38. 永久の女大公 38-2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
まずこっちを抑えなければ。
「希」
「なに?」
「誰かが先に動いても、先に笑うな」
「え?」
「先に撃て。笑うのは後でいい」
「あー」
希は少し考えてから言った。
「それもええか」
このろくでなしめ。
エリザヴェータが俺の隣で、ごく小さな声で言った。
「汝の仲間は、なかなか騒々しいのう」
「あんたも大概だろ」
「妾は誠実なだけじゃ」
「さっき人の首を落とした時も、十分誠実だったな」
彼女が横目で俺を見る。唇の端に、かすかな笑みが浮かんだ。
「それで、まだ怒っておるのか?」
「俺が楽しそうに見えるか?」
彼女は少し考えてから、ひどく真面目な顔で答えた。
「港からここまで、汝はずっと楽しそうには見えなかったが」
その一言で、俺は危うく言葉に詰まりそうになった。
その隙をついて、モラルが再び場を交渉の方向へ引き戻そうとした。
「周さん、直接条件を話し合いませんか」
俺は冷たく彼を見る。
「巣の連中は本当にその言葉が好きだな」
「条件があれば、不要な血を多く避けられますから」
「違う。お前らはただ、血が自分たちの受け皿に流れ込んでほしいだけだ」
彼はわずかに微笑む。
「それは矛盾しませんよ」
この文明ぶった口調に、本当に反吐が出そうになってきた。
だが今は、こいつの頭を吹き飛ばす場面じゃない。
俺は狼の牙の女に向き直った。
「名前は?」
彼女は一瞬、意表を突かれたように固まった。こんな状況で名前を聞かれるとは思っていなかったのだろう。やがて、硬い声で答えた。
「イリナ」
「よし、イリナ。今夜まず一つだけ決める。グレゴルの遺体は、あんたたちが連れて帰れ。今夜、L.U.P.の全員はここから撤退する。巣の連中とここで正面からぶつかるな。これは退くんじゃない。命を残しておくんだ」
彼女は冷笑した。
「そいつを連れて帰らせて、ということ?」
「そうだ」
「なんの権限があって?」
「今夜、あいつが俺と行く気になっているからだ」
俺は言う。
「あんたたちには今、あいつを止める手段がない。そしてあいつが気が変わったとき、最初に割を食うのは俺じゃなく、一番近くにいる奴だ」
イリナは今にも歯が砕けそうなほど噛みしめていた。
エリザヴェータを見る目は、今すぐ喉元に飛びかかって引き裂きたいと言っていた。だが同時に、自分が本当に飛びかかったら、グレゴルが今夜唯一の遺体ではなくなることも、分かっている。
モラルがそこへ話を引き取った。
「では、C.U.I.B.側の要求はシンプルです」
「『シンプル』って言葉を俺に使うな」
俺は遮る。
「お前らのシンプルは、たいてい最高に胸糞悪い」
彼はまったく気にした様子もなく、続けた。
「今夜は後退します。ここで全面交戦はしない。その代わりに、二点だけお願いがあります。第一に、今夜下の館で回収したサンプルと文書について、我々は追索権を保留します。第二に——」
視線がエリザヴェータに落ちる。
「その後の接触窓口の確立を、希望します」
「随分と都合のいい頭してんな」
俺は言う。
「想像力は、文明の発展を支える原動力ですよ」
「その台詞、今すぐ霰弾と一緒にお前の墓に叩き込んでやる」
ついに彼が笑みを消した。
——結構。まだ不機嫌になれるらしい。
イリナがその瞬間に立ち上がった。声は石を引っ掻くナイフのようだった。
「条件交渉はない。グレゴルの落とし前は自分たちでつける。今夜は手を出さない、それだけだ。ただし、巣の連中が先に引かなければ話にならない」
モラルはイリナを見た。その目に、初めてわずかに「人を見る」色が混じった。地方勢力の駒としてではなく。
「イリナさん、悲痛の中でも判断力を保てる方を、私は尊敬します。ただ、それを一方的に——」
「もう一度私の名前を呼んだら」
イリナは言った。
「まず膝の皿を撃ち抜く」
その言葉で、場の空気がようやく少しだけ正常に戻った。
仇同士らしくなってきた。討論会じゃなく。
俺は深く息を吸い込み、いっそテーブルをひっくり返してしまうことにした。
「いいか、結論を言う。両方ともよく聞け」
俺は銃口で一人一人を指しながら言う。
「第一、今夜は大きな戦闘はなし。先に動いた方を、俺がもう片方の側について潰す。第二、グレゴルの遺体は狼の側が連れて帰る。第三、城と下の館は今夜以降封鎖する。どちらも乗り込んで物を漁るな。第四——」
俺はエリザヴェータに向き直った。
彼女は辛抱強く俺を見ていた。今夜の宿泊先を俺に決めてもらうのを待っているかのように。
「——あいつは俺と行く」
モラルがすかさず口を開いた。
「それは我々としては——」
「お前らに選択肢はない」
「周さん——」
「もう一言でも言ったら、開戦の意思表示と受け取る」
その言葉が落ちた瞬間、C.U.I.B.の後列で何人かが銃を持ち上げた。葉綺安の銃口も即座に上がる。希に至っては、もう笑い声を上げていた。この瞬間をずっと待っていたとでも言うように。
「来いよ」
希は言う。
「誰から行く?」
エリザヴェータが静かに、ふっと息を吐いた。
ごく軽い吐息だった。だが霧のように、一瞬で山の斜面全体を滑り抜けた。
次の瞬間——前列のC.U.I.B.武装要員数名の銃口に、細かい白い水蒸気が凝結し始めた。真夜中に突然霜が降りたかのように。その霜はあまりにも速く、金属を伝って手の甲まで這い上がってくる。一人が驚きの声を上げ、銃を取り落としそうになった。
全員が静止した。
エリザヴェータは手も上げていない。ただモラルを見ながら、ホテルの給仕にお茶を別のテーブルに置かないよう注意するような、淡々とした口調で言った。
「今宵はもう、火薬の匂いを嗅ぎとうはない」
彼女は続ける。
「火吐く鉄管を向けられることにも、いい加減飽き飽きしておる。妾が本当に厭き果てたらどうなるか——試してみるがよい」
モラルはついに黙った。
それは引き下がりではない。計算だ。
銃口の霜を見て、こちら側の人間を見て、最後にゆっくりと息を吐き出した。
「……分かりました」
彼は言う。
「今夜、C.U.I.B.は後退します」
イリナがすかさず言った。
「山道の外まで、全員退け」
モラルが彼女を一瞥した。
「構わない」
「車のライトも消せ」
また一秒、間が空いた。
「構わない」
「何も持ち去るな」
「その点については——」
エリザヴェータがモラルを見た。
ただ、見ただけだ。
それだけで、モラルは続きを飲み込んだ。
「……今夜は、応じよう」
イリーナは銃を握ったまま、その眼差しは相変わらず刃のように冷たかったが、少なくともこれ以上前には出なかった。
よし。ようやく、かろうじて「停戦」と呼べる形になってきた。
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