76.ウィーンの深紅の白鳥 76-2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
最初の十分は社交の体裁を保っていた。だが二順目に差し掛かると、空気が変わり始めた。
文化基金の代表が城のリースバック管理の境界を問い、金融側がすかさず収益保全の法的支柱を尋ねてくる。「地域の安定だけを気にしている」と言い張る誰かが、話を「将来の対外協定に持続性はあるか」へと誘導する。
全員、自分は一角だけを尋ねているふりをしている。だが実際には、全員が同じことを探っている——永恆領は「一過性の出来事」として処理できるのか、それとも、もう「勘定に入れなければならない新しい存在」として育ってしまったのか。
エリザヴェータは一つひとつを、一言も空振りせずに返していく。
「リースバック管理は、具名のうえで発効済みじゃ」
「収益保全は、書面の連鎖に入っておる」
「対外窓口は、すでに公開済みじゃ」
「内部の代理配置も、完了しておる」
「今後を話したいなら、憶測ではなく、正式な書類を持って来い」
一言落ちるたびに、誰かがカードの裏に何かを書き留める。
俺は立ったまま動かなかったが、はっきりと見えていた——今夜、本当に炙り出されているのは「誰が誰を支持するか」ではない。「誰がもう知らないふりを続けられないか」だ。
最後の問いが着地したところで、エレオノーラが静かに一度だけ手を打った。
拍手ではない。終了の合図だ。
「皆さん」彼女は言う。「オペラ座の役割は、声を美しく響かせることだけですわ。もっと耳障りの悪い話は——サロンで」
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車列はオペラ座の裏手から直接サロンへと向かった。サイレンもなく、道路封鎖もなく、信号さえも普通に流れている。
だが、俺には分かっていた。普通ではないことが。
曲がるたびに、俺たちのものではない車が一台ずつ増えていく。
ウィーンは、見ていないのではない。——あまりにも完璧に見ているから、見ていないふりをしているのだ。
サロンは、外部に一切名前を出していない古い建物の中に潜んでいた。外壁には何も書かれていない。だが中は、何世紀分もの銀器を全部磨き上げたかのように明るかった。
ホールにはすでに人が溢れている。男たちは家名が硬すぎるか、資金の出所が書けないかのどちらかだ。女たちは基金の理事か、あるいは一言の祝辞が公文書十通分の重みを持つ、そういう種類の人間だ。
俺たちが入ると、散らばっていた会話の声が、一斉に中心へと引き寄せられた。
オペラ座より、圧力は直接的だった。あちらにはまだ舞台があった。ここにはない。ここでは、全員が自分自身で舞台だ。立ち続けた者だけが、相手に先に口を開かせる権利を持つ。
エレオノーラはゆっくりと手袋を一寸だけ引き上げた。最後の準備動作のように。そして半歩、前へ出る。
「皆さん」彼女は言う。「今夜は、ニュースの立会人になりに来たのではありませんわ。ニュースの後で、誰が先に間違った側に立つか——それを確かめに来たのですの」
ホール全体で、誰一人笑わなかった。
俺はエリザヴェータの傍らに立ちながら、彼女の目尻がわずかに上がるのを見た。それが、彼女の「入場前」の顔だ。
次の瞬間には、最初の名帖を差し出す人間が歩み寄ってきた。
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最初に名帖を差し出したのは、指の骨格標本みたいに細い指を持つ老人だった。
カードを二本指に挟んだまま、エリザヴェータには渡さない。まず俺の前で半寸、止める。「お前はわざわざ手を上げてやる価値があるか」を量るように。
俺は受け取らなかった。
彼も引っ込めなかった。
空気が、その一瞬で固まった。
エレオノーラは俺の左前方に立っていた。まるでこの老人が最初の刃をどこへ向けるか、最初から知っていたかのように。首さえ傾けない。ただ、手にしていたグラスを静かに給仕の盆に置き、声量は低く、しかしどんな怒声よりも相手を追い詰める一言を落とした。
「伯爵。名帖をお渡しになる方向が、違いますわよ」
老人の瞼が、かすかに動いた。
エレオノーラはそこで初めて彼を見る。ヴァイオレットの瞳は、霜の降りた刃面みたいに冷たい。
「永恆領への御挨拶であれば、まず殿下へ。ジョウさんをお探しであれば——まず私に、今夜の一番手に並ぶ理由をお聞かせ願いたいですわね」
ホール全体が、一瞬で静まった。
名帖はようやく向きを変え、エリザヴェータの手に落ちた。老伯爵は、あの老練な薄笑いを顔の上に貼り付けたまま、声だけは三段ほど収めていた。
「失礼いたしました」
エリザヴェータはそのカードを見もせずに、俺に渡す。
「持っておれ」
俺はそこで初めて受け取った。
カードの重さ自体はたいしたことない。だが、ホール全員がその瞬間を見ていた。これは俺のために名帖を受け取ったのではない。俺の位置を、全員の前で釘打ちしたのだ。 今夜、俺と彼女の間の線を迂回しようとする者がいれば、エレオノーラはその考えを入口で潰すつもりだと——全員に伝わった。
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二番手に来たのは、基金会の女性理事だった。年齢は読めない。笑顔は定規で測ったかのように整っている。
「殿下、ウィーンは新たに成立した政治的実体に対し、常に観察の姿勢を取ってまいりました」
エリザヴェータは涼しく返す。
「ならば、よく観察することじゃ。新聞だけを頼りにせずとも」
女は微笑んで、視線を俺へと移す。
「お傍の方への観察も含めて。多くの場合、局面を実際に動かしているのは、主席に座る方ではございませんから」
俺が口を開こうとした瞬間、エレオノーラはすでに隣へ手を伸ばしていた。給仕がすぐに別の杯を差し出す。彼女はそれを受け取り、飲まずに、杯の中の深い色の液体をゆっくりと揺らす。
「奥様」エレオノーラは言う。「ウィーンで本当に局面を読める方は、最初の挨拶の最中にテーブルの脚を蹴ろうとはなさいませんわ」
女の笑みが、半秒だけ止まった。
エレオノーラの遮り方は、力任せではない。相手が自分で「これ以上続けると品が落ちる」と気づくように仕向ける遮り方だ。 この場で最も恐ろしいのは、表立った衝突ではない。「格が足りない」と思われることだ。
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三波目は、まとめて来た。
銀行の名を持つ者、旧鉄鋼家族の男、文化資産法の顧問。三人の立ち位置は、一見ランダムに見えて、俺とエリザヴェータの退路を半分ずつ塞ぐ形になっている。
銀行の男が先に口を開く。
「殿下の第三号告示は、拝読いたしました」
エリザヴェータが目を上げる。
「それは重畳。同じ話を繰り返さずに済む」
鉄鋼家族の男は、季節の話でもするような笑みを浮かべる。
「初期入札の版図が出た時点で、多くの古い帳簿が、もはや過去の話では済まなくなりましたな」
「歴史は過去ではない」俺は引き取る。「ただ、十分に長く引き延ばせば展示品に変えられると思っている人間がいるだけだ」
男は、そこで初めて正面から俺を見た。
法顧問が、横からそっと差し込んでくる。
「ジョウさんは、殿下の代わりにお答えになるのがお得意で?」
俺が口を開く前に、エレオノーラはグラスを給仕に返し、ゆっくりと黒いグローブを手首に向けてもう一寸引き下ろした。
「違いますわ」彼女は言う。「今夜の問いの中に、殿下がわざわざ細かく答えるほどの値打ちがないものが多い、というだけですの」
一刀ずつ、深くなっていく。
彼女は俺を守っているのではない。俺を前に出しながら、暗がりで探るだけの試みを切り落としている。 この連中が確かめたかったのは、俺がたまたまこの位置に立っているのかどうかだ。今や全員が理解している——偶然ではない。俺は、認められた手だ。
三人は互いに目配せして、立ち位置をわずかに崩した。
俺には分かっていた。最初の名帖交換で渡されているのは、紙ではない。陣形だ。
永恆領に「窓口」があり、「手」があり、「話せる人間」がいると最初に認める者は、後になって間違った側に立つリスクを一つ減らせる。ウィーンは新しいものを必ずしも尊重しない。だが「すでに手続きに入ったもの」は、必ず尊重する。
十分も経たないうちに、名帖が俺の手の中で小さな束になっていた。
姓だけのカードは、まだ全部は賭けないという意思表示。裏に手書きで住所が入っているものは、非公式な接触を望んでいる。何も書かれずに印章だけが押されたものは、意味がより単純だ——「私はあなたを見た。あなたも私を覚えておけ」。
希が後ろから寄ってくる。声は落としている。
「左から二本目の柱の横、あの二人、旧財閥の人間や。さっき一人が『まだ急いで立つな』言うたら、もう一人が『もう先に跪いた奴がおる』て返してた」
俺は振り返らない。
「どっちが言った?」
「銀縁眼鏡の方」
グラスの表面に映る反射光を使って、さりげなく視線を流す。その男は今、別のオーストリア人金融弁護士と話しながら、口をきつく結んでいた。
こういう人間は、たいてい一番頭がいい。だから一番遅く決断する。だが——こんな言葉が出てきたということは、心の中ではもう、風の向きが分かっている。
エリザヴェータが、不意に一歩前へ出た。
ホール全体の会話が、見えない手に押さえられたように低くなる。
壇上には上がらない。グラスも叩かない。ただ、静かに口を開く。
「今夜ここにいる方々の多くは、妾よりも欧州の旧秩序に精通しておろう」
一拍。
「それはちょうどよい。——地図が初めて引かれた時、本当に値打ちがあるのは線ではない。線の後ろで、誰が最初に認めるかじゃ」
全体を見渡す。
「観望するのは構わぬ。ただし——観望しながら、片手で妾の机の上の紙を探るようなことは、するでないぞ」
ホールの中で、数人の表情が即座に固まった。
これは空砲ではない。直撃だ。 すでに動いている者がいる——初期入札図を探っているか、対外告示の草稿を嗅ぎ回っているか、窓口と代理の分担を調べているか。エレオノーラの場で、当着してそれを言い切ることで、彼女はここにルールを釘打ちした——祝賀に来るのは構わない、見物も構わない、だが手を伸ばすのは別の話だ。
エレオノーラは彼女を見つめ、その瞳に初めて、はっきりとした笑みが灯った。
媚びではない。賞賛だ。
そして——第二の扉を、彼女が押し開けた。
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「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




