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53.リズム刻む防衛機構 53-3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。


左側の薄盤エリアへ踏み込んだとき、二体の衍生体はもう俺の想定より遥かに速く「学習」を終えていた。


病棟の点滴スタンドを引き伸ばしたような細長い一体は、さっきまでただ薄盤の縁に斜めに引っ掛かっていただけだったのに、今や俺がさっきやっていた「意図的に体重を横へ逃がし、踏み込みを故意に浅くする」姿勢へ完全に切り替えていた。もう一体はさらに性質が悪く、腰を落として両脚を前後に開き、俺が節拍の壁に正面から突っ込んでいったあの不格好な前傾姿勢をそのままコピーしていた。どちらにも顔はない。霧の中から浮き上がった輪郭が微かに揺れているだけだ——「癖」そのものを捏ねて立たせたような代物。


「覚えるのが早すぎだろ」俺は低く毒づいた。


答えは、俺の悪態のリズムまで学ぼうとしていることだった。


外側の細長い方が先に動く。突っ込んでくるのではなく、左へ一歩ずれ、肩のラインを落とし、移動の拍子が俺のさっきの動きと寸分違わない。その一挙動で背筋が粟立った。似ているのが怖いのではない——似すぎていることが怖い。まるで俺の中の何かが、本当にそいつに写し取られたような感覚だ。


近づいてきた瞬間、わかった。普通の打ち方は使えない。


こいつが「学んでいる」なら、俺が俺らしく動くほど、そいつはそれを取り込みやすくなる。


だから最初の一撃は、わざと汚く打った。


下がらず、かわさず、受けもしない。代わりに半歩前へ出て、手の中の黒い円盤の残骸を、そいつの胸元へ横薙ぎに叩きつける。路地裏の喧嘩みたいな、型も何もない一打だ。そいつは明らかに半拍ずれた。こちらの「ずれた動き」に合わせようとしていた体が追いつけず、胸の白霧が一角崩れ、薄盤の縁からよろめきかける。


「なるほどな」口の端が上がり、腹の奥から火が来た。「動きを学んでも、性格は学べないか」


すぐさま二体目が来た。


今度は賢くなっていた。さっきの俺の前傾姿勢を真似るのをやめ、代わりに俺が外殻に張り付く前にやっていた「わざとリズムを崩した動き方」を盗んでいる。近づくなり、腕に似た二本の霧の節肢が、腰の脇と膝の裏という嫌な角度から同時に来た。俺の一番ガードが薄い場所を先に潰しにくる気だ。


足を滑らせ、右へ捻りながら、手の残骸をそいつの下半身の二つの「姿勢層」の境目へ差し込む。刺すためじゃない——楔として噛ませる。


霧で作られた脚は見た目は虚ろだが、硬いものを二層の境界へ割り込ませると、全体の構造が一瞬止まった。「学んでいた」状態が空白になる——答えを丸暗記していた者が突然問題を差し替えられたように、リズムが抜け落ちる。その隙に膝を引き上げ、そいつの腹部の「重心らしき塊」へ思い切り叩き込んだ。


ドン、と鈍い音。肉の音ではない。薄い膜が何枚も同時に歪む音だ。そいつが後ろへ折れ、霧の体が中央から二つに割れる。だが完全には消えない——断ち切られた上半身が薄盤を這い、まだこちらへ向かってくる。学習の本能だけが、残骸の中でまだ動いている。


「まだ生きてやがるのか」俺はそのまま踏み下ろした。


靴底が沈んだ瞬間、白霧の中から小さな人声の断片が零れた。男も女もいる。オフィス、病室、電車、自宅——ありふれた場所でありふれた言葉を口にした無数の声が、今は砕けた息になって混ざり合っている。胃が縮む。だが力は緩めなかった。むしろ強く踏み込み、その半截を薄盤の隙間へ押し込んだ。


細長い方がもう一度来た。今度はもう俺を真似ない。代わりにエリザヴェータの「動作を省く打ち方」を盗んでいた。斜めに一歩引いて、不合理に長い腕を低い角度から上へ掬い上げ、俺の肋骨を下から開こうとする。


「真似る相手を間違えたな」俺は静かに言った。


外形は盗めても、あの「理屈を受け付けない何か」は盗めない。


半身ずらして半寸かわし、残骸を打撃武器から鉤へ切り替え、伸びてきた長い腕の関節へ引っ掛ける。そいつは俺がこんな不格好な絡め方をするとは思っていなかったらしく、肢節を引かれて重心が崩れる。そのまま体ごとぶつかり、左側最下段でまだゆっくり回転している陶黒色の薄盤へ叩き込んだ。


ガリッ。


正解の音だ。


俺が砕いたのではない——そいつの霧の構造が、薄盤の縁の回転節拍に削り取られた。上半身が不安定な白霧へ崩れ、中から黒灰色の薄膜が数枚飛び出す。再構築させる前に最大の一枚を掴み、核心らしき部分へ逆手で突き込む。


そいつが一度痙攣し、散った。


左側がようやく静かになった。


---


息を整えながら正面へ目をやり、気分が再び落ち着かなくなった。


エリザヴェータの方は、「戦っている」というより「気に入らない家具を解体している」に近かった。


中軸の四腕衍生体は今や完全に姿を現していた。上半身はオフィスで誰かに顔を近づけて囁くような前傾姿勢を保ち、肋骨の下から四本の細腕が伸びている。一本一本が裁断刃のように薄い指節を持つ。それが動くたびに中央の灰白色嚢体が軽く跳ねる——あれはただの守衛ではなく、エレナが同期肋を切り終えられないよう中軸の節拍を押さえ続けるための「楔」だ。


エリザヴェータはそれを前に、傘を完全には開いていない。収めた状態と開いた状態の中間、説明を求めない「境界線」として手に持っているだけだ。四腕が前へ出るたびに彼女は半歩横へずれる——無駄のなさが、むしろ無礼なほどだ。だが傘の先端、骨、柄が掠めるたびに、そいつの白霧が一層ずつ削れていく。


最も恐ろしいのは、彼女が核心を急いでいないことだった。


「姿勢」を解体している。


四本の細腕のうち二本を叩き落とし、次いでずっと維持されていた「囁き前傾」の上半身を、傘の柄で脊柱の線に沿って一突きし、強制的に伸ばした。そいつが元の「誰かに話しかけている」というテンプレートを失った瞬間、節拍が大きく乱れ、背後の嚢体の鼓動も拍を外した。


四腕怪もそれを察したのか、残る二本の細腕を左右へ同時に広げ、エリザヴェータを迂回して中軸へ直接触れようとした。


エリザヴェータが、初めてわずかに面倒くさそうな顔をした。


「話は済んだか?」


次の瞬間、傘面が上へ翻る。


大きく開くのではない。やはり数寸だけ。だが中軸の空気が、見えない夜の層に一気に押し下げられたようになった。四腕怪の四肢が同時に「自分が何の形をしていたか」を忘れ、辛うじて保っていた人型の輪郭が一度に崩れる。エリザヴェータはそいつに立て直す時間を与えず、傘の先端をまっすぐ前へ送り、胸の最も濃い白へ正確に当てた。


パチン。


軽い音だった。


だがそいつはそのまま、中央から裂けた。


爆発でも飛散でもない。何度も折り畳まれた紙が、最後に折り目に沿って整然と引き裂かれるような壊れ方。中から落ちてきたのは血肉ではなく、絡み合った人声の断片の束。宙に落ちた瞬間に自ら散り、残響一つ残さなかった。


中軸が空になった瞬間、中央の灰白色嚢体が激しく跳ねた。


エレナはそれを待っていた。


片膝をついたまま、二本の破解器を左右の同期肋に差し込み、まだ完全には死んでいない獣の牙を抜くような体勢で作業を続けていた。第二波の機構に追い込まれた汗が顎から滴っているが、手は一度も震えていない。中軸怪が砕けた瞬間、最後の破解器を奥へ押し込み、歯を食いしばって低く叫んだ。


「今だ、退け!」


聞き返す気にもならない。俺は左後方へ飛び退く。エリザヴェータはもっと手際よく、この女が次に何をするか最初からわかっていたかのように、内腔の縁の外へ身を引いていた。


次の瞬間、節点内部の六本の内向きに湾曲した金属肋架が、一斉に細い冷青色の線を帯びた。


照らすのではない——極薄の刃で、各肋骨の内側を超高速でなぞったような光だ。その青が走り抜けた後、中央嚢体の下の陶黒色の薄盤群が全停止する。そして内腔全体から、何らかの「節拍維持装置」が強引に引き抜かれたように、回転、脈動、霧の流れ、人声の断片——互いを辛うじて噛み合わせていたすべてが、一気に乱れた。


最も直接的な結果として、まだ少しだけ形を保っていた白霧の守衛たちが、支柱を抜かれたように崩れ始めた。


左側の薄盤エリアに残っていた霧の断片は俺の足元へ這い寄ろうとしていたが、この乱れの中で信号が途切れたように一斉に崩れ、灰色の霧となって床に広がる。エリザヴェータに剖かれた四腕怪の残骸も、内腔から跳ね返った乱拍に引き裂かれ、最後の「人の形」すら保てなくなった。ガラス管の灰白霧は収束方向を失い、節点内腔を縦横に走り回り、管壁に次々と亀裂を刻んでいく。


エレナが二本の破解器を同時に引き抜き、半歩退いて、刃のような速度で言った。


「同期肋を切った。第二波の防衛機構は終わり。この節点は今から『防衛モード』を外れて『失衡モード』に落ちる。数分以内に、上層に蓄積されていたものを逆流させ始める」


「そのまま続けると、ただゲップするだけみたいな言い方だな」俺は手についた灰霧を払いながら返した。


「都市規模の節拍節点にとっては、大体そんなもの」彼女は中央の嚢体を見据え、顔色はさっきより悪くなっている。「問題は、逆流してくるのが雑音だけとは限らないということ」


その意味はわかった。わかったからこそ、余計に気が重くなった。


---


空虚になった。


第二波の守衛が崩れると、節点内腔に奇妙な空白が訪れた。静かなのでも、安全なのでもない。ずっと叩き続け、学び続け、拍子へ引き込もうとしていたものが、突然すべて消えた。残るのは中央の灰白色嚢体だけで、それが一打ごとに収縮を重くしていく。跳ねるたびに、割れたガラス管、散らばった人声の断片、死んだ守衛の残霧が、すべてそちらへわずかに引き寄せられる。


もっと大きな何かが、底で息を吸っているような感覚。


「これ、良くない予感しかしないんだが」


「当然ね」エレナは使い終わった破解器を収め、新しいものをインターフェイスへ繋ごうとはしない。今は機構を解析する段階ではないと、彼女自身もわかっている。「防衛機構を排除した後、正常なら節点は一時的に『盲目』になる。でも今のこいつは盲目になっていない。前場を空けている」


「誰のために?」


彼女は答えなかった。


答える必要がなくなったからだ。


中央嚢体の下で止まっていた陶黒色の薄盤群が、一斉に一寸だけ沈んだ。そして節点内腔のさらに深い底から、この防衛機構とは全く無関係の音が、かすかに、遠く届いた。


もっと下の暗闇の中で、誰かが静かにテーブルを一度叩いたような音。


エリザヴェータがゆっくりと黒傘を収め、節点の奥を見上げた。その表情に、ようやく「なかなか面白い」という以上の、本物の警戒が宿った。


彼女はひと言だけ言った。


「来たぞ」


俺は振り返った。「何が来た?」


彼女の目は動かない。空になっていく節点内腔の奥を見据えたまま、その声は静かで、だがこの夜のどの節拍よりも不快に響いた。


---


門番が全滅した後、節点内腔はかえって静かになった。


一戦終えてようやく息がつける、という静けさではない。会議室から最後の雑音が追い出された後、誰の首を切るか決定する権限を持つ人間が、ついに重い扉を押し開けるときの——そういう静けさだ。


節点の奥から最初に届いたのは、かすかな異音だった。


カツ。


硬く、上質で、こんな地下の場所には絶対に似合わない靴底が、地面を一度だけ踏んだ音。


中央の灰白色嚢体がすぐさまそれに合わせて一拍収縮した。周囲に漂う霧、割れたガラス管、衍生体が死んで残した人声の断片——すべてが何かの命令を理解したかのように、左右へ退いた。風でも衝撃でもない。格が足りないものが、自分で道を空けるような退き方だ。


それから、彼は下の暗闇からゆっくりと上がってきた。


まず靴が見えた。


黒く、清潔で、節点内腔に満ちた甘い腐臭、金属の匂い、湿気と死の気配と、まるく釣り合わないほど清潔だ。続いて、嫌になるほど真っ直ぐなズボンの折り目。濃色のスーツ。生きた人間より白く、しかし生きた人間よりずっと「人間らしい」顔。その顔には表情らしい表情がない。残酷さも喜びも、何の演技もない。あるのはただ、損益計算書を確認しているときの冷静さだけだ。


一番腹が立つのは、目だった。


その目は俺たちを「見ていない」。正確には、誤った欄に突然現れて報表全体を踏み荒らした「三件の異常支出」を確認しているような目だ。


右手には黒いクリップボードを持っていた。薄く、硬く、縁に淡く冷たい白い文字が浮かんでいる。その文字は固定されていない——跳んでいる。節点全体、都市全体、今夜死んだ守衛と失われた節拍のすべてが、精算可能な項目として一行一行整理され、上へスクロールしていく。


エレナの声が、初めて本当に沈んだ。


「……虚空(ヴォイド)


これが虚空か。


登場と同時に天井を吹き飛ばし、自分が最終ボスだと知らしめるタイプではない。むしろ別の種類だ——大して動いていないのに、場の主導権はすでに彼のものになっている。さっきの節拍器、衍生体、同期肋は全部、入口に置かれた番犬だった。この男こそが、お前が死んだ後に残った資産を回収リストに載せるかどうか判断しに来た人間だ。


虚空は手元のクリップボードを一度見下ろし、平坦な声で言った。


「無許可侵入。外層節拍器損壊。衍生テンプレート廃棄。同期肋切断」彼は目を上げ、損失額を確認するように俺たちを見た。「今夜の損耗、想定より高い」


「そいつは悪かったな」俺は言った。「次はもうちょっとバランスよく壊すようにするよ」


彼はその言葉を拾う気がまったくなかった。ただクリップボードをわずかに傾けた。


次の瞬間、節点内腔に残っていた霧、人声の断片、割れたガラス、黒灰色の汚点が、一斉に中央へ猛烈に収束した。


十数本の黒い線が床、壁、肋架の隙間から同時に引き出され、ペン先ほど細く、銃弾ほど速く、俺たちへ向けて打ち込まれてくる。


俺は横へ転がった。さっきまで立っていた場所に、パチンという音とともに深すぎる細孔がいくつも穿たれる。単純に刺し貫いたのではない——その一区画の地面の「存在」が、整然と消去されたような穴だ。


エレナは即座にインターフェイスの後ろへ身を引き、手元の装置を前へ叩きつける。三層の青い防衛術式が俺の斜め前に立ち上がり、臨時に引っ張り出した半透明の盾壁となって残りの黒線を逸らした。一層目がその場で砕け、二層目が貫かれ、三層目がかろうじて余勢を受け止める。


「銃弾を防いでやってるのに、自分で立てないでどうするのよ!」彼女が俺に向かって怒鳴る。「周士達(ジョウ・シーダー)、次に自分で踏ん張れなかったら、あんたを損失項目に入れるから!」


「その励まし方、ハンガリー人にしかできないぞ!」


虚空(ヴォイド)が一歩前へ出た。


たった一歩で、中央の灰白色嚢体が激しく一拍跳ねる。周囲の白霧が彼の背後へ急速に収束し、都市の日常の残響で織られた薄い帳のように、ゆっくりと肩の後ろへ纏わりついた。誰かが口にした言葉、踏んだ歩数、電車のドアの前で立ち止まった一瞬、交差点で青信号を待つときの呼吸——すべてが圧し潰され、磨り減らされ、彼の背後の霧へと収められていく。


戦っているのではない。


接管している。


「俺の節点を壊してくれたな」彼は俺たちを見て、声は変わらず平坦だ。「なら次は、損失を人頭で精算してもらう」


言葉が落ちた瞬間、俺の足元の地面が一段沈んだ。


崩落ではない——査定値が書き換えられた。さっきまでまだ形を保っていた導拍板が、瞬時に半液体の黒泥へと変わる。「荷重可能」から「廃棄待ち」へ直接格下げされたような感覚だ。片脚が沈みかけ、重心が崩れた瞬間、前方から三本の黒線が再び打ち込まれてくる。


エレナが歯を食いしばってさらに何層もの防衛術式を重ねる。青い光が層を成し、俺のために不安定な命綱を仮組みしてくれている。手が痙攣しかけているのに、まだ壁を補い続けている。その隣で虚空(ヴォイド)は表情一つ変えず、ごく普通の回収作業を処理しているような顔だ。


そのとき、エリザヴェータがようやく見飽きた。


首をわずかに傾け、レストランのBGMに文句をつけるような口調で言った。


「やかましい」


次の瞬間、彼女の姿が散った。


残像でも、速すぎて見えないのでもない——本当に散開した。黒髪、蒼白い輪郭、黒傘が、同じ瞬間に濃い血霧へと崩れる。その霧は上へ立ち昇るのではなく、床、壁、節点の裂けた肋架とガラス管に沿って這い進み、暗紅色の静脈が空気の中に無数に生えたように、瞬く間に虚空(ヴォイド)の周囲の空間全体を噛み締めた。


これが上位吸血鬼の戦い方だ。


技を競わず、刃筋を交わさず、まず相手が動ける、避けられる、査定できる、再構築できる空間そのものを、自分の血管網に変えてしまう。


虚空(ヴォイド)が初めて本当に眉を寄せた。


彼が書き換えた黒泥、黒線、残響の霧幕が、血霧に触れた途端にすべて引っかかりを見せる。システム全体が、生き物でも通常の非生き物でもない何かに強引に引き摺られるような遅延だ。血霧の数本が彼の手元の黒いクリップボードへ絡みつき、整然と上へ流れていた白い文字が一瞬で乱れる。


エリザヴェータの声が霧の中から届く。近くもなく遠くもなく、しかしどこからでも聞こえる。


「死臭がするわ」彼女は言った。「悪魔というのは、みんなそんなに風呂に入らないものなのかしら」


「この状況でまだ匂いを気にしてるのか!」俺は息を切らしながら怒鳴る。


「事実を述べているだけよ」


---


そのとき、右手の死神の指輪(デス・リング)が急に熱を持った。


警告ではない。ずっと前から匂いを嗅ぎつけていて、今ようやく確信した——目の前のこいつは、食う価値があると判断した、そういう熱だ。


手元を見ると、指輪の表面の暗い紋様が、薄い灰白色の光を帯びて一圏ずつ灯り始めている。次の瞬間、考えるより先に手が前へ伸びていた。


死神の(デスサイズ)は、そうやって現れた。


天から降ってくるのでも、空中でゆっくり組み上がるのでもない。もともと巨大な「死」の影が俺の背後にずっと立っていて、この瞬間だけ、その形を俺に貸してくれた——そんな出現の仕方だ。まず長い柄。地下に残るすべての光を一層ずつ吸い込んだような黒さ。次いで刃。弧を描く冷たさは清潔で、縁は光を反射せず、ただ霧色の死白が刃線に沿ってゆっくりと流れる。


死神の(デスサイズ)が姿を現した瞬間、節点内腔全体の温度が一段下がった。


エリザヴェータが血霧の中から一瞬だけ横顔を凝らせ、こちらを一瞥した。最初の一言は称賛でも驚嘆でもなかった。


「あら」彼女は淡々と言った。「死臭がさらに濃くなったわね」


「今は匂いの話をしてる場合じゃないだろ!」


「発生源を確認しただけよ」


---


虚空(ヴォイド)がようやく眉を寄せるだけでは済まなくなった。


血霧に絡め取られた黒線と黒泥はまだ再構築を試みているが、明らかに遅い。そして彼は初めて、損失表でも節点でも空間制御でもなく、俺の手元の鎌へ、そして右手の指輪へと視線を移した。


その動きは、ほとんど本能に近い速さだった。


そして初めて、彼の声に亀裂が入った。


「お前は、ベルタス派の人間か?」


鎌を提げて一歩前へ踏み出しながら、俺は自分でもこのタイミングでこんな話題が出ることに少し呆れた。


「俺がいつ悪魔のフランチャイズに加盟したんだ、初耳なんだが?」


虚空(ヴォイド)が低く舌打ちをした。今夜の死が事故ではなく、もっとやっかいな内部清算にぶつかったと気づいた者の舌打ちだ。俺の指輪を見て、鎌をもう一度見て、その顔色が初めて本当に悪くなる。


「とぼけるな、人間。その指輪が証拠だ」エリザヴェータの血霧が足元でさらに強く締め上げ、クリップボードの白い文字も跳び方が乱れていく。「ベルタスに俺を殺すよう命じられたか?」


「違う」俺はさらに一歩詰める。「たまたまお前が俺の前に出てきただけだ」


「あと数秒しか持たない!」エレナが後方から怒鳴った。


手元に新たに三層の防衛術式がパチンと立ち上がり、青白の光が重なって俺の右側と前方を切り開く。虚空(ヴォイド)の反撃用の黒線が術式に全部受け止められ、ねじ曲げられ、消されていく。青い光が割れ続けている。


「斬るなら今斬れ!私はあんたたちの結婚式の司会じゃない!」


いい。


それが戦場の言葉というものだ。


もう余計な言葉はいらない。両手で柄を握り直し、血霧の中からまだ完全には抜け出せていない彼の左肩から胸口へ走る斜めの線めがけて、全力で振り下ろした。


一撃目は、想定より遥かに深く入った。


俺が強くなったのではない——死神の(デスサイズ)が、ようやく正しいものを噛んだのだ。スーツと皮相を割った瞬間はほとんど抵抗がなく、その奥で手応えが変わった。肉でも骨でもない。高密度で、まだ契約と形体を維持しようとしている黒い権柄のような何かを、強引に断ち割っている感触だ。


刃が食い込んだ瞬間、内腔に残っていた白霧、人声、砕けた節拍と査定の黒線が、すべて刃口へ向かって一気に引き寄せられた。


虚空(ヴォイド)の表情が、初めて本当に変わった。


怒りでも、痛みでもない。


狼狽だ。


砕かれたのではなく「刈り取られた」と気づいたときの、あの狼狽。


彼は自分の体に半ば埋まった死鎌を見下ろし、損益表を見るような冷静さが一寸一寸剥がれていく。死白色の霧が傷口から体内へ流れ込み、契約よりも、悪魔よりも、資産管理よりも、もっと古く、もっと理屈を受け付けない何かが、彼の存在権を直接接収しようとしている。


「違う……」声が初めて乱れた。「これは……っ」


「今頃慌てても遅い」俺は歯を食いしばり、鎌をさらに半寸押し込んだ。


その半寸で、彼の全身が一度大きく痙攣した。


傷口から引き出されてくるのは血ではなく、黒よりも深い何かの縷だ。凝縮された契約、悪意、精髄——管理され続けてきた存在そのものが、死神の(デスサイズ)に一口一口飲み込まれていく。断末魔の叫びも、派手な光の演出もない。ただ極めて静かで、だからこそ余計に不快な、刈り取りだ。


エリザヴェータがゆっくりと血霧から人の形へ凝り戻った。黒髪が肩へ落ち、黒傘が手に収まり、さっきの制圧などただ通りすがりに扉を閉めただけのように、何事もなく佇んでいる。鎌を構えたまま立っている俺を見て、開口一番やはり腹の立つことを言った。


「ねえ、周士達(ジョウ・シーダー)、その悪魔と結婚でもするつもり?まだ話し込んでるじゃない」


「お前のタイミングの取り方、本当にセンスがない」


「あの人よりはマシよ」彼女は虚空(ヴォイド)へ淡く目を向けた。「少なくとも私は報表を抱いて寝たりしない」


虚空(ヴォイド)にはもう返す言葉がなかった。


高級コンサルタントのように端正だった顔が、今は「人の形」としての安定を少しずつ失っていく。爛れるのではない——彼をここに立たせ、すべてに値段をつけさせていたものが、死鎌に引き抜かれていくのだ。五官はある、皮相はある。だがその下で彼を支えていたものは、もう崩れ始めていた。


彼は俺の右手の指輪を死ぬほど睨みつけ、今夜の終わりが不運ではなく、もっと大きな何かの精算にぶつかったのだと、ようやく受け入れたような目をした。


「小僧……ベルタスには……気をつけろ……」


声が途切れ始める。


途切れるたびに、死鎌が一口深く飲む。


「あいつは……只者じゃ……ない……」


最後の一語が落ちたとき、彼の体がついに限界を迎えた。


倒れるのでも、爆散するのでもない。死鎌が食い込んだ箇所から始まり、一層一層、内側へ向かって崩れていく。スーツが形を失い、続いて手、肩、胸、顔。黒いクリップボードが最後に指から滑り落ち、地面に触れる前に、鎌が引き出した死白の霧に巻き込まれて消えた。数秒のうちに、節点の奥に立ち、この場すべてを接管しに来た虚空(ヴォイド)は、一縷の細い黒い気へと絞られ、それも死神の(デスサイズ)に余すところなく飲み込まれた。


内腔が一気に空になった。


ずっと漂っていた甘い腐臭まで、ついでに一断ち切られたように薄くなっている。


俺はまだ鎌を握ったまま立っていた。胸の鼓動は、さっきの節点の壊れた拍子と同じくらい乱れている。エレナが最後の防衛術式をゆっくり解除し、地下システム全体と裁判でもしたような白い顔で、俺の鎌を見て、虚空(ヴォイド)が消えた場所を見て、二秒黙ってから、ようやく一言だけ絞り出した。


「……よし。今度こそ本当に死んだわね」


「ああ」エリザヴェータが俺の後ろへ歩み寄り、何も残っていない空間を一瞥して、戦後評価をするような口調で言った。「しかも、そう悪くない死に様だったわ」


俺は手元の鎌を見下ろした。刃線にはまだ死白の霧気が残っている。すぐには何も言わなかった。


虚空(ヴォイド)は死んだ。だが彼が残した言葉は、まだ死んでいない。


そしてベルタスという名前は、今夜の後半に続く厄介事の中へ、彼によって確かに打ち込まれた。


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