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53.リズム刻む防衛機構 53-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

第一波が本当に来る前に、俺はもうこいつの一番タチの悪い部分を理解していた。


吹き飛ばすわけでも、その場で引き裂くわけでもない。


まず、お前の体を「お前のものではないもの」に変えようとしてくる。


浮かんでいる黒い円盤が一枚一枚と回り始めるにつれ、肩、手首、膝、果ては顎まで、それぞれに見えない糸が引っ掛けられていくような感覚になる。一打ごとに同じ問いを投げかけてくる——乗ってしまえばどうだ、と。


一拍でも合わせた瞬間、もう自分の足で歩いていない。あいつに引かれている。


「固まるな!」エレナが最初に動いた。前へ突進するのではなく、右斜め前へ半歩ずれる。手元の冷青光を放つ短装置を地面へ押し当てた。パチン、という音とともに、細い青白い線が右側の影に沿って走り、黒い円盤二枚の真下を通り抜けた。その二枚の回転が即座に半拍乱れ、整然と組み上がっていた節拍の壁に、細い亀裂が一本入る。


「あいつのリズムに合わせて重心を移すな!」彼女は二度目を押し当てながら言った。「安定しようとすればするほど、取り込まれる!」


「溺れてる人間に水に触れるなって言うみたいな話だな!」


口では言いながら、体はすでに従っていた。踏み出しかけていた足を強引に引き戻し、代わりに不格好な横踏みをする。見た目はバナナの皮を踏んで滑りかけた人間そのものだ。だがその不格好さのおかげで、地面から這い上がってくる「点拍」の力が一瞬、俺の体を掴み損ねた。右膝がガクッと痺れ、倒れ込みそうになったが——引きずられずに済んだ。


三拍目を過ぎると、左右の陶板の隙間から細い白い線が滲み出し始めた。


最初は光だと思った。


次の瞬間、それが違うとわかった。白い線は壁面を離れると、重さがあるかのように垂れ下がり、空中で一折り、一張りして、十数本の細い弧を描きながら俺たち三人へ向かって走ってきた。


縄でも糸でもない。圧縮された固体の音波とでも言うべきか——白く冷たく、影もないほど速い。


エリザヴェータが傘面を三寸開いた。


たった三寸。


だがその一開きで、俺の骨格に向かって整列していたすべての節拍が、一斉に横へ押しのけられた。消えたのではなく、歪んだ。十数本の白い線の半数がその場で逸れ、地面と壁面に叩きつけられ——本物の細い鋼線のように、綺麗すぎる切り傷を刻んだ。


残り半数は、それでも来た。


俺は短棍を持ち上げて一本目を受けた。腕全体が痺れる——高圧電流が皮膚の上を舐めていったような感覚だ。二本目はより陰湿で、棍の外側を回り込んで脇腹へ向かってくる。後ろへ捻ったが半寸遅れた。外套が一直線に切れ、皮膚が火を当てたように痛んだ。


「こいつ、曲がりやがる!」


「射ってるんじゃなくて、校正してるから!」エレナはすでに右側の影にほぼ体を沿わせるように低く滑り込み、装置から三本の青い線を空中へ叩き込んでいた。まるでカッターで空気に拍子を刻んでいるようだ。「白い線じゃなく、円盤を叩け!」


それはようやく人間の言葉だった。


俺は一番近い黒い円盤を見定めた。左前方の空中に浮かんでいる。表面の溝紋が回転するたびに目が痛くなる速さで、ある角度になると中央に細い白い点が灯る。次の一拍を待たず、俺は短棍を逆手に持ち替え、その白い点めがけて叩き込んだ。


核心は外した。円盤が横へ弾かれただけだ。


だがそれだけで、前区全体の節拍が一拍半、乱れた。右側から俺の肋骨へ向かっていた二本の白い線が早撃ちになり、互いに衝突して空中で砕け散った。耳鳴りがして、胃が一瞬浮く。


「それだ!その白い点が定拍眼!」エレナが即座に前へ二歩詰めた。


「最初から言えよ!」


「あなたが最初に聞かなかったのよ!」


今は内輪揉めをしている場合ではない——そう思いながらも、このハンガリー人を地上まで担いで返品したい気持ちが湧き上がった。


四波目の白い線が、両側から同時に来た。


今度は十数本ではなく、二列だ。分散してもいない——左右それぞれが一枚の傾いた切断面として収束し、音波と白光で圧し固めた刃の壁となって左右から中央へ向けて挟み込んでくる。あれが本当に合わさったら、俺たち三人は行政的に効率よく薄切りにされる。


「伏せろ!」エレナが叫んだ。


俺が動くより先に、エリザヴェータが前へ出ていた。


黒傘を横に構える。


今度は弾くのでも逸らすのでもない——正面から受けた。傘面はまだ数寸しか開いていない。だがその数寸が、二枚の白い刃の壁と激突した瞬間、前区全体が見えない水紋に押し上げられたように揺れた。爆発も轟音もない。ただ、胸骨の奥が痒くなるような、鈍い震動だけ。二枚の刃の壁はたしかに当たった——しかしそれより理不尽な何かにぶつかったように、左右へ滑り外れ、陶板と嵌め条を削って火花を散らした。


エリザヴェータは一歩も退かなかった。傘を握る手首がわずかに沈んだだけだ。


彼女は正面の、亀裂の走った黒い外殻を見上げ、どこか面倒くさそうな声で言った。


「このリズム、やかましい」


俺は息を整えながら、思わず本音が出た。「レストランのBGMを嫌がるみたいな言い方だな」


「似たようなものじゃ」彼女は傘の柄をわずかに回した。「ただしこの店は、客を殺したがっておるだけで」


エレナにそんな雑談に付き合う余裕はなかった。さっきの衝突が生んだ節拍の乱流を利用して、右側の壁に体を沿わせたまま前へ二歩踏み込み、装置を二連打して右端の三枚の円盤の回転速度を強制的に乱した。その一帯の節拍の壁に明確な穴が開き、地面の導拍板が半区画暗くなる。


「前へ!」彼女が叫んだ。「今を逃したら、あいつが再計算して全部やり直しになる!」


言われなくてもわかっている。


右側の節拍の壁が乱れた瞬間、俺は一気に前へ飛び込んだ。


足元の金属嵌め条はまだしつこく歩調を引っ張ろうとしてくる。だが、もう「安定」なんて捨てた。最悪の動き方を選ぶ——二歩短く、一歩長く、重心もわざとバラバラ、呼吸もわざとズラし、棍を握る手のリズムさえ毎回意図的に外す。歩き始めたばかりの子供みたいなひどいフォームだ。だが、その不格好さゆえに、関節を「校正」しようとする見えない力も、切り口を見つけられずにいた。


代償は、自分の三半規管のほうがやられそうなことだった。自分のリズムの汚さに、こっちが吐きそうになる。


操作エリアまであと五、六歩というところで——


黒い外殻の中央に走る六本の亀裂が、一斉に光った。


銀ではない。骨白色の、冷たく薄い光。


次の瞬間、外殻の内側から極低音の唸りが響く。金属層の奥で、何かがゆっくりと目を覚ましていくような音だ。まだ叩き落としていない黒い円盤たちが、新たな命令を受け取ったみたいに半尺ほど浮き上がり、一斉に回転速度を上げる。前区全体の空気が一気に見えない歯車の中へ引きずりこまれ、歯の根まで酸っぱくなった。


フェーズを変えるつもりだ!」エレナの顔が変わる。いつもの負けず嫌いな冷たさじゃない。本気で悪態を吐きたい種類の冷たさだ。「周士達(ジョウ・シーダー)、左の二列目、一番上!早く!」


指された方向を見れば、左二列目の最上段円盤、中央の白点が針の先から米粒ほどに肥大し、新たな節拍の起点を示す。半拍でも遅れれば、さっきこじ開けた穴は一瞬で塞がれる。


高く、斜めで、他の円盤二枚にがっちりガードされている——まともに叩ける位置じゃない。


だから俺は棍を投擲武器に変えた。テクニックなんてない。ただ肩の硬さだけ信じて振り抜く。棍は空中で不格好な弧を描き、下の円盤の縁をかすめて軌道を逸らされ、そのまま最上段円盤の白点を直撃した。


パリン——金属じゃない、薄い陶片を指で割ったような音。


円盤が大きく震え、中央の白点が消滅。その隣の護衛円盤も連動して拍を外し、前区全体で新相への収束が一気に空転する。地面の嵌め条の光も半分まで上がったところで止まり、地下の見えないギアを無理やり噛み砕いたような感覚。


「上出来!」エレナが珍しく素直に褒め、直後に自分も操作エリアの縁に飛び込み、右側に露出した細い溝へ装置を叩きつける。「あと十秒稼いで!外層の節拍ロックを切る!」


「お前の十秒、いつも十秒で済んだ試しがねえ!」


「それはあんたの算数が絶望的だから!」


彼女の言葉が終わる前に、残る円盤たちが「自衛」に切り替えた。


広域の節拍の壁を作るのをやめ、全部の拍子を中央へ収束させる。空気の中に、極細で密度の高いムカつく震えが満ちた。見えない小槌の群れが、眼球の裏、耳の奥、肘の内側、古傷が疼く箇所を同時に叩く。一秒目はまだ「うざい」。二秒目には手が震え始める。エレナの装置の青い光も一度ぐにゃりと揺らぎ、心の中で罵倒が走る。


——これは殺すためじゃない。ミスらせるためだ。


エリザヴェータもそれを見抜いていた。


防御に徹するのをやめ、黒傘の先端を前区の中で一番安定して光る金属嵌め条の一本へゆっくり押し当てる。力を込めているようにも見えないが、その瞬間、導拍板全体が下へ一段沈んだように震え、地面を走る節拍が一瞬だけ前進を拒んだ。


——たった一瞬。それで十分だ。


必死に微細な震えを再構築していた円盤たちが、一斉に半拍遅れる。


周士達(ジョウ・シーダー)」エリザヴェータの声は静かに響く。「この程度の間合いも詰められぬなら、あの海関の目利きもあながち間違いだったとは言えぬのう」


「この状況で刺してくるな!」


文句を言いながら、もう前に出ていた。


武器はない。だったら、素手で叩き割るしかない。浮かぶ黒い円盤に飛びつき、掴んだ瞬間、冷たい砥石が歌っているような痺れが掌から腕へ一気に走る。だがここで離したら終わりだ。歯を食いしばり、円盤を下へ引きずり落とし、膝を勢いよく叩き上げ——


バキッ。


求めていた音だ。円盤が中央から二つに割れ、中から出てきたのは電子回路ではなく、乾いた後もう一度濡らされた声帯のような極細の黒灰色薄膜の束。吐き気をこらえながら半片を掴み直し、迫る円盤に投げつける。空中でぶつかり合い、耳を刺すような破裂音。目の前が一瞬白くなるほど耳膜が痛む。


だが、ようやくまとめてリズムが崩れた。


「できた!」エレナが装置を引き抜く。外殻右側の細い溝に冷たい青い線が走り、中央の六本の亀裂を縛っていた節拍の束が切れる。黒い外殻の表面がさらに一段緩み、骨白色の内層板が人一人近づける分だけ広く露出した。その隙間から重く乾いた冷気が滲み出す——生きた者を歓迎しない部屋が、ようやく指一本分だけ扉を開けた。


「入る!」彼女は外殻右前の位置で低く叫ぶ。「第一波は凌いだ。今はとにかく殻に張り付け!」


俺はほとんど体当たりで飛び込んだ。


最後の数歩でも導拍板は足首を引っ張り続けていたが、節拍の壁は大部分が砕けた。背中や脇腹に飛ぶ断片攻撃も、もはや神経を逆なでするノイズでしかない。骨白色の内層板に体を預けた瞬間、その冷たさに息を呑む。金属というより、長く死んで工業的に磨かれた骨の表面のよう。


エリザヴェータも追いついた。相変わらず俺たちより安定して立ち、半ば掲げた黒傘で、外周でまだ足掻く円盤たちを操作エリア外へ押し留めている。今の節拍はもう整然ではなく、ただ苛立たしい雑音が残るだけ。


外殻に体を預け、荒い息を一つ吐く。胸はまだ乱れている。手の甲の包帯の下の傷もまた熱を帯びていた。


エレナはすでに片膝をつき、第二セットの破解器を外殻右下の深いインターフェイスに差し込んでいる。左手は安定し、右手は指節で側面を叩き、異なるリズムのパルスを送り込む。叩くたび、外殻環紋が一瞬光り、眠りの浅い何かの背骨を爪でなぞるようだ。


「こいつ、今度は私のリズムを逆算してきてる」装置上の光点を睨みながら低く言う。「ただの鍵じゃない。誰が乱したか全部覚えてる」


骨白の内層板に体を預け、割った円盤の破片を拾い上げる。「毎回悪い知らせを取説みたいに言う癖、直したらどうだ?」


「じゃあ何?『NYIL高性能節拍節点をご利用いただきありがとうございます』とでも言えばいい?」彼女は破解器をさらに半寸押し込み、青い光が一本の線から三本の束へ変わる。「左の三枚また組み直し始めてる。再定拍される前に壊して」


横目で見れば、確かにさっき砕いた円盤の残骸は、薄い陶片の骨が互いを探し合うように、床や壁を這い戻ってくる。ぶつかる瞬間だけ、歯の裏で陶片が触れるような軽い音がする。


エリザヴェータは俺たちの外側に立ち、黒傘を半ば掲げたまま、振り返らずに言った。「あれが形を取り戻す前に片付けよ。さもなくば、二巡目を聴く羽目になる」


「隣の部屋が夜中に音楽を流してるみたいな言い方だな」


「妾にとっては大差ない。ただし、こちらのほうが趣味が悪い」


この真祖、たぶん怪物よりも「悪趣味」が一番嫌いなのだろう。


手元の半片を掴み直し、再構築中の残骸へ投げつける。パチンと音がし、薄片が数枚弾き飛び、床の上で痙攣する。レコード針を突然弾かれたような乱れ方だ。効果はあるが、一発では足りない。


二撃目に移ろうとしたところで、黒い外殻の奥から、金属の肺が吐息を漏らすような低い息が聞こえた。


反響じゃない——外殻そのものが呼吸した。


エレナの破解器が眩しいほどに輝き、青い光が中央へと強く収束する。外殻表面の六本の亀裂が一斉に開き、今度は本当に「開いた」。黒い外層が六枚の厚い殻となって外へ退き、内側——節点の本当の中身が露わになる。


初めて見た二秒間、どの言語で悪態をつくか迷った。


中はサーバールームでも制御盤でもない。現代工学で無理やり埋め込まれた人工内耳、宗教遺物と医療機器の合いの子のような怪物。


節点の内部は空洞で、中央に半人ほどの高さの灰白色嚢体が、十数本の極細金属繊維に吊るされて浮いている。表面は滑らかでなく、何重もの薄膜が同心円状に巻かれ、それぞれに目が痛くなるほど細かい音紋の溝が刻まれている。薄膜と薄膜の間には半透明の琥珀色樹脂が挟まり、その中にほとんど見えない黒い点が封じ込められている。


嚢体の下には環状のプラットフォームがあり、実体の台ではなく、陶黒色の薄盤が幾重にも重なってゆっくりと回転している。外側を六本の内向きに湾曲した金属肋架が取り囲み、細長いガラス管が吊り下げられ、管の中の灰白色の霧が外殻が開いた今、一下、一下と中央の嚢体へ引き寄せられる。


中心の嚢体が跳ねるたび、空洞全体がごく微かに震える——跳ねている。機械の運動ではなく、心臓の収縮に近い。


「これが、お前らの節点か?」俺は半人ほどの高さの塊を睨み、喉の奥の甘い匂いが一気に三倍濃くなる。「生きてる耳を地下で飼ってて、これを公共事業って言うのか?」


「耳じゃない」エレナは立ち上がり、声がさらに冷たくなる。「節拍心室。地上の音、光、交通、人間の集団的日常全部を、塔が求める周波数に揃えて、下へ送る」


「街の血圧でも管理してるみたいな言い方だな」


「大差ない」彼女は内腔下部の回転薄盤を一瞥し、いくつかの節点を速やかに確認する。「外殻が完全に閉じ直す前に、下の三組の同期肋を切る。そうしないと、いくら開けても意味がない」


返事をする前に、エリザヴェータが一歩前へ出て、内腔の縁から中を覗き込んだ。ごく薄い——だが確かな「興味」の色がその表情に浮かぶ。


「なるほどのう。機械が人を学ぶのではなく、人の日常を先に素材として磨り潰し、それで機械を作るということか」


「その言い方、だいぶシャレになってねえぞ」


「もとから洒落の類ではない」彼女は黒傘をわずかに持ち上げ、視線を囊体から外さない。「しかもあの内側、まだ起きておる」


彼女が決して無駄話をしないことは、これまででよくわかっていた。次の瞬間、節点内腔全体の光が一段下へ沈む。


暗くなったのではない。灰白色の霧、薄膜の反射、ガラス管の光——すべてが同時に中央の嚢体へと収束する。嚢体が半拍静止し、次いで激しく膨らむ。


ドン。


強い衝撃ではない。それでも、さっきの黒い円盤たちの節拍より、よほど性質が悪い。耳で聞くのではなく、足の裏から直接ぶつかってくる。体が一瞬で硬直し、手の甲の包帯の下の傷が、熱を持って疼き出す。あの時つけられた「読み取りの跡」が呼び覚まされたような感覚。


エレナの顔色が変わる。「違う」


こういう場所で、その二文字から始まるのが一番腹立たしい。「今度は何が違う?」


「外殻は第一層にすぎなかった」彼女は中央の嚢体と下部の回転薄盤の隙間を睨みつける。「中に『自律反応』がある。クソ……前置節点のはずが、アップグレードされてる」


二度目の鼓動が来る。


ドン。


今度は嚢体表面の薄膜が同時にごく細い隙間を開き、そこから目を凝らさなければ見えないほど薄い白霧が滲み出す。霧は散らばらず、そのまま嚢体を吊る金属繊維に沿って外へ這い出し、ゆっくりとだが確実に下へ降りていく。血管を探す白い蟻の群れのようだ。


「何をしてやがる」胃がきゅっと縮む。


エリザヴェータが先に答える。「新しい拍子を探しておるのじゃ」


言葉が落ちた瞬間、下部の陶黒色の薄盤群が一斉に停止、逆回転を始める。節点内腔の音が一変し、心拍や低周波、工業的な呼吸から、無数の「人声の断片」を帯びる。文章にならない単音が、薄盤の隙間で母音や気音として漏れては切り刻まれる。都市で発せられたすべての言葉を粉に挽いて、再び練り直しているような音。


エレナが悪態をつき、すぐさま外殻右下のインターフェイス前に戻り、破解器を別モードへ。青い光が細く鋭い一束となる。


「第二波が来る。今度は外の節拍の壁じゃない。内腔防衛。私はここで同期肋と内層自校拍を切る。さっきの一戦を無駄にしたくないなら——」


「つまり、また俺たちに盾になれと」俺は言う。


「そうよ」彼女は顔も上げずに返す。「ここで命脈と罠の区別がつくのは私だけだから」


その言葉の直後、中央の嚢体を吊る十数本の金属繊維のうち、六本が同時に光った。


正確には、中を白霧が線に沿って下がり、下の薄盤の縁近くで空気中に姿を取り始める。輪郭、肢体、頭部に相当する何か——完全な人型ではなく、無数の人間の「姿勢」からパーツを切り抜いて動けるだけのものを無理やり繋ぎ合わせたような。コート姿の上半身に逆関節の脚、車椅子を押す看護師の前傾姿勢に半回転多い首、真ん中はオフィスワーカーの輪郭で、肋骨の下から四本の細長い腕が伸び、どれも切り絵のように薄い掌を持つ。


白霧から一歩ずつ「現像」される間、足音は一つもない。ただ、内腔いっぱいに人声の母音の断片が擦れ合う音。


「今度は何だよ」手の中の黒い残骸を握り直し、掌が汗ばんでいるのに気づく。


節拍衍生体(デリヴァント)」エレナは資料を読み上げるように言う。「独立した個体じゃない。節点が収集した人間の日常の姿勢、発声パターン、移動の癖を圧縮して、ガード用のテンプレートにしたもの。簡単に言えば——」


「ここは市民生活を怪異に仕立て上げたってことだろ」俺が引き継ぐ。


「そう」彼女は冷たく付け加える。「それも予算つきで」


白霧から生まれたそれらは、すぐには襲ってこない。それぞれ薄盤の縁で立ち止まり、「聴く」ように俺たち三人の中で誰が一番自分の拍子に近いかを測っている。左の痩せた奴が頭部を俺へ、中央の四腕のオフィス怪異がエレナへ、右の女性輪郭で膝下が霧になっている奴がエリザヴェータへと注ぐ。


エリザヴェータはそれを見つめ、淡々と言う。「今度はようやく少しばかり形になってきたの」


「隊友を励ます台詞じゃねえな」


「もとより鼓舞するつもりなどない」


三度目のドンが響き、内腔のガラス管が一斉に細い亀裂を走らせる。割れはしないが、すべての管がごく細い口を開く。大量の灰白色霧がそこから吐き出され、視界は幾重もの半透明の幕で区切られる。衍生体たちは霧の中を前後に移動し、地を踏まないのに「近づく」ことだけが異様にリアルに伝わる。


エレナが顔を上げた。「分担、今すぐ」


指先が三方向を示す。「私はインターフェイス側で、同期肋と内層自校拍を切る。周士達(ジョウ・シーダー)、左側の薄盤エリア。そっちの二体を引き離して、私のラインには触れさせない。本体は不安定だから、中心より『姿勢』を崩せ。彼女——」エリザヴェータを見て、微塵の迷いもなく言う。「正面。中央の四腕は主嚢体と下部中軸を守ってる。あれが居座る間、ここは何度でも再構築される」


エリザヴェータが首を傾げる。「妾ひとりに正面を任せるつもりか」


「そうよ。ここで『人』という概念に一番足を取られないのは、あなたしかいない」


俺は口元が引きつる。「その褒め方、悪口との境界線が紙一重だな」


「使えればいいのよ」彼女の破解器が再び青く光り、奥へ進む。「あと、霧の中の人声に引きずられるな。第二波は節拍で押し潰すんじゃない。『見知った誰か』を認識した瞬間、その拍の中に自分から入ることになる」


「要するに化け物を知り合い扱いするなってことだな」


エリザヴェータはすでに正面へ歩き出し、黒傘をゆっくり持ち上げる。夜の中で誰かが本当に月光を武器にしたら、きっとこんなふうだ。


振り返らず、淡々と言い捨てた。「まず己の心配をするがよい。左の二体、すでにお主の歩き方を真似ておるぞ」


胸の奥が冷える。左を向くと、左側薄盤の縁に立つ二体の衍生体のうち、一体は俺の側圧姿勢を、もう一体はさっきの乱れた前傾ダッシュを真似ている。


——この場所、本気で「人間観察」を本業にしてやがる。


「上等だ」腐った空気を吐き出し、足を左側薄盤エリアへと踏み出す。「じゃあ、分かち合おうか——どっちが先に相手をダメにするか」

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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