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69.数字は嘘をつかない 69-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

鉱業権資料保存センターは、地籍局よりもさらに見るに堪えなかった。


古いんじゃない。わざと自分をつまらなく見せることで、入ろうという気力すら殺しにかかっているような、そういう確信犯的な醜悪さだ。灰色の壁、灰色のドア、灰色の床。カウンターの奥の照明まで、給料未払いみたいに薄暗い。


俺とワヴラが足を踏み入れた瞬間、中にいた三人が同時に顔を上げた。


今日一日で、もうすっかり見飽きた表情だ。 「あんたたちは誰だ」じゃない。「クソッ、もう俺たちの番かよ」って顔だ。


俺はサングラスを外し、そのままカウンターに歩み寄る。


「おはよう。地下の古いツケを調べに来た」


カウンターの奥の男性職員は、まず俺を見て、次にワヴラを見て、最後にワヴラが手にしている公文書袋を見た瞬間、顔色が国家機密の方向へ一気に傾いた。


「ご予約はお済みですか?」


「してある」俺はカウンターに手のひらを置く。「昨日の真夜中にな。あんたらの政府が、直々に取ってくれた予約だ」


男は一瞬固まった。


ワヴラが書類をカウンターに置く。


「ポニツァ、ノヴァキ、プレヴィザ一帯における歴史的鉱業権登録、国有化受け入れ文書番号、補償または没収の根拠、後続の事業収益移転、及び地籍上の宗地と重複する技術対照資料の閲覧申請だ」


職員は一枚目をめくったところで手を止めた。


読めないんじゃない。読めてしまったから、生きていたくなくなっている顔だ。


「これは……一般の方が直接閲覧できるものではありませんが」


俺は笑った。


「それはいい。今日はそこをハッキリさせに来たんだ。『一般人には見せられないもの』と、『一般の政府が、もう見なかったふりを続けられないもの』の境目をな」


ワヴラがすかさず重ねる。


「加えて、貴所として文書で確認してほしい。国有化前後の鉱業権移転および収益承継に関する資料索引を、現在も保存しているかどうか」


男の口元がぴくりと引きつった。


「その部分は、時代ごとに制度も違いますし……残っていない資料も多く——」


「残ってるかどうかは、その先の話だ」俺は言う。「まず答えろ。あるか、ないか」


男は答えない。


俺は首を傾けて、横の壁に掛かった業務案内プレートを一瞥した。


エネルギー資産旧案件。鉱業権ファイル。戦後接収資料整理。


いいじゃねえか。自分たちで看板出してるじゃねえか。さて、この中の誰が「触ってません」って言い張るか、楽しみだ。


ワヴラがペンを差し出す。


「受理印を」


男の職員は受け取らない。


「上席の判断が必要です」


「呼べ」俺とワヴラが、同時に言う。


俺は横を向いて彼を見る。


「最近、お前ますます俺っぽくなってきたな」


「それは侮辱だ」


「お互い様だ」


上席はなかなか来なかった。途中で一度、本気で「先に上に上がって、全部の古い帳簿を食ってから降りてきてるんじゃないか」と疑ったくらいだ。


現れたのは五十前後の男だった。髪をきっちりとオールバックに撫で付けている。きっちりし過ぎて、かえって後ろめたさが透けて見えるレベルだ。


書類を手に取ると、中身より先に、まず俺たちを値踏みする。


「お二人のご要望の範囲は、旧制の鉱業権、国有化、地方事業者への運営移管など、多岐にわたります。現行法上、すでに直接の効力を持たないものも少なくありません」


俺はうなずく。


「今の一文も、後でちゃんと書いてもらうからな」


男の眉間に皺が寄る。


「これはあくまで、先にご説明を——」


「わかってるよ」俺は口の端を吊り上げる。「ここの人間はみんな『先に説明』するのが大好きだ。説明してるうちに、最初から何も起きてなかったみたいな顔になる」


ワヴラが一歩前に出る。


「コメントはいらない。欲しいのは流れだ。第一に、国有化以前の鉱業権登録索引を保存しているかどうか。第二に、戦後の接収または没収台帳が存在するかどうか。第三に、収益の帰属または事業承継の記録があるかどうか。第四に、地籍または文化財部局との間で、重複対照を行った記録があるかどうか」


上席の男の目が、わずかに揺れた。


そう、それだ。この一瞬だ。


「重複対照」という四文字で視線が跳ねたら——その鍋は、空じゃない。


男は視線を落とし、三枚目にページをめくる。


「お二人は、もともと別系統の資料を、無理に一本の線でつなごうとしておられる」


「無理じゃない」俺は言う。「あんたら一つ一つの系統が、『自分のかじった一欠片』しか認めようとしないから——俺たちが自分で、バラバラの死体をつなぎ直してるだけだ」


カウンターの奥で、さっきの職員の喉仏が一度上下した。


上席は俺を無視して、ワヴラだけを見る。


「たとえ旧鉱業権が存在したとしても、その範囲が現在の争点地域と一致するとは限らない」


ワヴラは、うなずくことすらしない。


「結構だ。では文書で確認してほしい。貴所として、技術的対照に供し得る旧鉱業権範囲資料の存在を、認めるのか認めないのか」


上席は黙り込んだ。


この沈黙は、さっきの地籍のときより値段が張る。


土地は表面だが、鉱業権は地下だ。地表ならまだ「文化」「観光」「管理」なんて飾り言葉でごまかせる。地下に金の匂いが絡んだ瞬間——そこまで元気に振り回していた道徳観は、急に有給休暇を取り始める。


俺は少し身を乗り出し、声を落とす。


「じゃ、質問を変える。この一帯、昔に鉱山はあったか?」


上席は俺を見る。「『ここで死んだ患者は痛みを感じますか』と平然と医者に聞くタイプ」の人間でも見るみたいな目だ。


「もちろんだ」


「いいね」俺は実に礼儀正しく笑ってみせる。「じゃあ、その鉱山の権利に、境界線はあったか?」


「ある」


「登録はされてたか?」


「歴史上、いくつか異なる形式で——」


「あったのか、なかったのか」


「あった」


「最高だ」俺は指の関節でカウンターをコン、と叩く。「じゃあ、あんたらが今日この場で——『地下のラインは追えません』『誰が金を取っていたか不明です』『誰が権利を引き継いだかもわかりません』なんて言ってみろよ。さっきの三つの『あった』を、俺が全部テロップにして、夜のニュースに流してやるから」


上席はようやく俺から目をそらした。


そらしたということは——わかってるってことだ。俺がハッタリをかましてないって。


ワヴラがコピーを彼の方へ押しやる。


「受理していただきたい。そして本日中に、把握している保存チェーンを提示してもらう」


「他部局との確認が必要になる」


「じゃあ、その『他部局』を全部書いてくれ」


「本処単独の判断事項では——」


俺はそのままかぶせる。


「なお結構。やっと共犯者をゲロする気になってきたか」


カウンターの奥で、誰かがこらえきれずに咳き込んだ。


上席の顔が沈み、ペンを取る。


一画目が紙に落ちた瞬間、あまりの気分の良さに、危うく口笛を吹きそうになった。


「当処として、歴史的鉱業権および戦後接収関連資料については、鉱業権旧案件ファイル、エネルギー資産承継資料、地方運営移転関連添付書類等に、それぞれ分散して保存されている可能性を認識している——」


「ゆっくりでいい」俺は言う。「ちゃんと書け。どの庫、どの綴じひも、どの担当が触ったか」


男は冷たい目を向けてくる。


「そこは、確認が必要だ」


「今書いているのは、『既知の保存チェーン』だ」ワヴラが言う。「最終的な検証結果じゃない。すり替えるな」


上席の歯ぎしりが、目に見えるくらい強くなる。


それでも手は止まらない。


「一部の国有化接収台帳は、中央経済転換アーカイブに移管されている可能性がある」


「どのセクションだ」


「戦後産業接収・再編セクション」


「書け」


「地方事業者の運営収益配分および精算資料については、地方エネルギー運営プラットフォームの歴年財務添付資料に関与している可能性がある」


俺の目が光る。


「収益配分、ね」


男の手が、そこで止まった。


止まり方が、見苦しかった。


この三文字が口から出た瞬間、話はもう「地底に石炭があるかどうか」「鉱山があるかどうか」「境界線があるかどうか」の問題じゃなくなる——と、男は知っていた。


問題は——この何年間、誰がその金を懐に入れてきたか、だ。


俺はゆっくりと笑みを深める。


「やっと核心に触れる気になったか」


上席はペンを置いて、俺たちを見る。


「収益配分は権利の正当性を示すものではない。あくまで歴史上、運営上の取り決めがあったということに過ぎません」


「そうだな」俺は言う。「泥棒が盗品を山分けしたからって、急に公認会計士になるわけじゃない」


隣の男性職員が、今度こそ本当にむせた。


ワヴラは笑わない。ただ上席を射抜くように見据える。


「どのプラットフォームだ。どの添付書類だ。どの財務窓口だ」


上席は一度、目を閉じた。


いいね。また名前をゲロする時間だ。


「地方エネルギー運営プラットフォームの前身、および後続の改制承継基金だ」


「正式名称で」


男は書く。


俺はその横に立って、紙に刻まれていく名前の列を眺めながら、頭の中でたった一つのことを考えていた。


クソッ、エリザヴェータがこれを見たら、さぞかし喜ぶだろうな。


収益の鎖が浮かび上がった瞬間、政府がこれから何を言おうと——歴史的感情、社会の安定、文化の共有——全部が、一言の前に叩き潰される。一番聞き苦しくて、一番効く言葉だ——


何年間、受け取ってきた?


俺は文書の第三段落を指さす。


「国有化接収の補償、または没収の根拠は?」


上席は今度は素早く顔を上げる。


「その部分は、完全な補償資料が残っているとは限らない」


俺はうなずく。


「じゃあ、接収はあったんだな?」


「戦後の制度のもとでは——」


「接収はあったのか、なかったのか」


「あった」


「台帳はあるか」


「可能性はある」


俺は笑った。


「またそれか。『可能性がある』——今日は本当に国家公認の呪文だな」


ワヴラがペン先を書類の上に置く。


「では、こう書いてもらおう。『当処として、戦後接収台帳および補償または没収根拠に関する索引が保存されている可能性を認識しており、受理後に確認する』と」


上席は動かない。


「お二人もご存知のはずだ。戦後処理の多くは、現代の言葉でそのまま解釈するには、適切でない部分も多い」


俺は男を見る。


「それを人間の言葉に訳すと——『当時の仕事がお世辞にも綺麗じゃなかったから、今更はっきり言わないでくれ』——ってことだろ?」


男の顔が、ついに停電寸前の色になった。


「お客様、ご自重ください」


「俺は十分重い」俺は自分の胸をぽんと叩く。「今日一番重いのは、あんたらの古い帳簿だけどな」


ワヴラは顔も上げない。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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