俺が言う。


「もともと愚かではないのじゃ」

エリザヴェータが返す。

「さきほどはゴーレムに隊形をかき乱されておったに過ぎぬ」


その「それ」の名が出た瞬間、荷台の空気が一拍だけ、すうっと静まり返った。


残っているのは、エンジンの咆哮と、鉄板同士がぶつかり合うガタガタという音、それから遠近に散らばる追撃の轟きだけだ。


俺は後ろを見ない。


見たところで意味はない。あれはもう、蒸気と炎の塊になって吹き飛んだ。想おうが想うまいが、戻ってくることはない。


「今に集中」

ヴィクトリアが新しいベルトリンク弾を一本、俺の手元の横に叩きつけるみたいに置きながら、同時に俺の意識も叩き戻してくる。

「まだ撃つ相手は山ほどいるでしょ」


俺はうなずき、何か言いかけたところで、エリザヴェータの声が一段低くなった。


「前方に熱源」


「車か?」

俺が訊く。


「違う。低すぎる、速すぎる」


胸のあたりが、ぞっと冷たく沈んだ。


次の瞬間、前方右側の、半分はもう干上がっている灌漑用水路から、黒い影が突然飛び出してきて、まっすぐ俺たちの車頭に突っ込んできた。

狙いは荷台じゃない。運転席だ。


「前!」

ほとんど喉を裂くみたいな声が出た。


俺の叫びを最後まで聞く前に、葉綺安のハンドルはもう先に切れていた。

タトラ(Tatra)の車体が、誰かに横っ面から全力で蹴り飛ばされたみたいに左へ大きく振られ、そのリヴァイアサン装甲擲弾兵は右フロントライトぎりぎりをかすめて車体右側に激突し、ドアパネルからエンジンフードにかけて、鉄が見えるほど深い傷を爪でえぐりながら引き裂いていった。


助手席側のガラスが一枚まるごと白い花みたいに砕け散り、エリザヴェータが首をかしげてかわした刹那、ガラス片の一つが彼女の頬のすぐ脇をかすめて飛んでいった。


「ちっ……!」

さすがの彼女も、今回はそう悪態をついた。


リヴァイアサンは車頭に食らいつくことができず、そのまま転げ落ちていったが、その一撃のかすり当たりだけで、俺たちの車体は右側の用水路へ横転しかけた。

葉綺安は両手でハンドルを死ぬ気でつかみ、無理やり車頭を引き戻す。フロントタイヤが畦道の縁を踏み越えた瞬間、車体全体が横向きにひっくり返りそうになりながらも、最後のところで彼女が力ずくで進行線にねじ戻した。


彼女は悲鳴も上げず、荒い息も漏らさず、歯の隙間から一言だけ絞り出す。


周士達(ジョウ・シーダー)、次に運転席狙って飛びかかってくるのは、あんたが先に撃ち落として」


「善処しまーす」


「善処じゃない。絶対」


「はいはい、聞こえてるよ、女神様」


たぶん彼女は今、盛大に目をひっくり返してるだろうが、俺からは見えない。


今のうちの車は、軍用トラックというよりは、銃弾と爆風と爪で何層も削り取られた、ただの走る鉄くずだ。

もともと片方しか生きていなかった右前照灯は、さっきの一撃で点いたり消えたりを繰り返し、左側の幌架は半壊して垂れ下がっている。

フロントは弾痕と擦り傷だらけで、荷台の中では弾薬箱、予備弾、外したブラケットや機械部品が、車体が揺れるたびに互いにぶつかってガチャガチャと騒がしい。


それでも、まだ走る。


しかも走れば走るほど、見た目の体面なんてどうでもよくなって、ただ「目的」だけで動いている塊みたいになっていく。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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