17. 疑惑 17-2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ランチを食べ終えると、体全体がゆるんでくる。
船は海の上、午後の陽光は暑いが刺さらない、風もちょうどいい。こういう時間に一番合っているのは、頭をあまり使わない施設に自分を放り込むことだ。
俺たちは二手に分かれた。
シキとサラ・リード(Sarah Reid)は午後の屋外映画プレイベントを見に行き、ついでに甲板で写真を撮る。雨瞳はスイート客限定のデザートテイスティングに行くつもりだったが、俺が九階のIMAXシアターへ引っ張っていった。理由はシンプルで、このクラスの船が作る映画館を一度も使わないのは損だ。
葉綺安は言った通り、時間ぴったりに確率サロンへ戻った。ソヨンが一緒に行き、「今日こそ雪辱を果たす」という顔のジヌが後に続いた。
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九階のIMAXシアターは、俺の想像を上回っていた。
シートは大きく、背もたれは調整できる。前の席との間隔は船の中とは思えないほど広く、飲み物と軽食を席まで届けてもらえる。
極光号(オーロラ・インペリア)の恐ろしいところの一つは、「この規格は明らかにやりすぎだ」という感覚を、少しずつ麻痺させることだ。初日は驚く。三日目には当たり前になる。そして気づけば、氷が透明かどうかにまでこだわり始めている。
雨瞳はポップコーンを抱えて俺の隣に座り、前のスクリーンで流れている海洋ドキュメンタリーを見ながら、低い声で聞いてきた。
「わざとこういう場所を選んだでしょ」
「どういう意味だ?」
「暗くて、椅子が大きくて、冷房が効いてる」
「それで?」
彼女は横目で俺を見て、目尻をわずかに細めた。
「下心がある」
俺は思わず笑ってしまった。
「林雨瞳、それ、俺を煽ってることに気づいてるか?」
「注意してるの」彼女はポップコーンを一粒口に放り込み、語調は平坦なまま。「ここ、人が多い」
「じゃあ、そっちから寄ってくるなよ」
「最初に寄ったのはあなた」
その言い方は至って自然だったが、肩は俺から離れなかった。
前のスクリーンには広い海が広がっている。周りの客は映画を見ているか、寝ているかのどちらかで、シアター全体が高級な昼寝スペースみたいな空気になっていた。
俺たちは別に何もしなかった。
ただ、誰も気にしないような薄暗い光の中で、肩と肩が触れていて、指先がたまに当たっては、何事もなかったように離れる。それだけだ。だがそういう、どこにも行き着かない小さな接触が、時に何かをしてしまうより、よほど人を消耗させる。
映画が終わって出てきた時、雨瞳は食べ残しのポップコーンバケツを俺の手に押しつけ、自分はさっさと歩き出した。歩き方は落ち着いていたが、耳の後ろがいつもより少し赤かった。
俺は追いつきながら、わざと聞いた。
「暑いか?」
「冷房が弱かっただけ」
「その言い訳、誠意がなさすぎる」
「じゃあ聞かなければよかった」
もう一言からかおうとしたところで、デザートテイスティングから戻ってきたシキと鉢合わせした。
両手に限定スイーツのギフトボックスを抱えていて、顔全体が「大成功の狩り」帰りだ。
「この船、ほんとにやばい」
俺はそのボックスを見た。
「その言い方、全然不満に聞こえないけど」
「デザートテイスティングって、小さいケーキをみんなで食べるだけだと思ってたら、アイシングと果実の香りまで解説してくれて、しかもお茶まで合わせてくれるんだよ」シキはそこで、本当に感心した顔で一息ついた。「それで、めちゃくちゃ美味しかった」
「で、やばいのは?」
「都会の人が太りやすい理由が、ちょっと分かった気がした」
その結論には、なかなかの洞察力があると思った。
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夕方、十九階に全員が集合した。
海面の色が変わっていた。昼間の眩しさが落ち、金みがかった温かみのある色に変わっている。甲板はまだ人が多いが、昼間より少しゆるんでいる。泳ぎ終えて酒を飲んでいる者、デッキチェアで日焼けしながら半分眠りかけている者、すでに着替えて夜のショーを待っている者。
葉綺安がソヨンとジヌと一緒に戻ってきた時、手には小さなチップ交換券の束が増えていた。午後の確率サロンの結果は、彼女を失望させなかったらしい。
キム・ジヌは俺を見るなりため息をついた。
「周さん、今日も負けました」
「それで、なんでそんな嬉しそうなんだ?」
「負け甲斐があったから」彼は葉綺安の方を向いて顎をしゃくった。「彼女のプレーを見てる方が、自分が勝つより面白い」
ソヨンが横から静かに付け足した。
「今日は昨日より早く諦めた。成長ね」
葉綺安はテラスの椅子にだるそうにもたれ、それを聞いて一言だけ返した。
「今日は少しマシだった。テーブルと無駄に張り合わなくなったから」
その言葉が何かを指しているのかどうか分からないが、キム・ジヌは感動したような顔で、その場でグラスを掲げた。
俺は横で見ながら、笑いをこらえた。
この船の最大の才能の一つは、本来なら絶対に同じテーブルにつかないような人間たちを、「半分知り合い、でも一緒に酒は飲める」という絶妙な距離感に育て上げることだ。
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夕食は、メインバンケットホールを外して、八階のインド洋テーマ高級レストランへ向かった。
理由はシンプルだ。船がコロンボへ向かっている以上、船側がその航路を食卓に落とし込まないはずがない。スパイス、炭火焼き、シーフード、ココナッツミルク、バスマティライス、ペアリングワインの提案——一皿ずつ運ばれてくるたびに、熱気と香りが攻めてくる。食べている途中で、「ここ数日で、人生のぶん全部の食欲を取り戻してるんじゃないか」という気がしてくるくらいだ。
この食事は、前の二日より時間をかけた。
料理の量だけじゃなく、三日目になって初めて、全員が本当に「航路のリズム」に乗り始めたからだ。一日目は新鮮さ。二日目は「使いこなし始め」。三日目になると、もう一通り回り切った安心感があって、急いで何かを体験しなくてもいいという余裕が生まれる。ゆっくり食べ、ゆっくり飲み、ゆっくり話す。
そういう「ゆっくり」の中で、小さなものが少し見えやすくなる。
雨瞳が、ふと口を開いた。
「オーロラが勧めてくるルート、ずっと滑らかだと思わない?」
シキはナンを千切っていた手を止め、顔を上げた。
「滑らかなのって、悪いの?」
「悪くない」雨瞳はグラスを手に取り、水を一口飲む。語調は相変わらず淡い。「ただ、少し滑らかすぎる気がして」
俺が返そうとした瞬間、ホフマン教授が昼間に言っていた言葉が、頭の中でちかりと光った。
この船は、感情の割り当てが上手い。時間の割り当てが上手い。「次にどこへ行くべきか」の割り当てが上手い。
自分で考える必要がほとんどない。極光号は、ちょうどいいタイミングで、ちょうどいい選択肢を、目の前に差し出してくる。
以前の俺なら、これを「高級なサービス」と呼んで終わりにしていただろう。
だが三日続けて過ごしてみると、その「滑らかさ」が時に、妙な感覚を生み出すことがある。
——旅をしているんじゃなくて、非常に洗練されたプロセスの中で、丁寧に前へ運ばれているような感覚。
俺は窓の外の、すっかり暗くなった海面へ目をやりながら、何気なく聞いた。
「なんで急にそんなこと?」
雨瞳はフォークで魚の一切れをつついて、すぐには答えなかった。
「今日、自分で別の階へ行こうとしたら、極光号に三回続けて別のルートを勧められたから」
「歩く距離を減らしてくれようとしてたんじゃないか」
「そうかもね」彼女は俺を見上げた。「ただ、この船が人の『うろつき』をあまり好まないって、初めて思った」
その言葉が出た後、テーブルが半秒だけ静まった。
半秒だけだ。
シキが次の一言で、空気をあっさり引き戻したから。
「でも私、今日うろうろしたよ。クルー休憩エリアの方まで迷い込みそうになったし」
俺は彼女を見た。
「それで?」
「そしたら端末が『この先は推奨エリアではございません』って教えてくれた」シキは素直に言う。「まあいっかと思って、甲板にアイスクリームあったし」
その一言で、雨瞳まで笑い声を漏らした。
そうだ、この程度のことは、厳密に言えば何でもない。豪華クルーズには元々、非公開エリアが多い。AIガイドが適切な場所へ誘導するのも、当然の機能だ。ただ、一度口に出してしまうと、人は少し振り返り始める。この三日間、自分がどこへ行き、どこへ行かなかったか。どの場所はいつも勧められて、どの場所は礼儀正しくスルーされ続けていたか。
葉綺安はずっと黙って聞いていたが、このタイミングで、ゆっくりとワイングラスを置いた。
「今日、確率サロンで小さなことがあった」
俺は彼女を見た。
「何が?」
「スタッフが三回入れ替わった」彼女の語調は淡い。「笑い方が全員、ほぼ同じだった」
「それって、問題か?」
「問題じゃない」彼女はグラスの中の酒を眺め、ついでに言うような口ぶりで続けた。「ただ、少し揃いすぎてた」
キム・ジヌ(Kim Jin-woo)が何か言いかけたが、パク・ソヨン(Park So-yeon)が先に膝で軽く彼を突いた。黙れ、というサインだ。
その瞬間、俺は気づいた。
俺たちだけじゃない。この韓国人夫婦も、いつの間にか「遊び慣れてきたから細部が見え始める」段階に入っていた。疑いでも恐怖でもなく、ただ、一つの場所に長くいると、新鮮さが観察に変わっていく、あの自然な移行だ。
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食後、すぐには解散しなかった。
雨瞳が「船の中央廊下を一周して消化しよう」と提案し、シキは即座に賛成した。今日も食べすぎたからだ。葉綺安は反対しなかった。キム・ジヌとパク・ソヨンもそのまま付いてきた。
俺たちは八階の中央部をゆっくりと歩いた。両側の店舗は、まだ開いているものもあれば、夜間照明モードに切り替わったものもある。廊下を行く旅客の数は前の二日より少なく、劇場か部屋に戻った人間が多いらしく、この船が初めて「詰め込まれていない」顔を見せていた。
途中で、サラ・リード(Sarah Reid)が反対側から歩いてきた。手にはカメラ。
「あなたたちも散歩?」
「食べすぎた」俺は正直に答えた。
彼女は笑い、俺たちの顔を一人ずつ眺めてから、ふと聞いた。
「何か感じない?」
俺の中で、何かが微かに動いた。だが顔には出さなかった。
「何を?」
サラは少し考えてから、ごく自然な口調で言った。まるで、大して重要でもない小さな発見を口にするみたいに。
「この船の夜、前の二日と比べて、静かになるのが少し早い気がして」
雨瞳が先に口を開いた。
「人が分散してるんじゃない?」
「そうかもしれない」サラはうなずき、それ以上は掘り下げなかった。手のカメラを軽く持ち上げる。「さっきフィルムを何枚か現像したんだけど、この二日間に撮った空間の写真、全部すごく綺麗で」
「それは普通じゃないか?」
「普通ね」彼女は笑った。「ただ、綺麗さが、すごく一貫してた」
その一言は、とても軽かった。
軽すぎて、考えたくなければ「元戦地カメラマンの構図へのこだわり」として流せる程度だ。
だが俺は、なぜかそれをそのまま頭の隅に仕舞い込んだ。
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廊下を進むと、中央ホールの高い天井の照明が遠くに見えてきた。上の欄干でグラスを傾けている者、下をゆっくり歩く者。バンドの音楽は遠く、端末が時々アクティビティの通知を送ってくる。
すべて、この船らしい光景だ。
だが三日目の夜になって、最初の日のように「すごい」と驚き続ける段階も、二日目のように「全部一通り体験しなければ」と急ぐ段階も過ぎると——この船が、別の輪郭を持ち始めているような気がした。
危険でも、おかしくもない。
ただ——完璧すぎる。
完璧すぎて、どこに問題があるとも言えない。でも、前の二日みたいに、何の留保もなく自分をそこへ投げ込む気にも、もうなれない。
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結局、俺たちは十九階のラウンジへ向かった。
ただ、今夜は長居しなかった。
酒は相変わらずうまく、海は相変わらず黒く、風は相変わらず柔らかい。葉綺安は欄干の端でアイスワインを飲み、雨瞳は明日のアクティビティページをさらりと確認し、キム・ジヌとパク・ソヨンはもう一回遊びに行くかどうかで言い合いをしていて、シキはすでにあくびをし始めていた。
全員が疲れていた。ただし、それはスケジュールに絞り出された疲れじゃない。三日間遊び続けて、頭にようやく少し隙間ができて、別のことを考えられるようになった時の、あの疲れだ。
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十六階へ戻ると、廊下は静かだった。
自分の部屋のカードをかざす前に、雨瞳が隣で立ち止まった。
「周士達」
「ん?」
「この船の人、みんな笑うのが上手だと思わない?」
俺は彼女を見て、軽く笑った。
「こういう場所で、笑顔が下手だったら金が取れないだろ」
「そういう意味じゃなくて」彼女は少し間を置いた。自分でも、その言葉が少し頼りないと思っているような間だ。「まあ、考えすぎかな」
「今頃気づいたのか、自分が考えすぎるって」と言おうとした。
だが口から出てきたのは、別の言葉だった。
「明日、また見てみよう」
雨瞳は一秒だけ俺を見て、それ以上は何も言わず、自分の部屋へ戻った。
俺はドアの前に立ち、その扉が閉まるのを見ていた。
耳の後ろの端末が、ちょうどそのタイミングで光った。
『周士達様、おやすみなさいませ。明日も極光号はコロンボへ向けて航行を続けます。ご希望でしたら、オーロラが——』
俺は手を上げて、通知音を切った。
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部屋は静かだった。
海も、静かだった。
ジャケットを適当に放り投げ、バルコニーへ出て、しばらく外を眺めた。
極光号(オーロラ・インペリア)は相変わらず、何も間違えないかのように安定して進んでいる。遠くの海面は均一な黒で、船の灯りが水面に映り、細長い光の帯を引いている。
この景色を前の二日に見ていたなら、きれいだと思って終わりにしていただろう。明日の朝食は何階にしようか、くらいのことを考えながら。
だが三日目の夜、人がゆっくりになると——それまで何でもなかった小さなものが、急に少しだけ、違う味を持ち始める。
重くもない。鋭くもない。眠れなくなるほどでもない。
ただ——
柔らかい枕の中に、細い棘が一本、潜んでいるような感じ。
今すぐ探そうとは思わない。
でも、一度感じてしまったら。
もう、完全には忘れられない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




