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87.時を刻む遺品 87-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

老人のピンセットはムーブメントの上で止まったまま、長いあいだ下りてこなかった。


作業台のライトは低く絞られ、分解された懐中時計の内部だけを照らしている。割れた文字盤はすでに脇に外され、細かなネジが整然と並び、内蓋が半開きになって、ムーブメントの奥深くにある不自然な細いロックが完全に露わになっていた。それは普通の故障で生じるような形でもなければ、熟練の職人が長年の修理で稀に出くわすようなズレでもなかった。あまりにも正確で、あまりにも静かだ。まるで誰かが歯車の一枚一枚がどこで止まるべきかを計算し尽くし、冷酷なまでの忍耐で、この時計全体をある一瞬に封じ込めたかのようだった。


ヴィクトリアはテーブルの向かい側に立ち、わずかに身を乗り出して両手を縁につき、呼吸まで浅くしていた。いつもの突進力と負けん気の火は、今は全て、もっと鋭い光に変わっていた。これがもう普通の修理ではないことがわかっていた。祖父がなかなかその一手を下ろさないのは、手が鈍ったからではなく、判断しているからだということも。


老人がようやく低く口を開いた。


「これ以上は、修理じゃない」


ヴィクトリアの眉がきゅっと寄る。


「じゃあ、何なの?」


老人はすぐには答えず、ピンセットの先であの細いロックの脇を、触れないまま示した。その動きは極めて軽く、それでもただ示すだけの仕草にすら、どこか憚るものが滲んでいた。


「誰かが、ここで止めたのです」


店の中がさらに静まり返った。


壁の時計はまだ動いているのに、その刻む音が何かに一段押し下げられたようだった。さっきまで四方から密に敷き詰められていたその音が、今はかえって、テーブルの上の止まった懐中時計を際立たせていた。エリザヴェータは傍らに立ち、小さなパラソルの先を床に軽く当てながら、急かしもせず、問いもせず、ただ分解された時計を見ていた。その表情は静かを通り越して平らだった。


俺はムーブメントの奥のロックを見つめ、掌が少しずつ冷えていくのを感じた。


老人のピンセットがわずかに沈み始め、あのロックに触れようとしたまさにその瞬間、店の空気が変わった。


ドアが開いたわけでも、風が入ったわけでもない。


真っ直ぐで、冷硬に近い寒気が、何の前触れもなくこの狭い時計屋に押し込んできた。その感覚は覚えがありすぎた。振り返って確かめるまでもなく、胸の奥がわずかに締まった。


作業台のそばに、いつの間にか一つの人影があった。


旧式の軍服。肩のラインが真っ直ぐで、表情は寒海に浸した鉄のように静かだった。そこに立つ姿には、場違いな狼狽など微塵もなく、むしろこの店の全ての時計の音が、この人物が現れた瞬間に半拍静まるべきであるかのような存在感だった。


ヴィクトリアの手が先に固まった。


本能的に半寸ほど後ろへ引き、台の縁に当てていた指も一緒に縮んだ。いつも何も怖がらないあの野性が、初めて純粋な警戒へと叩き伏せられていた。老人はゆっくり顔を上げ、片眼鏡の奥の目が沈んだ。ピンセットを持つ手は放さなかったが、もう動かなかった。


エリザヴェータはその人物を見て、表情を変えなかった。ただわずかに目元を引き締め、ごく軽く頷いた。


「山口閣下」


山口は俺を先に見なかった。ヴィクトリアにも構わなかった。


まず老人を一瞥した。


その一瞥は短かったが、驚くほど重かった。相手がどこまで見てしまったかを確かめるような目だった。老人はその視線を受けて、表情は変えなかったが、指先が明らかに一度締まった。


それから山口は視線を落とし、テーブルの上の分解された懐中時計を見た。


灯りが剥き出しのムーブメントを照らし、あの細くてほとんど悪意を感じさせるロックも照らしていた。山口はそれをしばらく見た。顔に余計な感情は何もなかった。初めて見るわけでもなく、改めて確かめる必要もないとでも言うような顔だった。


しばらくして、口を開いた。


「……まだ、待っていたのか」


その言葉はごく軽かった。


だが落ちた瞬間、店全体がさらに深い静寂に押し込まれた。


ヴィクトリアは声を出さなかった。すぐに問いかけることもしなかった。ただ山口を見つめ、テーブルの懐中時計を見て、喉がわずかに動いた。聞きたいことは山ほどあるのに、どれを最初に口にすればいいかが決められなかった。


山口の視線は懐中時計の上に留まったままだった。


それから、淡々と言った。


「手を止めろ。まだ、これが動く時ではない」


老人の手のピンセットがようやく止まった。


驚きでも狼狽でもなく、若い頃から骨に刷り込まれた古い習慣が、思考より先に判断を下したようだった。追い打ちもかけず、意地も張らず、ただ分解された懐中時計を見て、ゆっくりとピンセットを引いた。


俺は反射的に口を開いた。


「山口——」


だが山口は二言目を言わなかった。


俺たちをもう一度見ることもなかった。


その真っ直ぐな人影は作業台のライトのそばにほんのしばらく止まっていた。まるでこの時計に一言だけ残しに来たかのように。次の瞬間、店に押し込んでいた寒気が音もなく引いていった。風もなく、音もなく、余計な痕跡も何もなく、まるでその人影は時間がほんの少しずれたときに、一瞬だけ角から覗いたものに過ぎなかったかのようだった。


壁の刻む音が、また浮かび上がってきた。


一打、一打、胸の奥に空洞を叩くように響いた。


ヴィクトリアが先に我に返り、勢いよく俺を振り返った。まだ引き切れていない驚きが目の底に残っていた。


「あの人は——」


「聞くな」老人が低く遮った。


声は高くなかったが、さっきより一段重かった。


それだけ言って、老人は分解された懐中時計を自分の前へ半寸引き寄せ、視線をムーブメントに戻した。しばらくして、脇に外してあった割れたガラスを手に取った。それから引き出しを開け、新しい文字盤ガラスを一枚取り出して、ライトの下でゆっくりサイズを合わせ始めた。


ヴィクトリアが眉を寄せた。


「おじいちゃん、中は——」


「中は触らない」


その一言は、どこにも揺れ幅がなかった。


ヴィクトリアは口を結んだ。目の底の不満はまだ燻っていたが、もう手を伸ばさなかった。


エリザヴェータが傍らから、分解された懐中時計を一瞥して、平らな口調で問うた。


「では、できることは外側だけか?」


老人は頷いた。


「割れたガラスは替えます」老人は言った。「それ以上は、ここまでです」


言い終えると、老人は頭を下げ、新しい文字盤ガラスの処理に専念し始めた。指の腹、ピンセット、留め具、一つ一つが冷静なまでに安定していた。まるで一度こじ開けられかけたものに、薄い皮を一枚、また被せ直していくような動きだった。


修理ではない。


封じ直しだ。


最後の留め具が押し込まれると、老人は指の腹で新しいガラスの面をそっと拭い、見えるか見えないかの細かな埃を取り除いてから、懐中時計をゆっくりと俺の前へ押し戻した。


新しいガラスがライトの下で、ごく淡い光を帯びた。


中の針は、まだ動かなかった。


俺は手を伸ばして懐中時計を掌に収めた。外側がひどく冷たかった。その冷たさが皮膚からじわじわ滲み込んでくる感触は、山口が残していった寒気と、どこか似ていた。


エリザヴェータがその時計を一瞥して、静かに言った。


「今日はここまでのようじゃ」


誰も返さなかった。


壁の時計はまだ動いていた。


俺の掌の中のあれだけが、何かを待つように、静かだった。

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