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29.空母飛竜の日常 29-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

飛竜(ひりゅう)号に上がって最初の夜は、想像してたよりずっとキツかった。


寒いからじゃない。海の底から這い上がってきたこの老朽空母、どこを触っても湿った鉄の冷たさがつきまとうのは事実だ。通路の隔壁は、素手で触るとまるで冷凍庫から出したばかりの鉄板みたいで、空気にはいつも煤煙と機油と潮、それから、やたら古びた薬品の匂いが混ざっている。


でも本当に眠れなくなる理由は、温度じゃない。この船そのものだ。


こいつは、あまりに「生きて」いる。


今どきのクルーズ船みたいに、照明ギラギラ、音楽ガンガン、アロマの空調で人間の頭をトロけさせる、ああいう意味での「活気」じゃない。一度息の止まった老兵を、無理やりこの世に引きずり戻したみたいな——肺の中は海水だらけなのに、それでも見張りには立つし、ハッチは開けるし、ボイラーは焚くし、甲板の端から医療室の端まで、平然と人を運んでみせる、そういう種類の生気だ。


極光號から拾い上げられた俺たち一行は、飛竜、蒼竜(そうりゅう)、それから何隻かの駆逐艦に分散して収容された。とはいえ、本当に重症のやつと、女・子ども、それから俺たちみたいな連中は、だいたい飛竜にまとめられている。


山口の説明は単純だった。ここは旗艦だから、混乱は許されない。


最初は「まただよ、この人の古臭い軍人気質。なんでもかんでも旗艦だのなんだの」ぐらいにしか思ってなかった。でも、乗艦して三十分も経たないうちに、認めざるをえなくなる。


この化け物みたいな船には、本当に「秩序」がある。


その秩序は、怒鳴り声でも、威圧でも、現代の船会社が大好きなマニュアルでもない。ただ、船中に散らばっている腐った水兵たちが、まるで千回は同じ訓練を繰り返してきたみたいな動きで、まだ震えている奴も、叫んでいる奴も、自分がもう死んでるんじゃないかと疑ってる奴も、一人残らず、然るべき場所へ押し込んでいく、その手際の良さでできている。


老人は、まず下層のドライスペースへ。

子どもは、元の乗員休憩室に集約。

自力で歩ける者は自分の足で。歩けない者は水兵二人組で担架代わりに抱き上げる。

泣いてるやつは後回し。気を失ってるやつから先に処置。

吐いてるやつにはバケツ。熱のあるやつは軍医送り。

日本語も中国語も英語もわからないやつですら、身振り手振りだけで、ちゃんと行き先を示されてしまう。


そして何が一番怖いって、こいつら、とんでもなく手際がいい。


顔の半分が崩れ落ちている水兵が一人、ボロボロになって何度も海水を吸ったらしいハードカバーの名簿を手に、いかにも旧日本海軍ふうの発音の日本語で、乾いた声のまま、人数確認、区画割り振り、寝床の割当てを進めていく。顎なんか見た感じ、半分も残ってないのに、言葉が妙にハッキリしてて、とにかく従わないとマズい気分になってくる。


もう一人、右目のあったはずのところが真っ黒な空洞になってる水兵がいるんだが、そいつの子どもの抱き方が、そこらの生きてる大人よりよっぽど安定してる。抱き上げたあと、ごく自然な手つきで背中を二回、ぽんぽん、と叩く。完全にあやしモード。


さっきまで喉が潰れそうな勢いで泣きわめいてた白人の坊主が、その腕の中に抱えられた瞬間、一回はショックで泣き止み、次いでさっきよりでかい声で再スタート、最後には力尽きて、そのボロ軍服の肩口に顔を埋めたまま眠り込んだ。


俺は通路の入口で、その光景をしばらく眺めてから、どうにか一言ひねり出す。


「……っくそ」


葉綺安(イェ・キアン)は少し離れた木箱の上に腰を下ろし、両手でとっくに冷めきった湯を包んでいた。その俺の一言に、横目だけこっちへ寄越す。


「あんた今の『っくそ』、驚き? それとも感心?」


「両方だな」俺は肩をすくめる。「ついでに『俺もうこういうのに慣れてなきゃおかしいんじゃねえか』っていう、どうしようもない虚しさもちょっと」


彼女は小さく笑った。薄い、けど、ちゃんとした笑いだ。


シキは、もうとっくに寝ている。……というか、見た目は「寝ている」に見えるだけだ。牛小琴(ニウ・シャオチン)が完全に乗り移って暴れ回ったせいで、あのちびの身体は明らかに使い倒されていた。軍用毛布を二枚重ねでぐるぐる巻きにして、その中に小さく丸くなっている。出ているのは顔の半分だけ。眉間にはまだ皺が寄っていて、ときどき小さくうめき声を漏らす。夢を見てるのか、それとも中に残ってる牛小琴が、まだ心の中でツッコミを入れてるのか。


俺は林雨瞳(リン・ユートン)の様子を見に行くつもりだった。が、医療室に着く前に、先に中から怒鳴り声が聞こえてきた。


「ねえ、先生、最初に言っとくけど、あなたの腕を疑ってるわけじゃないの」声は掠れているのに、言い方はいつも通りの林雨瞳だ。「ただね、これから私の脚を縫うとき、あなたの身体のどこかが傷口の中に落ちたりしないか、それが知りたいだけ」


思わずドアのところで吹き出しかける。


医療室の照明はくすんだ黄色で、古い写真に写り込んだ病棟みたいな、病的な色合いをしている。数台の固定ベッドが床に直接溶接されていて、金属のエッジは長年の使用でむやみにツヤツヤだ。壁の薬棚は一マス一マス、気持ち悪いくらい整然としている。


真ん中のベッドに、林雨瞳が仰向けに寝かされていた。顔色は漂白剤から出したばかりの布切れみたいに真っ白で、右脚は半分だけ包帯が巻かれ、その包帯の端から、まだじわじわと血が染みている。その横に立っているのが、彼女を甲板から担いで運んできた、例の腐った軍医だ。


近くで見ると、なおさらタチが悪い。


本来は白衣であったはずの上着は、もう黄ばんだ灰色と、海水に何度も浸かった跡しか残っていない。胸には旧式のネームプレートが付いているが、文字はとっくに判読不能だ。左手には手袋。右手には何もない。露出した指の関節は黒ずみ、皮膚はふやけてから干からびた魚の皮みたいにひび割れている。一番やっかいなのは顔で、あまりに真剣そのものなので、鼻梁の半分がそもそも無いって事実をつい忘れそうになる。


彼は林雨瞳の台詞を聞き終わっても、手を止めない。ただ淡々と、ハサミで傷の周囲の布をさらに大きく切り開いていく。


それから、あの古い時代の軍人特有のアクセントが混ざった、しゃがれた日本語で、何かをぼそぼそと返した。


全部は聞き取れない。ただ、「感染」「固定」「止血」といった単語だけが耳に残る。傍らのホフマン教授が、半人前の通訳役として立っていて、眼鏡を押し上げながら、「記録したい」と「ここで殺されるのは避けたい」の間で板挟みみたいな顔をしている。


「ええと、彼はですね」ホフマンが咳払いして訳す。「もし自分の指が中に落ちたら、責任を持って取り出すと言っています」


林雨瞳は、その軍医を二秒ほどじっと見てから、鼻で笑った。


「へえ、わりと職業倫理はしっかりしてるじゃない」


そこでやっと、俺も我慢できずに中へ入り、ドア枠に肩を預ける。


「先生、アンタのことを疑ってるんじゃないんだよ。単に、見た目がカルテ側に立ってる人だからさ」


ホフマンは訳そうとして途中で噎せた。軍医は一度だけ顔を上げ、感情のまるで浮かばない、淀んだ水みたいな目で俺を一瞥する。それから、トレイの上の鉗子を一本、わずかに横へずらした。まるで「勝手に触るな」とでも言いたげに。


林雨瞳は息を吸うたびに顔をしかめながら、それでも口だけは止まらない。


「黙ってなさいよ。下手に刺激したら、あんたまでベッドに縛り付けられるわよ」


「俺を縛っても絵にならねえだろ。こういう台は、どっちかって言うとお前の方が——」


途中まで言ったところで、彼女の視線が突き刺さる。出血さえしてなきゃ、耳の一枚ぐらい本当に飛んでたかもしれない。


軍医は、そんな安っぽい痴話げんかには、一ミリも興味を示さない。まずは、潮の匂いがきつい消毒液で傷口を一度流し、林雨瞳が低い声で「くそ」と漏らすのを無視して、次にどこ製だか見当もつかない軟膏状の薬剤を塗りこんでいく。


怖いのは、その手つきが本物すぎることだ。手元がぶれない。視線もぶれない。呼吸も乱れない。針と糸を持って縫い始めるときのリズムまで、見事なほど安定している。


見習い医師が練習でやってるような不安定さじゃない。生きている間も死んだあとも、ずっと同じ作業を繰り返してきた人間だけが身につける、あのいやな安定感だ。


数分ほど黙って見ているうちに、とうとう俺も認めざるをえなくなる。


「……マジかよ、こいつ、クルーズ船の医療スタッフより上だわ」


ホフマンは、その一言を待っていたかのように、すぐさま乗ってくる。


「当然ですとも! これはもはや通常の野戦医療ではありません、これは——」


熱くなりかけたその台詞を、軍医があっさり遮る。清潔なガーゼを一枚つまんで、ホフマンの手のひらに押し付け、林雨瞳の膝横を押さえるよう顎で示したのだ。


ホフマンは一瞬ぽかんとしたが、すぐに従う。


その光景が、変な意味でツボに入る。ドイツ人教授、台湾女、巻き込まれ体質の俺、それに本来ならとっくに土の下にいるはずの日本海軍軍医が一人——船難のあとの穿刺創を、亡霊空母の医療室で囲んで処置してる。まともな世界の住人にこの構図を説明したら、とりあえず全員揃って聞かなかったふりをされるだろう。


処置が一通り終わると、林雨瞳は、今度こそ目を閉じそうなぐらい消耗していた。それでも、辛うじて上体を動かさずに顔だけ軍医の方へ向ける。


「ねえ」


軍医の手が一瞬止まる。


「指、落ちなかったわね」


そう告げると、軍医は二秒ほど彼女を見返し、ごくわずかに、こくりと頷いた。


その仕草が、なんだかおかしくて、笑いを堪えるのに苦労する。


医療室を出る頃には、外では一回目の温かい食事の配膳が始まっていた。


温かいと言っても、匂いの方はどうだか。鼻につくのは、誰かが軍隊の食堂と油槽と古い香辛料の袋を、丸ごと同じ鍋に突っ込んで三日三晩煮込んだみたいな香りだ。通路一帯にカレーの匂いが立ち込めているのに、俺の知ってるどのカレーとも違う。もっと重く、もっとねっとりしていて、香辛料の香りの奥に、何とも言えない鉄っぽさが張り付いている。


配膳係は炊事兵だ。


そう、腐った炊事兵だ。


連中もまた、ボロボロの作業服に身を包み、頭には旧式のコック帽。一人は胸の前に巻いたエプロンに、何十年前のものかわからない濃いシミをそのままぶら下げている。配られるのは金属製の軍用プレートで、テーブルに置くと、食欲をそぐことだけには全力を尽くしたような、でも中身がアツアツなのは間違いない金属音を立てる。


シキが目を覚ましたのは、ちょうど一皿受け取ったタイミングだった。


彼女はまず視線を落としてカレーを見つめ、それから顔を上げて俺を見る。表情には、「これ何の罰ゲーム?」って文字が、そのまま書いてある。


「カレーだ」俺は言う。


「カレーってことぐらいわかるよ」彼女は小声で抗議する。「でも、なんか変な匂いしない?」


横に腰を下ろし、鼻を近づけて匂いだけ嗅いでみる。


「……ああ」


「その『ああ』に、中身入ってる?」シキが眉をひそめる。「なんか、鉄鍋と古いレインコート、一緒に煮込んだみたいな匂いするんだけど」


危うく吹き出しそうになる。


向かいの葉綺安は、すでに二口ほど食べ終えていて、その台詞に顔を上げ、シキを見る。


「あんた、表現力めちゃくちゃ伸びてるじゃない」


「今はそういうテストの時間じゃないから」シキはますます不満げだ。「本当に変なんだってば」


そう言いながら、彼女はおそるおそるもう一口だけすくって口に入れる。入れた瞬間、顔じゅうの筋肉が一斉に収縮した。あまりにも素直な反応で、こっちも一瞬、味がそんなにヤバいのか、それとも中で牛小琴も一緒に「なにこれ」と文句を言っているのか、判断がつかなくなる。


次の瞬間、その答えが出る。


牛姉(ニウネエ)も変だって言ってる」


「おい、何でもかんでも牛小琴のせいにすんな」俺は突っ込む。


「ほんとだもん」シキは妙に胸を張る。「これ、生きてる人間用じゃない味だって」


「……それに関しては、同意しかねえな」


周りの連中のリアクションも、大体似たようなもんだ。


あのアメリカ人夫妻は、プレートを受け取るなり、旦那の方が、いかにもアメリカ中産階級らしい「まずは理性で状況を把握する」顔で、三秒ほどカレーを凝視した。成分表示でも探してるのかって真剣さだ。奥さんの方はもっとストレートで、スプーンでちょいと掬って匂いを嗅いだだけで、「豪華客船から命からがら逃げ延びて、最後に亡霊船でこれ食べさせられるの?」っていう種類の深い絶望を、その目に浮かべる。


パク・ソヨン(Park So-yeon)は、一口目を飲み込むとき、眉がぴくりと動いた。けれど何も言わず、自分のプレートをそっと隣のキム・ジヌ(Kim Jin-woo)の鼻先に差し出す。ジヌが一歩遅れて匂いを嗅ぎ、その表情がさらに複雑になる。文句を言いたいが、亡霊コックを前にあまり失礼なことは言えない、そんな葛藤が丸見えだ。


ベネデッタ修女(Sister Benedetta)は、別の意味で振り切れている。まず小さく祈りを捧げ、それから慎重に一口すくって口へ運び——そのまま、ぴたりと固まった。神学体系に存在しない未知の概念と遭遇した、という顔。口の中のものをゆっくりと飲み込み、やっとのことで、実に上品に言葉を選ぶ。


「……これは、とても、個性の強いお料理ですね」


俺はプレートをひっくり返しかける。


ホフマン教授は、いつもながら別ベクトルでおかしい。一方の手にスプーン、もう一方の手に、何度も濡れては乾き、それでもまだ手放せないノート。まず数行メモを書き込んでから、ようやく一口食べる。一口飲み込んだあと、眼鏡を直し、次に額を押さえ、最後にはドイツ語で、絶対に録音しておきたいレベルの悪態を一気に吐き出した。


「教授、テイスティングコメントは?」俺が尋ねる。


彼は二秒ほど沈黙し、ようやく絞り出す。


「私は今この瞬間、亡霊艦隊の炊事システムが、確かに現役だという事実を認めます。同時に——味覚という概念は、彼らの世界では既に戦死しているのだろうと、強く確信しました」


「相変わらず話に無駄な格が付いてんな」


そして、このカレー問題を救ったのは、アドナンだった。


アドナンは、ずっと昏睡していて、頭をぐるぐる巻きにされ、いつ「チェックアウト宣言」されてもおかしくない中東製ミイラ状態だった。だが、飛竜っていうこの異常空間が、彼の体質と相性が良かったのか、それともカレーの匂いの殺傷力が規格外だったのか——二日目の昼前には、あっさり目を覚ました。


そのとき俺は、廊下の隅で毛布一枚をめぐってケンカしているチビ二人をなだめていた。正直、亡霊船で一晩過ごしたあとだと、「子ども同士が毛布を取り合う」というのが、その日で一番まともな出来事に見えてくるから不思議だ。


ふと振り向くと、アドナンがベッドの縁に腰を掛け、自分の前に置かれたカレー皿を凝視していた。事故現場でも見ているような真剣さで。


「お、起きたのか」俺は近づく。


彼はまだ焦点の合いきらない目を上げ、第一声でこう言った。自分がどこにいるかでもなく、船が沈んだかどうかでもなく。


「これ、誰が作った?」


一瞬、返事に詰まる。


「……死人だろ」


アドナンは静かに目を閉じ、深く息を吸い込んでから、もう一度ゆっくり開けた。


「やっぱりな」


こいつは、頭が覚めた瞬間から、元の「状況がどれだけクソでも、とりあえず立て直す」モードに完全復帰していた。十分後には、自分で輸液のチューブを半分引き抜き、ふらつきながらも厨房へ向かって歩いている。二人の腐った炊事兵が止めようとしたが、彼が鍋の蓋を持ち上げ、香辛料の箱を嗅ぎ分け、スープを味見する一連の動きを見た途端、なぜか止めるのをやめて、横に並んで見物する側に回った。


俺が追いついたとき、アドナンはちょうど英語にアラビア語を混ぜながら、怒鳴り散らさんばかりの勢いでまくし立てていた。


「悪いのは食材じゃない、配合だ! お前ら、スパイスを弾丸と勘違いしてばら撒いてるのか?」


隣にいた腐った炊事兵は、顔の半分がほぼ崩れ落ちているのに、アドナンの指さす鍋を、ものすごく真剣な目で見つめていた。


アドナンがもう一つの寸胴の蓋を開け、中を一瞥した瞬間、さらに頭を抱えた。


「誰がこれをこんな風に煮込んだんだ。カレーは防腐剤じゃないぞ!」


俺はドア口でそれを聞いて、壁に手をつかないと立っていられないくらい笑った。


その後の二時間は、飛竜(ひりゅう)が就役して以来、最も奇妙な時代超越料理講習会になった。アドナンはまだ完全には覚醒しきっていない頭を片手で支えながら、腐った炊事兵たちに向かって矢継ぎ早に指示を出す。鍋底を調整し直せ、塩を減らせ、香辛料を入れる順番を変えろ、どこから来たのかわからない乾燥玉ねぎとじゃがいもを改めて投入しろ、肉はもう一回り長く煮込め。


死人たちが不満を爆発させるかと思いきや、一人残らず生徒みたいにしゃんと立って、言われた通りに動いた。


夜になって二回目のカレーが出てくると、匂いにはまだ少し、この老艦特有の癖が残っていた。でも少なくとも、生きている人間が口に入れられるものにはなっていた。


シキが一口すくって食べ、ずっと寄っていた眉間がようやく少しほぐれる。


「だいぶマシになった」


「だろ?」俺は言う。


もう一口食べて、彼女は頷く。


「今度はちゃんとカレーの味がする。昨日のは……」


少し考えてから、続ける。


「鉄の扉を醤油で煮込んだみたいな感じだった」


「今日は比喩が豊作だな」


「昨日のが本当にひどかったから」


葉綺安(いぇ・きあん)は向かいで、珍しく気前よく何口かおかわりをした。牛小琴(にう・しゃおちん)も、もう文句は言っていないらしい。アドナン(あどなん)は少し離れたテーブルに腰を落ち着け、毛布を肩から羽織ったまま、顔色はまだ悪かったが、明らかに気分は上向いていた。少なくとも今は、全員がカレーで二次被害を受けるのを黙って見ていなくて済む。


あのアメリカ人夫妻の変化も、なかなかおもしろかった。


旦那の方は二日目まで意地を張り、「これには何らかの説明できる軍事実験的背景があるはずだ」と言い張っていた。三日目になると、自分からアドナンに「今日もあの improved curry はあるか?」と聞きに来ていた。奥さんの方は最初、腐った水兵を見るたびに身体が震えていたが、彼らが本当に噛みつかないどころか、子どもに温かい飲み物を運んだり毛布を持ってきたりするのを見ているうちに、少しずつ落ち着いてきた。ある日、スープを運んできた腐った水兵に向かって「Thank you」と言ったあと、自分が先にぽかんとしていた。その水兵はごく自然に、わずかに頷いて、空になったトレイを持ってまた行ってしまった。


韓国人夫婦の方は、適応が早かった。


キム・ジヌ(きむ・じぬ)は元々、状況が崩れれば崩れるほど、本能的に「とにかく動く」モードに入る人間だった。まだ動き回れる生存者数人と組んで、あっという間に亡艦の民間補助班みたいなものを作り上げ、物資の移動、配膳の列の整理、精神的に限界を超えかけている人の対応にあたっていた。パク・ソヨン(ぱく・そよん)は初日の夜、隅っこで一度ちゃんと泣いた。泣き終わって目を拭うと、翌日にはベネデッタ修女(べねでった・しゅうじょ)と一緒に子どもたちの世話をしていた。腐った水兵たちを最初はひどく怖がっていたが、そのうちの一人——指が二本なくなっている年老いた水兵が、通るたびに倒れた桶を静かに起こし直し、子どもにはとりわけ慎重に接しているのを見てから、怖さが少し薄れたようだった。


ベネデッタ修女は、俺には一番読めない人だ。


乗艦初日のあの表情は、明らかに「自分が学んできた神学体系に、重要な付録が抜けていたのではないか」という疑念そのものだった。それでも崩れなかった。ただ静かに、怖がっている子どもたちを集め、手を洗わせ、顔を拭かせ、毛布をかけてやった。


二日目、俺が通路を通りかかると、腐った水兵が一人、廊下の端にしゃがんで、熱を出した子どもの毛布の位置を直していた。修女はその横で数秒それを見てから、無言で自分の乾いた毛布を一枚、その上に重ねた。


重ねたあと、彼女自身がしばらく固まっていた。


俺は聞かずにいられなかった。「修女、それって異端に憐れみをかけたことになりませんか?」


彼女は、もうとっくに死んでいるはずのその水兵をしばらく見つめてから、長い沈黙の末に言った。


「もし主が、死者に生者を救わせることをお許しになるなら——せめて今夜、彼らに毛布を一枚多くかけることを、主は反対なさらないと思います」


重すぎて、俺には珍しく、返す言葉が出てこなかった。


ホフマン教授(ほふまん・きょうじゅ)は、また別の方向で厄介だった。


最初はそれなりに怖がっていたが、亡霊軍医に解剖されることなく一夜を越えたとわかった瞬間、学者の本能が戻ってきた。観察が始まった。水兵たちの当直交代のリズム、飛竜の船内に存在する、明らかに物理法則を無視した空間の折れ曲がり、ボイラー区画が現代的な燃料補給なしにどうやら稼働し続けている謎、そして通信兵の一人に話しかけ、死亡年を聞き出そうとする試みまで。


相手は無視した。


ホフマンはめげずに戻ってきて、俺にこう言った。「この船全体が、集合的記憶によって機能を維持されているようです。単一の霊体が支えているのではなく、構造的に——」


俺は手元のカレーを差し出した。


「教授、まず食え」


彼は視線を落として皿を一秒見つめ、重々しく口を閉じた。


飛竜号の日々は、こうして奇妙な規則性を帯び始めた。


昼間は、外で海風が強く吹き、艦隊は海霧の中で隊形を保っていた。飛竜が中心に位置し、蒼竜(そうりゅう)翔鶴(しょうかく)瑞鶴(ずいかく)が近くと遠くで応じ、榛名(はるな)霧島(きりしま)は視界の端に浮かぶ二つの鉄の山のようで、三隻の駆逐艦が波頭を切りながら往復し、利根(とね)筑摩(ちくま)はいつも、もっと遠い場所で何かをじっと見張っていた。


生存者は交代で甲板に出て外気を吸うことを許されたが、自由に歩き回ることはできなかった。腐った水兵たちが列を組んで巡回し、ときおり誰かが旧式の拡音器を持ち出し、俺にはまったく聞き取れない号令で秩序を維持していた。


夜になると、船内の照明は薄い黄色になり、通路は人を旧い時代に押し戻すような狭さになった。眠れるようになった者もいれば、まだ一晩中起きている者もいた。子どもたちは少しずつ、水兵を見ても泣かなくなってきた。度胸のある一人の子は、こっそり近づいて、相手の顔にまだひげが何本残っているか数えようとしていた。


アドナンが食事を立て直してからは、亡霊カレーが全艦で一番安定した慰めになった。林雨瞳(りん・ゆーとん)の脚の傷は固定されて、顔色はまだ悪かったが、毒を吐く元気は日ごとに戻ってきていた。シキは飛竜の布団が「古い戸棚の匂いがする」と文句を言いながら、俺より先に毎晩眠っていた。葉綺安は表向きは何もかもどうでもいいふりをしていたが、夜のうちに子どもと傷患者のいる区画を何度か回っていて、誰が限界に近いか、誰が爆発しそうかを、誰よりも早く察知していた。


そして俺は、三日目になって、ようやく何かがおかしいと気づき始めた。


船内の雰囲気がおかしいのは、今に始まった話じゃない。


おかしいのは、針路だ。


俺は海軍でも航海の専門家でもない。でも甲板に長く立っていれば、太陽の位置、風の向き、海流の流れ、艦隊が転舵するときのリズムに、自然と感覚が生まれてくる。この数日、飛竜と艦隊全体の動きは、最寄りの港を目指しているようには見えなかった。追手から逃げているわけでもない。ただ前へ、はっきりとした目的を持って、推し進んでいた。


山口は一度も、寄港について口にしなかった。


一度も。

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