93.追撃 93-2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
左側のより深い暗がりから、その人物は飛び出してこなかった。
線を放った。
極細の黒い索が柱の影から勢いよく投げられ、石床すれすれを滑って一周し、まるで距離を最初から測っていたかのような正確さで対面の承重柱の基部に埋め込まれていた銅扣に噛み合った。索は瞬時に張り、俺たちと左後ろの撤退口の間に一本の線として横たわった。
人を転ばせるためではない。
拍を定めるためだ。
俺はほぼ同時に理解した。さっきエリザヴェータが言った通りだ——左後ろの道は最初から綺麗すぎた。守るのを忘れたのではなく、俺たちを最も測りやすく、最も収めやすく、一気に同じリズムへ押し込める通路として、意図的に開けておいたのだ。
「左後ろはだめだ!」俺は叫んだ。「鐘槌井へ!」
カレルが鋭く顔を上げた。俺が先に読んでいたとは思っていなかったようだ。だが俺にはもう彼を気にする余裕はなかった。三本目の承重柱の後ろにある、暗がりにほぼ飲み込まれた隙間から、一筋の暗い風が漏れてきていた。自然の通気ではない。鐘楼の旧式の配重井が残した気流だ。その場所は狭く、湿っていて、反響が乱れる。上には旧い鐘槌と退役した配重の残槽が繋がっている。
道を測ろうとする人間が最も嫌う場所だ。
一歩ごとに、何も綺麗に拾えないから。
エリザヴェータは一言も問わず、俺の判断についてきた。
「内側を回れ、直線はだめ」妾の声は冷たく短い。「一、止まれ。二、止まれ。鐘の音には合わせるな」
彼女はそう言うが早いか、先に動いた。前へ突進するのではなく、斜めに切り込む。傘の柄を一振りして、右側の工具棚の最上段にある銅盆と測錘をまとめて払い落とした。金属が床に落ちて、音が一斉に弾ける。ぱっと聞いたところではただの騒音だが、拍と反響で飯を食う連中の耳には、銃声以上に鬱陶しい響きだった。うるさいからではない。そこに規則がなく、綺麗な余韻もなく、測るための起点になる一撃が存在しないからだ。
右の二本目の柱の後ろで、案の定誰かが動いた。
直撃を受けたわけではない。あの乱雑な金属音に追い立てられて、立ち位置を変えざるを得なくなったのだ。
俺はそのわずかな隙を掴み、左後ろへは向かわず、作業台の側面と承重柱の間の、最も真っ直ぐから遠く、壁際に最も近い狭い通路へと切れ込んだ。足元は平らではなく、わずかに沈み込んだ石の溝になっていて、底には薄く水が溜まっている。踏み込んだ瞬間、靴底から返ってくる震えが一気に乱れた。測りやすい拍から、半寸ぶん引きずり出されたような感覚だった。
向こうもすぐに気づいた。
右から短い破風音が走り、黒釘はもはや俺たちの胸を狙わず、前方の石板を狙って打ち込まれた。俺たちを自分から平らな場所へ戻らせようとするように。俺はかわさず、そばに落ちていた長柄の測桿を掴み、床を梃子のように撬り上げた。
溝の縁の、もともと緩んでいた蓋板が一枚はね上がり、濡れた泥と赤錆を撒き散らしながら、さっき張られていた黒索ごと引きずって歪ませた。索が緩んだ途端、左側の奴が聞き取れない罵声を吐いた。俺たちが出口へ突っ込むことよりも、まず拍を取るための線を壊しにかかってくるとは、思っていなかったのだろう。
その瞬間、エリザヴェータ(エリザヴェータ)が第二打を重ねてきた。
妾は振り返りもせず、ただ傘を後ろへ差し出し、半ばの高さに垂れ下がっていた細い鎖に傘骨を引っかけて、一気に引き下ろした。鎖の先には、使われなくなった小さな配重錘がぶら下がっており、引き下ろされた勢いで斜めに落ちて、右から追ってきた男の足元へ転がり込んだ。砕きにいったのではない。止めさせるためだ。
男は案の定、半拍ぶん動きを止めた。
妾が欲しかったのは、その半拍だった。
「今じゃ」妾は言った。
俺とヴィクトリアは、同時に三本目の柱の後ろの狭い隙間へ滑り込んだ。
隙間の奥にあったのは、やはり壁ではなく、半身分ほどの幅の立坑への側入口だった。中には古い鉄梯子が斜めに差さっており、梯子の胴は真っ黒に錆びている。そばには、もはや鐘を引くこともない、外皮の剥げた古い索が垂れ下がっている。さらに上のほうには、大きな配重塊が途中の位置で止まっていて、喉に引っかかった古い歯車のように、上がり切りもせず、下がり切りもしていなかった。
ヴィクトリアは一目見て顔を変えた。
「ここも線を通してる」
思いつきで言ったわけではない。井戸壁の片側には、細い銅針が三本打ち込まれていて、すべての針の尾には、あの黒光りする導拍線が結ばれている。線は上へ伸びて、さらに高い闇の中へと消えていた。誰かがとっくの昔に、鐘楼そのものの配重と振幅を巨大な導体として仕立て上げ、俺たちが自分から近寄ってくるのを待っていたのだ。
「まだ登るな!」彼女は俺を制し、自分の身体を一気に沈めた。
動きは考えより早かった。スパナを井戸壁下の、目立たない銅製の小箱の継ぎ目に差し込み、力いっぱいこじ開ける。蓋が外れると、中から出てきたのは一般的な接点ではなく、三本の極めて小さな分拍叉だった。叉の歯が髪の毛のように細く、そのすべてに導拍線が巻きつけられていた。
彼女はそれを一目見て、即座に罵った。
「ここで止めるための仕掛けじゃない」彼女は言う。「私たちに道を井戸へ持ち込ませるための仕掛けよ」
言わんとするところはすぐに分かった。
さっきの勢いのまま梯子へ取りついていたら、俺の懐中時計も、彼女の手帳も、この鐘楼そのものの古い機構の反響も、丸ごとこの分拍叉に取り込まれて、一筋の「追いやすい」道へとまとめ上げられていたはずだ。
エリザヴェータは立坑の入口の外側に半身を残し、無理に中へ押し入るようなことはせず、ぴたりとヴィクトリアが操作できる空間を空けていた。妾自身のリズムは終始乱れていない。追っ手が線になりかけるたびに、別の音、別の物、あるいは別の「間」を差し込んで、その線を折っていく。
「右に二人、左後ろに一人」妾は低く速く言った。「それに上にも少なくとも一人。妾らが自分で井戸へ道を送り込むのを待っておる」
そう言い終えてから、傘の先で床を軽くつつき、井戸口の脇に立てかけてあった細首の油瓶を正確にひっくり返した。瓶が割れ、中の油が石の床一面に広がり、井戸口前の、立つにはもってこいの位置を一気に滑りやすくした。右から追ってきた男がそこへ足を踏み入れた途端、歩調が乱れ、本能的に半寸ぶん身体を横へ逸らした。
その半寸が、妾の狙いだった。
エリザヴェータは男を殴り倒すのではなく、そばに立てかけられていた細い梯子を蹴り倒した。梯子は軽いが長い。そのまま倒れて二本の承重柱の間に斜めに嵌まり込み、男が一直線に飛び込んで来られる足場をきっちりと断ち切った。これは撃退ではなく、「追いにくくする」ための一手だ。速く、綺麗に追えないように。
妾のしていることは、一貫して「殺すこと」ではない。
リズムを圧することだ。
ヴィクトリアは、もはや誰を見る暇もなかった。
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