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19. 交錯する証言 19-2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

昼前のアクティビティは、ぎっしり詰め込まれていた。


シュノーケリング、SUP、パラセーリング、フィッシング——一通り揃っている。


元々、俺はどれにも執着はなかった。だがシキに半分引きずられる形で、シュノーケリングに参加することになった。新しいものを見つけたらフルコースで試さずにいられない、あのエネルギー。時々、本当に人間の生命力を胃袋から引っこ抜いてくるタイプだ。


「毎回、金出して文句言うだけの係ってわけにはいかないでしょ」彼女は言った。


「俺はチームの精神的支柱でもある」


「どっちかっていうと、会計担当じゃない?」


「それも支柱の一種だ」


結局、俺はマスクをつけて海に潜った。


結論から言うと、悪くないどころか、かなり良かった。


水面の下は、静かで、やたら派手な世界だ。サンゴの群れ、小さな魚の群れ、時々すっと横切る銀色の影。光が水中で揺れて、自分の呼吸の音だけがやけに大きく聞こえる。


一度顔を沈めると、現実そのものが遠くなる。船も、部屋も、カジノも、昨日までの面倒なあれこれも、一時的に思い出せなくなる。


浮かび上がったとき、シキはフロートに腹這いになって、満足げに笑っていた。


「どう? 最高でしょ」


「悪くないな」俺は顔の水を拭った。「人間、オフィスにばっかり籠もるもんじゃないな」


「元から、ちゃんとしたオフィスなんて持ってないでしょ」


「そういう現実を直球で言うな」


少し離れたところで、雨瞳が落ち着いた動きでシュノーケルから顔を上げた。濡れた髪を後ろへ払い、視線をこちらに向ける。


その一瞬、俺は妙な違和感に襲われた。


怖いとかおかしいとかじゃない。ただ——あまりにも「完璧すぎて」。


陽光、海、見栄えのする人間、高くつくアクティビティ。全員、「ちょうどいい」テンションに見える。


この「ちょうどよさ」の方が、むしろ落ち着かない。


だが、その感覚は一瞬で、すぐに海風とアルコールの残り香に紛れた。陸に上がると、スタッフが冷やしたフルーツとミント入りのおしぼりを持ってきてくれ、各自の好みに合わせたフィンガーフードまで並んだ。


このレベルの待遇を前にして、真面目に考え事を続けられるほど、俺の精神力は高くない。


金は、強力な麻酔だ。


---


ランチが始まるころには、「サンドバーで高級ディナーごっこ」がどういうものか、身をもって理解した。


白いクロスのロングテーブルがサンシェードの下に並び、海風がリボンを揺らしている。カトラリーとグラスは、規則正しく並んでいる。


メインはシーフードとトロピカル料理。生牡蠣、炭火焼きロブスター、ココナッツライス、スパイスフィッシュ、薄切りビーフ、冷えた白ワイン——次から次へとやって来る。シェフはオープンキッチンの前で、手際よく切り分け、盛り付ける。その一連の動作すら演出の一部だ。


シキはロブスターを一口食べただけで目を見開いた。


「これ、反則じゃない?」


俺は魚の切り身をひと切れ口に入れ、無言でうなずいた。


——普段コンビニのチンした弁当で生きてる人間には、あまりにも世界が違う。


ホフマン教授は白ワインを一口含み、真顔で言った。


「現代人が、贅沢が精神の腐敗だと知りながらも、自分から沈んでいく理由が、少し分かりました」


「懺悔ですか、教授」俺は聞いた。


「第二ラウンドで、ラムチョップを三枚取ってしまったのでね」


サラが笑い、ジョナサン・リードは料理の写真を撮りながら一言足した。


「旅で一番危ないのは、未知じゃない。『明日も同じものが食べられる』って考えだ」


「それは分かる」俺はグラスを回した。「カジノも、だいたいその理屈で破滅する」


葉綺安は向かいで、きれいに魚を小さく切っていた。


「それ、理解じゃなくて疾患の一種」


「適度な病は、人生のスパイスってやつじゃないの」


「あなたのスパイスは、だいたい口座を壊す」


雨瞳はグラスを口に運び、小さく笑ったように見えた。普段、防火扉みたいに堅い女から、こういう反応を引き出せたなら、俺としては本日の功績にカウントしていい。


---


食後はフリータイム。


マッサージを受けに行く者、サンドバーの反対側で写真を撮る者。シキは葉綺安を引きずって、「アルバムジャケットみたいな一枚を撮る」と言って連れ出した。葉綺安は「面倒」と言いながら、結局付き合っていた。


雨瞳は島の反対側にあるラウンジへ行き、「二十分寝る。起こしたら殺す」と宣言して横になった。


俺はもう一杯もらおうとバーへ向かったが、カウンターに着くより先に、アドナンがどこからともなく現れた。


(ジョウ)さん、本日のご気分はいかがです?」


「このパッケージが詐欺だったとしても、俺は喜んで被害者をやるよ」


彼は笑い、柑橘の皮を入れた冷えたワインをグラスに注いだ。


「そのお言葉、光栄です」


「君ら、この船で働く人間は、みんな口がうまいな」


「サービス業の一部ですので」


俺はグラスを受け取り、彼を見た。


「君も、今日は同行か」


「このレベルの有料プログラムには、通常より上の調整役が必要です。どのパートも、スムーズに進めたいので」


「本気で、客が一秒でも不満を漏らすのを恐れてる感じだな」


アドナンはカウンターに手を置き、遠くの海を見た。


「人は満足しているとき、他のことをより簡単に許してくれますから」


俺は眉を上げた。


「なんか、急に哲学っぽくなったな」


「ただの経験談ですよ」彼は横顔だけこちらへ向け、いつもの非の打ちどころのない笑みを見せた。「旅の途中でも、人生の中でも」


普通なら、これは単なる「よくできた社交辞令」で済ませるところだ。


だが、その時の俺は、なぜかすぐには返事をしなかった。


グラスを持ったまま、しばらく立ち尽くす。


海風が吹き、白い布がかすかに揺れる。遠くから笑い声が聞こえ、砂浜では誰かが写真を撮り、グラスの中では氷がゆっくり溶けていく。


全部、きれいだった。何一つ、文句のつけようがない。


だからこそ、妙な「行き届きすぎ感」が気になった。


悪いわけじゃない。ただ、あまりにも整っている。


人の声の起伏、スタッフが現れるタイミング、音楽のボリューム。全部、どこかで計算にかけられているような。


ごく微かに、「味の分からない苦味」が一滴、酒に混ざったみたいだった。飲むのをやめるほどじゃない。だが、喉を通り過ぎた後で、半秒だけ何かを考えさせられる。


俺はその半秒ごと、飲み込んだ。


遊びに来ている人間に、過度な思考は似合わない。


---


午後二時半、極光号(オーロラ)へ戻るころには、全員が「遊び切って脱力している」状態になっていた。


心地よい疲労だ。日光を浴び、酒を飲み、うまいものを食べ、足の裏の筋肉まで緩んでいる。


船に戻ると、乗船口には既に冷たいタオルとリカバリードリンクが用意されていた。日焼け後のケアセットまで、一人ひとりのバスケットに入っている。


ここまで来ると、もはやサービスというより、執念に近い。


シキはタオルで髪を拭きながら、ソファにぐったりと沈み込んだ。


「なんかさー、人生ずっとこうやって過ごしていけるなら、それはそれでアリな気がしてきた」


「その一言、だいぶ危険だぞ」俺は言った。


「なんで?」


「そうやって人間、ぬるま湯でダメにされてくんだろ」


林雨瞳(リン・ユートン)は別の椅子に座って、目を閉じたままスタッフに腕へ保湿スプレーを吹きかけてもらっている。声はやけに気だるげだ。


「自分は意志がある側、みたいな顔してしゃべるね」


「少なくとも、堕落にはちゃんと警戒してんだよ、俺は」


葉綺安(イェ・キアン)は横で今日の船内ナイトプログラムのパンフレットをめくりながら、顔も上げずに言う。


「あんたはね、警戒はするけど、そのままやり続けるだけでしょ」


「それを大人って呼ぶんだよ」


「それを手の施しようがないって呼ぶの」


反論しかけたところで、リストバンド型の端末がまた震えた。


『尊敬する周士達(ジョウ・シーダー)様。本日の体力消耗データおよび夜間行動傾向に基づき、十八階「黒潮プロバビリティ・サロン」の今夜の御席を優先確保いたしました。あわせて、テーブル用チップのアップグレード特典を進呈いたします』


画面を見つめて、思わず笑いが漏れた。


「ほら見ろよ。この船、やっと"本当の顧客ケア"ってやつを理解したじゃねえか」


林雨瞳が目を開けて、俺を一瞥する。


「それ、どっちかっていうと、あんたの病巣をピンポイントで餌付けしてるだけ」


「でもまあ、理解されてるってことには変わりねえだろ」


シキはタオルに顔を埋めたまま笑う。


「なんかほんとに、シーダーのことよく分かってるよねあのAI。あんた、ここ数日めちゃくちゃ"夜をテーブルに捨ててく男"って感じで動いてるんじゃない?」


「元々そういう男だが?」


「しかも誇らしげなのキモい」


「人間、胸張って語れるくらいの欠点、何個かは持っとくもんだろ」


ちょうどそのとき、ホフマン教授が熱い紅茶のカップを手に通りかかり、最後の一言だけ聞こえたらしく、こくりと頷いた。


「確かにね。特にこの船では、欠点もパッケージングが上手ければ、立派な"スタイル"に見える」


今日のこの老人、ずいぶん調子がいい。マーレのロブスターと白ワインが、どうやら彼の哲学を少し温かい方角に回したらしい。


いったん解散して部屋へ戻り、それぞれ支度をしてから夕方にまた集合することになった。


スイートへ戻る途中、船の中層にある商業デッキを抜ける。あのフロアは、いつだって午後という概念が存在しないみたいに明るい。ブティック、ジュエリー、フレグランス、オーダーメイドのドレス、腕時計のカウンター。全部がいちばん綺麗に見える角度でライトを浴びて、ただ静かにカードが切られる瞬間を待っている。


昨日おとといまでは、ここを通るたびいちいち新鮮だった。けど今日また同じ場所を歩きながら、逆に少しだけ足を止めて眺め直す。


おかしいのは——時間はもうすぐ三時なのに、人の多さが昨日のゴールデンタイムとそんなに変わらないことだ。


多いだけじゃない。妙に、安定してる。


どの店にも必ずお客がいて、どのコーナーにも誰かが"ちょうどよく"買い物している。けど混んでない。うるさくもない。誰かが全部計算して、いちばん快適になる人流密度を出して、その数字どおりに人間を配置しました、みたいな。


立ち止まって、とある腕時計店の前で十秒ほど様子を眺めた。


ガラスケースの中の時計はきっちり整列していて、店員の笑顔もマニュアル通りの完璧さ。客は二、三組。空間のどこを切り取っても「おかしいところ」はない。


だからこそ、逆に引っかかる。


上手く言葉にならない違和感が、喉の奥に小骨みたいに刺さる。


ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。


十五時〇七分。


そのまま前へ進むと、スイーツショップの前に、中年の夫婦が二人並んで立っていた。女の方は袋を二つ提げていて、男は店員と何か話している。どこか見覚えがある顔で、自然と目がそっちに引っ張られる。


で、香水の店の前を回り込んで、何となく振り返ったとき——さっきの夫婦が、今度は別の店の前に立っているのが見えた。同じ袋を持って、ほとんど同じ立ち姿で。男の腕の上がり方まで、さっきとほぼコピー。


足が止まる。


……ただの偶然か?


クルーズなんて人の出入りが絶えない場所だし、似た光景を何度か見るのは別に珍しくもない。あの二人だって、よくいる"ちょっと金持ちそうな観光客夫婦"で、見覚えがあるのも自然っちゃ自然。


それでも眉間が勝手に寄って、その場で少しだけ様子を観察する。


次の瞬間、リストバンドが光った。


『周士達様。商業デッキにやや長く滞在されているようです。本日のお客様に最適なショッピングルートをご提案いたしましょうか』


画面を見下ろして、最初に浮かんだ感想は——


……おい、こいつ、俺のことどこからどこまで見てんだよ。


で、その次に浮かんだのは——


いや、これ、今に始まった話じゃねえな。単に、今日やっとそこに気づいただけだな、ってこと。


ここ数日は、こいつのことを「気が利く」「便利」「先回りが上手い」で片付けていた。けどよく思い返すと、これは"当ててる"んじゃない。完全に"追って"きてる。


どこで長く立ち止まったか、何を見続けたか、夕飯をどれくらい重いもの食ったか。夜になったらどっち系のバーを勧めるか。過去にカジノへ行ったなら、次からは自動で席を押さえる。


普通に考えれば、これぞラグジュアリーなサービス。


ただ、こっちの気分が少しだけ陰っている日に限っては、その親切さが、やけに礼儀正しい監視に見えたりもする。


リストバンドの画面をタップして通知を消し、そのまま歩を進めた。


この船、口出しすぎじゃねえか——そう感じるのは、実は初めてじゃない。ただ、これまでは飲み食い遊びの音量がでかすぎて、その小さな引っかかりを全部かき消してくれていた。


五日目にもなると、さすがに浮かれっぱなしってわけにもいかない。速度が落ちた分、脳みそがようやく、数日前ならスルーしていた細部を拾い直し始める。


部屋に戻ってから、バルコニーに出て一本だけタバコを吸った。


海風が強くて、煙はすぐにちぎれて飛んでいく。極光号(オーロラ)は西南方向へ向けて、静かに海を切り裂いている。海はやたらと広くて、何だって飲み込めそうだ。遠くに細い光の帯みたいな地平線が一本残っていて、マーレの、作り物みたいに綺麗な島々はもう完全に背中側だ。


半分くらい吸ったところで、林雨瞳からメッセージが来た。


「十九時、十八階のバー。昨日みたいな南国詐欺師スタイルで来たら殺す」


苦笑しながら返信する。


「了解。本日は"没落貴公子バージョン"でいきます」


返事はひと言だけだった。


「消えろ」


いいね。少なくとも、この船の上にもまだ、人間らしい雑なやり取りが残ってる。これはかなり、重要なことだ。本当に。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


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