表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/366

26.東方より来たる鬼将 26-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

D-7 ケープタウン沖


23:07 二十階 外部デッキ


「刀を、(シキ)に渡せ。」


俺がその言葉を口にするより早く、葉綺安(イェ・キアン)はすでに動いていた。


祖霊の開山刀は、古びた防水布でぴったりと巻かれたまま、ここまでの逃走を通じてずっと彼女の背中の目立たない長い布袋に収まっていた。普通の人間が見れば、取り外した日よけの支柱か何かの救難工具だと思うだろう。だが俺たち仲間だけが知っている——あれは道具じゃない。


門だ。


牛小琴(ニウ・シャオチン)が、完全に踏み込んでくるための門だ。


頭上のスピーカーでは、AURORA(オーロラ)の女声が同時に、まるでおやすみの挨拶でもするように甘く流れていた。


『高層デッキ清浄化プログラム——ただいまより開始いたします』


背中が全面的に張り詰めた。


こういう時に一番怖いのは、あいつが暴走することじゃない。暴走しながら、それでも筋道立てていることだ。


葉綺安は布袋を引き剥がし、逆手で刀を抜いた。刃は長くないが、刀背が分厚く、無骨で重い。武器というより、ある時代に本当に木を割り、道を開き、骨を断つために使われた何かだ。刀身には古く黒ずんだ油光りが沈み、柄に巻かれた布は白く擦り切れている。数多の手が握ってきた証だ。


希はまだ保温ボトルを抱えていたが、あの刀を見た瞬間、呼吸が変わった。


怯えじゃない。

識別だ。


遅かれ早かれ、自分はここへ来ることになっていたと知っていた人間が、ついにその扉が目の前に開いたのを見た顔だ。


「持つか?」俺は聞いた。


彼女は顔を上げた。顔色は紙みたいに白く、それでも口の端をかすかに引いた。


「今更そんなこと聞くとか、白々しいわ。」


その一言で吹き出しかけて、それでも炎は消えなかった。


なぜなら彼女がそう言っている間にも、頭上右側のクレーン数基とサーチライトスタンドが、一斉に動き始めていたからだ。


第一波の高圧消防水柱が再調整を終え、今度は外縁を掃うだけじゃない。左右から交差するように、甲板全体の人の塊を数ブロックに切り分けようとしている。透明な巨大な鋏みたいだ。さらに上のメンテナンスアームがゆっくり向きを変え、垂れ下がる鋼索と吊り金具が風の中で揺れ、金属同士がぶつかる細かい音を立てている。反対側の昇降式風除けパネルも上昇を始め、明らかに群衆を切り分けようとしていた。


このクソシステムは本当に、俺たちを一塊ずつ分けてから、一塊ずつ片付けるつもりだ。


「急げ!」ホフマン教授が後ろで怒鳴る。「全員内側へ! 立つな! 姿勢を低く!」


ベネデッタ修女(Sister Benedetta)は泣きすぎて歩けなくなった子ども二人を支えてバリケードの裏へ誘導し、キム・ジヌ(金鎮宇)とアメリカ人の夫が合力でアドナンの臨時担架を引いた。パク・ソヨン(朴素妍)は泣く気力も尽きて、ただ震える手で彼の頭部を押さえ続けている。負傷者エリアでは、林雨瞳(リン・ユートン)がすでに痛みで座ることすらままならないのに、それでも視線を上へ向け続けていた。AURORAの次の一手がどこへ来るかを、見逃すまいとするように。


葉綺安が刀を希の前に差し出した。


余計な言葉は一切ない。


希はまず保温ボトルを自分の外套の内ポケットに押し込んでから、手を伸ばして柄を握った。


その五指が閉じた瞬間——頭上から第一波の交差水柱が来た。


二本の高圧水柱が左右から挟み込み、俺たちのエリアを目がけて真っ直ぐ叩きつけてくる。人を吹き飛ばすんじゃない。人の列ごと手すりに叩きつけるための一撃だ。甲板の一般客がその勢いを見た瞬間、悲鳴が爆発した。走り出す者、腰が抜ける者、頭を抱えてその場にしゃがみ込む者——現場が一気に沸騰する。


そして、まさにその一秒——


希の全身が、後ろへのけぞった。


水圧に打たれたんじゃない。


刀の柄を握ったその瞬間から、何かが彼女の中へ踏み込んできたのだ。


右手が祖霊の開山刀を死に物狂いで掴み、左肩がガクンと沈む。彼女より背が高く、重く、ずっと凶暴な何かが、彼女の骨の中からそのまま着込んでくるみたいだ。首が傾き、歯が痛くなるほどはっきりした「ゴキッ」という音が鳴り、呼吸が瞬時に深く、重くなった。これは少女の息じゃない。何かが新しい肺を試している息だ。


次の瞬間——周りの全員が感じた。


甲板が、重くなった。


比喩じゃない。文字通りの意味で、重くなった。


さっきまで風に吹かれてあちこち跳ねていた紙切れ、毛布、ビニール袋、砕けたスポンジが、全部その瞬間に何かに上から押さえつけられたみたいに、パタンと甲板に張りついた。俺自身の膝まで、明らかにずっしりと沈む。靴底が磁石に吸い付かれたみたいだ。左右から猛速で迫ってきた二本の水柱が、俺たちから二メートルもないところで突然下へ叩き落とされ、見えない壁に激突したみたいに水流が潰れ、白い霧と飛沫が甲板に広がった。


周囲が、まず一拍だけ静まった。


それから——さらに大きな、制御を失った叫び声が上がった。


希がゆっくりと頭を上げた。


その顔はまだ希の顔だ。だが、目は違う。普段なら少しだけ柔らかく、少し砕けていて、少し小賢しい光があるはずの瞳から、そういうものが全部消えた。残ったのは、古くて、重くて、理屈を受け付けない硬さだ。刀を握り、肩線を極限まで落とし、全体の重心が甲板の中へ沈み込んでいるみたいで、風でさえ彼女を動かせない。


口を開くと、声が一段低くなっていた。砂紙が鉄桶を削るみたいな、ざらついた声だ。


「うるさいわ。」


牛小琴、完全顕現。


胸の中で今にも千切れそうだった何かが、ほんの少しだけ緩んだ。


すぐ隣のアメリカ人夫婦は、この一部始終を至近距離で目撃して、もう恐怖の顔じゃない。認識のフリーズに近い表情だ。夫の唇が二度動いて、最後に砕けた英語が一言だけ出てきた。


「What… the hell…」


「今はそれを考える時間じゃない。」俺は直接返した。「伏せてろ。じゃないと次の瞬間に死ぬ。」


AURORAも、この一撃に明らかに乱された。


スピーカーから短い電流の爆音が走り、それからシステムの女声が再起動した。


『重力場の異常を検知いたしました』

『高汚染結合体の段階移行を検知いたしました』

『脅威レベルを引き上げます』


「ほな、」牛小琴がサーチライトと監視カメラを見上げ、口の端をゆっくりと、ひどく凶悪な角度に引き上げた。「もっと大きい声で言うてみい。」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、右側の大型メンテナンスアームが突然外れた。鋼索と吊り金具が、底に繋がれた金属補給箱三つを引き連れて、人の群れの中央へ向かって真っ直ぐ落ちてくる。


この高さ、この重量。落ちれば一人二人じゃない。人の塊ごと打ち抜く。


牛小琴は走らなかった。


ただ、一歩前へ踏み出し、刀の切っ先を甲板へ向けて軽く突いた。


その瞬間、足元のチーク材のデッキ全体が、低く「ドン」と鳴った。


見えない巨大な手が、上から押さえつけるような音だ。


空中を落下していた吊り金具と金属補給箱が、人の頭上三メートルを切ったところで、突然速度を失った。止まったんじゃない。落下速度そのものが押し潰されたのだ。まるで何十倍もの重さを急に背負わされたみたいに、金属が耐えきれない呻き声を上げ、鋼索が千切れる寸前まで張り詰める。次の瞬間、牛小琴が刀を横へ一払いした。その一塊が、まるで横から蹴り飛ばされたように軌道を変え、轟音と共に外側の手すりへ激突した。手すりが一区間ひしゃげたが、人の群れには当たらなかった。


この一撃で、甲板の五百人は「疑っている」段階を超えた。


全員が、目の前で現実が捻じ曲がるのを見た。


その場で膝をついた者がいた。「南無阿弥陀仏」を唱え始めた者がいた。英語でJesusを叫び続ける者がいた。隣の人間を死に物狂いで掴んで、次の瞬間に自分も水や鉄みたいに見えない力に掴まれるんじゃないかと怯える者がいた。


修女はその混乱の中で、牛小琴を見上げていたが、さほど驚愕の色は見せなかった。ただ静かに胸の前で十字を切った。目の前のこの世界が、自分の信仰の地図より広いことを受け入れるような仕草だった。


ホフマンも一瞬固まったが、このドイツ人の頭の良さは、半秒で立て直すところにある。すぐに周りへ向かって怒鳴った。


「見るな! 今のうちに負傷者を内側へ移せ! 急げ!」


そうだ。


今は奇跡を見物している時間じゃない。牛小琴が第一波を押さえている今のうちに、人の波を立て直す。


俺は即座に続けた。


「動ける男は全員こっちへ! 固定ポイントを引き直す! 老人、子ども、負傷者を一段内側へ! 縁には立つな!」


アメリカ人の夫が最初に動いた。肩はまだ歪んでいるのに、歯を食いしばって補給箱が乗った金属テーブルを押しに行く。キム・ジヌも駆け寄った。パク・ソヨンは修女と一緒に、崩れかけている子どもたちを毛布の裏へ押し込んだ。二人の乗組員も、まるで眠りから覚めたみたいに、一人は酸素ボンベへ、一人は医療箱へ走り出した。


葉綺安は、牛小琴をほとんど見ていなかった。


見る必要がなかったからだ。今度は、自分の番だと分かっていた。


彼女はバールを横へ投げ捨て、額に張りついた髪を片手でかき上げ、まっすぐに立った。希が「重いものに骨ごと着込まれる」ような上がり方をしたのとは違う。葉綺安の線は、いつだってずっと清潔で、ずっと冷たい。


彼女はまず目を伏せた。誰かの声を聞いているみたいに。


顔を上げた時——その目は、完全に別人のものになっていた。


凶悪さじゃない。


冷たさだ。


幾多の死を見てきたために、もう感情を消費する必要すらなくなった女が、この体を借りて完全に入ってきた。そんな目だ。


牛小琴みたいに空間全体の重力が変わることはない。


だが、風向きが変わった。


海風はまだ猛然と吹いているのに、葉綺安の周囲だけ、もっと冷たく、もっと古い何かに切り裂かれたみたいな空気になっている。足元の水痕が左右に退き、衣の裾が乱れず、異様なほど静かに垂れている。彼女はAURORAが調整し続けている照明フレームとクレーンアームを見上げ、静かに一言だけ言った。


「列を組みなさい。」


次の瞬間——甲板の反対側、炎の光とサーチライトの隙間に、影の列が浮かんだ。


ホラー映画の白い人形でも、透明な幽霊の群れでもない。海風と夜の闇に輪郭を削り出されたような古い影——兜、甲冑の板、長槍、方盾。宋式の軍装の輪郭が、ぼんやりとしながらも整然と、葉綺安の前から一列また一列と展開していく。現代の豪華客船の高層デッキに、古い戦陣の一部が無理やり引き込まれたみたいだった。


アメリカ人の妻がそれを見た瞬間、口を手で覆った。涙を流すことすら忘れている。


キム・ジヌはその場で固まり、「それは科学的にあり得ない」という言葉すら出てこない顔をしていた。


馬三娘(マー・サンニャン)、顕現。


しかも単独じゃない。陣を率いての登場だ。


ちょうどその時、頭上から第二波の攻撃が来た。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ