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100.諸君、逃げるぞ 3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

夜明け前に、俺たちはあの空の印刷倉庫で三つのことを済ませた。


第一に、俺たちを古い盤面に引き戻そうとする幻想を、全部断ち切ること。


第二に、「逃げる」を「東へ受け取りに行く」に書き換えること。


第三に、この瞬間から、立ち止まって状況が勝手に好転するのを待つ権利は、もう俺たちにはないと受け入れること。


ヴィクトリアは照合した紙をもとに、極限まで削ぎ落としたルートの骨格を描いた。地名は書かない。三つの要素だけを記す。鉄、水、圧力ステーション。


「まずプラハ本体から離脱し、工業維修帯(こうぎょういしゅうたい)に入り、最後に旧配圧保守節点(きゅうはいあつほじゅせってん)へ転進する」彼女は言った。「正確な位置はこの紙上にはない。もう一段階の解読が要る」


エリザヴェータが訊く。「何が必要じゃ?」


ヴィクトリアは真鍮の鍵と内芯の配準片(はいじゅんへん)に目を向けた。 「動力材料、圧力起動部品、それとまだ使える骨格ばね鋼。これがなければ、たとえあの『もの』を見つけても、ただの空の殻よ」


シキがたまらず口を挟む。「じゃあ、直接ポーランドには行かないってこと?」


「行かない」俺は言った。


全員の視線が俺に集まる。


俺は地図を東へ一寸押しやった。


「今ここから国境を強引に抜けようとしても、どのルートを選ぼうが、もっと予測しやすい収口区(しゅうこうく)に自分から飛び込むだけだ。幹線道路、正規の国境ゲート、大橋、駅——全部、向こうが一番楽に待ち構えられる場所だ。ポーランドへ行くにしても、まず獵場(かりば)の第一層封鎖から俺たちを引き剥がせるものを手に入れないといけない」


葉綺安(イェ・キアンが小さく頷き、それ以上は何も言わなかった。「逃げられないんじゃない、誰もが思いつく方法で逃げちゃいけないんだ」と最初に理解したのは、彼女だった。


林雨瞳(リン・ユートン)が地図に数筆書き足す。 「東へ向かうなら、前半は車、使用不可。目立ちすぎる。徒歩、裏道、工業外縁、排水路沿い。第一圏の軍警とパニック人波の重なりから抜けてから、車の調達か貨物線への切り替え、検討」


エリザヴェータが即座に実行レベルに落とし込む。 「では、それで行く。軽装じゃ。重いものは全部捨てよ。医療品は止血と消炎のみ。無線は二組、受信専用を一つ、短波送信用を一つ。長時間の周波数占有は許さぬ。食料は二日歩ける分だけ。水は多めに、無駄な紙は少なめにな」


俺は最後の名簿の束を手に取り、迷わず火をつけた。炎が紙の端からじわじわと噛み上がり、文字が一つ一つ黒く縮み、丸まり、千切れていく。倉庫の中で誰も口を開かなかった。紙が燃える細かい爆ぜる音だけが響く。


こういう時に一番誤解されやすいのは、資料を燃やせば過去と決別できると思い込むことだ。


違う。


燃やすということは、もう過去ごと持って行く力がないと、自分が認めることだけだ。


夜明け直前、俺たちは倉庫を出た。


隊列は組まない。掛け声もない。誰も「乗り切ろう」なんて口にしない。あらかじめ決めた間隔と位置に従って、一人ずつ、プラハ東縁のまだ完全には目覚めていない工業境界へと切り込んでいく。そこには観光客もいないし、旧市街の鐘楼の影もない。文明がまだ機能していると錯覚させるものは何もない。あるのは線路のフェンス、保守用通路、半封鎖の貨物ヤード、墓標のように積まれた古い木製パレット、まだ動いていないガントリークレーン、そして遠くから聞こえてくる早朝の貨物列車のエンジン音だけだ。


空が少しずつ白み始めた頃、俺たちは廃線の鉄道検修棚の下で三分も止まらなかった。エリザヴェータが前方の無人を確認し、葉綺安が外側から戻ってきて、小声で報告する。 「幹線はもう詰まり始めてる。全面じゃない、人が自分で詰まらせてる。警察が誘導してる、軍の車もいる、でも秩序が足りない」


俺は頷いた。これが最悪で、かつ最も合理的な光景だ。プラハはまだ完全に焼け落ちてはいない。だが普通の人間にとって最初に現れるのはリヴァイアサンじゃない。道が違う、車が通れない、警察に引き返せと言われるのに誰かが前は通れると言う——そういうことだ。都市が同時に二つの話をし始めると、人は自分で道を塞ぎ合う。


ヴィクトリアがあの真鍮の鍵をゆっくりとしまった。動作は意図的に緩やかで、何か最後のものを元の場所に押し戻すみたいだった。


俺は彼女をちらりと見て、訊いた。 「お祖父さんは、ずっと前から準備してたんだな?」


彼女はすぐには答えなかった。少し間を置いてから、ようやく言った。


「自分が死ぬ準備をしてたわけじゃない」


「わかってる」


「いつかこの街が本当に引っくり返されて使われる日が来た時、せめて一つだけでも、他人の手に渡してはいけないものを残しておく——そのための準備よ」


俺はそれ以上聞かなかった。


これから向かう東線が、単なる撤退路じゃないとわかっていたから。


それは俺たちがプラハという獵場(かりば)から、次の生路を力ずくで引きずり出すための、最初の鉤爪になる。


***


俺たちがプラハ東縁を離れつつあった、その同じ時刻、第601の無線網では最新の通報が各区へ発信されていた。


「注意、注意。東側工業地帯にて小規模低姿勢移動目標複数を確認。現時点で身元未確認。全部隊は現在の外掃区(がいそうく)境界を越えての追撃を禁ずる。繰り返す、小規模目標追撃のため既定封止リズムを崩すな」


この命令は冷酷で、そして正確だった。


チェコ側もすでに完全に読んでいたからだ。今夜以降、本当に生き残る人間は、広場で叫ばない。大通りを突っ走らない。警戒線の前で理屈をこねない。


彼らは最も醜く、最も汚く、最も「道」らしくない場所に潜り込み、まだ灯りのついた都市の死骸から、自分自身を引きずり出す方法を探すだけだ。


俺は最後に一度だけプラハを振り返った。


夜明けが近い。街はまだある。ビルは立っている。橋も落ちていない。遠くから見れば、いくつかの場所から煙が上がり、いくつかの角で灯りが点滅しているだけで、まだ普通のヨーロッパの都市に見える。


でも俺にはわかっていた。あれは見かけだけだ。本当に死んだものは、建物の外観にも、ニュース映像が映しやすい炎の中にもない。


死んだのは、秩序がいつか自動的に戻ってくるという、人々の確信だ。


俺は視線を前に戻し、先を行く連中に一言だけ言った。


「行くぞ」

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「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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