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72.独立宣言 72-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

俺がエリザヴェータの後について階段を三段上ったところで、彼女は足を止めた。


振り返りもしない。ただ、大広間にまだ散らずに残っている一群を見下ろしている。


政府窓口、館の職員、ヴァヴラ、林雨瞳(リン・ユートン)葉綺安(イェ・キアン)、そして外から扉越しに牙をむくようにカメラを向けているメディアの群れ。


彼女は淡々と口を開く。


「上へは行かぬ」


俺は片眉を上げる。


「気が変わったか?」


彼女は振り返り、黒いドレスの裾が階段の縁でぴたりと止まる。


「まず、名を立てる」


俺の口元が、その場で吊り上がった。


---


彼女が一段一段降りるたびに、大広間の空気も一緒に沈んでいく。


ヴァヴラが真っ先に歩み寄る。


「今、宣布するか?」


「いかにも」


「どの文書を使う?」


彼女は彼を一瞥した。


わらわのものじゃ」


俺は笑いを噛み殺した。


当然だ。


政府の文書は、あいつらが今日ここまで生き延びるための道具にすぎない。これから読み上げられる言葉こそが、歴史に口直しをさせるものになる。


林雨瞳(リン・ユートン)はすでに門へと歩き出している。


(シキ)、外の主回線をこっちに切り替えて。全媒体収音、配信同期、字幕は一字も間違えないで」


イヤホンから即座に(シキ)の声が返ってくる。


「了解。外はもう一回爆発してるから、もう一発ぶち込むにはちょうどいいタイミング」


葉綺安(イェ・キアン)は柱にもたれ、実に悪い笑みを浮かべる。


「『ちょうどいい』って言い方、好きよ」


司法協調室主任の顔色が変わる。


「もしここで追加の政治的宣示を行うとなれば、恐らく――」


俺は振り返って彼を見た。


「恐らく何だ? さっきあんたらが署名した紙切れの本当の意味を、世間に理解されちまうのが怖いか?」


彼の口元が引き結ばれ、押し黙る。


エリザヴェータはそのまま正門の内側まで歩き、つい先ほど開いたばかりの大扉の真ん中で立ち止まった。


朝の光が外から斜めに差し込み、ちょうど彼女の足元に落ちる。まるで誰かが恭しく、先回りして境界線を引いておいたかのように。


外の群衆は、彼女が再び姿を現した瞬間、声の波が一気に裏返った。


「エリザヴェータ様が出てきた!」 「また発言する!」 「政府代表も同席している!」 「正式な宣示か!?」 「永遠領、このまま直接成立を宣言するのか!?」


上出来だ。


群衆まで自分たちで、的を射た問いを立てられるようになってきた。


ヴァヴラが正式確認書を差し出す。


彼女は受け取らなかった。


「汝が持っておれ」


「俺が?」


「いかにも。それは奴らの供述調書であって、妾の宣言ではないゆえな」


俺は彼女の左後方に立ち、堪えきれずに小声で囁いた。


「今日のあんた、一言一言の立ち位置が完璧すぎるぜ」


彼女は俺を無視し、さらに半歩前に出る。


警官たちが自動的に封鎖線を引き直し、政府の一行は彼女の右後方に押しやられる。自分たちが望んでもいない戴冠式に集団で駆り出されたような、ひどく居心地の悪い立ち位置だ。


林雨瞳(リン・ユートン)が門の傍らで静かに告げる。


「全回線、通った」


(シキ)がイヤホン越しに補足する。


「海外メディア同期、掲示板同期、配信同期。今ここで一言出たら、ヨーロッパの半分が一斉に書き写す」


エリザヴェータは顔を上げ、外に広がるカメラ、スマートフォン、中継車、観光客、そして野次馬の波を見渡した。


咳払いもしない。挨拶もしない。


口を開いた瞬間、空気そのものが断ち切られた。


「皆の者、しかと見よ」


現場の騒めきが、一瞬にして静まり返る。


「本日、ポニツェ城が売券を止め、人を払い、門を開いたのは、施しによるものではない。譲歩によるものでもない。誰ぞの良心とやらが不意に疼いたからでもない」


彼女はわずかに顔を傾け、背後に並ぶ政府代表どもも一緒にレンズの画角に収める。


「妾の後ろに突っ立っておるこの国が――とうに知っておった事実を、ようやく紙に起こす決心をしたからにすぎぬ」


フラッシュが、白い波となって一斉に炸裂した。


財務次官の顔は、まるで釘の一握りでも丸呑みしたかのように歪みきっていた。


彼女の声は高くない。それでも、外の雑音を一字残らず押し潰していく。


「奴らは権利主体を認めた。保全範囲を認めた。租回管理を認めた。そして今日より、自らを主と称することをやめ、管理者として継続することを認めた」


一拍、置く。


「であれば――名もまた、還るべき時じゃ」


その言葉を聞いた瞬間、俺は背筋が一段、きつく締まるのを感じた。


そうだ。


まさにこの一句のために、前のすべてがあった。


手続き、窓口、受付、地籍、鉱業権、収益、基金、条項――あの果てしない積み重ねは、全部この一瞬への道を舗装していたのだ。


彼女が一歩前に踏み出し、朝の光の中に立つ。


その瞬間、外の風の音も、シャッターの音も、息遣いも、すべてが誰かに一斉に押さえつけられたように止まった。


そして彼女は、口を開いた。


わらわ――エリザヴェータ・フォン・ドラキュリヤ=バートリは、ここに正式に宣する――」


その声は冷たく、揺るぎなく、余分な震えの一筋もない。


「本日より、ドラキュリヤ=バートリ大公永遠領を、ここに成立させる」


外が、一気に弾けた。


ただの喧騒じゃない。群衆全員が同時に、目の前で伝説が現実になる瞬間を目撃したと悟ったときに生まれる、あの種類の爆発だ。


「成立を宣言した!」 「永遠領、正式に成立!」 「録れたか!? 録れたか!?」 「政府代表が後ろにいる!」 「これは主張じゃない、宣告だ!」


誰かがその場で悲鳴を上げる声まで聞こえた。


エリザヴェータは止まらない。


声の波をまともに受け止め、それを押し返すように次の言葉を叩き込む。


「その権利の及ぶ範囲は、ポニツェ城、付属地所、ならびにポニツェ=ノヴァーキ=プレヴィザ歴史権利重複核心区における保全主張、分割手続き、および関連する地下・地表の連動権利確認を含む」


向かいの政府代表の何人かが、明らかに動こうとした。


ヴァヴラが即座に半歩前に出て、正式書類を広げる。


「政府の正式確認書はここにある。関連条項は具名、文書番号、発効時点を明記の上、本日より効力を持つ」


現場がさらに沸騰する。


記者が一人、マイクを前に突き出した。


「これは新たな政治的実体の成立と同義でしょうか!」 「スロバキア政府は永遠領を承認したということですか!」 「これは領地の独立を意味しますか!」 「租回管理は、事実上の主権移転の承認ではないですか!」


その問いを聞きながら、俺は笑いを堪えるのに苦労した。


上出来だ。昨日みたいな文学サロンごっこの質問は、もう一つも出てこない。


エリザヴェータが手を上げると、声の波がまた一段低くなる。


「汝らがどんな言葉で包もうとも、それは汝らの仕事じゃ」


彼女はカメラを真正面から見据える。紅い瞳が冷えきっていて、字幕をそのまま画面に焼き付けられそうだ。


「妾はただ、事実を述べる」


「扉は、今日開いた」


「通行証は、今日止まった」


「名は、今日立った」


「管理は、今日租回した」


「そして妾は今日ここに立っているのは、誰かに存在を認めてもらうためではない」


彼女はわずかに顎を上げる。


「今日より、この地に主がいると――通告しに来たのじゃ」


隣にいたカメラマンが、大きく息を呑んだ。


当然だ。


この一句は、あまりにも鋭く、あまりにも完結している。「象徴」「歴史的感情」「文化的論争」といった言葉で薄めようとしても、どこにも隙間がない。


背後で司法協調室主任がついに口を開く。


「政府側は引き続き、国内法の秩序と公共行政の継続を――」


エリザヴェータは、彼を一瞥すらしない。


「妾が許しておるゆえじゃ」


また一度、場が弾けた。


俺はその場で首を傾けて笑った。


そうだ。


これでいい。


言い合いをするんじゃない。条文を一緒に解体するんじゃない。


上下関係を、その場に釘で打ち込む。


財務次官が、腹を括って続ける。


「租回管理は、公共サービスの継続を目的とした必要上の取り決めであり――」


俺は振り返って彼を見た。


「年一ユーロ、振り込み忘れんなよ」


前列の記者の中から、今度は本当に笑い声が漏れた。


次官の顔色は、俺が血圧を測ってやりたくなるほど険しかった。


エリザヴェータが片手を上げ、俺に半秒黙れと示す。


俺は素直に半歩引いた。


彼女が再び口を開く。今度はさらにゆっくりと、さらに明確に。


「妾は普通の民を追い払わぬ」


「妾は必要な秩序を断ち切らぬ」


「妾は生活を支える者を門の外に突き出さぬ」


彼女の視線が、地元住民、館の職員、観光客、そして背後で自分が今日何かの歴史的崩壊を目撃したのかどうかも分かっていない連中の顔を、順に撫でていく。


「だが妾は断じて許さぬ――『管理』で『所有』をすり替えることを。『歴史』で『収益』をすり替えることを。『引き延ばし』で『秩序』をすり替えることを」


一拍。


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