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44.ペレシュ城 44-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

ペレシュ城の大扉が、俺たちの前で口を開けていた。歯のない口。だからこそ、余計に安心できない。


俺は扉の外で最後にもう一度、空を見上げた。山風は冷たく、木立の稜線は黒く、遠くにはルーマニア特務とL.U.P.の外周封鎖線がすでに展開されている。葉綺安(イェ・キアン)(シキ)林雨瞳(リン・ユートン)の三人は外周に残った。今ごろ、こちら側の灯りと銃声のひとつひとつを、目を離さずに見張っているはずだ。


正直に言う。あの三人と立場を替わりたかった。


外周なら、せめて悪態をつける。


中は、何かにじっと見られるだけだ。


ミルチャが先頭に立った。公式の口上もなく、政府の人間がやるものだと俺が思い込んでいた儀式めいた手順もなく、ただひと言だけ言った。


「中に入ったら、最初に目に入った平面を信じるな」


真鍋が眼鏡を直す。


「空間の折り返しですか?」


「それより古い」ミルチャが言う。


「結構」俺は言う。「その言い方、生きてる人間向けじゃないな」


エリザヴェータが俺の左に立ち、ごく自然な動きで手首に手を添えた。迷子にならないよう繋いでおく、とでも言いたげな仕草だった。


「そもそも汝は、生きてる人間に分類されるかどうか、微妙なところじゃ」と彼女は淡々と言う。


「ありがとう、今日も絶好調だな」


「妾はいつでも絶好調じゃ」


イリーナはそんな会話に加わらなかった。弾倉とナイフの確認を終えると、一番最初に扉の中へ踏み込んだ。ミルチャが続く。次に俺とエリザヴェータ、後ろにヘイズ、ヴォロンツォフ、真鍋、カーン。


最後の一人のかかとが敷居を越えた瞬間、背後の両開き扉がひとりでに、ゆっくりと閉まった。


風はない。


機械音もない。


ただ、閉まった。


カチリ。


音は小さかった。だが俺の背中の皮膚が、そのまま一枚ぶん縮んだ気がした。


同じ瞬間、真鍋の手元のセンサーがパチンと鳴って乱数を吐き出した。ヘイズのボードの波形が一瞬跳ね上がり、突然ゼロに戻る。カーンの腰に下がった金属経牌が触れ合い、歯が震えるような細い音を立てた。


ヴォロンツォフが低くロシア語で何かを言った。


意味は分からない。


だが語気からして、祝福の類いではない。


大広間は、昼間に見たよりもさらに高く、さらに暗かった。木梁、鹿角シャンデリア、石柱、タペストリー、階段——夜の中でそのすべてが、別の層を生やしていた。影じゃない。年月だ。ここに足を踏み入れるのは、城に入ることじゃない。時間にまだ処理しきれていない時代の堆積の中に、足を突っ込むことだ。


思わず振り返って扉を見た。


扉はある。


だが扉の隙間の向こうに、外の山の夜はなかった。あるのは薄く、灰色で、霜を結んだガラスみたいな色だけだった。


「結界だ」真鍋が低く言う。


「外を遮断するためではない」エリザヴェータが言う。


全員が彼女を見た。


彼女は俺の手首から手を離し、二歩前に出た。顔を上げ、大広間の上方、闇に半分飲み込まれた穹窿を見る。


「内側を封じるためのものじゃ」彼女は言う。「昼間はここを観光客に貸してやっておる。日が落ちると、この建物は昼間だけ取り繕っていた顔を少し引っ込める。もっと下にいる何かが、階段を伝って上がってこぬようにな」


ヘイズが最初に記録した。


「So the castle is a lid」


エリザヴェータが一瞥をくれる。


「歯止めに近い」と彼女は言う。


俺はうなずいた。


「結構。どんどん居心地が悪くなってきた」


ミルチャは時間を無駄にしなかった。すぐに隊を率いて、大広間右手の——観光客が昼間には通らない——廊下へと進んだ。昨夜は見る余裕もなかった通路だ。照明は全灯ではなく、壁燈がいくつか辛うじて生きているだけで、光は古びた骨みたいな黄色をしていた。


廊下の両側に掛かった絵画は、すべて布で覆われていた。


だが布の下の輪郭が、いくつか、明らかに額縁の形をしていなかった。


もっと細く、もっと縦長で、もっと——立っている人間に似た形のものが、一緒に覆われていた。


俺は訊かなかった。


ここに来て少し賢くなった。


こういう場所では、一つ余計なことを訊かないだけで、五分くらい長く生きられる。


ミルチャが寄木細工の壁の前で止まり、壁燈の台座を押した。壁板が微かに震え、後ろへ細い隙間を開ける。


向こうは秘密の通路ではなかった。


保守点検用の通路だった。


コンクリートの床、金属配管、古い電線ケーブル、近年補強された防火扉。古城の皮を一枚めくると、その下から政府と秘密組織が最も慣れ親しんだものが顔を出した。配管、保守標識、番号、封印。


「ようこそ、本当に金をかけてる場所へ」俺は言う。


イリーナが冷たく言う。「黙れ」


俺たちは一列になって入った。真鍋が入口に最初の結界釘を打ち込む。釘が壁に入った瞬間、通路の蛍光灯がパチッと一度点滅した。何かが一瞬、刺されたみたいに。


カーンは分岐点に経牌を三枚掛けた。ヴォロンツォフは壁に何かの灰を塗りつけた——焼いた香と鉄を混ぜたような匂いがした。


ヘイズはずっと無言で、センサーを壁に向けてスキャンし続けていた。


「Recent heat signatures. Movement within twelve hours. Maybe less」


ミルチャは振り向かずに言う。


「撤退が急だったんだろう」


俺にも匂いが届いた。


人の匂いじゃない。薬液、プラスチック、血液バッグ、溶接の焦げ、そして実験室特有の——何度洗っても落ちない湿った消毒液の冷たさ。


通路はずっと下へ続いていた。防火扉を二つ抜けた。三つ目の扉は爆破されていて、扉枠ごと外側に反り返っていた。鍵を開ける手間を省いて、そのまま扉ごと破片にしていったらしい。


扉の向こうは、臨時処置室だった。


踏み込んだ瞬間、胃が一度縮んだ。


壁際には処置台車、拘束帯、空の血液バッグ、使い捨て防護服、破れたヘッドカバー。中央にステンレスのベッドが二台。一台には乾いた濃い色の引っ掻き傷が残っていて、もう一台のベッド脚には銀粉と毛が少量こびりついていた。


犬の毛じゃない。


何の毛か、俺には分かった。


イリーナが俺より先に近づき、しゃがんで、その毛を一瞥した。


表情が、底まで沈んだ。


「混血狼種」と彼女は言う。「幼体だ」


室内が一秒、静まり返った。


小型の研究施設、下位の吸血鬼、混血の狼人間——昨夜、山の上で俺たちが遭遇したものたちが、突然、野外拠点の試作品ではなくなった。


ここが源だ。


ヘイズが身をかがめ、台車の上のガラス瓶のラベルを読み上げた。


「Hemostatic suspension... tissue viability... cross-line retention...」


読みかけて、眉をひそめる。


「普通の地下診療所じゃない。量産前処理施設だ」


「分かりやすく言ってくれ」俺は言う。


「人間を、もっと使い勝手のいい素材に加工してる」と彼女は言う。


「それなら分かる」


ヴォロンツォフが反対側の棚の扉を引いた。中には注射器と標本容器が整然と並んでいた。最下段には持ち出されなかった小型の金属ケースがいくつかあり、開けると中に歯が入っていた。


人間の歯。


人間だけじゃない。


いくつかは長すぎて、尖りすぎていて、根元に銀糸が巻きついていた。


カーンが低く祈りの言葉を唱えた。


真鍋は壁に半分剥がされたまま残っていた作業工程表を見つめていた。顔色がよくない。


「単純な培養じゃない」と彼は言う。「安定化だ。C.U.I.B.は怪物を作ろうとしてるんじゃない——怪物を、使えるものにしようとしてる」


「企業精神があるな」俺は言う。


誰も笑わなかった。


そのとき、処置室の奥の気密扉の向こうから、かすかな引っ掻き音が聞こえた。


全員が同時に振り向いた。


二度目は、一度目よりはっきりしていた。


金属の内側を、爪がゆっくりと這う音。


イリーナが即座に銃を構えた。ヴォロンツォフが手を伸ばして俺を半歩後ろに押した。ヘイズが壁際に下がる。真鍋は片手に結界釘、もう片手で腰の短銃に触れた。カーンが経牌を一枚、指の間に挟む。


ミルチャがひと言だけ言った。


「開けろ」


イリーナが扉の取っ手を蹴り上げた。


扉が弾け飛んだ瞬間、黒い影が飛び出してきた。


速かった。飢えで膨らんだボロ布が宙を飛ぶみたいな速さだった。細長い四肢、灰白色の皮膚、顔の半分はまだ人の形を留めていたが、残り半分は犬と蝙蝠を雑に縫い合わせたような何かになっていた。イリーナに向かわなかった。俺に向かってきた。


当然そうなる。


どこへ行っても、最初に俺に来る。


本能的に横へ飛んだが、左手が散弾銃に届くのが遅れた。イリーナの銃が先に鳴った。一発目で肩の骨を砕いたが止まらない。二発目が出る前に、そいつは体をねじって俺の顔面に向かって飛んできた。


俺は腕を上げ、銀のナイフを横に構えて受けた。


刃が肉に入ったときの感触は、想像よりずっと粘かった。そいつが全体重でぶつかってくる。口が限界まで開いて、牙が刀の峰に当たり、歯が浮くような音を立てた。


そのとき、エリザヴェータが俺の横から手を伸ばし、そいつの下顎を掴んだ。


ただ、掴んだだけだ。


バキッ。


頭全体が、蝶番を逆に折ったみたいに、後ろへ折れた。


二度ほど痙攣して、動かなくなった。


俺はその場に立ち尽くした。ナイフをまだ構えたまま、「礼を言うべきか、言いたくないか」という複雑な気持ちとともに。


エリザヴェータはそいつを室内に投げ戻した。カビの生えた布でも捨てるみたいに。


「下位の個体じゃ」と彼女は言う。


俺はナイフを収め、息をついた。


「『下位』って毎回コンビニの見切り品みたいに言うの、やめてもらえないか」


「実際、大差ないからのう」


ミルチャがその死体を一瞥する。


「残留した番犬か」


「いや」エリザヴェータが言う。「これは捨て忘れた生ゴミに近い」


ヘイズが素早く写真を撮り、サンプルを採取した。イリーナはその小部屋に入り、中を確認すると、顔全体が暗くなった。


「空だ」と彼女は言う。


「他には?」ミルチャが訊く。


「引きずった跡がある。大型収納ケース、三から四個分が搬出されている。床に薬液の飛沫痕。撤退から六時間は経っていない」彼女は一拍置いた。「それと——下へ続く昇降井がある」


その一言で、全員が移動した。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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