86.故人と職人 86-3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
プラハの旧市街は、折り畳みすぎた地図みたいだ。広げてみると、路地の一本一本にそれぞれの気性がある。
俺はあの祖父と孫娘について、石畳の小路をいくつか抜けた。小さな店、アーチ門、少し古びた壁、鉄の看板が掛かった角。大聖堂のあたりの開けた高さの感覚は、すぐに街の腹の中に飲み込まれた。周りが狭くなり、音が耳に近づいてくる。二階の窓台で花に水をやっている人がいて、店の前で荷物を運んでいる人がいる。路面電車の音が遠くから届いて、ときどき鐘の音が混じった。
ヴィクトリアは先頭を歩いた。歩幅が広くて、見知らぬ相手のために速度を落とすタイプでは全くない。厚底のブーツが石畳を踏む音は実質的で、エプロンについた金属部品がそれに合わせて揺れ、ときおり小さな音を立てた。歩き方が面白かった。わざと目立とうとしているわけじゃないのに、腰と背と肩のラインに「ここはアタシのテリトリー」という気配があって、無視しにくい。
後ろから見ながら、ふと、さっき彼女が俺の懐中時計を最初に見たときの目を思い出した。単純な好奇心でもなく、値打ち物を見つけた泥棒の目でもなかった。あれは、職人が見たことのない構造に出くわしたとき、条件反射で生まれる飢えみたいなものだ。
本当に物を作る人間は、語りかけてくる機械を見るとき、目が違う。
そう思って、俺はもう一度彼女を見た。
彼女は後頭部に目でも生えているのか、振り返りもせずに口を開いた。
「そういう目で見ないでよ」
俺は鼻で笑った。「どんな目だ?」
「アタシが部品を盗みそうな目」
「違うのか?」
彼女はすぐに振り返って睨んだ。ポニーテールが一緒に揺れた。
「アタシが盗む部品は誰も要らないやつだけ。あなたの時計は救助未遂よ」
「落としたのはお前だ」
「あれは共同事故」
「先に奪おうとしたのはお前だ」
「あなたが専門家を尊重しなかったのよ」
「専門家を尊重するのに、路上の見知らぬ人間に物を渡す必要はない」
「アタシは時計師の孫娘よ!」
「そんなこと、俺が知るわけないだろ」
彼女はその場に立ち止まって言い返そうとした。老人の杖が地面をこつんと突くと、彼女は不承不承また歩き出した。それでも口の中でまだ何かぶつぶつ言っていた。俺への文句なのか、自分への弁護なのか、どちらともつかなかった。
老人は二人の間を歩きながら、こういう口喧嘩にとっくに慣れているらしく、仲裁する気もなさそうに、ただ淡々と言った。
「根は悪くない。ただ手が頭より速いだけで」
「聞こえてるわよ、おじいちゃん」ヴィクトリアが不満そうに返した。
「聞こえていればそれでいい」老人は言った。
俺はその前後の背中を見ながら、美人局の疑いが少しずつ薄れていくのを感じた。
善人そうだからじゃない。あまりにも本物すぎるからだ。芝居にしては自然すぎる。
数分後、老人は目立たない一軒の店の前で立ち止まった。
時計屋だった。
看板は古く、木の端が年月で黒ずんでいた。文字も観光客を引き寄せるような派手な様式ではなく、ここに長く掛かっていることが当然のような、実直な字体だった。ショーウィンドウは小さく、修理が終わった置き時計や掛け時計や懐中時計がいくつか並んでいた。きれいに整えられているが、妙な静けさがある。客足がないのではなく、並んでいる時計たち自身が、窓際であまり喋りすぎてはいけないとわかっているような静けさだ。
老人がドアを押し開けた。
風鈴は鳴らなかった。代わりに、店内のどこかの極細い歯車が何かを動かして、ごく小さく「かちり」と鳴った。
俺は入口に立って、最初に感じたのは見たものではなく、嗅いだものだった。
金属、機械油、磨き上げられた真鍮、古い木、少量の焦げた革。それからもう一つ、ごくかすかだが、普通の時計屋とは少し違う匂い。嫌な匂いではないが、圧縮された空気のようで、少し不自然な乾燥と熱を帯びていた。
俺の中で何かが微かに動いた。
ここは、普通の時計だけを直している店じゃない。
店内はそれほど広くなく、前半が展示と受付で、奥は半開きのドアで仕切られていた。その向こうに作業台と工具棚と積み重なった部品箱が見えた。壁には大小様々な時計がかかっていて、それぞれが自分の時間を刻んでいた。完全には同期していない。秒針と振り子のあいだに微妙なズレがあって、店全体の音は単一のリズムではなく、無数の「かち、かち、かち」が互いに噛み合って、密な網を編んでいた。
老人は作業台の前まで行き、俺へ手を伸ばした。
今度は、俺は懐中時計を渡した。
老人が受け取るときの動作は非常に軽かった。物を受け取るというより、驚かせてはいけない何かを受け取るようだった。すぐに蓋は開けず、まず掌の上に乗せて重さを感じ、それから卓上の拡大鏡を手に取り、ヒビとフレームを覗き込んだ。
ヴィクトリアはとっくに身を乗り出していて、ほとんど作業台に張り付きそうだった。
俺はすぐに言った。「触るな」
彼女は盛大に目を回したが、手は伸ばさなかった。腕を組んで台の端にもたれ、俺より熱心に覗き込んでいた。
老人はしばらく見て、眉間がわずかに動いた。
困ったときの皺寄せではない。見慣れないものを見たとき、頭の中のどこか古くて正確な引き出しが開くときの表情だった。
老人は顔を上げて俺を見た。
「この時計、前の持ち主はチェコ人ではないですね?」
俺の中で何かが一瞬冷えた。表には出さない。
「なぜそう思う?」
「工法が違います」老人は懐中時計を裏返し、拡大鏡の下に刻み跡と継ぎ目を晒した。「外装の仕上げ方、内輪の縁取り、蝶番の応力配分、どれもここの流儀じゃない。一般的なドイツ・オーストリア系でもない。軍用品の簡潔さがあるが、純粋な軍用品でもない。東洋の抑制があるが、ヨーロッパの古い骨格も残している」
老人は少し間を置き、指の腹で蓋の縁をそっと押さえた。
「作った人間は、時計をよく知っている。そして、時計の中に別の何かを隠す方法も、よく知っている」
俺は黙った。
ヴィクトリアの目がさらに輝いた。
「やっぱりそうじゃない!」彼女は思わず卓を叩きそうになった。「普通の懐中時計じゃないって、最初から一目でわかったのよ——」
老人が横目で彼女を見た。
彼女はすぐに口を閉じた。
俺は老人に問い返した。「直せるか?」
老人はすぐには答えず、工具箱を開けて極細のドライバーを取り、割れた外輪の留め具を少しずつ緩め始めた。その動きは穏やかで、ほとんど残酷なほど安定していた。角度の一つ一つが計算されているようで、息すら余計なものがない。
しばらくして、老人が口を開いた。
「ガラスは替えられます。フレームも直せます。ムーブメントは——」
老人が止まった。
できないのではない。中にさらに多くのものを見てしまったのだ。
ヴィクトリアはとうとう我慢できなくなり、身を乗り出した。声を抑えきれていない。
「中がどうなってるの?」
老人は彼女を無視して、俺だけを見た。
「お客さん、この時計は壊れているだけじゃない。意図的に止められています」
俺の心臓がずんと沈んだ。
「どういうことだ?」
老人は拡大鏡を持ち上げ、語調は変わらず静かだったが、さっきより少しだけゆっくりになった。
「普通の時計が止まるのは、ゼンマイか歯車系か耐震機構か潤滑の問題がほとんどです。これは違う。ここを——」老人はピンセットでムーブメントの深部のある一点を軽く示した。「人為的なロックがかかっています。壊すためではない。ある時点より先へ進まないよう、止めるためです」
ヴィクトリアの呼吸が一拍早くなった。
俺は開かれた懐中時計を見つめ、喉が少し乾いた。
山口多聞。
これは、お前が残したものか?
それとも、誰かが手を加えたのか?
老人がもう一言付け加えた。俺が理解し損ねないよう、念を押すように。
「もっと正確に言えば、これは時刻を知らせるためのものではない」老人は顔を上げて俺を見た。「ある条件を待つためのものです」
店内の全ての時計の刻む音が、その瞬間、一斉に大きくなったように感じた。
俺はその場に立ったまま、ふいに気づいた。自分は単なる時計屋に足を踏み入れたのではない。ずっと前から何かを引き受けて、今この瞬間にようやく本格的に動き始めた場所に入ったのだ。
そのとき、入口のほうで、ごく軽いドアの開く音がした。
俺は振り返った。
エリザヴェータが店の外に立っていた。陽光がパラソルの先と靴先に落ちている。妾は店内の様子を一瞥し、まず俺を見て、次に作業台の懐中時計を見て、最後にあの祖父と孫娘に視線を止めた。
その目に驚きは一切なかった。最初からここを探していたような目だった。
ヴィクトリアも妾に気づき、まず眉を跳ね上げ、それからなぜか、無意識に少し背筋を伸ばした。
老人はエリザヴェータを見て、二秒ほど静かにしていたが、ふいに手のピンセットを置き、軽く頭を下げた。
「なるほど」老人は低く言った。「今日この時計が、なぜ自分からここへやって来たのか、合点がいきました」
エリザヴェータはパラソルを差したまま店に入り、静かにドアを閉めた。
「プラハは、人に扉を叩かれるのを好まぬでな」妾は老人を見て、語調は静かだった。「人を直接、扉の向こうへ連れて行くほうを好むのじゃ」
妾の視線がヴィクトリアに落ち、半秒止まった。
「そして、来る場所を間違えなかったようじゃ」
ヴィクトリアは腕を組んだ。口は開かなかったが、その目にはもう火が点いていた。敵意ではない。何か本能的なものが点火された、警戒と興味の混じり合った火だった。
俺は二人の間に立って、ふいにひどく奇妙な感覚に包まれた。
大聖堂の地下で掘り起こしたのは、死んだ人間が残した名前だった。
この店に隠されているのは、生きている人間がまだ手放していない「手」だった。
ウィーンが俺たちをプラハへ押し出したのは、名簿の続きを調べさせるためじゃない。
本当に物を動かす人間は、最初から名簿になど載らない——それを見せるためだった。
老人は再び頭を下げ、分解された懐中時計を見つめた。しばらくして、俺に向けて言うようでもあり、店全体に向けて言うようでもある口調で言った。
「これは直せます」
老人はあの微細な人為的ロックを、もう一度俺に示した。
「ただし、直った瞬間、単に時を刻み始めるだけとは限りません」
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