57.トレンチーン国立公文書館 57-2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「私はここに来た。証拠も持ってきた。あとはそなたらが真剣に向き合うだけだ」——そういう立ち方だった。
二枚目を読み終えた館長は、数秒沈黙してから、ようやく顔を上げた。
声はまだ安定していたが、さっきより確実にゆっくりになっていた。
"These two documents…if possible, I would like to arrange for formal preservation examination and cross-analysis by our in-house specialists."
(この二枚の文書は……可能であれば、正式な保存検査と、館内専門家による交叉判読の手配をさせていただきたいのですが)
「構わない」エリザヴェータは即答した。「妾の見える場所で行う限りにおいては」
"Of course."
(もちろんです)
「それと——今すぐ、本当に決定を下せる人間を探し始めることをお勧めする」
館長は彼女を見た。「はい」とも「いいえ」とも言わない。
ただ、静かに一度息を吸い直した。自分のモード全体を、再調整するみたいに。
そして——エリザヴェータは三枚目を取り出した。
前の二枚と比べて、三枚目が現れた瞬間、空気の質が変わった気がした。
大きいからでも、古いからでもない。その紙自体が、説明のつかない種類の攻撃性を帯びているからだ。紙面はやや濃く変色していて、端には火で燻されたあと丁寧に修繕・保管された痕跡が残っている。最下部の封印は王室文書の荘厳さとは少し違う——軍令状に近い、硬質な重さを持っていた。
俺がまだ文字を読み取る前に、館長の目がすでに最下部の印章に釘付けになっていた。
今度は、手が本当に止まった。
エリザヴェータは三枚目もカウンターに置いた。動作は変わらず、静かだ。
「最後の一枚」彼女は言った。
声は大きくない。
それでも、大廳全体が一拍、息を飲んだような気がした。
「ラースロー五世(László V)の名において発布された」彼女は淡々と続ける。「戦時永久領地権確認状である」
館長の目が、鋭く凝固した。
顔を伏せ、ほとんど息を止めたまま読み進める。羊皮紙のラテン語は前の二枚より直線的で、硬い。大量の軍事用語が混じり込んでいて、法律の叙述というより、直接命令を下しているような文体だ。その語調は呪いに近い——いや、正確には、呪いに似せて意図的に書かれている。
俺は全文を読めないが、館長の顔色が急速に白くなっていくのを見ていれば、これが「非常にまずい」ものだと分かる。
非常に、まずい。
館長の唇がかすかに動いた。ある一節を、声に出さずに読んでいるようだ。それから不意に顔を上げて、エリザヴェータを見た。
その目は、最初とは別人だった。
最初は、「面倒を持ち込んできた、でも多少の根拠はありそうな変わった外国人の少女」を見る目だった。
二枚目を読み終えた後は、「軽くあしらえる相手ではない歴史的問題」として扱い始めていた。
そして今——
彼が彼女を見る目は、「封印された公文書と学術的な注釈の中にだけ存在するはずのものが、自分の足で歩いて入ってきた」——そういう目だった。
「これは……あり得ない……」彼は低く呟いた。
「その台詞は今日、もう聞き飽きた」エリザヴェータは冷ややかに返した。「別の言葉を使え」
館長は彼女の皮肉を流して、文書の末尾をもう一度確認した。そして、肉眼でも分かるほど急速に顔から血の気が引いていった。怯えではない。極めて短時間のうちに、いくつかの事実が頭の中で繋がったからだ。
——文書が本物である可能性は極めて高い。
——内容は、通常の封地確認の範疇を大幅に超えている。
——ボイニツェ城(Bojnice Castle)がこの法的論理に組み込まれた場合、影響は博物館や地方文化機関の次元では収まらない。
——これが上に上がれば、館内で処理できる話では絶対にない。
傍らの女性館員も異変に気づいたらしく、小声でスロバキア語の質問を投げかけた。
館長が返した声は低く、しかし速度が明らかに上がっていた。
一語も聞き取れなくても、その語調から読み取れることは一つだった。
——今すぐ。動け。
館長は手袋を外した。指が一瞬もたついて、きちんと抜けなかった。自分でも気づいていないだろう。三枚の羊皮紙を丁寧に元の位置へ戻し、それからエリザヴェータを見た。顔色は、半分血を抜かれたみたいに白い。
「少々お待ちください」
彼は言った。
今度は、職業的な笑顔すら消えていた。
"I must contact the relevant authorities immediately."
(上位機関に、至急連絡を取らなければなりません)
エリザヴェータはわずかに顎を上げ、冷静を通り越して傲慢に近い表情で答えた。
「ご随意に」
館長は一度頷いて、踵を返した。失礼のギリギリ手前まで来ている足の速さで、奥へ消えていく。女性館員もすぐ後に続いた。二人が後方の事務スペースに消えてから数秒と経たないうちに、引き出しを開ける音と、受話器を取り上げる音が聞こえてきた。
俺はその場に立ったまま、二秒黙ってから、エリザヴェータを振り向いた。
「おめでとう」俺は言った。「どうやら本当に、一国の公務システムをビビらせたらしいな」
エリザヴェータは小さなバッグの留め具を静かに閉じ、スカートの皺をそっと整えながら、死ぬほど淡々とした声で言った。
「まだ始まりに過ぎぬ」
……クソ。
あの冷静で殴りたくなる顔を見ながら、俺はひどく明確な予感を覚えた。
休息するはずだった。
どう見ても、もうそれはない。
---
エリザヴェータのその一言が落ちた直後、奥の事務スペースから電話の音が響いてきた。
コピー用紙の在庫を確認するような、のんびりした音じゃない。
「今日も平和に定時まで乗り切るつもりだった公務システムが、一本の電話で叩き起こされ、煙を吐き始めた中世の爆弾を丸ごと押し付けられた」——そういう音だった。
俺はその場で耳を傾けて、二秒後に舌打ちをした。
「この音、聞き覚えがあるな」
希がぱちぱちと瞬きした。
「どこで?」
「企業の役員連中が、法務と財務と広報の同時炎上に気づいたときのパニック音だ」
葉綺安が淡々と一言添えた。
「だいたいそんなところ」
林雨瞳はエリザヴェータを真っ直ぐ見ていた。
「わざと。やった」
エリザヴェータは眉一本動かさない。
「妾はただ、しかるべき者が、しかるべき時に知っておるべき事柄を——知るように取り計らっただけである」
「その言い方、『ついでにビル一棟丸ごと放火しておきました』ってのと大差ねえぞ」俺は言った。
「それは、汝ら人の子が誤りを放置することに慣れすぎておるからじゃ」
「いや、俺たちはまず委員会を立ち上げて、報告書を書いて、最後に『問題は非常に複雑です』って顔をして先送りすることに慣れてるんだよ」
エリザヴェータがこちらを一瞥する。
「ゆえに、汝らは生きるのに疲れるのであろうな」
「それについては否定できねえ」
奥の電話の音は、その後もしばらく鳴り止まなかった。
その合間に、早足で歩き回る音、引き出しの開閉音、椅子が引きずられる音が混じる。ドア一枚隔てていても滲み出してくるその修羅場感に、俺は中の公務員たちに謎の同情を覚えそうになった。
本当に、ほんの少しだけだが。
そもそも、この国の観光システムが某女大公から「実家入場料」を徴収していなければ、ここまで即座に爆発することはなかったはずだ。
……いや、よく考えたら、どうせ爆発は避けられなかった。
数時間遅れるかどうかの違いでしかない。
俺たちは、脇にある小さな閲覧室へ通されて待つことになった。部屋はさほど広くないが、清潔で、机と椅子が整然と並び、壁際を灰色のファイルキャビネットが埋めている。咳払い一つするにも申請書が要りそうな静けさだ。
椅子に腰を下ろした瞬間、この空間と俺たち一行の絶望的なミスマッチ感が押し寄せてきた。
片や、国立公文書館、歴史的文書、白手袋、そして専門的判読。
片や、俺。首には牙の穴、全身に訳の分からないバフ盛り盛り、おまけに「現代の法理を使ってどうやって実家を取り立てるか」を検討中の、五百九十六歳の吸血鬼大公。
ミスマッチってレベルじゃない。運命がわざと喧嘩を売ってきているとしか思えない構図だ。
当のエリザヴェータはといえば、完全にこの場に順応していた。
長机の端に座り、三枚の羊皮紙を平らに広げている。その姿勢は「公的機関の回答を待つ一般人」ではなく、「実家の控えの間で、仕事の遅い執事からの報告を待つ主人」のそれだ。
しかも、恐ろしいほど腰が据わっている。
焦ることも、催促することもなく、ただ小さな日傘を脚の傍らに置き、指先で一番上の文書を軽く押さえたまま、「妾は、汝ら全員の寿命を合わせたよりも長く待てるぞ」という顔をしている。
こういうとき、彼女の「年齢」の恐ろしさを痛感する。
人間は焦ると、スマホを見たり、貧乏揺すりをしたり、水を飲んだり、トイレに行ったりして、ついでに人生の意味を疑い始める。
こいつが焦った場合は、直接「ここで汝ら公務員が三代にわたって定年退職していくのを眺めてやろう」モードに突入するのだ。
俺は彼女を二秒ほど見つめ、たまらず口を開いた。
「お前、今のその姿勢、完全に城攻めだぞ」
エリザヴェータは顔も上げない。
「妾は初めから城を攻めておるが?」
「そうか? 俺には、権利証を使って相手の首を真綿で絞め殺そうとしてるようにしか見えねえけど」
「より文明的な攻城戦の作法というだけのこと」
「……クソ、妙に説得力があって返しに困る」
隣に座っていた希が、声を潜めて聞いてきた。
「昔から、あんなふうに物事を処理してたのかな?」
「知るかよ」俺も小声で返す。「俺は昔、貴族と一緒に土地の権利裁判起こしたことなんてねえんだから」
「すごく手慣れてる感じがする」
「ああ。この五百数十年、生きてたんじゃなくて、ひたすら訴訟の経験値稼いでたんじゃねえかって疑いたくなるレベルでな」
エリザヴェータがようやく顔を上げ、俺を見た。
「これ以上、妾をその弁護士とやらと同列に語るなら、汝をここに置き去りにしてラテン語を学ばせるぞ」
「鬼かよ」
「自業自得じゃ」
こんなくだらない言い合いのせいか、部屋の空気は少しだけ緩んだ。
林雨瞳は背もたれに寄りかかり、腕を組んだまま三枚の権利証を見つめていたが、数秒後に口を開いた。
「一枚目。封土の母本。二枚目。ボイニツェ城(Bojnice Castle)本体と付属権利。三枚目。戦時血脈条項」
質問ではない。
情報の整理だ。
エリザヴェータが彼女を一瞥し、軽く頷く。
「然り」
「なら。スロバキア側がしらばっくれようとしても。前二枚は歴史的文書で片付けられても、三枚目が事態を別の次元に引きずり込む」
「引きずり込むのではない」エリザヴェータは淡々と言う。「元よりこの件が、博物館の管理問題などで終わる話ではなかったと——認めさせるのじゃ」
俺は背もたれに寄りかかり、天井を仰いだ。
「ますます確信したわ。俺たち、絶対に休息のためにここへ来たんじゃねえ」
葉綺安が目を閉じたまま、平坦な声で刺してくる。
「あんたが、休息できると勘違いしてただけ」
「……お姉さん、俺が一番傷ついてるときに正論で殴るのやめてくれない?」
彼女は無視した。
ほどなくして、ドアの外で足音が響いた。
館長が戻ってきた。
しかも、一人ではない。
後ろに男女二人の人物を従えている。どちらも年配で、全身から「普段は表に出ないが、今日の案件は出張らざるを得ない」という空気が濃厚に漂っている。館内のベテラン研究員か、あるいは別部署から緊急招集された歴史法制の顧問だろう。
館長は部屋に入るなり、一度深く深呼吸をした。電話の対応で脳の血管が切れそうになった状態から、無理やりプロのモードへ引き戻すための動作だ。
"We have made preliminary reports to our higher authorities."
(上級機関への初期報告を済ませました)
彼は言い、その英語は先ほどよりもさらに形式的で硬くなっていた。
"At the same time, we have called upon specialists in document preservation, paleography, and historical legal systems to assist in the verification."
(同時に、文書保存、古文書鑑定、および歴史法制の専門家に確認の協力を要請しております)
「重畳」エリザヴェータが言った。
その口調は、事情を知らない人間が見れば、彼女のほうが館長であると錯覚するレベルの偉そうさだった。
横に座っていた俺は、心の中で館長の肩を叩いてやりたくなった。
お疲れ、あんた。
今日あんたがエンカウントしたのは普通のクレーマーじゃない。十五世紀の王権文書で直接脳天をカチ割りに来る、ご先祖様クラスの厄災だよ。
その後の三十分間、部屋の中は基本的に文書をめくる音、低い声での会話、そして俺が退屈のあまり脳内で生産するツッコミの衝動だけで満たされた。
新しく来た二人の専門家は、明らかに館長よりもプロフェッショナルで、ゆえに館長よりも早く「これはまずい」という領域に到達した。
一枚目では、彼らはまだ学術的な自制を保ち、封印やいくつかのキーワードを目にして視線を交わす程度だった。
二枚目に入ると、男性のほうが手帳を取り出し、読みながら猛烈な勢いでメモを取り始めた。一秒でも遅れれば、事態の定義づけを他人に奪われるとでも言わんばかりの必死さだ。
そして三枚目が広げられた瞬間、部屋全体が完全に静まり返った。
女性専門家は眉をひそめ、眼鏡を押し上げ、もう一度最初から読み直した。再び顔を上げたとき、その顔色は先ほどの館長よりもさらに白くなっていた。
こうなると、全文が読めない俺でさえ分かる。この事態は、間違いなく国際レベルの不条理へと突き進み始めている。
机の脇に立つ館長は、いつでも次の催促電話に出られるよう、スマホを握りしめていた。案の定、すぐに画面が光る。
着信を見た瞬間、彼の全身がさらに一段階こわばった。
"Excuse me."
(失礼します)
彼はスマホを握りしめたまま、早足で部屋の外へ出た。
ドアが完全に閉まりきっていなかったため、会話の一部が自然と漏れ聞こえてきた。大半はスロバキア語で一言も理解できなかったが、語調、リズム、そして頻出するいくつかの国名から、何が起きているかの想像はついた。
「上へ通報した」林雨瞳が小声で言う。
「だろうな」俺は答えた。「静かに文書を保管しておくはずの場所が、なぜ突然外交問題に発展しそうになっているのか、必死で上に弁明してるような口調だ」
希が首を傾げてエリザヴェータに聞く。
「言葉、分かるんでしょ?」
「大体な」エリザヴェータは淡々と答える。「文化部門、内政システム、そして法務関係の人間と連絡を取っておる」
俺の口角が引きつった。
「へえ、三部署同時炎上か」
「妥当な線じゃな」
「妥当じゃないのは俺たちの存在だよ」
彼女がこちらを一瞥する。
「今さら気づいたのか?」
「ずっと前から知ってたけど、今日が特別分かりやすいだけだ」
さらにしばらくして、館長が戻ってきた。
今度の彼の顔色は、もはや単なる蒼白ではなく、酸欠と諦観が混ざり合った複雑な色をしていた。
机のそばに立ち、まず三枚の権利証を一瞥し、それからエリザヴェータを見た。
「中央機関にはすでに初期報告が届いています」館長は言った。「文書が中世の国境封授、王権確認、および継承合法性に関わるものである以上、本館単独で対処できる範囲を完全に超えています」
「承知しておる」エリザヴェータは言う。「それで?」
館長は一拍置いた。
その場で事態を爆発させずに済む言い回しを、必死で組み立てているのが見え見えだった。
「ハンガリーおよびルーマニアの関係機関への連絡を開始しております」
俺は片眉を上げた。
「ほう、たらい回しが始まったか」
館長が眉をひそめてこちらを一瞥する。俺の言葉の全てが伝わったわけではないらしいが、構っている余裕もないようだ。
エリザヴェータは、逆に冷静そのものだった。
「結構。で、返答は?」
「現在確認中です」
彼女は軽く鼻を鳴らした。
「つまり、誰が先に死んだふりをするか、まだ決まっておらんということじゃな」
……クソ。
的確すぎて、俺は危うくその場で吹き出しそうになった。
館長は何も言わない。それが事実上の肯定だった。
そのあとは、ただひたすら待つだけだ。
電話を。
報告を。
一国の行政システムが、本来は歴史書の中に静かに封じ込められているべき中世の所有権争いを、二十一世紀の法治手続きの枠へ無理やり押し込もうと足掻くのを。
椅子に座っていると、この状況そのものが悪質なブラックジョークに思えてきた。
数日前まで俺たちは地下施設で怪物を斬り合っていた。それが今や国立公文書館の閲覧室で、スロバキア政府がルーマニアとハンガリーにこう問い合わせるのを待っている。
——すみません、中世の貴族が正規の王権文書を携えて先祖代々の領地を返せと乗り込んできた場合、どのような対応が適切でしょうか。
この一文を声に出して読み上げるだけで、電話口の相手の頭痛がこっちまで伝染してきそうだ。
二十分ほどが過ぎた頃、館長に二度目の折り返しがあった。
今度は部屋の隅から動かず、その場で受けた。表情が緊張から、なんとも言い難い疲弊へと変わっていく。問題が解決した疲弊じゃない。「ああ、やっぱり本当に最悪だったか」と最終確認が取れた疲弊だ。
一本目が終わって三分も経たないうちに、二本目が鳴った。
二本とも切った後、館長はその場に立ち尽くして、二秒ほど沈黙してから、ゆっくりとこちらへ向き直った。
その顔を見た瞬間、結果が出たと分かった。
そして、良い結果ではないことも。
「どうだった?」俺が先に口を開く。「誰か引き受けてくれる国はあったか?」
館長が俺を見た。喉仏がかすかに動く。
"Hungary's response is that issues of this nature—spanning pre-modern royal authority, feudal legal frameworks, and their persistence into modern state systems—fall outside the scope of matters they are currently prepared to engage with."
(ハンガリー側の回答は、前近代の王権、封土法理、および現代国家体制への継続性にまたがるこの種の問題は、現時点で彼らが介入する用意のある範囲に含まれない、とのことです)
俺は瞬きした。
「翻訳すると?」
林雨瞳が静かに補足した。
「関わりたくない」
「そう、関わりたくない」俺は頷く。「さすがハンガリー、成熟した政治的判断だ」
館長の口元が微かに引きつった。反論はしない。
エリザヴェータは冷ややかに鼻を鳴らした。
「ではルーマニアは?」
今度の沈黙は、さらに長かった。
"Romania's response indicates that, given the involvement of the Draculya bloodline, the Drachenorden lineage, and questions of continuity regarding historical Transylvanian feudal grants, they are neither in a position to confirm their legal stance within a short timeframe, nor willing to issue any official acknowledgement or denial."
(ルーマニア側の回答は、ドラキュリヤ血脈、竜騎士団支流、およびトランシルヴァニア歴史的封授の継続性に関わる事案であることを踏まえ、短期間での法的立場の確認は不可能であり、公式の承認も否認もする意向はない、とのことです)
俺は聞き終えてから、二秒沈黙した。それから非常に誠実に結論を下した。
「翻訳すると:関わりたくないどころか、本気で手に負えない、だな」
希が思わず頷く。
「これ、外交的な体裁を保つのに相当苦労した言い方だよね」
「そうだな」俺は言う。「文字数はやたら多いが、精神的には三文字だ。——『巻き込むな』」
館長はもう表情を取り繕う気力もないようで、ただ少し強張った姿勢で立っている。
自分でも分かっているのだろう。この二国の回答が共有する核心は、一つだ。
——この鍋は古すぎる。面倒すぎる。外交と歴史解釈の両方に火が飛ぶ。受け取る気はない。
部屋に数秒の沈黙が落ちた。
俺はてっきり、エリザヴェータがこの回答を聞いて冷笑の一つでも飛ばすか、「役立たずどもが」くらいの、彼女らしい評価を下すと思っていた。
ところが彼女は、ただわずかに椅子の背へ身を預け、指先で日傘の柄をこつこつと叩いた。
そして——笑った。
嬉しそうな笑いではない。
「よかろう。誰も手を出したくないというなら、妾が自分で進めるまでのこと」——そういう笑いだ。
その表情を見た瞬間、俺の頭皮がざわりと粟立った。
クソ。
見覚えがありすぎる。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




