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74.ウィーンへ 74-3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

夕方、スロバキア政府は案の定、また緊急会議を開いた。


だが今回の語気は、昨日よりもはるかに落ち着いていた。


おそらく連中もようやく理解したのだろう。今一番割に合わないのは、永遠領がオーストリアへ行くことを妨害することじゃない。


礼儀的な答礼すら邪魔しようとする、心の狭い国家として国際カメラの前に映ることのほうだ。


(シキ)が外部に流れた会議メモをウォールに映し出したとき、俺は実に愉快な気分で眺めた。


原則として、永遠領が具名の祝賀書簡に対して礼節的に応じることには反対しない。 政府としての情報把握と必要な同伴を確保しつつ、阻害しているという印象は避ける。 対外的には、既存の秩序再整備の枠内における通常の接触として強調すべき。


読み終えて、俺は笑った。


「いいな。ようやく『通常の接触』が何かを学習したらしい」


林雨瞳(リン・ユートン)が卓にもたれ、冷たく言う。


「学習したんじゃない。追い込まれて覚えた」


エリザヴェータはそのメモにコメントを付けることもなく、ただ窓の外でゆっくりと暮れていく空を見上げた。


「重畳」


彼女の「重畳」は、今日だけでも何度も聞いた。


だが、そのたびに意味は違う。


今回は、俺にもはっきり分かった。


こちら側の門は固まった。次の駅へ向かえる、という意味だ。


俺は椅子の背もたれに体を預け、ウォールに映る初期標示地図、オーストリアの祝賀書簡、第三号公告のヘッダーに輝く月翼血鋒を眺めながら、この一連の流れがついに「取り戻す」段階から「外へ出る」段階へと移り始めたことを実感していた。


それでいい。


物語が門の前だけで終わるなら、どれほど鮮やかでも、所詮はローカルな勝利だ。


だが今は違う。


地図が引かれた。 第三号公告が出た。 オーストリアが先に手を伸ばした。 スロバキア政府も、自分たちの体面を守る術を覚えた。 そして俺たちは、堂々と次の駅へ向かう道筋を手に入れた。


俺はエリザヴェータに顔を向ける。


「それじゃあ、女大公」


彼女がこちらを見る。


「なんじゃ?」


俺は笑みを浮かべる。


「次の駅は、オーストリアで答礼を受け取りに、だな」


彼女の紅い瞳が、ごくわずかに動いた。


「違う」


俺は眉をひそめる。


「では?」


彼女は投影に映るオーストリアの祝賀書簡を見据え、鞘に収めた刃のように平らな声で言った。


「扉を最初に読み解いた者が誰か――奴らの目で、しかと確かめさせに行くのじゃ」


俺はその場で笑い出した。


そうだ。


まさに、その通りだ。


---


俺が笑い終えると、大広間は二秒ほど静まり返った。


誰も言葉を失ったわけじゃない。全員が、エリザヴェータの「扉を最初に読み解いた者」という言葉の重みを消化していたのだ。


その意味は明瞭だ。


俺たちはオーストリアへ席を乞いに行くのではない。


最初に正式な祝賀を送ってきた相手が、自分自身をどの位置に置こうとしているのか――それを見極めに行くのだ。


(シキ)が先に動いた。


オーストリアの第二封書簡、第三号公告、スロバキア政府の最新見解――三つを一気にメイン画面に引き出し、見事で残酷な対比表を作り上げる。


左側――オーストリア: 具名の祝賀。礼儀的答礼。法務意見交換。既存の地域秩序を乱さない。


右側――スロバキア政府: 公開的効果の尊重。秩序再整備の維持。情報把握と必要な同伴。阻害の印象を避ける。


中央――俺たち: 第三号公告。初期標示地図。オーストリアへの前向きな応答。近日中の第一陣対外答礼。


俺は一瞥して頷いた。


「いい。三者とも、それなりに『人としての振る舞い』をわきまえている。これなら物事が前に進みやすい」


林雨瞳(リン・ユートン)が卓の端で冷たく言う。


「立派なのは文字で、人間じゃない」


「それでもいいさ」俺は笑った。「まずは文字が形を覚えることだ。人間がそれに追いつくかどうかは、後で決まる」


ヴァヴラがペンを置き、エリザヴェータを見上げる。


「今すぐオーストリアに返書するか?」


彼女はすぐには答えない。むしろ先に、右側のスロバキア政府の最新会議メモに視線を向けた。


彼女が考えているのは「行くかどうか」ではない。「どう行けば、見ている全員に――これは逃亡でも、投靠でも、スロバキアの背後で新しい保護者を探しに行くのでもない、と理解させられるか」だ。


指先が卓の上を軽く叩く。


「まずは奴らに口を開かせよ」


俺は片眉を上げる。


「奴らとは?」


「スロバキア政府じゃ」


俺はその場で笑い出した。


さすがだ。


外出するときでさえ、まず隣国に自分で踏み台を運ばせる。


ヴァヴラも理解した。


頷いて、先ほどの会議メモを手前に引く。


「連中が『秩序再整備』という皮を保ちたいなら、オーストリアの書簡に公開で反対することはできない。逆に言えば、奴らが今一番必死なのは、これを主権の越境ではなく、通常の礼節的往来だと言い張ることだ」


林雨瞳(リン・ユートン)が引き継ぐ。


「だから、やつらの口から『礼儀的答礼に反対しない』の一文さえ出れば、こちらの勝ちだ」


俺は背もたれに体を預け、心の底からくつろいだ。


「そうだ。そうなれば、この先誰かが好き勝手なことを言い出しても、まず乗り越えなきゃいけないのは、やつら自身の過去の発言になる」


(シキ)はすでに政府側の文言の動きを追い始めている。


十数分後、彼女は新たな内部通話メモを、そのままウォールに放り投げた。


オーストリアからの具名祝賀書簡については、拒否という形で処理するのは適当でない。 永遠領側が礼儀的答礼を行う場合、政府としては原則的に情報を把握し、阻害と受け取られる映像を作らないことが望ましい。 国家として対外情報を把握するため、低姿勢での同伴案を提示することは検討に値する。


最後の一行を見た瞬間、俺は笑い崩れた。


「『低姿勢での同伴案』だとよ」


葉綺安(イェ・キアン)が足を揺らしながら、実に悪い笑みを浮かべる。


「翻訳すると、『ついて行きたい、でも主役の座は怖くて奪えない』」


「見事な翻訳だ」俺はその数行を見つめた。「どんな公式会見より、よっぽど本音に近い」


エリザヴェータは読み終えて、一言だけ落とす。


「重畳」


今では、この「重畳」の重さがはっきり分かる。


それは――相手が、自分の立ち位置を学習した、という意味だ。


彼女はヴァヴラに目を向ける。


「返書を起草せよ」


「オーストリア宛か? それとも政府宛か?」


「両方じゃ」


危うく拍手しそうになった。


そうだ。


これがテンポというものだ。


片方にだけ先に返すんじゃない。二方向へ同時に針を落とす。


ヴァヴラは二つの文書ファイルを開く。


---


一通目――オーストリア宛。


中身は極めてシンプルだ。


具名の正式祝賀に対する謝意。礼儀的答礼と法務意見交換への原則的な前向きな姿勢。日時と形式の最終決定は窓口を通じて行うこと。この訪問は答礼と手続き上の意見交換を主とし、現行秩序への不必要な刺激を意図するものではないこと。


読み終えて、俺は頷いた。


「完璧だ。これならオーストリア側も気分がいい」


---


二通目――スロバキア政府宛。


こちらはさらに見事だった。


伺いでもなければ、報告でもない。ましてや、「口出し無用」と突っぱねる類のものでもない。


こう書いてある――


永遠領は、オーストリア側からの具名書簡に対し、礼儀的答礼を行う意向である。政府が現在も公共秩序の継続を担い、国家として対外状況の把握を必要としていることに鑑み、もし政府側が干渉せず、主役を奪わず、代弁を行わないという前提を受け入れるなら、必要最小限の同行行政窓口を指名して随行させることを認める。


読み終えて、俺は腹を抱えた。


「これはなかなかの毒だな」


林雨瞳(リン・ユートン)が横目で俺を見る。


「どこが毒?」


「一字一句、顔を立てている。で、一字一句、調子に乗るなとも教えている」


ヴァヴラが冷たく付け足す。


「特に、『干渉せず、主役を奪わず、代弁を行わない』の三点だ」


俺は頷いた。


「だな。この三つが、犬の首輪だ」


葉綺安(イェ・キアン)は肩を震わせながら笑っている。


「今日のあんた、舌が本当に悪いわね」


「これはただ、分かりやすく人間語に訳してるだけだ」


(シキ)はすでに二通の書簡を同時に送信していた。


一通はオーストリアの窓口へ。一通はスロバキア政府の窓口へ。


送信完了の小さな表示を見ながら、俺は心底おかしくなっていた。


数日前、俺たちはまだ裁判所の前で「受付の流れ」を白状させていた。


今は城の中から、二つの国に同時に文書を送りつけている。内容は――一方に対してはこれから答礼に向かうという告知。もう一方に対しては、「知りたければ付き合ってきてもいいが、立ち位置は守れ」という指定席案内だ。


人生というやつは、あまりに急激にひっくり返ると、文書番号制度そのものに礼を言いたくなってくる。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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