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34. 裏の言い値 34-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

夕食後、飛竜(ひりゅう)の旧作戦会議室が、一度だけ模様替えされた。


模様替えといっても、見栄えが良くなったわけじゃない。山口多聞(ヤマグチ・タモン)が腐乱水兵に命じてテーブルを半円形に並べ直し、上座を空けたまま左右に旧式のシェードランプを一灯ずつ置いた。ランプのシェードは磨き上げられているが、テーブルの上にはやはり、古い鉄の船体にしみついた機械油の匂いが漂っている。壁際には各国連絡官のために椅子が数脚追加され、その後ろには通路が一本残してある。通訳、記録担当、医療スタッフ、そして「介入しない」と言いながらどうしても立ち聞きしたい連中が、そこに並んで立つためのスペースだ。


山口は俺の左後方に座っている。前でも後ろでもない、絶妙な位置。「何かあれば口を出す、普段はお前が一人で背負え」という、死人らしい実に便利な立ち位置だ。


俺が入室した瞬間、艙内が半秒だけ静まり返った。


礼儀じゃない。条件反射だ。


昼間の黒い泥の後遺症が、まだ抜けていない。今この場にいる連中が俺を見る目は、もはや「面倒な中間管理職」を見る目じゃない。「汚いものを死の側へ削り戻せる人間」を見る目だ。


残念ながら——


その目線は、全然嬉しくない。


俺は着席し、手をテーブルの上に置いた。死神の指輪(デス・リング)は袖口の下に隠してある。それから、その場を見渡した。トルコ、アメリカ、ロシア、ドイツ、イギリス、フランス、韓国、サウジアラビア、そして理論上は「記録係」のはずなのに、耳だけは誰より鋭い補佐官たち。


俺が先に口を開く。


「ルールを先に一回言う」


誰も口を挟まない。


「一日一回、公開での質疑応答、最低十分。今日は初日だし、俺の機嫌もまだ最底辺には落ちてないから、少し長めにやってもいい」


イギリスのリード(Jonathan Reid)が、「気分がまだ最底辺には落ちていない」という制度的前提に、軽く眉を上げた。


俺は気にせず続ける。


「単独で俺を捕まえるな。別途の小会合を開くな。質問を雑談に包んで近づいてくるな。『たまたま』俺の部屋の前を通るな。どこかの国がまた封存物に勝手に手を出すか、トイレまでついてくる人間を寄越したら——名前を艦内放送で読み上げるだけじゃ済まない。どの国が一番手癖が悪いか、この船全体に知らしめてやる」


ドイツのケラー(Keller)の顔色が、一瞬で変わった。


結構。


わざとそいつに聞かせるために言ったんだから。


「次。航路、護衛、寄港、安全距離、海軍の姿勢、どの旗を掲げるかといった話は、提督に聞け」


俺は親指で後ろを指した。


山口多聞は、実に協力的に、わずかに頷いてみせた。落ち着き払った、成熟した司令官のような顔をしている。だが昼間の「さすがは我が主殿」の一言を思い出すたびに、テーブルの上のコーヒーを奴の顔にぶっかけたくなる。


残念ながら奴は死んでいる。ぶっかけても、たぶん意味がない。


「封存物、黒い泥、指輪、鎌、そして今日の昼間に俺が何をやったか——については」


俺は一拍置いて、全員を見回す。


「答えたいものだけ答える。文句があるなら、今は飲み込んでおけ」


艙内が静まり返った。


それからアメリカのウォルシュ(Walsh)中佐が、ふっと笑った。いつもの職業的な保険屋スマイルじゃない。「わかった、今日は旧来の手口は使えない」と判断した時の笑い方だ。


「では始めましょう」と奴は言う。


「ああ」俺は椅子の背もたれに体を預けた。「さあ来い、国際社会。順番にかかってきな」


---


最初に口を開いたのは、意外にもトルコのデミル(Demir)中佐だった。


まあ、これは理にかなっている。


今この船を護送している当事者として、デミルが一番必要としているのは「答え」ではなく「上に報告できる秩序」だからだ。


デミルは手元の記録用紙を平らに置き、語調は相変わらず硬いが、昨日よりわずかに火気が抑えられている。


「第一の質問です。本日、中層封存区画で発生した異常は、完全に排除されましたか?本艦、護衛艦隊、および海峡航路に対して、後続のリスクは生じていますか?」


「まともな質問だ」俺は頷く。「答えよう。外から見えていた部分は、きれいに片付いた。封存艙内の本体も、俺が回収した。短期間のうちに、また自然発生することはない。ただし、誰かがまた封存物に手を出さないことが前提だ」


ケラーの表情がさらに険しくなる。


俺は見なかったことにして、続ける。


「後続リスクがあるかどうかという話だが——ある。なぜなら、あれは通常の化学汚染でも、放射線でも、お前たちの検疫書類に記入できる類のものでもないからだ。あれはどちらかというと……」


俺は少し考えて、こいつらにかろうじて理解できそうな言い方を探す。


「とっくに死んでいるはずなのに、誰かがシステムの中に無理やり残し続けた命令コードの残骸みたいなものだ。道を探し、器を探し、声を模倣し、命令を模倣し、生き延びようとする。こういう代物の正しい処理方法は、研究することじゃない。さっさと完全に死なせることだ」


デミルの眉間が、深く刻まれる。


「つまり、他にも類似のサンプルが存在する可能性を否定しない、ということですか?」


極光号(オーロラ)のような場所に、以前から似たようなものが残っていた可能性は排除しない。ただし飛竜の中では、今のところ、あそこが一番活性化していた場所だ」


「今のところ」デミルがその言葉を繰り返す。


「ああ、今のところ」俺はそいつを見る。「百パーセントの保証が欲しいなら、保険会社を探すことをお勧めする。海の上に、そんなものはない」


デミルの口元がわずかに引きつったが、反論はしなかった。


その通りだと、奴自身もわかっているからだ。


二番目に話頭を取ったのは、アメリカだった。


ウォルシュはペンを一度くるりと回し、いつも通りの平静な語調で切り出した。


「では角度を変えましょう。昼間にあなたが処理したあの物体と、極光号(オーロラ)事故との関連性は、どの程度ですか?」


「高い」


「どれくらい?」


「お前らどこの国にも、おもちゃとして持ち帰らせたくないくらいには高い」


ウォルシュ(Walsh)の笑顔は崩れない。


極光号(オーロラ)事故の直接的な派生物だと理解してよろしいですか?」


「構わない」俺は言う。「もっと汚い言葉で言えば——あの船が死にきれずに吐き出したゲロの塊だ。中にはシステムの残留コマンド、汚染物質、誰かが触るべきじゃなかった実験の尻尾、それから吐き気がするほどしつこい『生きたがる意志』が混ざってる」


ウォルシュは二秒ほど沈黙し、質問の角度を変えた。


「ワイスマンと、あれとの関連は?」


艙内の空気が、一瞬で張り詰めた。


ロシアのソコロフ(Sokolov)がわずかに視線を上げる。ドイツのケラー(Keller)も硬直する。英仏の二人は表情こそ変えなかったが、肩の動きがピタリと止まった。


俺はウォルシュを見る。


「俺より早く調べてるくせに、白々しい真似すんな」


ウォルシュが軽く笑った。


「我々は現場の判断を尊重する立場ですから」


「寝言はよせ」俺は言う。「ワイスマンが個人なのか、組織なのか、遺産プロジェクトなのか、戦後のイカれた連中が残した骨壺なのか——今お前らのために分類してやる気はない。だが一つだけ確かなことがある。極光号(オーロラ)のあの汚物は、自然発生したものじゃない。誰かが触るべきじゃないものに触り、しかも嬉々としていじり回した結果があの有様だ」


「では、背後にいるのは単独の実行犯ですか?それとも多国間にまたがる遺物ネットワークですか?」


今度はドイツ人が口を挟んできた。


ケラーはさっき大ポカをやらかしたばかりなのに、質問する時だけはいっぱしの専門家ヅラに戻る。


俺は奴を一瞥した。


「その質問、責任を平等に分配したがってるように聞こえるぞ」


フランスのモロー(Moreau)が、意外にも低く笑い声を漏らした。


ドイツ人の顔がさらに黒ずむ。


俺はそれ以上は煽らず、直接答えた。


「十中八九、単独犯じゃない。あんな汚物が今まで生き残るには、イカれた奴一人の力じゃ無理だ。隠す奴、買う奴、運ぶ奴、見て見ぬふりをする奴、古い戦争のゴミを新しいプロジェクトに再包装する奴——そういう連中が揃って初めて、ここまで腐る。もし今、自分たちは最初から最後まで完全に無関係だと胸を張れる国があるなら、まず鏡を見てから言え」


この一言で、テーブルは沈黙した。


全員が心の中でわかっているからだ。


——誰も、そんな保証はできない。


---


次はロシアだった。


ソコロフは書類をめくることも、メモに目を落とすこともしない。奴はまっすぐ相手を見て話すタイプの人間だ。まず視線で相手を壁に縫い付けてから口を開くような。


「質問は一つだけだ。あの種の汚染を処理するお前の能力は——どこから来ている?」


その場が即座に静まり返った。


全員が聞きたかった質問だ。


ただ、最初にそれを口にした奴は、どう見ても挑発しているようにしか見えない。


俺は奴を見たまま、すぐには答えない。


ソコロフも忍耐強い。俺が答えないなら、その沈黙自体を報告書に書き込んでやる、とでも言いたげだ。


俺は指でテーブルを軽く叩いた。


「お前ら、ずいぶん息が合ってるな」


誰も喋らない。


「いくつか裏は取れてるんだろ?」


やはり誰も喋らない。


結構。


これこそ俺が望んでいた展開だ。


全員が知っている。


全員が口に出さない。


なぜなら、それを口走った瞬間——俺の身分、出処、ここに立っている根拠、そして誰に俺を従わせる資格があるのかという問題が浮上し、このテーブルは公開質疑から国際事案へと変貌してしまうからだ。


だからこいつらは賢く立ち回る。境界線だけを探り、本質的な名前は問わない。


俺はソコロフを見つめ、最後に一言だけ返した。


「お前らの現代国家システムには属さない場所からだ」


曖昧な回答だ。


だが、十分に効く。


出処があることは否定していないが、どの国にもそれを持ち帰る隙を与えていない。


ソコロフは俺を二秒ほど見つめ、意外にも追及しなかった。


奴はただ、こう付け加えた。


「では、お前は誰の制約を受けている?」


見事な質問だ。


表面上は指揮系統を問うているようで、実際には「誰がお前をコントロールできるのか?」と聞いている。


俺は軽く笑った。


「今のところ、お前らじゃない」


イギリスのリード(Jonathan Reid)がその場でペンの動きを止めた。笑いを堪えているみたいだ。


山口多聞(ヤマグチ・タモン)は後ろに座ったまま、声を出さない。賭けてもいいが、この老亡霊は今、すこぶる機嫌がいいはずだ。ようやく自分の代わりに半分の火力を吸い取ってくれる奴が現れたんだからな。


ソコロフは俺を見て、最後に頷いた。


「一つの回答ではあるな」


「ロシア人は今日、ずいぶんと物分かりがいいじゃないか」


「まだ、物分かりを悪くする必要がある段階ではないからだ」


「ほう」俺は頷く。「じゃあ、その時が来たらまた話そうや」


---


続いてドイツの番だ。


今回のケラーは明らかに大人しくなっている。声の硬さも先ほどとは違う。


「ホフマン教授の件について確認したい。彼は極光号(オーロラ)で、今日の汚染物質に類似したものに直接接触したのですか?」


「結果には触れた可能性があるが、本体には直接触れていない」俺は言う。


「では、彼にもまだリスクが?」


極光号(オーロラ)から生還した奴は全員リスクを抱えてる。程度の差があるだけだ」俺は奴を見る。「だが、ホフマンは少なくともお前よりは賢い。どの箱を自分で開けちゃいけないか、わかってるからな」


この一言に、英仏の連中が明らかに吹き出しそうになるのを堪えた。


ケラーは深呼吸をして、言葉を飲み込むことを選んだ。


別に、わざと奴を踏みつけにしているわけじゃない。


ただ、こういう手合いは衆人環視の中で一度痛い目を見せておかないと、後でまた手を出してくるからだ。


「教授の証言を取るのを止める気はない」俺は言う。「ただし、犯人扱いして尋問しないことが前提だ。今の彼の状態は、他の大半の生存者と同じだ。脳みそだけが先に生き延びて、感情がまだ追いついてない」


ドイツ人は頷き、メモを取る。


この点に関しては、俺も奴らに文句はない。少なくとも今のドイツ人が一番やりたいことの一つは、サンプルを見ることじゃなく、自国民を無事に連れ帰ることだからだ。

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