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13. 冥府再訪 13-1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

人間、生きていれば誰だって、一度や二度は妙な体験をするもんだ。


たとえば、ある街角で、もう二度と会えないと思っていた相手にばったり出くわすとか。わけもわからず宝くじが当たるとか。試験で満点を取るとか。何もかも放り出して、一ヶ月まるごと好き勝手に遊び倒せるとか。


そういう体験には、面白いものも、滅多にないものも、何度でも思い返してニヤニヤできるものもある。


だが俺が今まさに体験しているのは、普通の人間が一生に一度しか体験できない、しかも絶対に後戻りのできないやつだ。


死。


俺は馬三娘(マー・サンニャン)についていきながら、ぬるぬるとした、まるで通り一帯が陰気に浸かって腐り果てたような道を踏んで、初めて彼女たちと出会った場所へ戻ってきた。


望郷台(ぼうきょうだい)


正直に言う。何度来ても、ここは好きになれない。空気は腐った内臓みたいで、道端の浮遊霊たちの目は一人残らず飢えていて、何百年も生きた人間を見ていないような目つきだ。それなのに俺は来るたびに、まるで地元に帰ってきたみたいに自然な顔をしなきゃいけない。


(バイ)の旦那、隠れてないでさっさと出てきな」


馬三娘は冥府に戻った瞬間、すぐさまあの不機嫌なJKの顔に切り替わり、大鉈を手に取って白無常(はくむじょう)のボロテーブルをがんがん叩き始めた。テーブルの脚が折れるんじゃないかと俺が心配するくらいの勢いで。


周りにいた魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもが物音に気づいて、ぞろぞろと俺のほうへ顔を向けてくる。口々に言うのは「生き人……生き人……」


その声のトーンが、深夜に下の階の塩酥鶏(シェンスージー)屋台が開いたと聞いたときの人間と大差なかった。


無視して、左手を持ち上げ、死神の指輪(デス・リング)を見せつけながら、首を掻き切るジェスチャーをしてやる。


効果は抜群だった。


さっきまでよだれでも垂らしそうな目でこっちを見ていた連中が、一瞬で黙り込み、誰より素早く縮み上がって、先祖の霊でも見たみたいにおとなしくなった。


「へえ、脅かし方も覚えたか」


白無常の声が後ろから飛んできた。


振り返ると、あの老いぼれがふらふらと陰の中から歩み出てくる。ニヤニヤ笑ったまま、いつ誰を嵌めてやろうかと考えてそうな、相変わらずの死に顔で。


「初めて来たとき、お前は顔を真っ青にして、もう少しで粗相するところだったじゃないか」


「旦那、その趣味はちょっとどうかと思うんですけど」俺もすぐさまへらへら顔で応じる。「(シャバ)に戻ったら、日本のラブロマンス映画でも焼いて送りますよ。孝行のつもりで」


白無常の目が輝いた。


「やっぱりお前はわかってるな」


「二人とも、そこに突っ立ってニヤニヤし続けるつもり? さっさと通行証を出して、行かせてくれない?」


馬三娘の一言が冷刃のように落ちて、その場の温度がまた二度ほど下がった気がした。


この女の冥府での凄み、林雨瞳(リン・ユートン)と正直いい勝負だ。違いといえば、一人は目で殺し、一人は刀の背でテーブルを叩く、それだけだ。


「そんなに喋りたいなら」馬三娘が俺を横目で見た。声は井戸から引き上げたばかりの水みたいに冷たい。「死んでからにしな。時間なんていくらでもある」


背筋がぞわりとして、俺は即座に口を閉じた。


白無常はますます楽しそうに笑いながら、通行証みたいなものをさっと抜き取って前に放り投げ、口の中で何かを呟いた。紙符が宙でひらめいた瞬間、前方の道が誰かに真ん中から割られたように、陰気が左右に退いていく。


馬三娘について前に進むと、すぐに酆都城(ほうとじょう)の城門が見えてきた。


ただ、今日の酆都城は、前に来たときとどこか違う。


普段の酆都城が巨大でどんよりした官公庁みたいな場所だとしたら、今日はどこかの部署が引き継ぎ式でも開いているみたいで、陰差(いんさ)鬼卒(きそつ)、雑役が行き来して、妙に賑やかだった。


「どうしたんだ?」


首を伸ばして前を見ると、ちょうど一人の若い男が目の前を堂々と歩いていくのが見えた。


真っ赤な袍を纏い、胸には赤い刺繍花。歩き方は、科挙に首席合格して、次の瞬間には馬に乗って都大路を練り歩くんじゃないかというくらい晴れがましい。全身から、新任者特有の「俺がこれからここを変えてやる」という浮かれた気配が漂っている。


「あれ、誰だ?」思わず二度見した。


「中山区の新任城隍爺(じょうこうや)だよ」


馬三娘は歩みを止めず、俺を引っ張って進む。


「最初に誤って迷い込んできたとき、前の城隍が殺されてただろ? 覚えてる?」


「覚えてる」うなずく。「あのとき、誰がやったかわからないって話だったよな?」


「あれは公式見解」


馬三娘が鼻で笑い、声を落とした。口調にかすかな侮蔑が混じる。


「とっくに割れてる。天使がやった」


俺の足がその場で止まった。


「……天使って、俺が思ってる天使のことか? 背中に翼が生えてて、神の使いを名乗って、自分が正義の代表みたいな顔して喋るやつ?」


「一派閥に過ぎないけどね」馬三娘はあっさり言う。「上が最終的に調査を止めさせて、そのまま蓋をした」


俺は黙って首を縮めた。


こういう話題は、聞けば聞くほど面倒な話が芋づる式に出てくるやつだ。これ以上掘り下げたら、また自分から穴に落ちにいくことになる。


それに「冥府の城隍が天使に殺された」という一文だけで、情報量が多すぎて頭が痛い。


数秒黙ってから、絞り出したのは一言だけだった。


「……お前らの外交関係、思ってたより終わってるな」


馬三娘は横目で俺を一瞥して、それには答えず、ただ酆都城の奥を見上げた。


そこでは陰雲が渦巻き、城郭が幾重にも重なり、最も深い場所から、通常の書類仕事とは明らかに種類の違う圧迫感がにじみ出ていた。


彼女の歩みがわずかに遅くなった。声も、それに合わせて沈む。


「中に入ったら、余計な口を利くな」


眉が跳ねた。


「秦広王、今日は機嫌が悪いのか?」


「秦広王だけなら、まだ対処できる」


馬三娘はそこで言葉を切り、ようやく俺のほうを振り向いた。


その目に、いつものうんざりした色はない。冗談の色もない。ただ、滅多に見ない種類の真剣さだけがあった。


「周士達、中に入ったら——必ずしも全員がお前の味方とは限らない」


胸の底が沈んだ。


まだ何も聞き返せないうちに、前方の扉が——山ひとつ丸ごと溶かして作ったような重さの扉が——ゆっくりと、一筋の隙間を開けた。


その隙間から漏れてくるのは、光じゃない。


生きた人間が本能で振り返って逃げ出したくなるような、冷たさだった。


俺はその場に立ったまま、妙にはっきりとした予感を覚えた。


この先で話し合われるのは、数枚の船のチケットでも、ヨーロッパ旅行でもない。


---


扉が完全に開いたとき、俺が最初に見たのは秦広王じゃなかった。


気配だった。


風でも、目に見えるものでも触れるものでもない——ただ純粋に、直接的に、理屈抜きの圧力だ。山をまるごと解体して、別の形で肩の上に積み直したような感覚。悪意はない。殺気ですらない。それなのに殺気より始末が悪い。ただ静かに、こう告げているだけだからだ。


——お前のような生き人が、ここに立っていていい場所じゃない。


足が一瞬止まった。


馬三娘は振り返りもせず、ひと言だけ落とした。


「行くぞ」


俺は腹を括って後に続いた。


殿門を抜けると、見慣れた業鏡台(ごうきょうだい)がある。相変わらず人の波が絶えず、泣き声と叫び声が重なり合っている。やがて見慣れた、「OFFICE」と書かれた扉の前に辿り着いた。


馬三娘が扉を叩いた。中の設えは、前に来たときからほとんど変わっていない。


高価な執務机の向こうに、一人が座っていた。


紹介されなくてもわかる。


秦広王(しんこうおう)だ。


今日も紫の蛇皮スーツに、きっちり整えた油頭。丁寧に手入れされた顎鬚が、古い焼き鏝の痕みたいな印象を残している。顔は老けているとも若いとも言えない——「威厳」と「疲労」を無理やり捏ねて、その上から「平静」で蓋をしたような顔だ。ただそこに座っているだけで、視線一つ上げなくても、部屋全体がもうすでに頭を垂れているみたいだった。


そしてその右斜め下に、見覚えのある人影がもう一人。


ベルタス。西方の悪魔の首領。


あるいは、冥府のシステムにどう見ても属していない人間、と言い換えてもいい。


相変わらずサヴィル・ロウ(Savile Row)の仕立て職人が手がけた三つ揃いのスーツに、鏡面仕上げの革靴。一分の乱れもない油頭に、金縁の丸眼鏡。全体的に、どこかヨーロッパの高級クラブから切り抜いてきたみたいな清潔感で、この陰気極まりない地獄と完全に不釣り合いなのに、座り方だけはやけに自然だ。細い脚のグラスを片手に持ち、中の液体は暗い赤で——酒なのかそれ以外なのか、深く考えるのはやめた。俺が入ってくると、まず礼儀正しくかすかに微笑んだ。何年ぶりかの旧友に会って、昔話でもしようとしているような笑い方で。


胃がまた痛くなった。


こういう笑顔の裏に、ろくなものが隠れていたためしがない。


秦広王は何も言わない。ベルタスも先には口を開かない。広い殿の中に残るのは、俺と馬三娘が前に進む足音だけ——それと、どこかもっと高いところから、鉄鎖が極めて軽く、極めてゆっくりと擦れるような音。


殿の中央まで歩いて、止まった。


こういう場では跪くべきか、拝礼すべきか、あるいは顔見知りのふりをすべきか、本来なら考えるところだ。が、俺はここまで生きてきて、幽霊を見慣れすぎた結果、こういう正式な外交作法だけが致命的に欠けている。幸い馬三娘が俺に恥をかかせる前に、半歩前に出て拱手(きょうしゅ)した。


「お連れしました」


秦広王がようやく目を上げた。


その瞬間、俺は自分が頭のてっぺんから足の裏まで、何かにひっくり返されるような感覚を覚えた。見られているんじゃない。量られている。骨が何匁か、魂がどれほどのものか、ここに立ってこれから聞く言葉を受け取る資格があるかどうかを。


俺は視線を逸らさずに堪えた。


数秒後、秦広王(しんこうおう)が淡々と言った。


「顔色は悪くないな」


危うく言葉に詰まりかけた。


親戚の集まりで長老からかけられる挨拶みたいで、こんな場所で言われると「汝、罪を知るや」よりよっぽど背筋が寒い。


「皆様のおかげで」俺は口の端を引きつらせる。「まだ完全には死に切ってません」


横で馬三娘(マー・サンニャン)が、ごく小さく息を吸った。今すぐ俺を斬り捨てたい衝動を堪えている音に聞こえた。


ベルタスは逆に笑って、指先でグラスの縁を軽く弾いた。


「相変わらず口が減りませんね、周さん」声はゆったりとしていて、本心か冗談かいつまでも判別できない種類の温和さを纏っている。「台湾の最近のトラブルも、あなたの牙を鈍らせるには至らなかったようだ」


「その『トラブル』ってのが、どの程度のものを指すかによりますね」俺はその場から動かず、視線だけを秦広王からゆっくりとベルタスに移した。「船のチケット数枚程度なら、まだ鈍りようがない」


その一言を投げた瞬間、殿の空気がまた一段、静まり返った。


ベルタスは驚いた顔をしない。むしろ、ますます満足げに見えた。グラスをそっと置き、両手の指を組んで、背もたれに少し体を預ける。


「想定より敏い」彼は言った。


「とんでもない」俺は皮肉っぽく笑った。「この歳まで生きてると、タダほど高いもんはないって、身体で覚えまして」


秦広王が、ようやく二言目を発した。


「自分がなぜここに立っているか、わかるか」


「そっちが呼んだからじゃないですか」と返しかけたが、あの圧が思い出されて、口の端まで出かかった軽口を無理やり飲み込んだ。


「大体は」俺は言う。「ただ、俺が知ってる理由だけじゃ、足りないんでしょうね」


「悪くない答えだ」ベルタスが小さく言った。


その一言が、あまり好きになれない。


教師が、ギリギリ合格点の答案を持った生徒を評している口ぶりだ。腹立たしいことに、今の俺がその「ギリギリ合格」の生徒に近いってことも、わかってはいた。


殿の高いところで、微かな澄んだ音がした。


反射的に顔を上げると、闇の中に、いくつか大きな鏡のようなもの——あるいは磨かれた金属の板のようなものが浮かんでいるのが見えた。人影は映さない。ただ冷たい火のような光だけを、かすかに返してくる。その光がきらりと揺れた瞬間、まだよく見えないうちに、秦広王の声が落ちた。


「よそ見をするな」


首がびくりとして、すぐに視線を戻す。


「失礼」


ベルタスが俺を見たまま、ふと思い出したように、笑みを少し薄めた。


蘇依依(スー・イーイー)から受け取ったチケット、目は通したかい」


「通しました」


「触ったかい」


「触りました」


「冷たかったか?」


今度はすぐには返さなかった。


ベルタスの顔つきは相変わらず穏やかで、その穏やかさが余計に苛立たしい。答えを知っていながら、あえて本人の口から言わせて、どこまで気づいているか確かめている顔だ。


二秒黙ってから、うなずいた。


「……ええ」


「結構」彼は言った。


結構じゃねえよ。


口の端がひくりとしたが、ここが冥府の正殿であることを思い出して、暴言はなんとか飲み込んだ。


秦広王が机に手を乗せ、指で天板を軽く叩いた。


音は小さい。なのに広い殿全体が、一瞬だけ震えたように感じる。


「周士達」


初めて、姓名を揃えて呼ばれた。


無意識のうちに、背筋が少し伸びる。


「お前の(シャバ)での厄介事は、一通り目を通した」声は淡々としていて、感情の色が読めない。「お前は命がしぶとく、運も歪だ。人が避けて通るものばかり、自分から引きつけておる」


「……それ、俺のせいばっかりとも言えないんじゃ」乾いた声が出る。


ベルタスが笑いを漏らした。


秦広王は彼を無視し、ただ俺を見続けた。


「チケットの件について、お前の中に既に疑いがある。それはよい。疑いすら持たぬなら、ここに呼ぶ価値もない」


胸の奥でざわついていた不安が、さらに一段階、音を立てて膨らんだ。


やっぱりな。


これは「せっかくだからクルーズでも行ってみないか」という類の話じゃない。チケットは入口——いや、入口ですらなく、ただの通知かもしれない。本題は、俺に乗船してほしいと思っている連中がいること。そして、俺が素直に乗るかどうかを見ようとしている連中も、別にいるってことだ。


ベルタスがしばらく俺を眺めてから、急にのんびりと聞いてきた。


「周さん。ヨーロッパにどんな印象を持っている?」


俺は彼を見つめ返し、あえてすぐには答えなかった。


雑談めいた質問だ。雑談にしては出来すぎている。罠の前にわざと敷かれたクッションみたいなものだ。ここでうかつに足を乗せたら、その先はだいたい落とし穴。


「特にありませんね」口を開く。「貧乏で、行ったこともなくて。強いて言うなら、吸血鬼と城とカトリックと……あと、何かというとすぐ話をややこしくする人たち、ですか」


ベルタスはそれを聞くと、意外にも軽くうなずいた。


「的確だ」


「どうも。わりとよく言われます」


馬三娘は横で、明らかに我慢の限界に近づいていた。口は出さないが、今にも大鉈の背で俺の後頭部をどやしつけて、「ここは漫才会場じゃない」と教え込みたそうな顔をしている。


秦広王は、苛立ちを見せなかった。


ただ、俺を見ていた。俺が自分の頭で、いくつかの点を線でつなぐのを待っているように。


殿はふたたび静まりかえった。


その静けさは、空っぽだからの静けさじゃない。重さのある静けさだ。まだ口にされていない話の塊を、先に胸の上にどさっと積まれて、自分でどれだけ重いか感じさせられているみたいな。


息をひとつ吸い込んで、ついにその言葉を口にした。


「つまり——」執務机の向こうの一神一魔、あるいは一人の閻王と、出自がどう見ても素直じゃない古い知り合いを見やりながら言う。「今日ここに呼ばれたのは、『クルーズに乗るかどうか』のアンケートのためじゃない」


ベルタスの口元がわずかに持ち上がる。


「もちろん違う」


秦広王も、それを否定しない。


その瞬間になって、ようやく気づいた。


机の脇に、もう一つ、何かが置かれている。


判決文でも、帳簿でもない。


地図だった。


古くて、大きくて、隅を文鎮で押さえられている。ちょうど広げられている位置が、ヨーロッパの一帯だ。ただしその地図には、国境線や海岸線だけじゃなく、傷みたいな黒い線がいくつか描き込まれていた。東欧からもっと深い内側へと走る、それは、何かがあの土地の地下でゆっくりと目を覚ましつつある裂け目のように見えた。


図を見つめた瞬間、胸の奥がすとんと沈む。


ベルタスが俺の視線を追ってそちらを見やり、目の中の笑いがやっと少し薄れた。


「どうやら」彼が低く言う。「本題を聞く覚悟は、もうできているようだ」


秦広王は初めて、その地図の上に手を置いた。


殿内の温度が、さらに一段下がった気がした。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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