98.犠牲 98-1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
翌日のプラハは、誰かに前もって蓋をされた棺みたいに静かだった。
昼間の営みは続いていた。路面電車は橋を渡り、新市街の街角では新聞売りが声を上げ、ホテルのロビーのシャンデリアは何の憂いもなさそうに煌々と輝き、街角に立つ巡察の姿勢も、かろうじて文明都市らしい体裁を保っていた。だがこの街を本当に知っている人間が顔を上げれば、すぐに分かる。おかしい。
鐘の音が減った。鳴らないんじゃない。鳴るべき時に鳴らず、鳴るべきでない時に、どこかの方角からふいに一打だけ落ちてくる。 荷物を運ぶ車の流れが整いすぎた。効率が上がったんじゃない。本来は雑然としているはずの生活動線を、誰かが一本ずつ梳きならしている。旧市街のいくつかの窓が、朝からずっと開かない。ボイラー室の煙は今も上がっているのに、まるで建物はまだ生きているのに、中にいる人間だけが先に口を閉じることを覚えてしまったみたいに。
夕方になると、ヴルタヴァ・クラウンホテルのガラス外壁が最後の残光を冷たい白に変えて、新市街全体に過剰に明るい偽の皮を被せたみたいになった。部屋の中では、もう誰も余計なことを口にしない。
持って行くものは全部、テーブルの上にある。
ヨゼフが残した古い紙は、ヴィクトリアに何度も読まれすぎて端が微かに折れていたが、余計な折り目は一本もなかった。半月型の真鍮のキー片は俺の手元にある。縁の歯はほとんど削れてしまっているのに、掌に当てるとまだ井戸の底から引き上げたばかりみたいに冷たい。 ヴィクトリアが自分で選んだ道具は三点。長さの違う導拍針が二本、狭い溝を噛み止める扳型扣が一つ、指の隙間に隠せるほど薄い遮訊片が一枚。エリザヴェータは余分なものを何も持たない。傘、手袋、細い線、そして彼女が持ち前の、退き道の上でも誰より安定して立てる冷静さだけ。
葉綺安、リン・ユートン、シキの三人は外回りに残る。
入れないんじゃない。今夜は、人数が多ければ生き残れるという局面じゃない。
葉綺安は河側の角を押さえ、警戒線と私服の動きを追う。リン・ユートンは第二接応点で、鐘の音と死に節の応答が突然別の形に変わらないか見張る。シキは新市街の外周に残り、俺たちがホテルを抜けた後に残る痕跡をできる限り消しながら、この新市街にまだどれだけ正常な手続きが残っているかを確認する。三人とも分かっている。今夜は「試しにやってみる」じゃない。あの北の線を本当に断ちに行く夜だ。
出発前、ヨゼフはひと言だけ言った。
「今夜は慣れた道を通らない」
ヴィクトリアは向かいに立ち、言い返さなかった。「あなたが慣れた道を通ったことなんてあったの」とも聞かなかった。ただ古い紙を内ポケットにしまい、一瞬だけ彼の顔に目を止めてから、先に背を向けた。
俺は彼女の半歩後ろを歩く。エリザヴェータが最後尾だ。
ホテルを出ると、新市街はまだ体裁を保っていた。街灯、ドアマン、車の流れ、ショーウィンドウ、夕食時の客、バーに灯る暖色の明かり、何一つ欠けていない。だがそれだけに、表皮の下の異変がかえってはっきり感じ取れた。 巡察が二つ先の交差点で足を止め、旧市街の奥へはもう入ろうとしない。河側へ向かうはずの市の車が二台、別の通りへ誘導されていて、運転手自身も突然の迂回の理由を知らなさそうだ。パン屋の配達トラックが入ってはいけない路地に滑り込んでいくのに、誰も止めに出ない。
プラハ全体が、作業手順を書き換えられつつある巨大な機械みたいだった。外殻はまだ光っているが、中の歯車はもう別の拍を刻み始めている。
俺たちは遠回りを重ねた。急いでいる人間には見えないくらい遠回りした。誰かが自分の体に染みついたリズムを、一枚ずつ剥がしていくみたいに。 ヨゼフは先頭を歩き、肩の動きは速くないが、ひどく安定していた。どの路地をどう曲がるかは一切説明しない。どの扉の向こうがかつてどういう拠点だったかも教えない。ただ角に差し掛かるたびに、ほんの一瞬だけ立ち止まる。壁の向こう、井戸の底、配重の深いところで、まだ目覚めさせてはいけない何かが動いていないか、耳を澄ませているみたいに。
プラハの風は湿っている。旧市街はさらに湿い。旧時計師通りの方へ近づくにつれて、煤と黒い油と湿った古木と長年の機械室が混ざり合った匂いが濃くなっていく。道端の小さな店は扉を閉めているが、鉄の看板はまだ外されていない。黒地に金文字が夜の中でかすかに光っている。古い時代だけが持っていた光だ。遠くで時刻外れの鐘が一つ鳴った。短くて急いていて、誰かが指の関節でこの街全体のこめかみを一度だけ叩いたみたいな音だった。
ヨゼフが止まった。
「着いた」
目の前にあったのは、古い校鐘工房だった。
間口は記憶より狭い。上の木の看板は雨に打たれすぎて毛羽立ち、文字は半分しか残っていない。完全に読ませるつもりのない名前みたいだ。ガラス窓の内側には厚い灰色の布が掛かり、中を完全に遮断している。錠前は古いが、扉の枠の下端には真新しい圧痕があった。誰かが最近来ている。しかも一度じゃない。
エリザヴェータは何も言わず、ただ向かいの通りを一瞥した。そこには廃業した小さな帽子屋があり、ショーウィンドウにはまだ片付けられていない男性用の帽子が三つ、埃を被ったまま置かれている。帽子屋の裏には目立たない暗い路地がある。もし最悪の事態になったとき、地上から抜け出せる唯一の道だ。彼女は一度見ただけで、その道を頭に刻んだ。
ヨゼフは袖の中から極めて古い細い鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。迷いは一切なかった。扉は軽く開いた。まるでこの扉が最初から彼を待っていたみたいに。
工房の中は暗かった。
完全な暗闇じゃない。器具の輪郭が残り、作業台の影が残り、壁の工具が掛かっていた跡が残り、それでいて奥を見通すことだけは許さない暗さだ。油の匂いが外より濃く、鐘の筐体に長年積もった金属の冷たい匂いが混じっている。左側に分解された古い校鐘の外殻が並び、右側には布で覆われた大型の配重部品がある。中央の作業台はまだそこにあり、脚の下には何度も折り畳まれた古い新聞紙が挟まっていた。前日まで主がいたみたいな気配だ。
「地上の一層は外殻だけだ」ヨゼフは声を落とした。「台には触れるな。右から二枚目の床板は踏むな」
彼が先に進み、一番奥の壁まで歩いて、廃棄されたように見える鐘の筐体に手を当て、左へ半回転させた。壁の向こうから、ごく細い金属の滑る音がした。眠っていた歯骨を誰かが呼び起こしたみたいな音だ。続いて、床の木板が一枚、自然に緩んで、下へ降りる狭い梯子の口を露わにした。
半地下の校拍室は、上より格段に冷えていた。
廃棄された工房には見えない。まだ完全には死にきっていない古い器官みたいだ。壁一面に嵌め込まれた古い銅盤は、目盛りの多くが磨り減っているが、かつて頻繁に時刻を合わせていた痕跡はまだ読み取れる。横に三組の導拍フォークが静かに掛かっている。もう声を出さなくなった三本の鉄骨みたいに。さらに奥には、一人が横向きになってようやく通れる保守用通路があり、両側の壁には何度も補修され、また剥がされた絶縁パッドと歯車支持座の跡が残っている。
「立ち位置」ヨゼフが低く言う。
誰も聞き返さなかった。彼はもう配置を決めていた。
「周士達」彼は俺を見た。「お前は二層と三層のあいだの梯子口に残れ。俺を守るんじゃない。人を守れ。下で何があっても、退き道が乱れたら、先にあの二人を上に連れて行け」
「あの二人」に葉綺安、リン・ユートン、シキは入っていない。あの三人は下にいない。ここで言う「二人」は、ヴィクトリアとエリザヴェータだけだ。
「エリザヴェータ」ヨゼフは彼女に向き直った。「そなたは二層を押さえよ。粘りすぎるな。こういう場所は重装に噛み込まれたら十秒は十秒だ。二十一秒目に賭けるな」
エリザヴェータはただうなずいた。
「ヴィカ、俺と三層へ降りろ」
ヴィクトリアは何も言わず、ただついて行った。
第三層の井底閉鎖機構室は、想像より狭く、本当に長い年月を生きてきた井戸そのものみたいだった。
主配重井は正中央にある。底は見えない。途方もなく太い古い鎖が一本、そのまま垂れ下がっていて、鎖の節々に高熱で擦れた暗青色の痕が残っている。井口の周囲には手動逆拍装置が一周取り囲んでいて、古い銅、鋳鉄、何度も補修されたスチール部品が噛み合い、一度解剖されて無理やり元に戻された巨大な心臓みたいだ。外周にはさらに三組の手動カム溝があり、そのうち二組は明らかに換えられたばかりで、金属の色が周囲と不釣り合いに新しい。壁には細い白墨の測定線が何本か残っている。この場所で長年過ごした人間でなければ、測量班がつけた印とは気づかないくらい微かな線だ。
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