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37.真祖 37-4

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

早すぎて、惜しむ時間すら与えてもらえなかった。


昨夜、バルコニーで俺に向かってルールを語っていた男が、今は頭と体が二か所に分かれて転がっている。ベテランハンターが怪物よりも嫌うのが、「せめて覚悟はできていた」とすら言わせてもらえない類の古い怪物だということが、ようやく分かった気がした。


少女は俺が徽章をポケットに収めるのを見て、不意に言った。


「あの者を惜しんでおるのか?」


「それの何が悪い。」


「あれは妾を殺そうとした。」少女は淡々と言った。「妾が殺し返した。公平じゃ。」


俺は立ち上がり、噛み破られた襟元を引っ張った。


「お前たちみたいな、生きすぎた連中って、どいつもこいつも自分のことを筋が通っているように語るよな。」


少女は否定せず、ただわずかに頭を傾けた。考えているような間があった。


「そうかもしれぬのう。」少女は言った。「理由を与えてやらぬと、妾たちはただの怪物に見えてしまうからな。」


俺は二秒ほど少女を見つめた。


「それは、少し正直な答えだ。」


少女は受けず、ただ外を見た。銃声が半秒だけ途切れ、続いて鉄器が骨に当たる鈍い音がした。(シキ)がまた誰かを年齢不相応な方法で地面に埋めたらしい。


哲学問答をしている場合じゃない。俺は散弾銃を肩に担いだ。


「下りるぞ。」


少女は銃口が向いている方向を一瞥し、眉の端がごくかすかに動いた。俺の粗雑さが少し可笑しかったらしい。


「人にそのような命令をよくするのか?」


「今、俺の首は血が出ていて、外では仲間が撃たれていて、お前は俺の唯一の現地案内人を殺した。」俺は言った。「だから、ああ、今は機嫌が悪い。」


少女は半秒黙った。


それから本当に、前に歩き出した。


脅されたわけでも、銃が怖いわけでもない。どちらかというと、「まあ、ここにいても退屈じゃしな」という感じの、そういう態度だ。


それは、彼女が怒るよりもよほど腹が立った。


俺たちは前後になって回廊を離れ、銃火が最も激しい方向へ向かった。少女の足音は軽く、長いスカートが石畳を引いてもほとんど音がしない。俺は二歩歩くたびに首の傷がずきりと脈打ち、これが幻覚じゃないと教えてくれた。本当に古城の少女吸血鬼に噛まれて、しかもその少女が今、一緒に山を下りようとしている。


最近の生活が超自然に底なしに侵食されていなかったら、この事実だけで立ち止まってタバコを三本吸うところだった。


石段を下りると、木の影が濃くなり、銃声がはっきり聞こえてくる。


最初に(シキ)の姿を見つけたとき、俺は一瞬、あれが(シキ)だと分かるまでに時間がかかった。


本人が変わったわけじゃない。立っている場所が常軌を逸していた。


石造りの天使像の肩の上に、しゃがんでいた。


あの像は優に三メートルはある。片翼は半分折れている。普通の人間なら登るだけでも億劫なのに、あいつはそこに当然のようにしゃがんでいた。ゴミ山から面白いものを見つけた野良猫みたいに。夜風で髪がぐちゃぐちゃに乱れ、手にはどこから拾ってきたのか錆びた鉄の棒。次の瞬間、車の後ろから半身を乗り出して撃とうとした男が肩を覗かせたと思ったら、(シキ)が天使の肩から飛び降りた。


俺が見えたのは、影が落ちていく軌跡だけだ。


続いて、骨が潔く折れる音がした。


男は悲鳴を伸ばす間もなく、(シキ)に車の屋根ごと地面に叩き込まれ、銃が弾き飛んだ。(シキ)は着地しながら笑い声を上げた。楽しくて仕方ないみたいに。


「やっと下りてきた!」


「お前はなんで毎回そんな高いところに張り付いてるんだ!」


「こっちのほうが戦いやすいもん!」


なるほど。


実に(シキ)らしい。


一方の葉綺安は、まったく別の絵柄だった。


崩れた石壁の陰に身を伏せ、体を低く保ち、銃床を肩に当て、引き金を引くリズムが釘を打ち込むみたいに容赦ない。一発撃つたびに位置をずらし、全身が闇と一体化しているみたいだ。(シキ)の、相手の魂を吹き飛ばすような戦い方と比べると、葉綺安のほうがよほど怖い。なぜなら、静かだからだ。静かすぎて、弾を込め直しているはずの瞬間、息を整えているはずの瞬間、せめて一言悪態をついているはずの瞬間に、また一発来る。


葉綺安は俺を見て、最初に言ったのは「大丈夫か」じゃなかった。


直接罵ってきた。


「何やってんだよ、女一人拾いに行くのにどんだけかかってんだ――」


言葉が途中で止まった。


俺の背後にいる人物に、ようやく気づいたからだ。


葉綺安が止まると同時に、(シキ)も倒した相手の上から立ち上がって、イェ・キアンの視線を追った。次の瞬間、目がぱっと輝いた。


「わあ。」


俺は(シキ)のこの「わあ」が嫌いだ。


たいていの場合、あいつが「わあ」と言うのは、美人を見たときか、新しい災害を発見したときだ。両方同時のこともある。


周士達(ジョウ・シーダー)、」(シキ)は地面の哀れな男から立ち上がり、ついでに相手の銃を蹴り飛ばしながら言った。「ちょっと上に行ったと思ったら、なんでボス連れて降りてくんの?」


「私も知りたいところね」


葉綺安の銃口は前方を向いたまま、それでも全身が目に見えて強張っていた。


「あれは誰?」


俺が答えるより早く、背後に立っていた少女が、ひどく礼儀正しい口調で名乗った。


「エリザヴェータ」


彼女はそっとスカートの裾を摘まみ上げた。ここが銃撃戦の真っ只中にある石段ではなく、まるで舞踏会で挨拶でもするかのような優雅な所作だった。


「エリザヴェータ・フォン・ドラキュリヤ=バートリ・ストックマン」


この長ったらしい名前を聞いた瞬間、まず頭に浮かんだのは——こいつ普段自己紹介する時、相手にまず水でも一杯出しとくのか?という疑問だった。


だが、まだ終わりじゃなかった。


「トランシルヴァニアの月にして、龍の血脈を継ぐ者。カストロ主城が永久(とこしえ)の大公——」


「はいカット。そこまでだ」


俺は手を上げて、その口上をぶった切った。


「続きは後回しでいい。チェックインの時にでもゆっくり書いてくれ」


エリザヴェータがこちらを振り向く。その瞳に、初めてはっきりとした不機嫌さが浮かんだ。


「これは極めて重要な——」


「今ここであと四文字でも余計なこと口にしたら、前のライフル持った連中に蜂の巣にされるぞ」


俺のこのぶっきらぼうな編集方針が、どうにも気に食わないらしい。だが、石欄干をかすめて弾丸が二発、続けざまに飛び込んできた現実のほうが、さすがに優先度は高かったようだ。エリザヴェータも、しぶしぶ意識を目の前の状況へ戻す。


葉綺安が低く問う。


「噛まれたの?」


「そっちは後でいい」


「先に殺した方が早いわね」


「殺せるなら、さっきグレゴルが首飛ばされることはなかった」


その一言で、場の空気がさらに一段階冷え込んだ。


葉綺安も、俺のシャツの襟元に付いた血は見ていた。だがきっと、今の今まで——これは「周士達(ジョウ・シーダー)がまた女を一人拾ってきた」程度の話じゃない、ってことを、本当の意味では理解してなかったんだろう。


俺の顔色。首筋の噛み跡。そして、人間の銃火なんてまるで怖がる素振りも見せないエリザヴェータの態度。それらを全部合わせて導き出される答えは、一つしかない。


——この山の上の城には、本当にいる。老練な狩人の首を、一瞬でねじ切って捨てるような、化け物が。


(シキ)のほうは、もっと単純だった。


横を向いて、血の混じった唾をぺっと吐き捨てると、へらへら笑いながら訊いてくる。


「で、あんた今のとこはウチらサイド?それとも、まず誰から噛むつもり?」


エリザヴェータは少し考え込む仕草をしてから、あっさりと答えた。


「当面は、あやつの側であろうな」


顎で俺のほうをくい、と示しながら。


「奴のほうが、いくぶん興が乗るゆえな」


「……その答え、一ミリも安心材料になってないんだけど」


(わらわ)は、汝らを慰撫しに来たのではないぞ」


この言い方が別の誰かだったら、多分とっくに殴り飛ばしている。だが、こいつは「さっきグレゴルの頭を栓抜きみたいに引きちぎった女大公」その人だ。誰も、軽々しく感情を爆発させるわけにはいかない。


前方の林道に、再びヘッドライトの光が差し込んだ。


今度のは、さっきみたいに迷い込んだ少人数の残党じゃない。編成された「部隊」だ。


黒塗りの四輪駆動が三台、山道に沿って一列に並ぶ。ライトが一斉に点き、坂を真昼のように照らし出す。リアドアが開くと、ダークカラーのタクティカルギアを着込んだ連中が次々と飛び出してきた。動きは素早く、銃口もぶれない。立ち位置も、寄せ集めの傭兵とはまるで違う。


軍隊じゃない。だが、軍隊そっくりになるまで、相当な金と時間をぶち込んだ連中だ。


(シキ)が舌打ちする。


「また来よったで」


葉綺安はマガジンを替えながら、氷のような声でぼそりと漏らした。


「今度のは、まだ人間らしい動きね」


「そこが余計にタチ悪いんだよ。人間らしいのは、だいたい一番ゲスい」


向こうは、すぐには撃ってこなかった。


代わりに、車列の陰から一人の男がゆっくりと姿を現した。


中年の男。痩せぎすで、背が高い。濃色のウールのロングコートを着込み、きっちりと巻いたマフラー。鼻梁には金属製の細いフレームの眼鏡。手には銃ではなく、黒い傘を一本持っているだけ。


足取りは速くも遅くもなく、しかし一切慌てたところがない。まるで、古城の前線に立ち会いに来たんじゃなく、コンサート開演前のロビーを歩いているかのような余裕ぶりだった。


ライトのど真ん中まで進むと、まずは荒れ果てた斜面を一瞥し、それから石段の上にいる俺たちを見上げる。


——正確に言えば、エリザヴェータを。


その瞬間、あの「文明人」ぶった表情が、わずかに崩れた。


恐怖、じゃない。貪欲さだ。


実験室の中で、夢にまで見た標本が、初めてガラス箱から這い出してくるのを目にしたとき。研究者の呼吸が、無意識に静かになる、あの感じ。


エリザヴェータは、男をひと目見ただけで、心底退屈そうな顔をした。


「また、その面か」


彼女は吐き捨てるように言う。


「巣の者どもは、皆あのように病み衰えた面構えなのか?」


男はその言葉を聞いて、なぜか口元に笑みを浮かべ、軽く一礼すらしてみせた。


「再びお目にかかれて光栄です、公爵閣下」


「妾は、汝に光栄を賜った覚えはないが」


「それは、我らが側の痛恨事でございましょう」


この二人のやり取りを聞きながら、心の中でつぶやく。


——今夜はつくづく、「胸糞悪い慇懃無礼」って言葉を極限まで堪能する夜だな。


葉綺安が小声で訊く。


「誰?」


「知らねえ」


俺は肩をすくめる。


「けど、殴りてえ顔なのは分かる」


男はそこで、ようやくこの場には他にも「生きた人間」がいることを思い出したかのように、視線を俺に移した。


"Good evening, Mr. Zhou from the harbor,"


男は、癖の薄い、妙にきれいな英語で言った。しかもどこか、大学の講堂で倫理学でも教えていそうな上品な響きすらある。


"and to your companions as well."


「別に、あんたと"グッドイブニング"する気分じゃねえよ」


"That is quite understandable,"


男は微笑みを崩さずに続ける。


"After all, there have been some… unfortunate misunderstandings tonight."


思わず噴き出しかける。


「"誤解"?お前ら、自動小銃で俺の仲間を蜂の巣にしといて、それを誤解って呼ぶのかよ」


"If it has caused you any inconvenience, I sincerely apologize."


「ついでにその場で土下座でもしてみるか?」


"If that is what you wish, I can certainly oblige."


大学で倫理でも教えてそうなその顔をじっと見つめながら——腹の中まで同じくらい胸糞悪い礼儀作法で詰まってるのか、一発ぶち込んで確かめてみたくなった。


エリザヴェータが隣でふっと短く笑った。


「汝ら、いつも同じことをするのう」


彼女は言う。


「わざわざ火吐く鉄管を携えながら、まずは宴の挨拶じみた戯言を並べ立てねば気が済まぬ。まったく、骨の折れることよ」


男は言い返さず、手に持った傘の先で地面を軽く突いた。


「我々はただ、今夜の問題をより文明的な方法で処理したいと願っているだけです」


「文明?」


葉綺安がついに冷笑を漏らした。


「さっき森をあれだけ蜂の巣にしといて、今さら文明?」


男は葉綺安を一瞥したが、その表情は依然として穏やかなままだった。


「お嬢さん、文明とは手段ではなく、結果を指すものですよ」


「へえ、あんたらの巣の犬っころは、そうやってお勉強してはるんやね」


(シキ)が横で吹き出した。


男の顔から、ようやく笑みが少しだけ薄れた。


——結構。


少なくとも、まだ効いてはいるらしい。


男は再び俺に向き直る。その口調も、もうお茶会気分のそれではなくなっていた。


(ジョウ)さん。我々が何者か、すでにご存知のことと思います」


「C.U.I.B.」


俺は言う。


「地下室で死体でも飼ってそうな学習塾みたいな名前だな」


男はまるで動じず、軽く頷いた。


「"Centru pentru Umbre Inominate și Biotehnologie"(名もなき影と生体工学の中心)」


彼は続ける。


「そして今夜、我々はあなた方と全面衝突する意図はありません。ただ、元々よそ者のものではなかった品を、持ち帰りたいだけです」


男の視線が、再びエリザヴェータに向く。


今度は、もう隠そうともしなかった。


敬意ではない。愛慕でもない。


評価。測定。解体。所有。——永遠の命の素材を目の当たりにした時、骨の髄から滲み出るあの胸糞悪い欲望。


エリザヴェータは、それを読み取った。


その顔から、表情が瞬時に凍りつく。


それは怒りではない。怒りよりもっと古いもの。墓前で大声で値切り交渉を始める輩を見た時のように、夜そのものが「こやつは躾がなっておらぬ」と眉をひそめるような、そんな冷たさだった。


「妾を見るその目、不愉快極まりないのう」


男は危険をまるで察していない様子で、さらに一歩前へ出た。


「閣下、我々はずっと敬仰して——」


「黙れ」


彼女は短く吐き捨てた。


だがその一言が落ちた瞬間、山の斜面を吹き抜けていた風が、まるで誰かに首を絞められたかのようにピタリと止んだ。車のライトは消えていない。木々も揺れている。なのに、あらゆる音が異様なまでに一段階押し潰される。


近くにいたC.U.I.B.の武装要員数名が、その場で顔色を失った。一人は思わず半歩後退りする。見えない何かに胸を殴られたかのように。


その時、林の斜面の反対側でも動きがあった。


暗がりから、何本もの懐中電灯の光が点る。


木々の奥からさらに人影が現れた。C.U.I.B.のような統一装備ではない。猟銃、短刀、分厚いコート、銀の鎖、護符、使い古された防弾ベスト——ひどく雑多な出で立ち。L.U.P.の残党が、ついに追いついてきたのだ。


そして、彼らが最初に目にしたのは——石段の上に転がる、見慣れた首なし死体だった。


空気が一変した。


狼の牙のピアスをした女が、真っ先に駆け寄った。グレゴルの遺体を見た瞬間、まるで胸を正面から殴られたように、思わずよろめく。次の瞬間には膝をつき、その分厚いコートの肩に手を当てる。二秒ほど動きを止め、それからゆっくりと顔を上げて、こちらを見た。


——正確には、エリザヴェータを。


その目は、俺にも理解できた。


単純な憎しみじゃない。


群れの長を噛み殺した存在を前にした老狼の、喉の奥から血を吐き出すような憎悪だ。


L.U.P.の何人かが即座に銃を構え、銀の刃を抜いた。空気が一気に「胸糞悪い外交の場」から「いつ爆発してもおかしくない集団復讐劇」へと切り替わる。


心の中で悪態をつく。


——クソったれが。今一番厄介なのは敌の存在じゃない。全員が全員、手を下すだけの十分すぎる理由を持っちまってることだ。


「撃つな!」


俺はまず怒鳴った。


狼の牙の女が勢いよく立ち上がり、銃口をそのまま俺に向ける。


「そいつがグレゴルを殺した!」


「分かってる!」


「あんたがそいつを連れて降りてきたの?!」


「そうだ!」


奥歯を噛みしめながら言い返す。


「だがな、今ここで引き金を引いたら——今夜死ぬのは、あいつ一人じゃ済まねえ!」


耳に痛い、残酷な言葉。でも、紛れもない現実だ。


さっきエリザヴェータが見せた速度とあの霧化能力を考えれば——今この場にいる全員をかき集めても、あいつの準備運動にすらならないかもしれない。本気で殺しに入られたら、この斜面一帯、数分で血の霧だ。


狼の牙の女も、それは分かっているはずだ。


震えているその手は、恐怖ではなく怒りによる震えだった。周りのL.U.P.の面々も同じだ。目は赤く燃やしながらも、誰も先陣を切って引き金を引こうとはしない。頭狼がどうやって死んだのか、ついさっき見せつけられたばかりなのだから。


エリザヴェータは俺の隣で、あろうことか袖口を整える余裕すら見せていた。


「あやつらも、汝の朋輩か?」


「今は身内確認の時間じゃねえんだよ」


「騒々しいのう」


彼女は小さく呟く。


「頼むから、少し黙っててくれ」


エリザヴェータが首をかしげて俺を見る。俺のこの「頼む」という響きがひどく新鮮だったらしく、意外にもそれ以上の追撃は口にしなかった。


前方のC.U.I.B.の男が、ここへ来てようやく本物の興味を顔に浮かべた。


L.U.P.を見て、俺を見て、エリザヴェータを見て、最後に石段の上のグレゴルの遺体を見る。今夜の盤面が、自分の想定よりもはるかに大きいことに、ようやく気づいたようだ。


「なるほど」


ゆっくりと呟く。


「どうやら我々は、少々……不愉快な引き継ぎの瞬間に、居合わせてしまったようですね」


「今すぐその口を閉じることをお勧めするぜ」


俺は言う。


(ジョウ)さん、あなたのご心情は痛いほど理解できます」


「理解してるかよ」


「しかしいずれにせよ、今夜の構図はもはや明白です」


彼は片手を上げ、自分の部下たちにこれ以上の前進を控えるよう合図した。


「狼は復讐を望んでいる。あなたは仲間を連れてこの場を離れたい。そして閣下は——」


再び、エリザヴェータを見る。今度は、その礼儀作法の薄皮の下で渦巻く飢えが、もはや隠しきれていない。


「——この小さな宮殿に留まり続け、無知なる者どもに幾度も邪魔されることに、すでにうんざりしておられる」


エリザヴェータが、ふっと笑った。


「よう喋るのう。妾の胸の内まで代弁するとは」


「あなた様のお役に立てるのであれば、光栄の至りです」


「生憎じゃが、汝の世話になる気はない」


彼女は冷然と言い放つ。


「汝が尖塔に吊るされ、陽を浴びて干からびる様を眺める方が、よほど愉快じゃ」


その返しに、(シキ)は腹を抱えて爆笑した。


葉綺安は笑うことすら面倒くさがり、ただ男の頭をより正確に狙える位置へと移動しただけだった。


状況は、滑稽なまでに歪になっていた。


山の斜面は今、三つの層に分断されている。


最前列には、人並みの服を着込んだC.U.I.B.の虫ケラども——自動小銃と、育ちの良さそうな口先を装備している。最後尾には、群れの長を失い、目に炎を宿したL.U.P.の狩人たち。そしてその中間に挟まれているのが、俺と葉綺安、(シキ)。そこへ、ついさっき俺の首を噛み、今まさに俺と一緒にホテルへ帰るかどうか検討中の、永久(とこしえ)の大公殿下が加わっている。


どこか一方が最初の一発を撃ち込めば、今夜はそのまま屠殺場へと直行だ。


よりにもよって、今はどの陣営も「自分がその最初の一発を撃ちたい」とウズウズしているようにしか見えない。


俺は息を吸い込み、まだ血の滲む首筋を片手で押さえると、ポケットからグレゴルの狼の紋章を取り出し、狼の牙の女へ向かって放り投げた。


彼女はそれをがしりと受け止める。指の関節が白く変色するほど強く握りしめていた。


「グレゴルは死んだ」


俺は彼女を真っ直ぐに見据えて言う。


「その落とし前をつけたい気持ちは分かる。だが今は、あんたが組織全体を道連れにするタイミングじゃねえ」


彼女は無言だった。


俺は再び、前方のロングコートの男に視線を向ける。


「お前もだ。今夜これ以上一歩でも前に出たら、まずはその無性に殴りたくなるツラをぶち抜く」


男は俺を見て、あろうことかまだ礼儀正しい微笑みを浮かべてみせた。


「それは恐らく、あなたお一人で決められることではありませんよ」


「どう思う?」


俺は振り向いてエリザヴェータに尋ねた。


彼女は二秒ほど俺を見つめ、不意に手を伸ばすと、指先で俺のコートの袖口を無造作に引っ掛けた。何らかの立場を表明するかのように。


「今宵は、妾はこの者と共に行く」


その一言で、三陣営が同時に静まり返った。


風さえも息を呑んだかのようだった。


ロングコートの男の顔から、初めて本物の亀裂が走ったように笑みが崩れ落ちる。


狼の牙の女は完全に硬直し、この言葉が脅迫なのか、侮辱なのか、あるいはもっと巨大な凶兆なのか、判断を保留しているようだった。


俺自身も一瞬、駆け落ちでも宣言するような口調で物を言うのはやめてくれないか、とツッコミを入れたくなった。


だが、最終的にはぐっと飲み込んだ。


なぜなら、対面の男がすでに笑みを消していたからだ。


彼は眼鏡を押し上げ、初めてその声色を完全に沈ませた。


「閣下。それは恐らく、最も理性的な選択とは言えませんね」


「理性?」


エリザヴェータは冷淡な視線を彼に向ける。


「汝ら巣の者どもがその言葉を口にする度、妾は反吐が出そうになるのじゃが」


「我々はただ——」


「汝らは妾を箱に詰め、血を啜り、骨を解体し、齢を数え、妾の夜を複製することを望んでおろう」


彼女は一言一言、区切るように告げる。声は決して大きくない。だが、その響きは斜面全体を底冷えさせるほどの重圧を持っていた。


「強欲を学問の皮で包むでない。見苦しいわ」


男は沈黙した。


後方の武装要員たちは明らかに緊張を走らせた。指を引き金にかける者、両翼へ散開し始める者。L.U.P.の側も同様だ。グレゴルを失った彼らは今、喉を焼くような熱を抱えた狼の群れであり、たった一つの合図さえあれば一斉に飛びかかってくるだろう。


葉綺安が俺の方へ半歩近づき、極限まで押し殺した声で訊く。


「どう収める気?」


「知るかよ」


「知らない?」


「俺は今日、首を噛まれ、城に引きずり込まれ、人の首が飛ぶのを見せられ、今や吸血鬼一人と地元の二大組織の真ん中で通訳係までやらされてるんだぞ」


俺は吐き出す。


「だからそうだな、マジでどうすりゃいいか分かんねえよ」


(シキ)は反対側から、小声で茶々を入れてきた。


周士達(ジョウ・シーダー)、あの子、あんたのこと相当お気に召したみたいやで」


「黙れ」


「ほんまやて。さっきもあんたの袖、引っ掛けとったやん」


(シキ)、頼むから今はその脳みそを生き残るためだけに使ってくれ」


「使っとるよ」


彼女は堂々と言い放つ。


「命がけでゴシップ楽しんどるんや」


蹴り飛ばして石段から突き落としてやろうかと思った。


前方では、ロングコートの男がようやくエリザヴェータから視線を外し、再び俺を見た。


今度ばかりは、あの文明人という名の外皮も、透明になるほど薄れきっていた。


(ジョウ)さん。どうやらあなたは我々の想定よりも……ずっと早く巻き込まれてしまったようですね」


「俺が選んだわけじゃねえ」


「しかし、あなたはすでにテーブルについておられる」


「お前らのテーブルは薄汚すぎてな、元から座る気なんてなかったんだよ」


「それは遺憾です」


彼は俺の隣に立つエリザヴェータを一瞥し、後方のL.U.P.にも目を向けた。


「最近のルーマニアの情勢は、傍観者を許容してはくれませんので」


——それは、珍しく本音だった。


俺はふと理解した。今夜本当に始まったのは、この銃撃戦でもなければ、グレゴルの死でもない。


向こうの巣から這い出してきたこのクソ野郎が、俺たち全員の目の前で、ついに「全員がテーブルについた」ことを認めたという事実だ。


狼、巣、五百年以上生きる吸血鬼、そして港で幽霊船から吐き出された俺。


全員がようやく、同じヘッドライトの光の中に立ち、互いの姿をはっきりと認識し合ったのだ。


俺はショットガンを少し持ち上げ、これ以上の遠慮を捨てた口調で言った。


「上等だ」


俺は吐き捨てる。


「ここまで来たからには、お前も名乗れよ。次に膝の皿をぶち抜く時まで、『メガネ野郎』なんて呼びたくねえからな」


彼は二秒ほど静かに俺を見つめた。


そして、ついに恭しく一礼する。


「アレクサンドル・モラル」


彼は名乗った。


「C.U.I.B. 対外事務調整官」


俺は口の端を歪める。


「へえ。巣の中にも、わざわざクソみたいな御託を並べる専門の役職があるんだな」


彼は怒ることもなく、ただ軽く頷いた。


「そして周士達(ジョウ・シーダー)さん。あなたもすぐに理解するでしょう。今夜はただの始まりに過ぎないということを」


言い返そうとした俺より先に、エリザヴェータが口を開いた。


彼女はモラルを見据える。その瞳は、棺の金縁を照らす月光のように、美しく、そして残酷なまでに冷たかった。


「間違っておるぞ」


モラルの眉がわずかに動く。


エリザヴェータは俺の袖口から手を離し、今度はひどく自然な動作で俺の肩に手を置いた。宣言のようでもあり、挑発のようでもあった。


「始まりではない」


彼女は言い放つ。


「汝らがようやく、巣から這い出す気になっただけのことじゃ」


山風が吹き抜け、ヘッドライトが雪のように白く輝く。


グレゴルの血はまだ石段の上で黒ずんでいる。


L.U.P.の狼たちは目を血走らせ、C.U.I.B.の銃口がずらりと並んで持ち上がる。そして俺はその真ん中で、自称・永久(とこしえ)の大公殿下なる少女吸血鬼を肩に乗せながら、ただこう思っていた。


——ルーマニアなんていうこのクソみたいな土地は、俺に一秒たりともまともな人間らしい生活を送らせる気がないらしい。


だが少なくとも今は、誰もが化けの皮を剥いでいる。


これこそが、本当の意味での初めての顔合わせだった。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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