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71.家に帰ろう 71-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

道中、報道車の数は俺の想像をはるかに超えていた。


ポニツェに近づくにつれ、車窓の外の騒めきが濃くなっていく。単純な野次馬じゃない。今日、はっきりした絵が生まれることを皆が知っている――その扉が、開くかどうかという絵を。


最後の坂道を曲がったとき、最初に視界を埋めたのは人だった。


大量の人。


メディア、観光客、地元住民、そして純粋に国家が恥をかく瞬間を見物しに来た連中。全員が外側の封鎖線の後ろにひしめき合っている。カメラが林立し、中継車のアンテナが空を突き、現場全体が沸騰寸前の鍋のようにざわめいている。


その先に、あの扉があった。


ポニツェ城正門。


写真では何度も見たし、遠目に眺めたこともある。だが今日は違う。


今日の門前には、チケット売り場の列もない。観光動線もない。「国家管理の歴史施設」という日常感も削ぎ落とされている。そこにあるのは封鎖線、警官、文化関係の職員、制服姿の館スタッフ、そして門の脇に並んだ、城壁より顔色の悪い政府代表たちだけだ。


チケット売り場は閉まっている。


電子チケット表示板も真っ黒だ。


入口の案内板には臨時公告が一枚、車内からでもはっきり読めるほど大きな赤い文字で。


本日、入場券販売を停止し、場内開放を一時中止する。


その文字を見ただけで、気分がぐっと良くなる。


きれいだからじゃない。


やっと、正直になったからだ。


車のドアが開いた瞬間、外の音が一気に雪崩れ込んでくる。


「来た! 来たぞ!」


「エリザヴェータ様が到着!」


周士達(ジョウ・シーダー)も一緒だ!」


「政府窓口、すでに配置済み!」


「今日は本当に門が開くのか?」


「租回管理は本日即刻発効か?」


フラッシュが波のように炸裂する。


車を降りた途端、冷たい風が頬を打ち、続いてマイクの束が突きつけられた。


「本日は大公領の権利主体を正式承認したということでしょうか?」


「租回管理は、どの時点から効力を持つのでしょうか?」


「スロバキア政府は、従来の一方的管理の立場を放棄したと理解してよろしいですか?」


俺はエリザヴェータの左後方を歩きながら、その質問の雨を聞いていた。世界ってのは、たまに公平だと思う。


数日前まで、「これは文化的誤解では?」なんて暢気なことを聞いていた連中が、今日はちゃんと「効力発生の瞬間」を問いに来ている。


いい傾向だ。


人間ってのは、正しい質問を覚えた途端に、物事を一気に進め始める。


ヴァヴラは反対側を歩き、正式版の書類を手に持っている。林雨瞳(リン・ユートン)(シキ)は後方で情報をさばき、葉綺安(イェ・キアン)は自分好みの公開処刑ショーを観に来た観客みたいな顔をしている。


警官たちは、俺たちの進行に合わせて自然に道を開ける。


丁重だからじゃない。


今日は、もともとこの通路は空けておくべき筋のものだからだ。


封鎖線の内側に踏み込んだところで、財務次官、司法協調室主任、内務副局長、文化部次官、そしてイレーナの姿を確認する。全員が門の脇に、歴史の壁に打ち込まれた人形の画鋲みたいに整然と並んでいる。


俺は一瞥する。


「揃いも揃って、出席率は優秀だな」


司法協調室主任が低い声で言う。「これより正式な立会い手続きを開始します」


俺は笑みを見せる。


「今日は一言一句、噛んで含めるようにはっきり言えよ。でないと、この門がどれほど見事に開こうが、ただの『他人の家への不法侵入』にしか見えなくなる」


彼の顔が固まり、言い返す言葉は出てこない。


九時二分前、現場の音圧がもう一段階跳ね上がる。


後ろで(シキ)が小声で報告する。


「中継の総回線、百万超えた。外信も一斉に入り始めた。チャット欄、流量でシステムが悲鳴上げてる」


林雨瞳(リン・ユートン)が、氷みたいな声で一言。


「結構。今日ここにいる全員、表札の読み方を覚え直すことになる」


エリザヴェータは振り返らない。ただ、まっすぐ門へ歩いていく。


静かな歩き方だ。だが、その静けさのほうが、どんな掛け声より重い。人の声は渦を巻いているのに、彼女が門前に立った途端、その周囲だけ薄い氷の層が張ったみたいに距離が空いた。


彼女が立ち止まった位置は、門と正対する、ど真ん中。


一切の逃げ場を残さない、真芯の場所だ。


館の責任者が横に立ち、鍵を握った手が白くなっている。まるで金属ではなく、自国の運命そのものを持たされていると言われたかのように。警官が二人、その隣に控え、さらに裁判所の送達担当者が、昨夜の確認書および送達・立会い書類一式を持って立っている。


ヴァヴラは正式版一式を、立会い側に手渡し、受領サインをさせる。


司法協調室主任が一歩前に出る。喉がはっきり分かるほどきゅっと鳴ってから、口を開いた。


「『ドラキュリヤ=バートリ大公永遠領特別自治および公共サービス租回管理安排正式確認書』ならびに関連添付図面および添付書類に基づき、本日午前九時をもって、ポニツェ城本体および付属地所、ならびに指定コア区域は、権利保全および租回管理の効力発生段階に入ります。政府側は既存のチケット販売および新規営業行為を停止し、立会い窓口が現場において権利主体の入場を確認――」


ここまで聞いたところで、俺は笑ってしまった。


ほんの小さな笑いだったが、近くにいた数人には、はっきり聞こえたはずだ。


今の文を、もっと分かりやすく訳すとこうだ。


この扉は、今この瞬間から、もう「奴らのもの」じゃなくなる。


財務次官が、その後ろの段落を引き継ぐ。声はさらに乾いている。


「政府側は、正式な分割完了まで、確認書の条項に従い、必要な公共サービス管理権を租回し、秩序、安全および基本行政の継続を図るものとする」


俺は顔を傾け、彼を見た。


「年額一ユーロ、振り込み忘れんなよ。家賃滞納はなしだ」


カメラの後ろで、何人か、明らかに笑いを噛み殺した気配が走る。


財務次官は俺を見ない。今日ここで俺と目を合わせ、一言でもやりとりすれば、その瞬間の映像がどれほど救いようのない画になるか、よく分かっているのだろう。


最後に、現場執行の確認が内務副局長の番になる。


彼は手元の紙を見つめていた。まるでそこに、自分の家の塀を自分の手で壊せと書かれているかのような顔で。


「現場の退去は完了。既存のチケット販売は中止。管理権原は確認書に従い、租回管理状態へ移行。館側は、開門を実施されたし」


その瞬間、本当に、場内の空気が静まった。


人がいないからではない。


あまりに多くの人間が、「いちばん重要なのは、今言われた言葉じゃない」と理解して、息を止めたからだ。


次の一秒で、あの扉が本当に動くのかどうかが決まる。


館の責任者が前に出る。手が震えている。


俺は、その震える手が鍵を差し込むのを見ていて、ふと滑稽な気分になった。この扉はついこの前まで「国家の物語」の一部だった。なのに今日は、折れそうなほど震えている中年男ひとりに、巨大な体制の代わりに真実をねじ開けさせようとしている。


金属音がひっかかった。


もう一度。


錠が外れる。


胸の奥で張りつめていた何かが、ふっと一段緩んだ。


次の瞬間、分厚い正門が、すべてのカメラの前で、ゆっくりと開いていく。


勢いよく弾けるんじゃない。


どっしりと重く、底知れぬ未練を残しながら、それでも二度と閉じ直すことなど許されないとでも言うように、一寸また一寸と内側へ退いていく。


群衆が一気に沸いた。


フラッシュが白波のように炸裂し、配信者が悲鳴を上げ、記者が前に雪崩れ込み、警官が慌ててロープを引き締める。その後ろで観光客がどよめき、海外メディアのクルーが、ほとんど駆け足でポジションを取り直す。


俺はその場に立ったまま、開いていく扉を見ていた。


どんな声明より、よほど残酷な光景だと思いながら。


今日からここは、「政府が好意で入れてやる場所」じゃない。


「政府が脇で見ている前で、俺たちが入っていく場所」になる。


エリザヴェータは、すぐには動かなかった。


まず顔を上げ、門の内側に沈む影と石の回廊を見つめる。あまりにも長く待たされてきた時間そのものを見ているようだった。それから、少しだけ首を傾けて、俺のほうを見る。


朝の光の中で、その紅い瞳は静まり返っている。


彼女が口を開く。


「入るがよい」


俺は反射的に、半歩踏み出していた。


彼女の口元が、かすかに動く。二つ目の言葉が落ちる。


「汝は、通行の対価を払うには及ばぬ」


その場で吹き出した。


最高だ。そうだ。俺が聞きたかったのは、まさにそれだ。


振り返れば、背後にはずらりと並んだ政府代表と、俺たちが門をくぐる瞬間を撮ろうと狂ったようにシャッターを切っているカメラの列。妙に具体的な幸福感が込み上げてくる。


昨日まで、あいつらは彼女を「引き延ばせる歴史問題」に変える算段ばかりしていた。


今日は門の脇に立って、彼女が扉を取り戻す様を、自分の目で見届けるしかない。そのついでみたいな顔で、ここまで手続きで泥だらけになってついてきた俺を、「最初から入場料のいらない側」に乗せ替えてしまった。


俺は彼女の隣に並び、小声で言う。


「VIPパスより上等な待遇じゃねえか」


彼女は俺を見ない。


「本日、汝は物見遊山の客ではないゆえな」


俺は片眉を上げる。


「じゃあ、俺は何だ?」


彼女は一歩、門の内へ踏み込んだ。


「証人じゃ」


俺も続いて足を踏み入れる。石の床が低く鳴り、その音が、城全体に染み込んでいくような気がした。


外はまだざわついている。記者は叫び、政府の面々は扉のそばに立ち尽くし、この瞬間を境に租回管理が正式に動き始める。国家丸ごと、これからこの場所を呼ぶときの言葉を、違う言い方に変えていかねばならない。


そして、門をくぐった俺の最初の感想は、驚くほど単純だった。


よし。


扉は開いた。


次は、地図を塗り替える番だ。

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