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73.第二号公告 73-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

そのとき、(シキ)のイヤホンに新しい波が押し寄せた。


「来た」


「何が?」


「首相府会議の中身、一部が漏れてきた」彼女がキーを叩き、画面を切り替える。


投影に、誰かがこっそり写したらしい会議メモの断片が映し出される。ピントの甘いテキストスクリーンショットだ。


国が新たな主体を外交的に承認した、という印象を外部に与えてはならない 外国との接触には、政府の同席または立ち会いを組み込むべき 城の現場が、一方的な接待の場と化すことを避ける必要あり 外部勢力が国家窓口を迂回し、直接接触する事態を防ぐため、政府側の対接機構を即時構築すべき


読み終えた俺は、思わず笑い声を上げた。


「かわいいな。今になってようやく、自分たちが頭越しにスルーされる可能性に気づいたらしい」


ヴァヴラがタブレットを閉じた。


「だったら、間に合わせない」


エリザヴェータは一言だけ告げる。


「公告を、今発せ」


---


第二号公告が公開された効果は、俺の想像を軽く超えてきた。


第一号公告が世界に告げたのは「名は成立した」ということだった。


第二号公告が告げたのは「玄関はどこか、印はどんな形か、誰に話を通すのか、誰に代弁する資格がないのか」を世界に示すものだ。


こういうものが一つ放たれた瞬間、各国は即座に悟る――これは、まだ政府の翻訳待ちをしている「争議」なんかじゃない。自前の話し方を組み立て始めた「何か」だ、と。


十分も経たないうちに、最初の正式な接触要請が届いた。


オーストリア外務省系の法務オブザーバー。 ポーランド文化・国境法務合同観察団。 チェコのメディア法務連絡官およびニュース代表。 ハンガリーの対外接触特派調整チーム。


俺はそのリストを見つめながら、低く呟いた。


「最高だ。本物の行列が始まった」


林雨瞳(リン・ユートン)が時間を一瞥する。


「政府側は、もう間に合わない」


俺は彼女を見る。


「つまり、あいつらはまだ会議室で話してるのに、他国の連中はもう出発準備に入ってるってことか?」


彼女の口元が、冷たく歪む。


「そういうこと」


危うく笑い出すところだった。


この種類の屈辱は、質が高い。


殴られているわけじゃない。


必死に塞ごうとしている間に、他所の連中がその手を迂回して、大家とのアポを取り始めているのだ。


---


午後三時四十七分。最初の一団が、本当に到着した。


二階のアーチ窓から見下ろすと、城の前庭はもう観光地のそれとは違う光景になっていた。


最前列に警備ライン。その外側にメディアの層、さらに外に野次馬の層。そして内側には、ナンバーと旗を差し替えた正式な車列が並んでいる。黒い公用車が一台、また一台と横付けされ、開くドアから降りてくるのは観光客ではない。ロングコートに書類フォルダー、通訳用イヤホン――ひと目で、自分たちは巡礼に来たのではなく、門の高さを測りに来たのだと分かる顔ぶれだ。


その光景を眺めながら、俺は思わず呟いた。


「これはもう、本当に『国』だな」


ヴァヴラが隣で名簿に目を落とす。


「オーストリア二名、ポーランド三名、チェコ二名、ハンガリー二名。それとは別に、国際メディア三社が一名ずつ、第一ラウンドの傍聴枠に入っている」


俺は眉を上げる。


「政府は?」


彼は視線を少しだけ下げた。


「右手だ」


目で追って、俺は吹き出しそうになった。


右側の回廊の下に、スロバキア政府の窓口連中が揃って顔を出している。ただし、今日のポジションは相当ひどい。中央でも、主卓でも、案内役でも、司会でもない。脇に伸びた一枚板の机と椅子の列――カテゴリで言えば、「立ち会いおよび必要な同伴要員」だ。


人語に訳せば――脇席。


胸のすく眺めだ。


「上出来だ」


林雨瞳(リン・ユートン)が後ろから歩み寄り、一瞥して言う。


「さっきまで、まず政府代表から対外説明を一本化したいって要求してた」


「で?」


「ヴァヴラが第二号公告の第六条を読み上げた」


俺は首を傾げて彼を見る。


「第六条?」


ヴァヴラは無表情のまま答える。


「『本領の許可なき同席は、発言の優先権を構成しない』」


今度こそ笑いが込み上げた。


「お前、本当にこういう仕事に向いてる」


「お前が今日、いつも以上に喋りすぎなんだ」


「だって今日の画は出来がいい」


---


下の大広間は、すでに組み直されていた。


中央には一枚の長机。高さは抑えめだが、配置は計算し尽くされている。背後に並ぶのは旗の林でも、安っぽい記者会見用のパネルでもない。深い色のボードが一枚、そこにさっき決めたばかりの暫定徽記――月翼血鋒が掛かっている。


銀の月、翼の線、血の刃。


理不尽なほど簡潔だ。


だが、簡潔であればあるほど、圧力はまっすぐに刺さる。


説得する気配は一切ない。


見て理解するかどうかを、こちら側に問うてくる。


エリザヴェータはまだ降りてきていないのに、大広間はすでに審問会場のような静けさに満たされていた。館の職員たちは午前中よりもさらに背筋を伸ばし、警官の配置も組み直されている。ヴァヴラは動線を綺麗に切り分けた。外国代表は正面から入り、メディアは左のオブザーブゾーン、政府の同伴は右側、中央の発言ラインには一切踏み込めない。


この光景を眺めながら、数日前まで裁判所の外で手続き論をぶつけ合っていた自分の人生が、少しばかり滑稽に思えた。


滑稽だろうが、気分はいい。


イヤホンの向こうで(シキ)が言う。


「配信ラインは全部ロック済み。海外向けはインライン字幕付き、国内の配信者は外周でしゃがみ込みすぎて足が痺れ気味。チャット欄は今、『政府、サイドテーブル行き』で埋まってる」


俺は笑いを堪えなかった。


「民衆の学習速度、異常だな」


「政府よりは速い」


「それ、今日の国是にしてもいい」

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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