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31.茶番劇 31-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

会議が散会したとき、ボスポラス海峡の外海には、先ほどより薄くて、先ほどより冷たい霧が立ち込めていた。


ロマンチックな霧なんかじゃない。


責任を押し付け合い、公文書を改ざんし、録音データを消去し、ついでに隣の部署を社会的に抹殺するのにうってつけの霧だ。


飛竜(ひりゅう)はまだ海峡の外に停泊している。昭和の時代から二十一世紀に無理やりねじ込まれた、錆びた鉄板みたいに。十一隻の旧日本帝国海軍の亡霊艦が、夜の闇の中で一文字に陣形を組んでいる。全照灯は点けず、今にも息絶えそうな薄暗い識別灯をいくつか残すのみ。遠くから見れば、現代の海図に浮かんでいること自体が間違っている死体の列だ。


そして本当に動き始めたのは、船じゃなかった。


岸の上の、スーツを着た連中だった。


---


### 一、トルコ:まずドアを閉めてから、誰がドアを開ける責任を負うかで揉める


イスタンブール海峡区海軍連絡センターでは、エアコンがガンガンに効いているのに、コーヒーはもう三煎目に入っていた。当直将校たちは大型スクリーンの海図を凝視して、顔色は一人残らず葬式帰りだった。


ただの正体不明艦隊じゃない。


旭日旗を掲げた、型式はまるごと博物館行きのくせに、レーダーに映って、熱源異常まで出ていて、しかも船内にはアメリカ人、ドイツ人、韓国人、どこから来たかわからない東アジアの奇妙な人間が数百人乗っている——そういう幽霊艦隊だ。


若い参謀がスクリーンを見つめたまま、小声で聞いた。


「長官、現時点での公式見解はなんですか」


隣の海軍大佐が書類をテーブルに叩きつけた。


「公式見解は——とにかく入れるな、だ」


「では非公式の見解は」


「非公式は——あれが船と呼べるのかどうか、俺にもわからん」


会議テーブルの反対側では、トルコ国防省から来た代表が眉間を揉みながら、届いたばかりの艦上記録を一枚一枚めくっていた。難民リスト、負傷者リスト、簡報、現場写真、乗艦した将校の口述。問題は、どのページもドッキリみたいな内容だということだ。


「アメリカ人夫婦、二名。韓国人夫婦、二名。ドイツ人学者、一名。修道女、一名。アラブ系料理人、一名。負傷者複数名。艦内に腐敗した軍医……」


そこで読むのを止めて、顔を上げ、向かいの情報将校を見た。


「『腐敗した軍医』とはどういう意味だ」


トルコ国家情報局の連絡官が無表情のまま答えた。


「字義通りです」


「冗談を言っているのか」


「残念ながら、そうではありません」


部屋が三秒、静まり返った。


四秒目に、海軍参謀総長がペンをテーブルに叩きつけた。


「何であれ、まず法的立場を固める。あの連中に海峡を通過する権利はない。商船でも軍艦でも難民船でも、正規登録された国家機関でもない」


「しかし船内には外国人民間人が数百人います」外務省の人間がすぐ割り込んだ。「このまま外海で足止めにすれば、アメリカ、ドイツ、韓国が明日にでも電話を鳴らし続けます」


「では外務省が電話に出ればいい」


「海軍が船を玄関先に止めておいて、外務省に電話対応させるつもりですか」


「じゃあ誰が出る。幽霊に出ろとでも言うか」


部屋がまた半秒、静まった。


誰も笑わなかった。


今のその一言が、妙に楽観的に聞こえたから。


最後に、トルコ側が出した暫定結論は最も創意に欠けて、最も無難なものだった。封鎖は拡大しない、通行は許可しない、人道的接触は継続、上位への判断は上に投げる。


人間語に直すとこうだ——とりあえず引き延ばせ。


大統領府、国防省、情報局、外務省、海軍総部の四方向でお互いにたらい回しが成熟したところで、誰が最初に人間の言葉を喋る責任を持つか決める。


---


### 二、ロシア:まずアメリカを罵倒し、次に全員を脅し、ついでに漁夫の利を狙う


モスクワに報告が届いたとき、クレムリン側の反応は実にロシアらしいものだった。


最初の一言は「それは何だ」じゃなかった。


最初の一言は——「またアメリカの野郎が何か企んでるんじゃないか」だった。


黒海艦隊副司令の緊急ビデオ会議が繋がったとき、彼の背後にはまだ参謀が二人立っていた。一人は軍事情報担当、もう一人は長官の言葉が「迫力不足」なときに補足を入れる担当だ。


「旧日本帝国海軍の艦艇十一隻が、通常の手段によらずトルコ外海に出現し、ルーマニアへの通航を要求しています」


会議テーブルの上座に座った老人が、指でテーブルを軽く叩いた。


「連中は誰の代表だと言っている」


「言っていません。艦隊指揮官は山口多聞(ヤマグチ・タモン)と名乗っています」


「死人か」


「トルコ側の報告によれば、そうです」


老人は頷いた。今日の市場の玉ねぎの値段を受け入れるような顔で。


「アメリカ側はなんと言っている」


「まだ正式な定義を出していません。ただ第六艦隊はすでに動き始めています」


老人が冷たく笑った。


「そうだろうな。アメリカ人が素早く動くときは、九割方、自分たちの失態か、先に誰かに責任をなすりつけようとしているかのどちらかだ」


副司令が資料をめくった。


「もう一点。トルコ側から届いた現場簡報に、『極光号(オーロラ)』という現代船舶の事故が記載されています。制御不能になった自律システム、黒色汚染物質、そして『ワイスマン』というコードネームの出所への言及があります」


この一言で、会議テーブルの周りで数人が顔を上げた。


「ワイスマン?」


「はい。綴りはすでに情報総局に照合を依頼しました」


「調べろ」


二分も経たないうちに、古い案件のファイルが引き出された。


普段は死に魚みたいに、引っ繰り返す気にもならない案件がある。でもキーワードを一つ投げ込んだ瞬間、情報システム全体が血の匂いを嗅いだ犬みたいに動き始める。


ワイスマン——ロシアの主案件ではない。だがこの名前を知っていた。東アジア、太平洋、霊的汚染、遺留軍事技術、非正規の人体研究、戦後移送、黒い資本による買収、笑い話として聞き流されてきたいくつかの証言。バラバラに見ればどれも狂人の話だ。でも今こうして並べてみると、そうは見えなくなってきた。


黒海艦隊副司令が眉をひそめた。


「もしこれがアメリカのものでないなら、事態はもっと厄介だ。歴史の残骸を再軍事化しようとしている第三の勢力が存在することになる」


「もしアメリカのものだったら」


老人が静かに言った。


「なら、なおさら遠慮はいらない」


ロシア側が最終的に固めた方針は、非常にシンプルで、非常に悪辣だった。


一、この艦隊を簡単に黒海へ入れない。


二、トルコのために先に出ない。トルコに玄関口で矢面に立たせる。


三、アメリカ第六艦隊の動向を監視し、必要なら「戦術核兵器による威嚇」という言葉を投げ込んで、空気を一度凍らせる。


四、ワイスマンが本当に何らかの超常軍事残留計画であるなら、サンプル、情報、あるいは人間を一つ手に入れる。


国と国の間というのは、多くの場合こういうものだ。


口では秩序を語り、心の中では箱を開けることを考えている。


---


### 三、アメリカ:CIAがようやく知り合いの腐臭を嗅ぎつける


第六艦隊司令部が最初の資料を受け取ったとき、海軍将校たちはまだ一件全体を「異常海上事象」というラベルの中に押し込もうとしていた。


分類が海上事象である限り、管轄は海軍に留まる。


だが資料パッケージの第二層が開かれた瞬間、ある名前が飛び出してきて、事態は海軍だけの問題ではなくなった。


WEISSMANN


CIA地中海ステーションの当直分析官がその文字列を見た瞬間、最初の反応は驚愕じゃなかった。悪態だった。


「"Damn it"(クソッ)」


隣の若い工作員が振り返った。


「その名前、知ってるんですか」


「知らなければよかったと思ってる」


五分後、トルコ側のそれより遥かに険悪な内部通話が立ち上がった。


参加者はCIA、国防情報局、海軍情報部、そして今夜の当直でもないのにキーワードを聞いて自分から割り込んできた古参二名。


「ワイスマンを辺境異常財団の案件として封印したのは誰だ」


「うちじゃない。前の東アジアデスクだ」


「前の東アジアデスクは三年前に解体された」


「ちょうどいい。今さら自己弁護できない」


「犯人探しがしたいんじゃない。なぜこの名前が、制御不能になったクルーズ船の事故から、昭和の亡霊軍艦十一隻の通行危機に直結しているのか、それが知りたいんだ」


会議の中で数秒、沈黙が落ちた。


それからCIAの当直分析官が古い報告書を共有画面に投げ込んだ。


かつては誰も気にしなかった、今となっては少し目が痛い内容の総括報告書だ。


アジア沿岸での複数の異常霊圧残留事件、戦後旧軍事施設の再活性化、黒泥サンプルの活性反応、「死後意識保存」と「戦場残留魂圧の利用」への多国籍バイオ資本の資金流、そしてWeissmann Legacy Networkという曖昧な構造体への言及。


以前はオカルト陰謀論に見えた。


今はトレーラー映像に見える。


第六艦隊の海軍中将が読み終えて、一言だけ言った。


「つまり今我々が直面しているのは、幽霊船が何隻かいるという話だけじゃない、ということか」


CIAの人間が頷いた。


「おそらくそうです。『極光号(オーロラ)』がワイスマン・レガシーの一度のテストだとすれば、あの十一隻は副産物か——あるいは回収者です」


「誰が回収している」


「現時点では不明です」


「日本政府はどこまで知っている」


「知っているなら今ごろ知らないふりをしています。知らないなら、これからすぐ知っているふりを始めます」


会議の中で、ようやく誰かが笑った。


短く。


乾いた笑いだった。


笑い終わったあと、空気はかえって重くなった。


アメリカ側はすぐ二派に割れた。


海軍は事態を安定させたかった。この亡艦艦隊が全世界生中継になって、NATO海域上の超常主権コメディに仕立て上げられるのを避けたかった。


CIAはまったく逆だった。


彼らの考えはシンプルだ——急いで叩くな、まず全員に情報を吐かせろ。


ワイスマンの線が本物なら、今回の事件は「一支艦隊が黒海に入りたがっている」という話じゃない。誰かが戦争の遺物と死者の意識と現代システムの穴を使って、何か新しいものを組み上げようとしているということになる。


そしてその新しいものの最も恐ろしい点は、幽霊に見えることじゃない。


すぐに武器に見えてくることだ。


最後に、第六艦隊が対外的に出した声明は保険会社のように抑制されたものだった。


だが対内的には、アメリカはすでに静かに警戒レベルを一段上げていた。


山口多聞(ヤマグチ・タモン)のためじゃない。


ワイスマンのためだ。


死人は騒ぐ。生きている人間のプロジェクトだけが、予算を残す。

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