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58.法的手段へ 58-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

裁判所の正面は、完全にカオスだった。


さっきまでは、まだ「変な事件が一件、外に漏れたらしい」くらいの空気だったのが——一本目のマイクが本当にエリザヴェータの目前まで突き出された瞬間から、事態は公務員社会の中だけで完結していた災難から、「全国ネットで絶賛放送中の大惨事」にクラスチェンジした。


しかも高画質ライブ配信付き。


「ご自分がボイニツェ城の歴史的所有者だと主張されるのですか?」


「ドラキュリヤ一族とはどのようなご関係で?」


「お手元の原本書類はすでに裁判所へ提出済みなのですか?」


「ご自身が——であるとお認めになるのですか?」


最後の一問は、途中までしか耳に入らなかった。どこから湧いてきたのか分からない別の弁護士が、チラシ配りみたいな速度で名刺を差し出しながら前へ割り込んできたからだ。


「ご婦人、もし国際案件に対応できる法務チームをお探しなら——」


「もしメディア対応の戦略がご入用なら——」


「もし歴史的所有権争いに関するコンサルタントを——」


俺は横でその光景を眺めながら、血の匂いを嗅ぎつけた魚みたいに群がる連中を見て、頭の中に浮かんだ感想は一つだけだった。


クソったれが。


現代社会の怪物って、こういう姿してんのかよ。


幽霊でもなく、妖でもなく、地獄の眷属でもない。


記者と弁護士だ。


そしてエリザヴェータは、その嵐のど真ん中に立ちながら、驚くほど静かなままだった。片手で濃い色のファイルを抱え、もう片方の手で小さな日傘を支え、その表情は——今日ここへ来たのが告訴状を出すためじゃなく、自分名義の葡萄園の一つを視察に来ただけ、そう言われても信じそうなくらい淡々としている。


「道をあけよ」


(わらわ)は、ただ一言そう告げた。


声量は大きくない。だが、その響きには「生まれつき、人間に道を開かせる側」の何かが染みついていて、一瞬、本当に一番前にいた数人の動きが止まった。


俺はその半秒を逃さず、前へ一歩滑り込んで、彼女の顔すれすれまで突き出されていたマイクを押し返した。


「悪いけど、取材もインタビューもお断り。それと、今ここで彼女を『深夜の都市伝説』に仕立て上げるのもナシだ」そう言いつつ、肩で押しながら前を塞ぐ。「それからそこの弁護士さん。名刺は一旦引っ込めてくれ。今のあんた、世界規模の歴史的地契案件じゃなくて、田舎の先祖代々の墓の揉め事を取りに来た人にしか見えない」


スーツの男はぽかんとした顔になり、本当に名刺を半分ほど引っ込めた。


「先生、私はただ、プロとしてお力になれれば——」


「うん、分かる。プロの欲がキラッキラ光ってる」


後ろから小柄な体が無理やり割り込んできて、(シキ)が俺の腕をつかんだ。


「行くよ。車、もう呼んである」


「そんな早く?」


「だって、もうちょっと遅かったら、次の瞬間にはあたしたち、裁判所の前で記者会見開いてるでしょ」


その判断は、あまりにも妥当だった。


俺はすぐさまうなずく。


「よし、撤収」


葉綺安(イェ・キアン)はそれ以上に容赦がない。無言でエリザヴェータのもう片側に回り込み、さらに近づこうとする数人を体で遮った。あいつがあの冷えた顔を出すと、効果はどんな警備員よりも分かりやすい。さっきまで「もう一問だけ」と前へ出ようとしていた連中の足が、本当に一拍ぶんだけ鈍った。


林雨瞳(リン・ユートン)は最後尾を歩き、視線を一度だけ全体に走らせてから、短く告げた。


「止まらないで」


この台詞は、俺たちに向けたものじゃない。


エリザヴェータに向けたものだった。


さっき、ほんの一瞬だけ——女大公は本気で、裁判所の正面に立ち止まり、優雅に全員へ向けてこう告げるつもりでいた。


——そう、(わらわ)こそ、汝らの政府を訴えに来た当人である、と。


彼女なら、やる。しかも、完璧にやってのける。


そこが、一番タチの悪いところだ。


幸い、最終的に彼女は軽く鼻で笑っただけで、踵を返して歩き出した。あのまま階段に上がって「中世貴族、本国主権回復声明」なんて始められていたら——俺は今日この場で、近くの川でも探して飛び込み、「社会的死」の濃度を少しでも薄められないか試す羽目になってた。


俺たちは裁判所の階段を一気に下りながら撤退したが、後ろの連中がそう簡単に諦めてくれるはずもない。


足音、叫び声、シャッター音。さらにスマホのカメラが、執拗にこちらを追いかけてくる。この絵面、あまりにも馬鹿馬鹿しくて、一瞬、自分がどこかの国際映画祭のレッドカーペットに迷い込んだんじゃないかと疑ったほどだ。ただ、主演スターの座に座っているのは人気俳優じゃなく、五百九十六歳の吸血鬼女大公というだけで。


なんとか車に乗り込んだ俺は、バタンとドアを閉めてから、まずは大きく息を吐き出した。


「はい、けっこう」顔をごしごしとこすりながら言う。「おめでとうございます。これで俺たち、『奇人変人観光ツアー』から、正式に『国際ニュースの当事者』へクラスアップです」


助手席のエリザヴェータは、ファイルを膝の上に置き、相変わらず腹の立つほど冷静な声で言った。


「いずれこうなる運命(さだめ)であったろう?」


「違うな。問題は、あんたその『いずれ』を二十四時間以内に圧縮したことだ」


「効率が悪いとでも?」


「普通の人間基準で言うと、その効率はもはや病気の域だ」


後部座席の(シキ)が、タブレットを操作しながら口を挟む。


「心配しなくていいよ。もう動画、上がってるから」


バックミラー越しに彼女を見る。


「どのシーンだ」


「裁判所の玄関前。エリザヴェータが立って、記者が群がって、周士達(ジョウ・シーダー)がマイク押しのけて、弁護士のおじさんがあんたにツッコまれて名刺引っ込めたとこ」


「……いや、それ撮る?」


「だって、撮りやすいもん」林雨瞳(リン・ユートン)が淡々と言う。「それに、映画みたい」


「こういうときだけ、人生の方から映画っぽく寄ってくるの嫌いなんだよ」


「あなたの人生、いつ映画っぽくなかった?」


口を開きかけて、やめた。前の女に理屈で勝とうとするのは、だいたい無駄だからだ。


大抵の場合、あいつの方が現実をよく分かってる。


車が走り出して間もなく、(シキ)がタブレットを前に差し出してきた。


「はい、さらに悪化中」


ちらりと目をやる。


画面には、スロバキア語らしきニュース速報がずらっと並び、その合間に castle、lawsuit、historic claim といった英単語がちりばめられている。タイトルの細部までは読めないが、この匂いだけは嫌でも分かる。


マスコミが一番好物にしている匂いだ。


バカバカしくて、古くて、デカくて、しかも画がいい。


俺は二秒ほど黙ってから、心からの感想を口にした。


「終わった」


「どのへんが?」(シキ)が聞く。


「全部」俺は答える。「今から先、人生つまんねえなって思ってる奴らが、全員こっち見に来る」


隣の席で、葉綺安(イェ・キアン)は目を閉じたまま、眠る前みたいな顔で一言つけ足した。


「……見物とは限らないわよ」


「ほう?」


「拾いに来る人もいる」


その一言で、車内の空気が半拍ぶんだけ止まる。


ああ、その意味は分かっている。


記者が来るのは、ニュースのため。


弁護士が来るのは、案件のため。


でも、この後さらに別の連中——歴史学者、政治家、文化関連の役人、そして本来ならこの世の表舞台に顔を出すべきじゃない連中までが混ざり始めたら、それはもう「見物」なんて可愛い話じゃ済まない。


それは、「利益の匂い」を嗅ぎつけた奴らだ。


俺は横目でエリザヴェータを一瞥する。


「満足かよ、今の状況」


「悪くはない」


「悪くは、ない?」


「ようやく、連中が事の重さを認め始めたということじゃろう?」


「その一言の代償として、俺たちが今後しばらく、まともに静かな飯を食う権利を失ったんだが?」


「そなた、もともと静かに食う性分ではあるまい」


「それは、俺の隣にいつもあんたが座ってるからな」


彼女はそこで俺の方へ顔を向け、口元をほんのわずかに動かした。


「であれば、慣れておけ」


……クソ。


この返しは、さすがに即座に言い返せなかった。


ホテルへ向かう道は、外見上は何も変わっていない。通りも、歩行者も、店も、信号も、いつも通りにしか見えない。


だが分かっている。一枚の訴状が裁判所の窓口に受理された瞬間から、事態はもう、目に見える表面と同じではいられなくなった。


今ある静けさは、ただ「まだ爆発していない」というだけの話だ。


ホテルに戻り、ドアを開けた途端、フロントの若い受付がこちらを見た瞬間——その目の色が、明らかにおかしかった。


ただの宿泊客を見たときの「おかしさ」じゃない。


厄介ごとそのものを認識したときの「おかしさ」だ。


俺はその場で足を止める。


「見ろよ」声をひそめてエリザヴェータに言う。「有名人様だ」


エリザヴェータはフロントを一瞥することすらしない。


「それは、あやつらの問題であろう?」


「いや、今この瞬間から、それは俺の問題でもある」


部屋に上がるなり、(シキ)がテレビにタブレットをつなぐ。十秒もたたないうちに、ローカルのニュースチャンネルが画面に映し出された。早口のアナウンサーの声に、裁判所前での、あの粗いが十分な映像が添えられる。


階段の下でファイルを抱えて立つエリザヴェータ。その表情は、訴えに来たというより、工事の検収に来た監督官だ。


そこへ、ナレーションが容赦なくかぶさっていく。


何一つ聞き取れない。


だが、画面下のテロップに混じる英単語だけは、いくつか拾えた。


Bojnice. Claim. Court. Historic documents.


そして、極めつけが一つ。


Dracula lineage.


その語を見た瞬間、こめかみがぴくりと跳ねた。


「お見事」俺は言う。「ニュースの見出しに、しっかり『吸血鬼の血統』まで突っ込んでくれたわけだ」


(シキ)が小さく付け足す。


「その方が、クリック数伸びるもん」


「分かってる。分かってるからこそ、余計に死にたくなるんだよ」


林雨瞳(リン・ユートン)はテレビの前に立ち、数秒ほど画面を見つめてから、こちらを振り向いた。


その目は、静かだ。


嵐の直前の海面みたいに、静かすぎる。


そして、同じくらい平坦な声で口を開く。


周士達(ジョウ・シーダー)


「……なんだよ」


「休むって、言ってたよね?」


俺は彼女を見て、もう一度テレビに視線を戻し、加速していくニュース速報のテロップを確認してから、心の底から正直に答えた。


「消えた」


「何が?」


「休暇だよ」


ソファに倒れ込む。背骨を一本ずつ抜かれたみたいに、全身の力が抜けていく。


「昨日、あの人がボイニツェ城の入場券売り場を見た瞬間から、休みって言葉はもう死んでたんだ」


エリザヴェータは窓辺に立ち、あの濃い色のファイルをゆっくりと整理していた。動作は優雅で、外で雪だるま式に膨れ上がっている嵐など、自分とは一切無関係だとでも言いたげだ。


俺はその背中を二秒ほど見つめてから、どうしても言わずにはいられなかった。


「しかも、その火をつけたのは他でもないあんただからな」


彼女は顔も上げず、涼しい声で返す。


「くだらぬ。真に厄介なのは、これからじゃ」


……やっぱりな。


この女が冷静なときってのは、大体誰かが貧乏くじを引く合図だ。そして今回、その「誰か」のリストに俺自身の名前もしっかり刻まれている気がしてならない。


---


ニュースが燃え広がる速度は、俺の想定をはるかに超えて良心がなかった。


せめて午後まで、あるいはどこかの大手メディアが「このネタは数字が取れる」と判断するまでは待つだろうと思っていた。甘かった。一時間も経たないうちに、ホテルのフロントにいるあの若い受付——本来なら礼儀正しく頷いて、タクシーを呼んで、近くのカフェを薦めてくれるだけの仕事をしている男——が俺たちを見る目つきは、「アジア人観光客」から「歩く外交インシデント」へとクラスチェンジしていた。


しかも、それだけじゃない。


部屋の電話まで鳴り始めた。


最初の一回は、俺もまだ少しナイーブだった。「清掃の確認かな」くらいに思っていたのだ。


受話器を取ると、相手はまずスロバキア語でひとしきり喋り、俺が一言も分からないでいると、すぐさま英語に切り替えた。声のトーンは、納骨堂の区画でも売りつけるような熱烈さだ。


「もしもし、エリザヴェータ様は本日夜のローカルニュースの単独インタビューにご対応いただけますでしょうか——」


考える間もなく、ガチャンと切った。


三秒後、また鳴る。


今度は男の声で、英語がより流暢、口調がよりプロフェッショナルだった。


「はじめまして、ブラチスラヴァの法律事務所と申します。歴史的所有権および越境財産紛争を専門としておりまして——」


また切る。


五本目からは、もう取る気にもなれなかった。


「はい、けっこう」受話器を伏せて置き、心の底から結論を出す。「今この瞬間から、俺たちは旅行者じゃなくなった。値段交渉中のレアモンスターだ」


(シキ)はベッドの端に座り、二台の端末を同時に開いたまま、ニュースを追いながらメールボックスも確認して、顔も上げずに追い打ちをかけた。


「電話だけじゃないよ。メールも爆発してる」


「どこのメールボックスだ」


「ホテルの公開連絡先と、さっき裁判所の関係者から芋づる式に割り出された窓口アドレス」彼女は画面を二、三回スクロールして、表情がどんどん微妙になっていく。「メディア、弁護士、歴史学者……それと、『中東欧貴族法制継承コンサルタント』を名乗る人物が一名」


ソファにもたれて、そのまま背もたれに沈み込む。


「その肩書き、詐欺師の匂いしかしねえな」


「あたしもそう思う」(シキ)が言う。「でも十七ページの履歴書を送ってきた」


「……それはむしろ、より詐欺師くせえ」


エリザヴェータは窓辺に座ったまま、手元の濃い色のファイルから目を離さない。さっきからずっと静かで——まるで、これが自分の手で点けた火ではなく、たまたま通りがかったら凡人たちが炎の中を走り回っていた、ただそれだけの話だとでも言いたげに。


「緊張しないのかよ」俺は聞かずにはいられなかった。


彼女は瞼すら動かさない。


「なにゆえ緊張せねばならぬ?」


「スロバキア半分のメディアと弁護士と学界が、今あんたの周りで匂いを嗅ぎ回ってるからだ」


「それは、あやつらの問題であろう」


「いや、今や俺の問題でもある。連中、あんたが捕まらなければ次は俺を探しに来るんだから」


エリザヴェータはそこでようやく顔を上げ、俺を一瞥して、口元をほんの少し動かした。


「では(わらわ)の盾となれ」


「クソったれが。絶対そう言うと思ったぜ」


林雨瞳(リン・ユートン)はテレビの前に立ち、リモコンを手にチャンネルを次々と切り替えていた。どの局も血の匂いを嗅ぎつけた鮫のようで、内容は似たり寄ったり。違うのは態度だけ——厳粛ぶっているもの、客観を装っているもの、そして画面から飛び出しそうなくらい興奮しているもの。


一局だけ、わざわざエリザヴェータの裁判所前での映像を静止画で切り取り、品のない大きなフォントの見出しを添えていた。全部は読めないが、キーワードだけは拾えた。


Castle. Claim. Bloodline.


なるほど。


城、主張、血脈。


あと二ワード足せば、そのままボードゲームのタイトルになりそうだ。


雨瞳がまた一チャンネル変えると、今度は眼鏡をかけた老教授が画面に現れ、専門家特有の口調でカメラに向かって何か語っていた。一言も聞き取れないが、下のテロップと差し込まれる歴史的な図版から察するに、おそらく今回の件が中欧中世封建法理にいかに大きな衝撃を与えるかを、それはもう嬉しそうに解説しているのだろう。


俺は二秒ほど見てから、息を吐く。


「見ろ、歴史学者様のご登場だ」


葉綺安(イェ・キアン)は向こう側に腕を組んで座り、落ち着いた口調で言う。


「当然の流れ」


「どこが当然なんだ」


「生きた判例だから」


俺は彼女を見る。


「頼むから、エリザヴェータを歩き回る標本みたいに言うな」


葉綺安(イェ・キアン)は少し考えてから言った。


「標本じゃない」


「じゃあ何だ」


「自分で訴状を出す、歴史的積み残し問題」


……クソ。


的確すぎて、言い返す言葉が出てこない。


ドアベルが鳴った。


電話でもメールでもなく、実際に、ドアベルが。


(シキ)と目が合う。彼女が顔を上げ、俺がドアを見て、部屋の空気が一瞬だけ止まった。


俺が先に立ち上がり、急いでドアを開けるでもなく、まずはドアスコープから外を覗いた。


廊下に二人。


一人は仕立てのいいスーツを着た四十代くらいの男で、手にはブリーフケース。もう一人はやや年上で、眼鏡をかけ、資料の束を抱えていた。その顔つきを見れば、記者じゃないことは一目で分かる。


ドアを細く開ける。


「どちら様で?」


スーツの男が、鍛え抜かれた笑顔を向けてきた。


「はじめまして、ブラチスラヴァの——」


俺は手を上げた。


「弁護士?」


男は一瞬止まり、より洗練された笑みに切り替えた。


「はい。歴史的所有権の紛争および政府訴訟において豊富な実績がございまして、もしエリザヴェータ様がご希望でしたら——」


俺は無表情に彼を見る。


「どうやってここを突き止めたんです?」


笑顔が半拍ぶん固まった。


横の老人の方が、ずっと正直だった。


「ニュースってのはな、若いの、あんたが思うより足が速い」


訛りは強いが、英語は通じる。


俺は老人を二秒ほど見つめる。


「あなたは?」


老人は抱えた資料を少し持ち上げ、学者特有の頑固さと昂奮が混ざった声で言った。


「上ハンガリー国境封地制度を三十年研究しておる。もしあなた方の手元にある文書が噂通りのものなら、あれは単なる法律案件じゃない、あれは——」


俺はドアをもう少し閉めた。


「ありがとうございます。百科事典は今のところ結構です」


老人が固まり、スーツの男は素早く名刺を差し出してきた。


「よろしければ、まずは無償で初期評価をご提供できますが——」


「弁護士が『無償』と言うとき、聞こえ方はいつも『まず座らせてから始める』と同じなんですよ」


相手の笑顔がさらに硬くなった。


俺は名刺を受け取り、ドアを閉めた。


振り返ると、部屋中の全員がこちらを見ていた。


「なんだよ」名刺をテーブルに放り投げながら言う。「弁護士一人と歴史学者一人。もう少し遅かったら、土地家屋調査士まで来るんじゃないか」


(シキ)が真面目な顔でメールを見ながら言う。


「調査士はまだだけど、家系図の専門家を名乗る人からは来てる」


「……この世界、どうかしてる」


エリザヴェータはようやくファイルをテーブルに置き、静かに口を開いた。


「狂っているのではない。利益の匂いを嗅いでいるだけじゃ」


「そう、問題はその匂いを嗅いでいる連中が多すぎることだ」俺はテーブルの名刺を指さす。「弁護士は案件が欲しい、学者は名が欲しい、メディアは数字が欲しい、政府は火を消したい。みんな忙しい。俺たちだけが、元々休みたかっただけなのに」


雨瞳がテレビの横に寄りかかり、ようやく口を開いた。


「違う」


俺は彼女を見る。


「どこが違う」


「彼女は休む気なんてなかった」


顎でエリザヴェータの方を示す。


「あなただけよ」


……ぐ。


また、言い返せない本当のことを言われた。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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