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78.糸口を掴め 78-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。



最初のページには、欄だけがある。「区」「列」「箱」「頁」「添付」。


タイトルは、ない。


二ページ目から、びっしりとコードが並んでいた。普通の档案番号とは違う。本来の名称を粉々に砕き、別系統で組み直したような記号列だ。


だが、どれだけ綺麗に隠しても、コードには「口」が出る。


七ページ目に「接収」。

九ページ目に「返却」。


十二ページ目からは、人名と思しきイニシャルが急に増え、

十五ページ以降には、欄外に小さなチェックマークが手書きで入っている。


黒インク。青インク。赤インク。少なくとも三つの時代をまたいでいる。


中ほどまでめくったところで、俺の手が止まった。


全部を読み切ったからではない。


ある姓が目に入ったからだ。


同じ姓が、異なる番号と組み合わされて三箇所に載っている。


しかも、それぞれ別の備考付きで。


俺は、声に出さなかった。


エリザヴェータは、俺の手が止まったのを見て、目つきを一段冷やす。


「何じゃ」


俺は索引簿を彼女の方へ回し、三行だけを指先でさし示す。口はつぐんだまま。


彼女は二秒読んで——顔色を変えた。


驚愕ではない。確認の色だ。


今までは「ありうる」と思っていたものが、紙の上で牙を生やしたのを見た顔。


「よい」彼女は言う。さっきより明らかに冷えた声で。「今この時より、ここに記された姓は一つたりとも口に出すでない。指だけを使え」


「分かったのか?」葉綺安(イェ・キアン)が問う。


「分かった分は十分だ」エリザヴェータは答える。「ここに長居してはならぬ程度には、な」


そして俺を見る。


「灰色のファイルじゃ」


俺は頷き、索引簿を前に戻して区・列・箱・頁を追う。左から三列目、一番下の段の六番目の箱。その横に、小さな灰色のチェックがある。


箱は大きくない。だが、驚くほど重い。


引き出した途端、埃が舞い上がり、鉄錆の匂いが一段階、強くなった。


今度は(シキ)が先に毒づく。


「クソ、この匂いアカンやつや」


汚れでも、湿気でも、腐った木の匂いでもない。


押し潰され、干からび、それでも空気から抜け落ちなかった何かの匂い。


蓋を開けると、中にはやはり灰色のファイルが入っていた。


全部で四冊。


どれにも正式な件名はなく、色コードと列番号、手書きの日付、それから削り傷だらけの古い印章だけがある。印章はもともと鷹か徽章の形だったのだろう。だが刃物で念入りに削られ、死にきれなかった数本の線だけが残されている。


葉綺安(イェ・キアン)は、その傷を見て珍しく顔をしかめた。


「誰がここまでやるのよ」


「外に見られるのを恐れたわけじゃない」林雨瞳(リン・ユートン)が言う。「自分の側の人間に、一目で分からせたくなかった」


俺は一番上のファイルに手を伸ばす。


エリザヴェータが、その手を押さえた。


「ここでは開けぬ」


俺は彼女を見て、頷く。


エレオノーラの警告と、エリザヴェータの判断が、この瞬間ぴたりと重なって、鋼のような硬さになった。


俺は四冊のファイルを箱に戻し、小さな黒い鍵と索引簿も一緒に持ち上げる。立ち上がろうとした時、(シキ)が低く言った。


「待ち。机の下、まだ何かある」


彼女は身をかがめ、スキャナーを机の裏側に向ける。


木板の内側に、小さな刻み傷がある。


装飾ではない。文字だ。


誰かが極細の刃先で、一筆一筆刻んだもの。浅く。見つかるのを恐れつつ、忘れるのをもっと恐れている刻み方。


俺はしゃがみ込み、覗き込んだ。


読めたのは、三つの単語だけだった。


完全な文ではない。


喉の奥から搾り出したみたいな、三つの単語。


名簿。順序。回収。


俺はその三つを見つめたまま、しばらく動けなかった。


エリザヴェータが背後に立ち、低く言う。


「档案整理の者が刻む言葉ではないな」


「ああ」


「これは次に来る者への伝言じゃ」


「それと同時に、自分自身への伝言でもある」俺は言う。「これを別の何かと勘違いするな、というな」


廊下の遠くで、ドアが閉まる音がした。


全員が同時に顔を上げる。


(シキ)がすぐにタブレットを見る。「下から二人上がってきてる。速くないけど、道は分かってる歩き方」


葉綺安(イェ・キアン)は箱を受け取り、「撤収?」と、ナイフの背でテーブルを叩くみたいな声で言う。


エリザヴェータは俺を見る。


俺は、もう一度だけ机の裏の三つの文字を目に焼きつけてから、立ち上がった。


「撤収だ」


彼女は頷き、踵を返す。


だが、俺は二歩踏み出したところで——足を止めた。


窓側の壁の下。カーテンで隠されていたはずの部分から、紙が一角だけ覗いているのが見えたからだ。


床に落ちているごみではない。壁板と巾木の隙間に、無理やり押し込まれて、入りきらなかった残りが見えている。


近づいて、そっと抜き取る。


残っていたのは、半ページだけだった。


大半は破り取られ、印刷欄と手書きの追記が一行だけ残っている。


印刷の欄には、こうある。


受領状態:再編未完了


そして、その下の手書きの一行は、もっと短かった。


——第一陣、完全である必要なし。立てばよい。


その一文を見た瞬間、背筋が一寸ずつ、冷えていく。


エリザヴェータが横に来て、その紙片を俺の手から取った。一瞥しただけで、唇の線が固くなった。


「しまえ」


「文書の言葉としてはおかしい」林雨瞳(リン・ユートン)が言う。


「これは記録じゃない」俺は答える。「規格だ」


(シキ)がタブレットから顔を上げる。声はさらに低くなっていた。「もうすぐ上がってくる。早い」


エリザヴェータは紙片を内ポケットに折り込み、その目に霜みたいな冷たさを宿す。


「なら、こうしておこう。荒らされたが、取り切られていない档案室——そう見えるように」


葉綺安(イェ・キアン)がニヤリと笑う。笑みの中身は、全部悪意だ。


「ようやく仕事っぽくなってきたじゃない」


俺たちは档案室を出る前に、最後に一度だけ振り返った。


左から三列目。細い机。鉄の棚。埃。どう嗅いでも「ただの鉄錆」には思えないあの匂い。


すべてが、そこにじっと留まっている。


まるでここでは、一度も誰も口を開かなかったし——誰一人として、諦め切ったこともなかったみたいに。


扉を閉めて鍵をかけた瞬間、掌の真鍮の鍵からは、昨夜のような冷たさは消えていた。


代わりに——重さが、増していた。


開けたのは一つの扉だけじゃない。


今まで縁だけに触れていた何かが、もう一歩こちら側に寄ってきた重みだ。


廊下の端から、足音が聞こえてくる。


速くも遅くもない。ここに入ってくる自分たちを、「ただの巡回」だと思っている足取り。


エリザヴェータは手袋をはめ直し、横顔の線を氷のように引き締める。


周士達(ジョウ・シーダー)


「なんだ」


「今後、ワイスマンが"何を連れ戻そうとしているか"などと問うのはやめよ」


彼女は一拍置き、俺の腕に抱えられた灰色の箱を一瞥する。


「まず問うべきは、奴がどれだけのものに、『もう一度立つ』ことを教え込もうとしておるか、じゃ」


そう言い残し、彼女は階段の方へ歩き出した。


そして俺が後を追いながら、はっきりと理解したのは——


昨夜エレオノーラが俺に残したのは、情報だけでも、身体の余熱だけでも、曖昧な賭けだけでもないということだった。


扉の前に、まず俺を突き落としたのだ。


そこから、自分で扉を開けられるかどうか——それを見ていた。


今、その扉は開いた。


最初の灰が、もう手についている。

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