表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/369

73.第二号公告 73-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

俺たちが門の内側に引っ込んで、まだ大して時間も経っていないのに、先に爆発したのは(シキ)のほうだった。


一通のメッセージじゃない。壁一面、同時多発だ。


彼女がプロジェクターを大広間に叩きつけると、スクリーン全体が炎上中の外務省みたいに真っ赤に燃え上がる。オーストリア、ポーランド、チェコ、ハンガリーが真っ先に躍り出てきて、ドイツのメディアまで窓口はどこだと問い始めている。さっきまで冷ややかに傍観していただけの国際チャンネルも、急に「ドラキュリヤ=バートリ大公永遠領」の綴りを完璧にマスターしたらしい。


俺はその光景を見ながら、口笛を一つ鳴らした。


「最高だな。国際社会ってのは、扉が開いたと気づいた途端、観光客より速いスピードで列作りを始めやがる」


(シキ)は顔も上げず、キーボードを戦闘モードで叩きながら言う。


「列なんかじゃない。初回受付番号の争奪戦だよ。オーストリアは正式な接触窓口の確認、ポーランドは法的地位と領内代理の有無、チェコは文化観察代表を派遣できるかどうか、ハンガリーは一番ストレート――『先に人を一組送っていいか』だって」


林雨瞳(リン・ユートン)が横で、流れていくメッセージを冷たい目で追う。


「さっきまで高見の見物。今は椅子取りゲームの奪い合い」


俺は笑った。


「人間の二大特技だな。野次馬と、席取りだ」


ヴァヴラがタブレットを受け取り、一瞥しただけで眉一つ動かさず、仕分けを始める。


「正式な接触要請は三種に分類する。国家、メディア、法務オブザーバー。具名なし、所属なし、連絡先なしは、全部後回し」


俺は首を傾げて彼を見る。


「お前、どんどん国境管理センターっぽくなってきたな」


「お前より使えるだけマシだ」


「それ、事実に基づいた人格攻撃だぞ」


エリザヴェータは大広間の中央に立ち、壁一面に流れる情報を、淡々と眺めている。その顔は冷え切っているが、無関心なわけじゃない。あの女は、一面の騒ぎをまず目の中で計量してから、どこから血を流させるか決めるタイプだ。


彼女が口を開く。


「政府側はどうしておる?」


(シキ)が、もう一枚の画面へと切り替える。


今度は国内ニュースチャンネルの速報ウォールだ。


赤いテロップが次々と流れていく。


政府、緊急の省庁横断会議を招集 首相府、口裏合わせを要求 『新実体の承認』という表現の使用を禁止 財務・内務・文化・司法の四省、全面的に危機対応モードへ移行 外国からの接触要請が急増 政府、『暫定接待秩序』を検討開始


俺は実に気分よく眺めていた。


「最高だ。今度はあいつらの番だ。会議室で内輪噛み合い祭りだろ」


林雨瞳(リン・ユートン)が鼻を鳴らす。


「会議で言ってること、だいたい想像つく。一言目:誰の許可で一年一ユーロなんて書いた。二言目:誰の許可で本当に扉を開けた」


「三言目」俺が付け足す。「今から誰のせいにするか」


葉綺安(イェ・キアン)はソファの肘掛けに腰掛け、悪い笑みを浮かべて足を揺らす。


「四言目が一番面白いわ――『あの文言、今からでも撤回できないか』」


俺はエリザヴェータを見る。


「あんたの見立てだと、あいつら、どう帳尻合わせに来る?」


彼女は投影を見たまま、平板な声で答える。


「まず言葉を切り離す。次に責任の所在を切り離す。最後に、対外窓口を奪い返しに来る」


ヴァヴラが頷く。


「奴らは『外国との接触は政府経由であるべきだ』と主張してくる。永遠領を『国内の特殊な取り決め』に押し込めて、外部とのやりとりを一度すべて自分たちの手の中に通してから、ふるいにかけるつもりだ」


俺は聞いた瞬間、笑い出した。


「道理だな。家を貸し出したくせに、玄関番の椅子に居座って宅配便を代理受領する気でいやがる」


エリザヴェータはそこで彼を振り返る。


「ゆえに、第二号公告を、今この場で出す」


財務次官一派がこの一言を聞いたら、その場で寿命が三分は縮むだろう。


ヴァヴラが顔を上げる。


「内容は?」


彼女はすぐには答えず、階段のほうへ二歩ほど移動した。これから放り投げるもののために、空間を空けているかのように。


「臨時の徽記。対外窓口。受け入れの順番。そして一文――」


一拍置く。


「永遠領は、接触は受ける。代弁は受けぬ」


俺は即座に笑い出した。


「最高だ。その一行で死人が出る」


(シキ)はもうキーボードを叩き始めている。


「まず三バージョン作る。法文版、メディア版、外国語ショート版」


林雨瞳(リン・ユートン)が補う。


「ビジュアル版も。これは単なる告知じゃないって、一目で分からせる。『コメント』じゃなく『ヘッダー』だってね」


俺は眉を上げる。


「徽記は?」


エリザヴェータは答えの代わりに、指輪を外してみせた。そのまま主卓の上に置く。


全員の視線が集まる。


黒金の石座には、古くて冷たい意匠が刻まれている。細長い盾形の輪郭、その中心に一筋の細い月。月の下には、下向きに伸びる双翼の線。そしてさらに下へと、血の滴にも、剣先にも見える垂直の紋が一本。


俺は数秒ほど見つめてから、思わず声を漏らした。


「……ほう」


葉綺安(イェ・キアン)が横で吹き出す。


「その反応、文化的教養ゼロね」


「文化の問題じゃない」俺は指輪から目を離さずに言う。「これを言葉にした瞬間、本気で国章になりかねないのが怖いだけだ」


エリザヴェータは指輪を見下ろし、淡々と告げる。


「まずは暫定の徽記じゃ。本来の法徽は、今はまだ定めぬ」


ヴァヴラはすぐにメモを取る。


「名称は?」


彼女の答えは速かった。


「月翼血鋒とす」


俺はもう一度、その紋様を見下ろした。


納得だ。この女は本当に、「触ると血を見る」と誰にでも分からせる名前を付ける才能がある。


(シキ)がリングの面を撮影してシステムに取り込み、投影ウォールにはすぐにクリーンな線画版が浮かび上がる。黒地に、銀の月、一筋の赤い線が中央を真っ直ぐ貫く。簡潔で、冷たく、少しも好かれようとしていない。


大広間が、一瞬さらに静まった。


誰もが分かっている。この種のものが一度公告に載れば、それは単なる絵ではなくなる。


ヘッダーになり、刻印になる。


これから出ていくすべての文書、すべての回答が、その下に骨組みを生やしていく。


ヴァヴラは投影された線画を見上げ、低く言った。


「第二号公告のヘッダー、暫定徽記『月翼血鋒』」


エリザヴェータが頷く。


「そこに、対外窓口を付す」


「法務と行政だけに絞るか? それともメディアも入れる?」


「三つじゃ」彼女は言う。「法務と手続きの窓口。報道と公開情報の窓口。対外接触と接待の窓口」


俺は眉を上げた。


「城の中にそのまま外交カウンター作るつもりか」


彼女はちらりと俺を見た。


「他に、扉を開ける理由があると思うか?」


俺は吹き出す。


筋が通ってる。恐ろしいほどにな。


(シキ)は公告テンプレートを呼び出し、ヴァヴラが口述を始め、林雨瞳(リン・ユートン)が文言を削りながら、メディア向けバージョンを、コピペしやすい長さに圧縮していく。


俺はその様子を眺めながら、妙な感覚にとらわれていた。


昨日の俺たちは、まだ裁判所の玄関先で、受付の流れを白状させていた。


今日は城の中で第二号公告を作り、内容は徽記、窓口、順番待ちのロジックだ。


世界がひっくり返るときには、やわらかな移行期間なんて、ほとんど用意されていない。


ヴァヴラが草案の読み上げを始める。


「ドラキュリヤ=バートリ大公永遠領 第二号公告」


「一、本領への対外接触の秩序を確保し、名乗りを上げぬ仲介者による詐称を防ぐため、本公告発出の時点より、暫定徽記『月翼血鋒』を正式に運用する。当該徽記は、本領名義の公告、書面、窓口および権限付与の暫定的な識別として用いる」


「二、本領は、下記の暫定対外窓口を設ける。法務および手続きの窓口。報道および公開情報の窓口。対外接触および接待の窓口。本領と接触を希望するすべての国家、機関、メディアおよび観察代表は、具名のうえ申請すること」


「三、本領は正式な接触は受けるが、いかなる第三者、政府部門、または未承認のプラットフォームによる代弁、代行のスケジューリング、代行の制限を認めない」


ここまで聞いて、俺は思わず手を打った。


「見事だ。その一行は、政府の指を切り落とすための刃だな」


林雨瞳(リン・ユートン)が冷たく補う。


「さらに――『本領が確認していないいかなる外部の言説も、本領の立場を代表するものとはみなさない』」


ヴァヴラが頷く。


「加える」


エリザヴェータが続ける。


「四、第一陣の接触優先順序は、本件に直接の近接政治、交通、法務および文化上の利害を有する者を優先とする」


俺は眉を上げる。


「翻訳すると――まずは四つの隣国から通す。他はその後、ってことか」


彼女はこちらを向き、迷いなく頷く。


「そうじゃ」


俺は笑いを堪えなかった。


潔いにもほどがある。


(シキ)は素早く第二号公告をウォールに上げる。暫定徽記がヘッダーに据えられた途端、文面全体の印象がガラリと変わる。第一号公告が「宣言」だったとすれば、第二号公告が出たことで、永遠領という存在に、いきなり行政の背骨が通った。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ