35. 混沌の中の秩序 35-2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
作業の最中、ポケットの中の携帯が震えた。
どこかの連絡官がまたルール破りをしてきたかと思ったが、名前を見て、俺は思わず笑った。
官世恆。
政府代表。
台湾側も、ようやく目を覚ましたらしい。
周囲を見回し、振り分けラインから少し離れた仮設テントの隅に移動して、電話を取った。
繋がった瞬間、官世恆は「もしもし」さえ省いた。
「周士達、お前、今私兵武装でも持ってるのか?」
俺はテントの支柱に寄りかかり、その場で笑い声を上げた。
「私兵武装?お前らの政府、最近語彙力が上がったな」
「答えろ」
「あるよ」俺は言う。「ただし私兵武装じゃない。死人武装だ」
電話の向こうが、二秒ほど静まり返った。
あの種の沈黙は知っている。
答えが馬鹿げているとわかっていながら、実際に耳で聞いた瞬間、脳内で一度悪態をついてから受け入れる、あの沈黙だ。
官世恆が低い声で問う。
「何がしたい?」
「何がしたいって何だ?」
「亡霊艦隊を丸ごとヨーロッパ沖まで連れてきて、周士達、お前は陰陽のバランスを壊すつもりか?」
今度は本当に笑った。
愛想笑いじゃない。本気の笑いだ。
「陰陽のバランス?」笑いすぎて咳が出そうになった。「官世恆、その言い方、まるで今もそんなものが残ってるみたいじゃないか」
「先に答えろ」
俺は笑いを収めて、声のトーンを落とした。
「秦廣王とペルタスに下っ端扱いされてから、陰陽のバランスなんてものは最初からない」
電話の向こうがしばらく静かになり、それから、笑いを堪えているような短い吸気音が聞こえた。
「その一言、上に聞かれたら不満を持つ者が出るぞ」
「不満なら列に並べ」俺は言う。「今俺に不満を持ちたい奴は大勢いる。お前らの冥界公務員システムが加わっても別に驚かない」
官世恆はその一言を無視して、また聞いてきた。
「それで、その死人軍備とやらは何のために使う?」
「抑止だ」
「何を抑止する?」
「ワイスマンだ」
「効果があると思うか?」
「道理を説くよりはマシだ」俺は港の外でまだ飛竜を撮り続けている記者たちを眺めながら、ゆっくり言った。「適切な脅しがあれば、ワイスマンも軽率な動きはしにくくなる」
官世恆は沈黙した。
あの沈黙は、何も考えていないんじゃない。聞きながら同時に、この一言を何段階かの公文書バージョンに分解している沈黙だ。
俺は付け加えた。
「お前らの裏政府は、バランスだの、リスクだの、秩序だのが大好きだろう。だがその秩序は、あいつらにとっくに踏み荒らされている。ならば俺の手に、相手の頭皮を逆立てるものが一つあっても、おかしくないだろう」
官世恆が冷たく返した。
「合理的かどうかは、お前が決めることじゃない」
「それは秦廣王に言ってみろ」俺は言う。「返事が来るかどうかは知らないが」
電話の向こうで、短い笑い声がした。
「お前、本当に度胸が据わってきたな」
「度胸じゃない。状況がどんどん悪くなってるだけだ」俺は眉間を揉んだ。「いいから聞きたいことを言え」
官世恆は少し間を置いてから問うた。
「山口多聞はどうする?船を回収しないのか?」
「当面はしない」
「国際的な印象への影響、わかってるか?」
「わかってる」俺は言う。「だからこそ、しない」
「どういうことだ?」
「全員に見せるためだ」俺は外海に浮かぶ飛竜を見た。旭日旗を掲げ、夜の中でも悪夢のように立っている。「格好をつけたいわけじゃない。これが本当に存在していて、しかも今のところ先に手を出していないと、みんなに知らせるためだ。そうすれば、先に動こうとした奴の責任が、後でわかりやすくなる」
官世恆が二秒ほど黙った。
「お前の喋り方、最近会議の議事録みたいになってきたな」
「馬鹿言え、これは生存本能だ」
奴は受け流して、最後の問いを投げてきた。
「周士達、今大勢がお前を引き込もうとしているのは知ってる」
俺は鼻を鳴らした。
「情報が早いな」
「台湾を離れるつもりか?」
この問いが出た瞬間、電話の両端が少しの間、静かになった。
俺はテント布に背中を預け、港の照明が海風に揺れるのを見ながら、無性に煙草が吸いたくなった。
だが今の俺にできるのは、ポケットから禁煙飴を取り出して口に放り込むことだけだ。
刺激が舌に広がってから、ようやく答えた。
「俺はお前らに先に切り捨てられないかと、そっちを心配してるよ」
官世恆はすぐには返さなかった。
数秒後、低く言った。
「その一言は、本当のことを言ってるみたいだな」
「本当のことだから」俺は言う。「お前らの業界が一番得意なのは、問題が起きたら先に線を引いて、うまくいったら後から並んで写真を撮ることだろう」
「まるでお前が俺たちと昨日知り合ったみたいな言い方だな」
「お前らと知り合った最初の日から、距離を置きたいと思ってた」
電話の向こうがまた数秒静まり、最後に官世恆は一言だけ残した。
「死ぬな。今お前が死んだら、大勢が残業することになる」
電話が切れた。
俺は暗くなった画面を見つめ、思わず笑った。
こういうくだらない一言が、妙に身内っぽく聞こえる。
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今夜一番面倒な電話はこれで終わりだと思っていた。
三分も経たないうちに、また携帯が震えた。
今度の発信者は、さらに意外だった。
キャサリン・J・ヴァレンタイン。
あいつが電話してくるなら、慰問のためじゃない。
俺は電話に出た。
「いい理由があるといいな」
電話口から先に風の音が来て、それからあの乾いて切れのいい声が続いた。
「テレビに出てるよ、あなた」
俺はその場で笑った。
「その言い方、まるで指名手配の通知みたいだな」
「だいたいそんなものよ」と彼女は言う。「世界中であの船を流してる。あなたも映ってる」
「なるべく目立たないようにしてたつもりだが?」
「目立たない?」彼女は冷たく笑った。「旭日旗を掲げた幽霊空母の横に立って、甲板には腐乱した水兵がいて、山口多聞が後ろで煙草を吸ってる。それで目立たないつもり?」
俺は少し考えた。
「少なくとも今日は、鎌をカメラに向けて見せなかった」
「ようやく少しは自制が利くようになったのね。ありがとう」
この言い方は不思議だ。
皮肉に聞こえる。
でも少なくとも、読み解く必要がない。
俺はテントに寄りかかり、聞いた。
「横須賀の方はどうだ?」
「大騒ぎ」彼女はあっさり言った。「第七艦隊は気にしていないふりをしているが、基地の情報システムはすでにあなたの過去の記録を掘り返し始めてる。地域協力対象だという意見もあれば、高度に不安定なサンプルだという意見もある。この件は最初からなかったことにするのが一番だという意見もある」
「アメリカ人はその手が得意だからな」
「今のあなたは、アメリカ人が見立てを誤ったことを認めたくない時の証拠みたいなものよ」
俺は笑った。
「それは褒め言葉か?」
「警告よ」彼女は少し間を置いた。「元気?」
この一言に、俺は一拍止まった。
感動したからじゃない。
一日中続いたゴミ、建前、カメラ、書類の後で、この一言だけが急に本物に聞こえたからだ。
少し考えてから答えた。
「生きてる。手が少し痛い。頭が煩わしい。外では大勢の国が俺を切り刻むか値段をつけるかしたがってる。今のところ死人の方が生きた人間より規律正しい」
電話の向こうで、小さく笑い声がした。
「あなたらしい」
「電話してきたのは、俺の生中継を見るためだけじゃないだろう?」
「半分はそう」
「残り半分は?」
彼女の声が少し低くなった。
「提醒よ。今のあなたは記者に見られているだけじゃない。システムに見られてる」
この意味は、わかった。
ニュースになることと、「見られる」ことは違う。
「見られる」というのは——ファイルが再び開かれ、監視ラインが再接続され、以前は放置していた連中が急に関心を持ち始めることだ。
俺はテントに寄りかかり、遠くの飛竜の甲板で小さく明滅する煙草の火を見ながら、何も言わなかった。
キャサリンも急かさない。ただこう言い添えた。
「どちらの側も、あまり信じすぎないで」
俺は小さく笑った。
「今は自分自身もあまり信用できないよ」
彼女はすぐ返した。
「結構。そのままでいて」
電話が切れた。
俺は暗くなった画面を見ながら、携帯をしまおうとした瞬間——頭の中に、少し不快な考えが過ぎった。
この通話、聞いていたのはおそらく俺たち二人だけじゃない。
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幾つかのタイムゾーンを越えた先の、看板のない建物の中で、冷たい光が一面のスクリーンを照らしていた。
キャサリンと俺の通話の波形が長く引き伸ばされ、隣にはリアルタイムの文字起こしと、赤くマークされたキーワードが並んでいる。何人かのアナリストが別々のデスクに座り、キーボードの音と空調の音だけが静かに響いていた。
「これが、あの周士達か?」
「そうです」
「ヴァレンタイン大尉とは以前から接触がある?」
「日本のラインから」
「今の分類は?」
年長のアナリストは、スクリーンに映った最後の一言——「今は自分自身もあまり信用できない」——をしばらく見つめてから、ゆっくり言った。
「まだ確定しなくていい」
「理由は?」
「早すぎる」奴はルーマニアの港のリアルタイム映像を見た。旭日旗、飛竜、山口多聞、腐乱した水兵、世界中のカメラ。「次に何を動かすか、もう少し見る」
新しい電子ファイルが開かれた。
名称欄は、まだ空白だ。
だが何かは、ファイルが作られたその一秒から、すでに動き始めていた。
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