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54.派閥

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

虚空(ヴォイド)が死神の(デスサイズ)に吸い尽くされたとき、核心節点の内部は不自然なほど静かになった。


本物の静けさではない。


激しい戦闘の後に空気へ染み込んだ血の匂い、焦げた匂い、金属が過熱した後の苦い気息——床には砕けた術式の残光がまだ一下一下と痙攣していた。死にきれない神経のように。俺の右手はまだ大鎌を握っていた。刃が斜めに垂れ、死体置き場から引きずり出してきたような黒さ。左手の指輪は凍えるように冷たく、皮膚を通り越して骨の芯まで何かが食い込んでくるような冷たさだった。


エリザヴェータが先に血霧から人の形へ凝り戻った。


着地は羽のように軽く、しかしスカートの裾と黒傘の縁には細かい暗紅色が散っていた。血というより、まだ生きている夜の色のようなものが。彼女は顔を上げて俺を一瞥し、鼻翼をごくわずかに動かした——俺の体に染みついた死臭がまだ残っているかどうか確かめるように。その小さく精巧な目はいつも宝石のようだが、今は冷たく光っていた。さっきの短いやり取りの中から何かを聞き取ったような、そういう目だ。ただ今は言わないでいる。


エレナのほうはずっと手際よかった。


しゃがみ込んで、虚空(ヴォイド)が残した硬質の結晶の欠片と、記憶キャリアらしき黒い薄片を防水袋へ収める。指先は、さっきまで節点の中で死に物狂いで戦っていた人間のものとは思えないほど安定していた。外套の袖口が一箇所裂け、首の横に擦り傷があって血が固まっている。顔色は普段より白い。それでも目は、仕事が終わったら即座に精算を始めるあの冷静さを保っていた。


「あの名前」袋の口を封じながら、顔も上げずに俺へ聞いた。「ベルタス。知ってるの?」


俺は死神の(デスサイズ)を収めた。あの陰冷な感触が腕の骨節の中へ引き戻されていく。それから初めて顔を上げて二人を見た。


「まあ、知ってる」俺は言った。


エリザヴェータが眉を上げ、ゆったりとした口調で言った。一言一言が軽いのに、なぜかちゃんと刺さる。「普通の知り合いには聞こえないわね。あの悪魔があなたの指輪を見たときの顔、通りすがりの他人を見る顔じゃなかったもの」


「何度か仕事をした。何度か顔を合わせた」俺は腰をかがめ、床に転がっていた短棍を足で脇へ蹴り寄せた。「地獄側のやつ。面倒くさくて、やたら大げさで、それだけだ」


エレナが立ち上がり、俺を見た。すぐには何も言わない。


彼女はエリザヴェータみたいに言葉で突いてくるタイプじゃない。もっとやっかいだ。話を聞いた後、その中から抜け落ちている部分を全部頭の中に記録しておくタイプだ。


「それだけ?」彼女は言った。


俺は笑った。温度のない笑いだ。


「じゃあ何?今ここで地獄の派閥分析レポートでも書けって?」


エリザヴェータが「ふん」と鼻を鳴らした。俺がはぐらかすと最初からわかっていたような音だ。エレナは二秒俺を見てから、追及をやめた。ただ、残骸を入れた袋を俺の胸へ向かって投げてきた。


「これ、持っておきなさい」彼女は言った。「節点の残留応答記録と、虚空(ヴォイド)が持っていた最後まで消しきれなかった権限の欠片が入ってる。そこから何を読み取れるかは、あなた次第」


俺は袋を受け取った。何も言わなかった。


彼女はタブレットを折り畳み、外套の内ポケットへ戻した。仕事が終わったと確認した瞬間に未練なく手を引く、そういう動き方だ。


「今夜はここまで」エレナは言った。「私の仕事は終わった。これからベルタスを調べるのも、指輪を調べるのも、あなたの話。ブダペストについては、私はもう関与しない」


「もう行くのか?」俺は聞いた。


「他に何があるの?」彼女は俺を一瞥し、唇の端をわずかに動かした。笑みと呼ぶには薄すぎる。「ここに残ってあなたたちと夜食でも食べる?」


エリザヴェータが割れた外殻の縁に体を預け、淡々と言った。「せめて地上まで一緒に戻るかと思っていたわ」


「別れが苦手なのよ」エレナは言った。


その声は、コンクリートの床みたいに平らだった。感傷も、引き留めを求める気配も、一欠片もない。ただ事実を述べているだけ。この女は最初から最後まで、刃の背で話しかけてくるような人間だった。冷たく、正確で、余計な一寸を残さない。


俺は頷いた。


「じゃあ、そういうことで」


彼女は俺を見て、突然もう一言付け加えた。「周士達(ジョウ・シーダー)


「何だ」


「次に誰かにあなたの手元のものを見られたとき、すぐに認めるな。すぐに否定もするな」彼女は言った。「今あなたが抱えてる厄介事、自分で思ってるより大きいかもしれない」


俺は眉をひそめた。


「忠告か?」


「取引のおまけよ」


言い終えると、彼女は振り返らずに歩き出した。


地下施設の非常灯がまだ点滅していた。彼女の後ろ姿がその明滅する白い光に何度も切り刻まれ、最後に崩れた通路の向こうへ消えた。足音一つ残さなかった。それがエレナを見た最後だった。抱擁も、振り返りも、気の利いた言葉も何もない。彼女はただそうやって去っていった——この夜だけ、たまたま俺たちと同じ道の上に立っていただけの人間のように、清潔に。


エリザヴェータは何かを見透かしているような顔をしていた。あの小さく精巧な目に、ずっと過剰なほど鋭い気配が漂っている。


帰り道、彼女は珍しくおとなしかった。ベルタスのことをしつこく聞いてくることもなく、いつものように骨まで削れそうな嫌みを補充してくることもなかった。ただ静かについてきた。黒傘を手に収め、ホテルの外の濡れた石畳を踏む靴音は、ほとんど聞こえないほど軽かった。


ホテルへ戻ってからも、俺は林雨瞳(リン・ユートン)たちのところへは行かなかった。


頭の中で一つの疑問が膨らみ続けていた。錆びた釘を脳みそへゆっくり打ち込まれているような、そういう大きさになっていた。


部屋のドアを閉め、鍵をかけ、部屋の真ん中に立って数秒黙ってから、俺は口を開いた。


「エリザヴェータ」俺はゆっくり言った。「シャワーを浴びてこい」


彼女は弾かれたように振り返り、目を丸く見開いた。


「わざとやってるの、それとも本当に馬鹿なの?」


「とにかくバスルームに行ってろ」


そのとき俺の顔色は、たぶん本当に悪かったのだろう。エリザヴェータは二秒俺を見つめ、口元まで来ていた毒舌を飲み込み、思わず二歩後ずさった。


俺の苛立ちに気圧されたのか、それとも彼女自身にも見えていたのか——今の俺が本当に余計な話を聞きたくないということが。どちらにせよ、彼女は珍しく言い返してこなかった。ただひどく不満そうに俺を一睨みし、着替えを抱えて「本日は病人相手に大人の対応をしてやる」とでも言いたげな足取りでバスルームへ入っていった。


ドアが閉まった瞬間、俺はスマートフォンを取り出した。


陽台へ出て、ガラスドアを押し開ける。ブダペストの夜風が川の匂いと古い城壁の冷気を運んできて、地下施設に染みついた血と鉄の臭いをわずかに削いでいった。煙草に火をつけ、指の間で炎が揺れた瞬間、我ながらこれは低品質な悪魔召喚儀式みたいだと思った。


そして俺は666へ電話をかけた。


数コールで繋がった。


受話器の向こうから、妖艶すぎる女の声が流れてきた。語尾が蛇の舌先みたいに耳元で揺れる。


「666コンサルティングセンターへようこそ。本日の担当悪魔、色欲のリリスです。イケメンさん、今夜はどんなご用件でしょうか?」


「ベルタスに代われ」俺の声は冷たかった。


電話の向こうが一瞬静かになり、次いで笑みを含んだ職業的な声が戻ってきた。


「あら、男性のお相手をご希望でしたら、他にも様々なタイプの男性悪魔が——」


「二度言わせるな」


本当に頭に来た。煙草の灰を弾くことすら忘れて、そのまま燃えさせた。


「ベルタスに代われ。周士達(ジョウ・シーダー)が用があると伝えろ」


しばらくして、電話が転送された。


低く落ち着いた声が、ゆったりとした調子で流れてきた。相変わらず腹の立つ声だ。


「俺に用?」ベルタスは寝起きのような、まだ少し眠そうな笑みを声に滲ませていた。「ヨーロッパ、楽しんでるか、周士達(ジョウ・シーダー)?」


「楽しいよ」俺は歯を食いしばりながら笑った。「洗脳装置も観光スポットに入るなら、最高に楽しい」


「洗脳装置?」ベルタスは驚いた様子を演じた。「うちにはそんなサービスはないぞ。今どこにいる?」


「ハンガリー、ブダペスト。悪魔を一匹仕留めた。その洗脳装置の担当者だ」俺は一語一語はっきり言った。「そいつが口を開いた瞬間、お前が派遣したのかと聞いてきた。この件、どう落とし前をつける?」


電話の向こうが少し間を置いた。


「名前は?」


「ボイド。虚空(ヴォイド)のボイド」


沈黙。


それからページをめくる音と、キーボードを叩く細かい音が聞こえた。地獄のどこかの部署が本当に俺のためにファイルを引き出しているような、馬鹿げた光景が目に浮かんだ。


数秒後、ベルタスが口を開いた。


周士達(ジョウ・シーダー)」その声に、妙な感情の欠片が混じっていた。愉快とも、安堵ともとれる。「ありがとう」


俺は思わず乾いた笑いが出た。


「頭おかしいのか?俺はお前の同族を殺したんだぞ、礼を言うのか?」


「うん……どう説明すれば伝わりやすいかな」ベルタスは妙に丁寧に、本当に説明し始めた。「俺たち西洋の地獄は、お前が慣れ親しんでる東洋式の拠点型地獄とはちょっと違う。もっと下請け構造に近い。それぞれにフランチャイズの連鎖があってな。俺は、どちらかといえば保守派の側だ」


俺は冷たく煙草を一口吸い、黙って聞いた。


「さっきお前が言った虚空とやら、あいつは新生派に属してる。俺たちとは対立派閥だ。だから礼を言った」


「ふざけるなよ、ベルタス」俺は煙草の灰を陽台の外へ弾き、遠くの濡れた屋根の並びを睨んだ。「お前らの派閥争いに俺を引きずり込むな。邪魔するやつは全員同じように仕留める。お前の子分どもにも分からせておけ——俺にはパイナップル派もアップル派も区別がつかない」


ベルタスが電話の向こうで二度笑った。妙に愉快そうだ。


「心配するな、誤って仲間を殺すことにはならない。新生派は称号をやたら増やすのが好きでな。虚空の君とか、絶望の代行者とか、万影の支配官とか——人を脅かすためだけの名前だ。俺たち保守派はほとんどが古い悪魔で、そういう派手な長い肩書きは好まない」


「ほう」俺も笑った。善意のない笑いだ。「じゃあお前の『地獄の王』は、長くないのか?」


周士達(ジョウ・シーダー)」ベルタスの声が少し平らになった。「そういうことは、あまり掘り下げないほうがいい」


俺は二秒黙り、煙草を口の端に咥え直した。


「掘り下げるな?」


「ああ」


「生憎、俺は人に余計なことを聞くなと言われるのが一番嫌いでな」俺は低く言った。「お前の仲間——いや、お前の敵側のやつが、俺の手元の指輪を見た瞬間に俺をお前の差し向けた人間だと判断した。これはお前が完全に知らなかったか、知っていて黙っていたかのどちらかだ。知らなかったふりをしろと言うのか?」


電話の向こうはすぐに返事をしなかった。


欄干の外から風が吹き込み、煙草の火が明滅した。


しばらくして、ベルタスがゆっくりと言った。「一つだけ教えてやる。あの指輪は西洋ではただの装飾品じゃない。ある存在にとっては標識だ。別の存在にとっては権限の証明だ。そしてごく少数の者にとっては……期限切れだが、まだ有効な紹介状のようなものだ」


俺の目がわずかに動いた。


「紹介状、ね」


「言葉は荒いが、的外れじゃない」ベルタスが笑った。「とにかく、お前はすでに見られた。つまりいくつかの糸が、勝手にお前に絡みついてきているということだ。今お前がすべきことは、どちらかの陣営につくことを急ぐことじゃない。まず生き延びることだ」


俺は冷たく聞いた。「じゃあ、虚空(ヴォイド)が死に際に言った『ベルタスに殺しに来た』という言葉は、どう説明する?」


「恐怖だよ」ベルタスはあっさり答えた。「死を恐れる悪魔が臨終間際に一番よくやることは、自分の死に必死で理由をつけることだ。敵対派閥に処理されたということにしておけば、ただ運が悪かったと認めるより、ずっと体裁がいい——そう思わないか?」


俺は黙った。


その話、半分だけ信じてやる。


残りの半分は、後でキッチリ精算させてもらう。


ベルタスは俺が全部は信じないとわかっているように、さらに付け加えた。「それと、近いうちにまた西洋側の連中と遭遇することがあっても、あの鎌をあまり派手に振り回すな。今夜だけで十分目立ちすぎた」


「俺に説教するつもりか?」


「忠告してやってるのさ」笑みを滲ませた声だ。「一度目をつけられたら、振り払いたくても振り払えない視線というものがある」


そのとき、バスルームから水音が止まる音がした。


俺は首を向け、ガラスドア越しに中の人影がわずかに動くのを確認した。


視線を戻し、淡々と言った。「ベルタス、最初に言っておく。お前のところが保守派だろうと新生派だろうと、老いぼれが若ぶってる派だろうと、俺を駒として使おうとするな」


「安心しろ」彼は腹の立つ笑い方をした。「お前みたいな人間は、最初から駒には向いてない。どちらかといえば——」


「黙れ」


俺は電話を切った。


陽台が静かになった。都市の夜風と、指の間で燃え尽きかけている煙草だけが残る。


手元の指輪を見下ろした。夜の中でそれは何の光も放っていないのに、地下施設にいたときより不快だった。肉の中へ沈んでいく氷のような感触。ベルタスは多くを語った。一見すべてを説明したように聞こえた。実際には何もかもをさらに濁らせただけだった。


ドアの向こうで足音がした。


煙草を指で揉み消し、部屋へ戻ると、エリザヴェータがちょうどバスルームから出てくるところだった。髪がまだ少し濡れていて、肩にバスタオルを掛けている。熱い湯気に蒸された肌が白く、ほとんど透けるようだ。それでもあの目だけは、刃先のように鋭く光っていた。


彼女は俺を一瞥し、次いで俺の手の中で画面の暗くなったスマートフォンを見た。


「済んだのかのう?」


「ああ」


「それで」彼女はゆっくりとベッドの端に腰を下ろし、脚を組んで、夕食のメニューでも聞くような口調で言った。「ベルタスとは、お主にとって何者なのじゃ?」


俺はスマートフォンをテーブルへ放り、冷水を半杯注いで一気に飲んだ。


「厄介事だ」俺は言った。


エリザヴェータが目を細める。


「それだけか?」


「他に何がある?」俺はテーブルの縁に体を預け、顔を上げて彼女を見た。「元の取引相手?情報ブローカーの疑いあり?地獄で厄介ごとを量産している筋金入りのクズ?どのバージョンが好みだ、全部揃えてやるぞ」


彼女は俺を見据えた。俺の顔から本当の答えを剥がし取ろうとするような目で。


生憎、今夜は渡す気がなかった。


数秒後、彼女は笑った。薄い笑みだった。月光が刃の背を滑るような。


「よかろう。言いたくないのであれば、無理には聞かぬ」彼女は手を上げて、まだ濡れた髪の毛を後ろへ払い、いつものだるそうな口調に戻った。「どうせいつかそのベルタスとやらに売られる日が来たら、まずは大いに笑ってやってから、助けてやるかどうか考えてやろうぞ」


「そのときは必ずお前も道連れにしてやる」


「ふん、それこそお主らしいのう」


俺は彼女を見ながら、一晩中張り詰めていた何かが、ようやく少しだけ緩むのを感じた。


少なくとも一つだけ確かなことがある。


今夜は終わった。エレナは去り、ブダペストの地下のあの一頁はひとまず閉じられ、虚空(ヴォイド)は死神の(デスサイズ)の中の一口の残滓になった。だがベルタスも、指輪も、鎌と標識を見た瞬間に表情を変えたあれらも、一緒に止まってはいない。


ただ場所を変えて、暗がりの中で俺を待ち続けているだけだ。


俺は窓のカーテンを引き、外の湿った夜を遮断した。


「寝ろ」俺は低く言った。


エリザヴェータは返事をしなかった。ただ俺を一瞥してから、ベッドの内側へ少し身を寄せた。この夜の最後の余分な言葉まで省いたように。


俺はその場に立ち、テーブルの上の画面の消えたスマートフォンを見つめながら、はっきりと理解した——


この件は、まだ遠く終わっていない。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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