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74.ウィーンへ 74-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

ヴァヴラが第三号公告の口述を始める。


俺は口を挟まなかった。こういうときは黙って聞いているほうが、ずっと気持ちいい。


「ドラキュリヤ=バートリ大公永遠領 第三号公告」


「一、既存の権利保全、租回管理および地籍分割手続きに、公開可能な範囲の根拠を与えるため、本領は本日、第一版地籍初期標示図を公開する。本図は、現段階における歴史的権利重複核心区、付属地所、旧鉱業権重複帯および収益連動ノードの公開参照として用いる」


「二、本図は手続き上の初期標示であり、最終的な法的分割の成果に代わるものではない。ただし、いかなる機関、プラットフォームまたは個人も、今後『範囲が不明確である』ことを理由に、既存の保全、凍結、窓口送達および租回管理の効力を否定することはできない」


ここまで聞いて、俺は思わず頷いた。


そうだ。


この一刀は、実に的確だ。


「この地図が最終回答だ」とは言っていない。「今後、範囲が不明確だという言い逃れは使えなくなった」と言っている。


政府に一段の踏み台を残しながら、彼らが一番好んで隠れていた逃げ道の隙間を、先に溶接して塞いだのだ。


ヴァヴラは続ける。


「三、スロバキア政府は現段階において、公共サービス、秩序および必要な行政を継続する。当該継続は本公告によって妨げられるものではない。ただし、一切の継続は、本領の権利保全、租回管理および発効済みの正式文書を前提とする」


俺はエリザヴェータを見上げた。


彼女は何も言わない。


だが俺には分かる。


この一条は、政府への面子だ。


みじめったらしい施しじゃない。「国内では秩序を維持している」と対内的に言えて、「特殊な歴史的取り決めを処理中だ」と対外的に言える程度の、ちょうどいい顔の保ち方だ。


それでいい。


近いうちにオーストリアへ行く。あまり強硬な姿勢を見せすぎると、周囲の国が「あそこはいつ爆発してもおかしくない」と思い始める。今のこれがちょうどいい塩梅だ――主人が戻り、借家人はまだ床を拭いていて、秩序は続いているが、家の権利書の向きは変わった。


四条目に差し掛かったとき、部屋がもう一段静まった。


「四、本領は、オーストリア側が率先して具名の正式書簡をもって、永遠領の成立、秩序の確立および法務接触手続きに対し祝賀と善意を示したことを、ここに確認し感謝する。礼儀的な答礼および意見交換の場の設定については、本領として原則的に前向きに応じる意向であり、詳細は窓口を通じて別途確定する」


俺は笑った。


「見事だ」


(シキ)が手を止め、顔を上げる。


「どこが?」


「全部だ」俺はその一行を見ながら言う。「まず感謝し、前向きな意向を示し、理由を先に作っておく。これで俺たちはオーストリアに駆け込むんじゃなく、答礼に行くことになる」


林雨瞳(リン・ユートン)も小さく頷いた。


「しかも第三号公告に公開で書き込んだ。後から誰かが『こっそり近づいた』と言い出しても、この一条が先に立ちはだかる」


そうだ。


これが俺の求めていた繋ぎ方だ。


自然で、清潔で、みっともなくなく、しかも国際的な証人つきで。


エリザヴェータはヴァヴラに目を向ける。


「最後の条じゃ」


彼は頷き、最終段落を読み上げる。


「五、本領は近日中に、第一陣の対外答礼および接触秩序の確立を行う。関連する手配は、近隣かつ直接の利害関係を有し、具名で書簡を送付した対象を優先する。その他の来文については、順次対応する」


俺は笑いながら椅子の背もたれに体を預けた。


「決まりだ。急いでいるのは俺たちじゃない。みんなが列に並んでいる」


---


第三号公告が公開された瞬間、全ネットが一瞬だけ静まった。


その静けさは短かった。おそらく数秒だ。


だが、その数秒が面白かった。


全員が地図を見ていたからだ。


文字じゃない。地籍初期標示図を。


赤い線が一本掲げられた瞬間、世界中の認識が「ほう、永遠領というものがあるらしい」から「ちょっと待て、ここまで線が入っているのか?」へと一段跳ね上がった。


チャット欄が爆発する。


「嘘だろ、城だけじゃないのか」 「ノヴァーキからプレヴィザまで初期標示の核心帯に入ってる?」 「これもう観光地の話じゃない、地図事件だ」 「政府が昨日まで秩序の再整備とか言ってたのに、今日もう線が出た」 「オーストリアが一番乗りで祝賀状、さすがの読みだ」


海外メディアの見出しも、どんどん鋭くなっていく。


永遠領、第一版地籍初期標示を公開――争議が正式に版図の段階へ オーストリアが率先して正式に祝意 永遠領、答礼の意向を前向きに表明 スロバキア政府は秩序継続を維持 国際的接触は同時進行で加熱


その見出しを眺めながら、俺の気分は上々だった。


---


午後二時。オーストリアからの第二封書簡は、俺の予想より早く届いた。


今度はより正式だ。


祝賀に加え、簡潔な礼儀的日程の提案が添付されている。内容は実にオーストリアらしい。冷静で、整然として、すべての野心を折り畳んで封筒の中に収めたような書き方だ。


永遠領が望むなら、近日中にオーストリアを訪れ、「歴史的権利秩序、文化法務接触、および越境礼節の答礼」に関する会合を設けることができる。場所、形式、規模はいずれも協議可能。既存の地域秩序を乱さないことを大原則とする、と。


読み終えて、俺はエリザヴェータに顔を向けた。


「この招待状、品がある」


彼女は淡々と返す。


「愚かではないゆえな」


「行くか?」


彼女は投影に映るオーストリアの書簡を見たまま、すぐには答えない。


彼女が何を計算しているか、俺には分かる。


行くか行かないかという単純な話じゃない。


今、一度でも国境を越えれば、それは単なる答礼ではなくなる。永遠領が初めて、自分たちの姿勢を他国の土地に持ち込む場面になる。


それは重い。


画になる。


そして、過剰に解釈されやすい。


ヴァヴラが先に口を開いた。


「行くべきだと思う」


林雨瞳(リン・ユートン)が一瞥する。


「理由を」


「第一に、オーストリアは最初に具名で正式な祝賀を送ってきた相手だ。こちらが公開で前向きな意向を示した後、行かなければ、第二号・第三号公告が『扉を開けるだけで歩けない』ものに見える」


俺は笑った。


「言い方は最悪だが、正しい」


「第二に、この訪問は支援を求めに行くのではなく、答礼だ。姿勢が正しい」


「第三に、政府側も比較的飲み込みやすい。俺たちは彼らを迂回して承認を乞いに走るのではなく、公開された書簡に対して礼儀的に応じるだけだからだ」


俺は頷いた。


「その三点目が一番重要だ」


そうしないと、本当にスロバキアとの関係がこじれて、後で列車の切符を買うときまで面倒なことになりかねない。


エリザヴェータがようやく口を開いた。


「行く」


決まりだ。


それだけで、すべてが決まった。


(シキ)が即座に顔を上げる。


「じゃあ、第四号公告のスケジュールを先に組んでおく?」


俺は片眉を上げた。


「第四号公告で直接スケジュールを出すのか?」


彼女は俺を見る。


「さもなくば、こっそり抜け駆けするつもりか?」


俺は二秒ほど考えてから、笑い出した。


「いや、抜け駆けはしない。行くなら、密会じゃなく答礼だと世界中に分からせてから行く」


エリザヴェータが頷く。


「本日は第四号を出さぬ。まず第三号を燃やせ。明日、窓口より対外確認を出す――永遠領は、オーストリアの礼儀的答礼の申し出を受け入れる、とな」


俺の気分はさらに良くなった。


このテンポは完璧だ。


まず地図を叩きつけ、全員の視線を版図に釘付けにする。熱がもう一巡りしたところで、明日さりげなくオーストリアとの線を正式に引く。


自然で、きれいで、隣国の顔をあからさまに殴りつけるような派手さもない。

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