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23.決断 23-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

22:01


手動ホイールは、馬鹿みたいに重かった。


「ちょっと大変」なんてレベルじゃない。掴んだ瞬間に分かる——これは一般乗客に触らせる前提で作られてない。半死半生の機械式伝達システムのどこかと直接繋がっていて、下へ押し下げようとしても、最初はびくともしない。それから、ものすごく機嫌の悪い老人みたいに、少しだけ力を受け入れる。


「ゆっくり。」

金鎮宇が、インジケーターとブレーキの状態を睨みながら言う。

「もう少し……止めて。」


俺はホイールを止めた。腕がもう、じわじわだるくなってくる。


下の方で、挟まっていたエレベーターが、ひどい金属の擦過音を立てながら、だいたい一寸ほどガクンと落ちる。


希が即座に身を乗り出して叫んだ。

「動いた! 今、動いた!」


本来なら、いい知らせのはずだった。


だが、その一寸は、病人の痙攣にしか見えない。滑らかな降下じゃない。固着していた何かを強引に引きはがして、嫌々ながら位置をずらした——そんな動き方だ。


「続けて。」

金鎮宇が言う。


俺は再び力を込めた。


二回目はさらにきつい。ホイールがこっちと綱引きしているみたいだ。どこかが明らかに引っかかっている。その抵抗と格闘しながら少しずつ押し下げていたとき、シャフトの奥から、さっきよりもはっきりした水音が上がった。


水滴でも、単なる流水でもない。


——下の空間のどこかが、またひとつ、水に喰われた、そんな音だった。


パク・ソヨンの肩が、びくりと跳ねる。


葉綺安は、乱れ飛ぶランプを凝視したまま、押し殺した声で言った。

「左の赤ランプ、点いたり消えたり。」


金鎮宇がちらりと視線を走らせる。

「分かってます。止めないで。あと少し。」


ホイールが、ようやくもう一段階、下へ沈む。


今回はさっきよりも大きく箱が動き、六階側へ二、三寸ほどさらに沈んだ。ドアの隙間から漏れるあの歪んだ光も、それに合わせて変化する。プラットフォームから見ていても分かるくらい、箱の位置が、「人を救い出せる可能性のある角度」に近づいていく。


——だが、その次の瞬間。


構造全体が、明らかに嫌な音を上げた。


ギ……ィ。


鈍いノコギリで鋼骨を、わざとゆっくり引き裂いているような音。


全員が同時に固まった。


俺の手はまだホイールにかかったままで、背中を伝う汗が一気に冷たくなる。


「動かさないで。」

金鎮宇が、低く言った。


五人とも、その場に縫い付けられたみたいに固まる。

下のシャフトからだけが、水と金属の細かな反響音を、途切れ途切れに運んでくる。


数秒の間を置いて、その支柱はそれ以上きしまずに済んだ。


金鎮宇は、そこでようやく、ゆっくりと息を吐き出した。


「……まだいけます。あと、ほんの少し。」


俺は彼の横顔を見て、ふいに笑いそうになった。


これが、今のこの船の縮図だ。


みんな、「まだいける」の一言だけで、自分を支えている。


---


22:05


三度目の降下のあと、箱はどうにか六階の床の、半分ほどの高さにまで追いついた。


プラットフォーム側からでは内部は見えないが、六階側のドアをこじ開けられれば、少なくとも人を引きずり出せる"可能性"はある——そう判断できる位置だ。


ただし、俺たちがいるのは七階裏側のメンテナンスプラットフォーム。


六階側に回り込むには、もう一周しなきゃならない。


「俺が下りる。」


俺がそう言うのとほぼ同時に、葉綺安も口を開いた。


「私も行く。」


希もすぐに口を開きかけたが、俺の一睨みで足が止まる。


「お前はここに残れ。」


「なんでよ。」


「こっちには、ランプと水位を見張る人間が要るからだ。」

俺はそのまま続けた。

「それに、俺が下りたあとにこの装置をまた動かす必要が出たら、お前が金さんと組んでやるしかねえ。」


彼女の顔が一気に曇る。明らかに納得いってない。でも、自分でも俺の言っていることが正しいのは分かっている顔だ。


パク・ソヨンは、涙を拭いながら小さな声で言った。

「私は残って、お手伝いします。」


金鎮宇は、短くきっぱりと言った。

「僕はここを離れられません。このブレーキを誰も見ていない状態で放置したら、下の状況はもっと悪くなる。」


いい。

雑な分担だが、一応の形にはなっている。


俺と葉綺安は、反対側の点検用ラダーから六階へ回り込んだ。通路は七階よりさらに狭く、さらに濡れている。足の裏には、どこからか染み出してきた冷たい水が、時折ぬるりとまとわりつく。壁の向こうからは、ときおり火災エリアの鈍い破裂音が聞こえ、遠くの船内放送は、途切れ途切れに高層階への避難を呼びかけ続けている。誰に向かって話しているのか、すでに自分でも分かっていないみたいな声で。


「さっき、手、震えてた。」

葉綺安が、ふいに口を開いた。


俺は鼻で笑った。

「こんな時に震えねえ方が病気だろ。」


「怖いんじゃない。」


「当たり前だ。俺はただ、早く終わらせてえだけだ。」


彼女はそれ以上何も言わない。ただ、暗がりの中で歩調を速めて、俺と並んで駆けた。


---


22:09


六階裏側の点検口は、七階のそれよりさらに惨状だった。


ドアは一応「開いて」はいる。だが、普通の意味での「開く」じゃない。中から何度も思いきりぶち当てられたみたいな開き方だ。枠の周囲には大きな濡れた跡が残り、床に溜まる水は七階より明らかに深い。踏み込むたびに、足元で小さな破片同士が擦れ合う音がした。


そのまま裏通路を抜け、ようやく中央エレベーター六階の正面へと回り込む。


ここからは、さっきよりずっと箱に近い。


近いがゆえに、はっきり見える。


左端のエレベーターのドア上半分がすでに歪み、底板と六階のフロアの間には、まだわずかに段差が残っている。きちんと噛み合っていない傷口みたいなズレだ。ドアの隙間から漏れる光は確かにあって——それは"生きた"光だった。灯りが安定しているからじゃない。中の誰かがまだ動いているからだ。


俺は駆け寄り、ドアの縁を掴んだ。


雨瞳(ユートン)!」


今度は、中から、さっきよりはっきりした声が返ってきた。


かすれて、低くて——

それでも、間違いなく彼女の声だ。


「……遅い。」


さっきまで喉に刺さっていた何かが、そこで一瞬だけ緩んだ。

その直後に、もっとでかい炎が逆流してきたけどな。


「そんな口叩けるなら、まだマシだ。」

俺は歯を食いしばりながら、歪んだドアを外側へとこじ開ける。

「中、何人だ?」


「三人……」


「お前、どこやった。」


中が一瞬、黙る。


それから、彼女はひと言だけ言った。

「脚。」


その一音だけで、状況の悪さが喉元までせり上がってきた。


俺と葉綺安は、二人がかりでドアを引っ張り、ようやく、もう少し幅のある隙間をこじ開けることができた。今度は中から、本格的に光があふれ出してくる。その光に照らされて、ようやく俺は、箱の内部を部分的に捉えた。


まず目に入ったのは、水だ。


すでにふくらはぎまで浸かっていて、箱の傾きに合わせて、ゆらゆらと揺れている。次に、中年の男。変形したドア枠を、腕中の血管が全部浮き出る勢いで掴んでいる。その奥には、女がほとんど壁に張り付くように縮こまり、顔中を涙と水がぐちゃぐちゃにしていた。


最後に、俺の視線は、林雨瞳(リン・ユートン)にたどり着いた。


その瞬間、胸の真ん中を、思いきりぶん殴られたみたいになった。


彼女は「挟まっている」んじゃない。


折れた鋼製の手すりが一本、底板からめくれ上がっていて、それが彼女の太ももを真正面から貫通し、傾いた床に縫い付けていた。血はとうに水と混ざり合い、薄い赤のシミになっている。それでも、一目で分かる。これは、とんでもなく痛くて、厄介で、下手に動かしたら取り返しのつかない類いの傷だって。


葉綺安もそれを見て、呼吸を一瞬乱した。


だが、立ち直るのは彼女の方が早かった。


「まず、ドア、もっと開ける。」

彼女は短く言う。

「じゃないと、手すら入らない。」


そうだ。

まずはドアだ。


まず、手が届くようにしないと話にならない。


俺は意識して、その手すりから目を引きはがし、再び葉綺安と一緒にドアをこじり始めた。中の中年男も力を貸し、三方向からの力でどうにか、体を横にして手を伸ばせるくらいの隙間ができる。


俺が最初にやったのは、林雨瞳の脈と顔色を確かめることだった。


脈は——ある。

早い。だが、まだ確かにある。


顔色は目も当てられないくらい悪く、唇の血の気もすっかり引いている。それでも、その目だけは、まだ冗談みたいに澄んでいて、その澄み方が逆に腹立たしい。


「今、抜くな。」

彼女は俺を真っ直ぐ見て、第一声でそれを言った。


「分かってる。」


「本当に分かっててよ。」


「お前な、今日は黙って体力温存してろ。」


彼女は、かすかに口の端を引いた。


いい。

この女、まだ死ぬ気はねえ。


だが、この傷の扱いは、俺が思っていたよりずっと難しい。手すりは斜めに突き刺さっていて、基部は変形した床板の中にめり込んでいる。無理に引き抜けば、その瞬間に出血が爆発するだけじゃない。痛みで本人がその場で気を失う可能性も高い。本来なら、しっかり固定してから切断し、そのまま医療センターまで運ぶのが正解だ。


問題は——


今、俺たちがいるのは、水が入り込み続けていて、なおかついつまた落ち出すか分からない、半分死んだエレベーターの箱の中ってことだ。


「正解」は、この場所では冗談にしかならない。


---


22:14


「上、まだ少し下ろせるか?」

俺は外に向かって怒鳴った。


すぐに、上から希のちぎれちぎれの声が返ってくる。


「い、いける……けど、あんまりは無理! ランプ、また暴れてる!」


葉綺安が即座に振り返って叫んだ。

「もう少しだけ! 床をフロアに当てて!」


金鎮宇が何か返したが、細かい言葉までは聞き取れない。ただ、制御ホイールがまた少しずつ動き始めるのは分かった。箱全体が歯の根に響くような金属のうめき声を上げながら、さらに一寸、二寸と沈んでいく。


——その一押しは、大きかった。


エレベーターの床が、ほとんど六階の床と面一に近いところまで降りてきたのだ。


中との段差が、一気に半分以上減った。つまり——あの手すりさえどうにかできれば、本気で彼女を引っ張り出せる位置関係になったってことだ。


とはいえ、問題の数が減ったわけじゃない。ただ、姿を変えただけだ。


ドアが十分開いたおかげで、中の様子も、よりはっきりと見えるようになった。


中年の女は、冷え切って全身を震わせていて、男はドアを握りしめ過ぎて手の感覚が飛びかけている。林雨瞳は側壁に背をあずけ、額には冷や汗が浮かび、指の関節は砕けそうなほど強張っている。それでも、意地で意識を飛ばさずにいるのが見て取れた。


俺は、あの手すりの、傷口に近いあたりに手を伸ばし、まずはどれくらい動くのかを確かめようとした。


触れた瞬間、彼女の脚の筋肉が、弓みたいに跳ねた。


「遊ぶな。」

かすれ声でそう言われる。


「お前、ほんと死にに行くの好きだな。」


「じゃあ、今ここで、なんか面白い話してよ。」


「お前を外に引きずり出せたら、死ぬほど喋ってやるよ。うんざりして、生きてること後悔するレベルでな。」


「じゃ、もっと死ねない。」


そう言い終えた途端、自分で息をついた。


罵倒の一つ二つは喉元まで出かかった。

そのまま、この手すりをへし折ってしまいたい衝動もあった。


だが——今それをやったら、本当に終わる。


葉綺安が、反対側にしゃがみ込み、数秒観察しただけで言った。

「手すりの下端、床の割れ目に噛んでる。手だけじゃ絶対に抜けない。テコか、切断工具がいる。」


「こんなところに、切断工具なんかあるかよ。」


「メンテナンス区画なら、探せばある可能性はある。」


「探しに行ってる間に、こいつ、ワカメになってんだろ。」


言い終わるのとほぼ同時に、箱の底から、またしても水が井壁にぶつかる鈍い音が響いた。箱全体が小さく揺れる。隅で縮こまっていた女が悲鳴を上げ、男の顔色も一気に変わる。上のランプが再び乱舞を始め、ドア脇の非常灯まで、一瞬だけ暗くなった。


——時間は、もう残っていない。


その結論は、心底気に食わないが、否定のしようがなかった。


---


22:18


俺は、頭の中で計算を始める。


このエレベーターが、あとどれだけ持つか。

雨瞳の出血と体温低下の余裕が、どれくらい残っているか。

今この手で、彼女の太ももを引き裂かずにここから引きずり出せる方法が、どれほど現実的に存在するか。


最後まで計算しても、出てくる答えは、どれもロクでもない。


「まともな方法」じゃ、速度が足りない。


「まともじゃない方法」なら——俺は、持っている。


一つじゃない。

いくつも、ある。


エレベーターのドアくらい、力任せに引き剥がせる。


この手すりだって、床ごと引きちぎって持ち上げる自信がある。


最悪の場合、もっと"本来見せちゃいけないやり方"で、この一帯の鋼鉄そのものをぶち抜くことだって——できる。


問題はそこじゃない。


ここには、俺と雨瞳だけがいるわけじゃない。


キム・ジヌがいる。

パク・ソヨンがいる。

あの外国人夫婦もいる。


みんな、見ることになる。


生身で、まだ人間でいるはずの段階で、見なくていいものを見ることになる。


周士達(ジョウ・シーダー)が、ただの口の悪い運のいい一般人じゃない、ってことを。


俺が、ずっと意図的に押さえ込んで、表に出さないようにしていた"もう一段階下"を。


俺はエレベーターの入口にしゃがみ込み、冷たい手すりに手を置いたまま、頭の中で二つの声が真正面からぶつかり合うのを感じていた。


一つは言う。——まず助けろ。

もう一つは言う。——一度開けたら、もう二度と引っ込められないぞ。


林雨瞳は、それを読んだみたいに顔を上げ、低い声を出した。


「バカな真似、しないで。」


「今のお前、口の利き方が最悪だな。」


「だって、その顔だと。今にもバカする顔。」


「お前、人の顔、そこまで読むの得意だったか?」


「ただ、あんたを知りすぎてるだけ。」


その一言が落ちた瞬間、俺の中の炎が逆にさらに大きくなった。


こいつの言う通りだからだ。


俺は今、本当にどうしようもなく嫌な場所に立っている。


これ以上引き延ばせば、あいつが危なくなる。

だが、本当に"あれ"を呼び出した瞬間から——このフロア全体の連中が俺を見る目は、二度と元には戻らない。


上から(シキ)の声が降ってきた。今度は、さっきよりずっと切羽詰まっている。


士達(シーダー)! 下の水位、上がってる! 本当に上がってきてる!」


キム・ジヌ(金鎮宇)も、床板越しに叫ぶ。

「制御ボックス、もう限界です! 決断を!」


葉綺安(イェ・キアン)が振り返って、俺を見た。


何も聞かない。

ただ、見ているだけ。

それでも、あの目ははっきりと告げていた——これ以上迷えば、全員一緒に沈む。


俺はゆっくりと立ち上がり、あの手すりから手を離した。力を込めすぎていた指の関節が、まだじんじん痺れている。


海水が箱の中で揺れる。

雨瞳(ユートン)の血が、少しずつ薄まっていく。

あの夫婦の荒い呼吸とすすり泣きが、濡れた紙みたいな音になって、この狭い空間の至るところに貼りついていた。


次に自分が何をするのか——俺には、もう分かっている。


やりたくてやるんじゃない。

他の選択肢が、どこにも残ってないだけだ。


俺は顔を上げ、葉綺安の方を向いて、一言だけ告げた。


「これから何を見ても、余計なこと聞くな。」


彼女の目が、わずかに暗くなる。この言葉が普通じゃないってことくらい、さすがに分かる。


だが、彼女が何か言葉を返すより早く——横で、別の影がすっとしゃがみ込んだ。


希だ。


いつの間に上から駆け下りてきたのか。顔中に汗と煤が張りついて、息はさっきまで誰かと本気で殴り合っていたみたいに荒い。なのに、その目だけは、異様な光を帯びていた。


「違う。」彼女が言った。


俺は眉をひそめる。「お前、何しに降りてきた。」


「アンタじゃない。」


「何がアンタじゃないんだよ。」


返事はしてこない。代わりに、エレベーターのドアの縁まで膝をつき、自分がずっと肩から提げていたサイドバッグの中へと手を突っ込んだ。中を、乱暴なほどの速さでまさぐる。二度、三度探ったあと——何かを掴んだ感触があったのか、彼女の体がびくりと動き、そのままそれを力任せに引きずり出した。


ステンレスのボトルだった。


銀色。

ひどく古びている。

縁には無数の擦り傷があり、ボトルの胴には、端が丸まったまま貼りっぱなしのラベル。


俺の瞳孔が、勝手に狭くなる。


牛小琴(ニウ・シャオチン)のボトル。


ここまでの大騒ぎの中で、みんな身につけてるものは捨てられるものから順に落として、忘れられることから順に忘れてきたのに——こういう、見た目は一番ガラクタっぽくて、実は一番テキトーに放り出しちゃいけない物だけは、希みたいな奴が律儀に背負ったまま走り回っている。


彼女の指先がキャップの上にかかる。節が真っ白になるほど力が入っているのに、体全体は震えていた。


ただの恐怖じゃない。


この蓋を一度開けてしまえば——この先の出来事が、もう「普通の筋道」では進まなくなることを、本人が一番よく分かっている震えだった。


何かを言おうと口を開きかけた俺より早く、彼女が顔を上げた。


まっすぐな目だった。

追い詰められた末に、ようやく何かに辿り着いた人間の目。


「士達。」声はひどく枯れていた。「うちが、(のぼ)らなあかん。」


葉綺安が、息を呑んだ。


パク・ソヨン(朴素妍)とキム・ジヌには、彼女が何を言っているのか、まるで意味が分からない顔だ。


エレベーターの中で林雨瞳が顔を上げ、その目が初めて本当に変わった。


そして、俺の胸の中で、さっきまで暴れ回っていた炎が——誰かに手のひらで、ぎゅっと押さえ込まれたみたいに、形を変えた。


希が何を言っているのか、俺には分かる。


彼女は、俺を楽にさせようとしているわけじゃない。


本来なら俺が踏み越えなきゃいけない境界線を——代わりに、自分から踏みに行こうとしている。


上のシャフトから、さらに大きな衝撃音が落ちてきた。箱全体がまた一度揺れ、水面が跳ねて、林雨瞳の脚を叩く。夫婦は同時に悲鳴を上げ、鉄とワイヤーのうめき声は、もう限界が近いことをはっきりと告げていた。


希は、もう誰の顔も見ない。


ただうつむいて、両手であのボトルを抱え込む。まるで、今まさに起爆スイッチを入れられようとしている爆弾みたいに。


次の瞬間、彼女の親指が、上へと弾き上がった——


カチン。


キャップが、緩んだ。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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