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70.所有権の争い 70-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

エレベーターのドアが開いた瞬間、俺は嗅ぎ慣れた匂いを感じた。


コーヒーでも、コピー用紙でもない。誰かが今しがた慌ててフォルダをいくつか閉じて、メールをいくつか消して、「今日はただの普通の火曜日ですけど?」って顔をしようとした——その匂いだ。


基金会事務局のガラスドアの向こうは、ごった返していた。


書類を抱えて走る人間。立ったまま電話している人間。俺とワヴラを見た瞬間、手のコップの水をあやうく自分の靴にぶちまけそうになった人間。


さっきの副主任が、観念した顔で先頭に立って歩いている。二人の債権者を霊安室に案内する人間の歩き方だ。


「お二人、まず会議室へ——」


俺は無視して、カウンターの奥を直接覗き込む。


「事務局長はどこだ?」


副主任の顔が強張る。


「ただいま会議中で——」


「結構」俺は笑う。「生きてるってことはわかった。呼んでこい」


ワヴラが副本の束をカウンターに叩きつけた。


地籍局の印鑑。文化財局の印鑑。鉱業権旧案件窓口の印鑑。財務監理組の印鑑。


四枚の紙が一列に並ぶ。四本の刃みたいに。


「三つ欲しいものがある」ワヴラの声は大きくない。だが、フロア全体が静まり返った。「基金会事務局長、改制移転プロジェクト主任、それから旧版の収益分類対応表と附記附件だ」


副主任の喉仏が上下する。


「収益分類表は内部の業務資料でして——」


俺はカウンターをコン、と叩く。


「内部業務資料ってのは、中身に後ろめたいことが何もなければ、普通あんたらの顔をそんな色にはしない」


男の口元がひくりと引きつった。まだ引き延ばそうとしている——その瞬間、磨りガラスのドアが開いた。


最初に出てきたのは五十代の女性だった。髪の毛一本乱れていない。スーツのボタンは一番上まで留めている。その顔の硬さは落ち着きじゃない——長年、表情を制御することで生き延びてきた人間の顔だ。


その後ろから、ひょろりとした長身の男が続いた。眼鏡は今にも割れそうなくらい薄く、タブレットを胸に抱えていて、全体的に「無理やり立たされた人事ファイル」みたいな印象だ。


副主任がさっと横に退く。


いいじゃねえか。肉が自分で皿に乗って出てきた。


女性が先に口を開く。


「基金会事務局長のイレーナ・ホルバと申します。こちらは改制移転プロジェクト主任のヤクブ・メサーロシュ。お二人、こういう形で直接いらっしゃるのは、資料申請というより——」


俺は女性を見る。


「そうだな。この何年間、誰が他人の金を自分たちの制度に仕立て上げたか、確かめに来た」


ヤクブの顔色が一瞬で白くなった。


イレーナは俺を見ない。ワヴラだけを見る。


「弁護士さん、おわかりのはずです。基金会が承継したのは公共的な取り決めであり、個別の権原の最終認定ではありません」


ワヴラは四枚の副本に手を置く。


「結構。ならばなおさらわかるはずだ。地籍、文化財、鉱業権旧案件、財務監理——四つの部局が書面で資料保存チェーンの存在を認めた今、ここはもう『公共的な取り決め』の場所じゃない。収益の名前を最後に書き換えた場所だ」


俺は口笛を吹きそうになった。


これは正確だ。


イレーナの目がようやく冷えた。


「何が欲しいのですか」


「収益分類表だ」俺は言う。「旧版。きれいに洗い直した最新版じゃなくて」


ヤクブがすかさず割り込む。


「分類表は技術的な文書であり、権利の認定として誤読されるべきではありません——」


俺は振り向く。


「あんたらって本当に『技術的』って言葉が好きだな。城の入場券から地下の収益まで、金の話になった途端、みんな急にエンジニアになる」


ワヴラが次の刃を入れる。


「それから留保意見の附件も。取締役会、監査委員会、総会計士、プロジェクト組が残した異議、補足意見、リスク注記を含めて」


ヤクブの顔がさらに白くなった。


イレーナは答えず、視線が右に半秒だけ流れた。


半秒で十分だ。


俺は笑い出す。


「ある。いいね。今日は全員正直で、本当に感動する」


「あるかないかの問題ではありません」イレーナは冷たく言う。「それらの附件は当時、正式な決議としての拘束力を持っていなかった」


「それはなお結構」俺は言う。「つまり、誰かが早くからおかしいとわかっていて、それでも金を分け続けた、ってことだ」


廊下は空調の音だけになった。


ヤクブがタブレットを胸に抱え直す。


ワヴラが一歩前に出る。


「資料を出してもらおう」


イレーナはワヴラを見る。


「強制的な調取権はないはずです」


「そうだ」俺はうなずく。「だが、あんたらにも、もう一周引き延ばしてここに帳簿を見た人間がいないふりをする権利はない。外には記者が来ている。今から二択だ。一、ここで俺たちに見せる。二、十分後に全国が知る——基金会事務局が収益分類と留保意見附件の提示を拒否した、と」


ヤクブがついに堪えきれなくなる。


「これは脅迫じゃないですか——」


俺はそのまま被せる。


「違う。一人だけじゃ済まない選択肢の中から、比較的マシな方を選ぶお手伝いをしてるんだ」


イレーナはしばらく俺を見てから、踵を返した。


「会議室へ」


---


俺とワヴラが入ると、テーブルの上にはすでに三冊のファイルが置いてあった。


なるほど。


口では「ない」と言いながら、手はちゃんと準備していた。


俺は腰を下ろし、スマホをテーブルに置く。画面が点いたまま、シキとの通話が静音で繋がっている。


イレーナがそれに気づいて、眉をわずかに寄せた。


「この話し合いは、まず外に出さないでいただきたいのですが」


俺はスマホを彼女の方へ少し押しやる。


「心配するな。今は、あんたらがまともな言葉を喋れるかどうかを記録してるだけだ」


ワヴラが一冊目を開く。


タイトルが長い。


《歴史的収益分類対応と改制承継説明(内部業務版)》


俺は一ページ目を見て笑った。


「本当にこんな名前つけてるのか。中身がやましくないなら、タイトルにわざわざ麻酔をかける必要はないよな」


ヤクブは俺を無視して、硬い顔で口を開く。


「これは移行期の内部対照資料であり、直接——」


「黙れ。まず読む」俺は言う。


ワヴラのページをめくる手は速い。俺の目も速い。


A類、公共文化施設収入。

B類、地方運営サービス分配。

D類、歴史資産統合収益。

F類、地表・地下連動資産収益。

K類——


その行に来たとき、俺は止まった。


K類:権原未整理資産の暫定収益計上。


俺は顔を上げて、イレーナを見る。


彼女は逃げない。だが、何も言わない。


俺はゆっくりと笑みを広げる。


「これは面白い」


ヤクブがすぐに口を開く。


「それは内部のリスク管理上の標記であり——」


「何を意味しないんだ?」俺はヤクブを見据える。「この金がきれいじゃないとわかっていた、ってことを意味しない?それとも、それでも受け取り続けた、ってことを意味しない?」


ワヴラの指がK類の子項目を押さえる。


「ポニツァ歴史的場域運営。周辺地帯連動収益。エネルギー施設関連調整収益」


ゆっくりと読み上げる。


一語ごとに、ヤクブの顔から血の気が引いていく。


俺は椅子の背もたれに体を預けて、全身の力が抜けるくらい気分が良くなった。


「つまり、権原が未整理だとわかっていながら、それを専用のカテゴリに分類して収め続けていた、ということだ」


イレーナがようやく口を開く。


「それは会計上の隔離処理のためです」


「違う」俺は言う。「あんたらが良心の呵責なく受け取れるように、きれいに仕分けしてあったんだ」


ワヴラはすでに二冊目を開いている。


附録A。附録B。附録C。


そこで手が止まり、一枚を抜き出した。


「これは誰が書いた?」


俺が覗き込む。


署名は前任の総会計士だ。名前は一つ前の窓口で見た。


内容は短い。退職前に書きすぎて命を落とすことを恐れていたみたいに、短い。


『権原未整理資産を長期的な安定公共収益の原資とすることは適切でない。別途、返還・補償リスク引当金の設定を推奨する。』


俺は読み終えて、声を上げて笑った。


「これは附記じゃない。遺書だ」


ヤクブがすかさず言う。


「それは個人的な留保意見であり、採択されていません——」


「そうだよ」俺はヤクブを見る。「だからこそ面白い。誰かが気づいて、書き残した。そしてあんたらは採択しないことを決めた。その不採択に誰がサインした?」


イレーナの顔がはじめて揺れた。


ワヴラは逃さない。


「決裁チェーンを出してもらおう」


「それは内部の意思決定手続きに——」


「結構」俺はうなずく。「今日はどの内部手続きが『リスクあり』を『引き続き受け取る』に変えたのか、それを見に来た」


ワヴラが附録の次のページをめくり、決裁ページを一枚引き抜いた。


三つの名前がある。


基金会事務局長。改制移転プロジェクト主任。監査委員会代理召集人。


俺はイレーナを見て、ヤクブを見る。


「へえ」


ヤクブの唇からほとんど血の気が消えた。


イレーナはまだ持ちこたえている。


「それは集団的意思決定のもとでの処理方針であり、一個人が——」


俺は遮る。


「間違ってる。集団的意思決定は責任を薄めるためにあるんじゃない。全員が見て、全員で続けることを決めた——その証明だ」


今度は、イレーナがすぐに返さなかった。


ワヴラがその決裁ページを平らに押さえる。


「他にも留保意見がある」


イレーナの眉間がわずかに締まった。


「なぜわかるのですか」


ワヴラは冷たく彼女を見る。


「今の否定が、速すぎたからだ」


俺は笑いすぎてテーブルを叩きそうになった。


ヤクブがイレーナを振り向く。その目はもう同僚の目じゃない——同じ穴に落ちた二人が、互いにスコップを持ってきたかどうか確認し合っている目だ。


イレーナは最終的に三冊目を押し出した。


「二件だけです」


俺が開く。


二件目の方が、さらに手強かった。


会計士じゃない。取締役会の外部監査委員が書いたものだ。


『地籍、鉱業権、文化管理境界の対照が完了する以前に、入場料収入、ガイドライセンス、ブランド提携、長期収益予測の拡大を行うことは推奨しない。』


俺は読み終えて、全身がしゃきっとした。


「これはなお結構。当時すでに、地図を合わせ終わる前に城と周辺を金づるにするな、と言った人間がいた、ってことだ」


ヤクブが小声で言う。


「後から技術的な比較対照は実施しました——」


「わかってる」ワヴラは言う。「それでもあんたらは受け取り続けた」


イレーナは手をテーブルの上で組み、ようやく遠回りをやめた。


「お二人が今日これだけのものを引き出したのは、政府が『文化的管理』という四文字でこの件を押し込めなくするためでしょう。ですが、権利主体の認定と収益返還の話になれば、もはや基金会が決定できるレベルではありません」


俺は彼女を見る。


「やっとまともな言葉が出た」


ワヴラが三冊を閉じる。


「では、決定できるレベルの人間を呼んでもらおう」


ヤクブが固まった。


「どういう意味ですか」


俺は四枚の副本と三冊のファイルをテーブルに叩きつける。


「あんたらが自分で上の人間を呼ぶか。あるいは俺たちが出ていって、これを全部記者に読み上げて、政府が自分たちの立っている土地の上も、掘っている地面の下も、売っていた入場券も、全部わかっていた——しかも専用のK類まで設けていた——と全国に知らせるか、どちらかだ」


イレーナはそのK字をしばらく見つめた。


三秒の沈黙。


三秒後、彼女は受話器を取った。


前置きなし。官僚的な言い回しなし。


一言だけ。


「司法調整室、財務次官、文化部次官、内政地籍代表、それから昨日書類を提出した人間——全員、今すぐ来てもらって」


俺は椅子に背をもたれて、笑った。


「そうだ。最初からそうすればよかった」


ヤクブは急に十歳老けたみたいに、テーブルの上の附記を見つめながら、ぼそりと言う。


「これで話が大きくなる」


俺はヤクブを見る。


「違う。話は最初から大きかった。あんたらが分類を細かくして、小さく見せていただけだ」

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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