06. エスカレート 6-1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
昼食の片付けが終わった後、本館全体が十数分ほど、異様な静けさに包まれた。
それは休息の静けさじゃない。全員がそれぞれ別の隅を見つけて、どうにか自分の状態を「元通り」に修復しようとしている、そんな時間だ。だが問題は、一度ひびが入ったものは、顔を洗って、水を飲んで、髪を結び直したくらいでは、なかったことにはできないということだ。
二時前。地下一階の練習室に、再び明かりが灯った。
俺は彼女たちより少し早く降りた。
音響は切れたまま、ミラーの壁が空っぽのフローリングを映している。隣の使われていないプールは午前中と変わらず静かで、底の灰色のシミは白い蛍光灯の下で、朝よりさらに死んだ色に見えた。俺は武器バッグを長椅子の後ろから少し引き出して、手を伸ばせばすぐ届く位置を確認してから、壁際に下がった。
左手の死神の指輪は、今日一日ずっとおとなしかった。
昨夜、何も感じなかったかのようにおとなしかった。
だが、俺はこの「おとなしさ」の方がむしろ嫌いだ。本当に動き出す前に、しばらく死んだふりをするものは多い。
最初に降りてきたのはルナ(Luna)だ。
タブレットとペンを手に持ち、髪を朝より高く結い直している。全体的に朝よりシャープで、冷たい。怒っているわけじゃない。すでに「今日、流れを乱した人間から先に処理する」モードに入っている。
俺を見ても歩みを止めず、淡々と一言だけ。
「午後もいるの?」
「安心しろ」壁にもたれながら言う。「六人目のメンバーに応募しに来たわけじゃねえよ」
ルナはちらりと俺を見た。
「あんたが本当にステージに上がったら、このグループ、三日でネット炎上するよ」
「それも分かんねえぞ。最近の観客は趣味が読めない」
彼女はその一言には乗らず、タブレットを長椅子に置いてから、地下室全体をさっと見渡した。視線が鏡の右端で一瞬だけ止まって——何もないみたいに逸らした。
いい。
彼女も覚えている。
ただ今は、「昼寝不足だっただけ」ということにしておきたいだけだ。
次に降りてきたのはロラだ。歩きながら靴紐を結んでいて、口にはエナジーバーを半分くわえている。普通の世界から無理やり引きずり戻されてきた人間の顔だ。
「先に言っとくけど」まだ立ち位置も決まらないうちに口を開く。「今日また、あのポンコツスピーカーが一回でも変な音出したら、本当にプールに沈める」
「それなら早めにやれ」俺は言う。「世直しになる」
「あんたたち、なんでそんなに息ぴったりなの?」ルナが顔を上げずに言う。「今あたし、人を殴りたい気分なんだけど」
「ほらね」ロラが俺に顎を向ける。「隊長、今日の機嫌、Stellaとどっこいどっこいだよ」
その一言が落ちたと同時に、葉綺安が降りてきた。
今日の午後の彼女は、朝とは違う緊張の仕方をしていた。
寝不足で顔が悪い、誰を見ても気に入らない——そういう緊張じゃない。何かを無理やり内側に押し込んで、その結果、呼吸まで少しずつ狂ってきているような緊張だ。白い短丈のトレーニングウェアに着替えて、髪を高く結っている。前髪の数本がうまく収まっていない。階段を下りてくる時、表情はほぼゼロだ。誰を殺したいのか、もう顔に出す気もなくなったみたいに。
でも、フロアに降り立つなり、視線は真っ先にこちらへ向いた。
正確には——俺を見て、それから俺の横の長椅子を見た。
朝、彼女が水筒を置いていた場所は、今は空いている。
一秒ほど見てから、何も言わずにそこへ歩いてきて、自分の水とタオルをその椅子の上にどんと置いた。
力強く。
はっきりと。
旗を立てるみたいに。
俺はその水筒を見てから、彼女を見た。
「今日は本当に、縄張りが必要なんだな?」
「関係ない」
「あ、必要なんだ」
彼女は白眼を向ける気力すら惜しんで、冷たく一言だけ返す。
「自意識過剰も大概にして」
「俺は普段あんまり考えない方だけど」
「だから、ああいう生き方になるんだよ」
この一言は、いかにも彼女らしかった。
火はある。でも、まだ爆発していない。
もう二言ほどやり返そうとしたところで、ノヴァ(Nova)が降りてきた。
今日の午後の彼女の「収め方」は、見事なくらい綺麗だった。
昼食の時みたいに、開口一番で俺の方へ話を引っ張ってくることもしない。入るなりこちらへ寄ってくることもない。ルナに近づいて午後のセクションを確認して、ロラと副歌のフォーメーションを合わせて——まるで昼に豆腐を飛び道具として使っていた人間が、別人にすり替わったみたいだ。
でも、この女が一番厄介なのは、口を閉じた瞬間から、身体が代わりに話し始めることだ。
鏡の前でウォームアップを始めながら、まず外套を脱いで、俺の隣の長椅子の端にさらりと掛けた。次に水のボトルも置いた。それからタオルで首を拭きながら、俺のすぐそばを通り過ぎる。服の端がかすかに触れるかどうか、ちょうどその距離で。
一言も余計なことは言わない。
だからこそ、ずっと厄介だ。
これが「音のないライン越え」というやつだ。今これで「怒る」側になれば、「何もしてないのに過剰反応している人間」に見える。彼女は何も言っていない、何もしていない、むしろ昼よりずっと仕事に集中しているように見える。
でも葉綺安には、この「静かな踏み込み」の方が、言葉より何倍も刺さっているのが分かった。
俺には見えていた。
最初のウォームアップから、もう動きが硬い。肩が詰まっていて、踏み込みが重い。ターンのたびに、空気を相手に喧嘩しているみたいだ。ロラが三回目のカウントをとった時点で、さすがに眉をひそめた。
「Stella、今日のターン、誰を斬ろうとしてんの?」
葉綺安が止まる。呼吸が少し荒い。
「斬ってない」
「斬ってる」ロラはあっさり言う。「今日、フロア踏み抜く気でしょ」
「フロアが弱いんだよ」
「いいから」ロラは腰に手を当てて彼女を見る。「状態が悪いなら正直に言って。そうじゃないなら、ちゃんと収めて。今のあんた、一緒に動きにくい」
普段なら、この一言にはすぐ返ってくる。
でも今日は、葉綺安は唇を噛んだまま、しばらく黙った。
それが、地下室全体の空気をさらに重くした。
ルナが彼女を一瞥して、追い打ちはかけない。ただ淡々と言う。
「もう一回。今度は全員、余計なことを考えない」
いい。
表面上は全員に言っているが、実際に刺さっているのは一人じゃない。
葉綺安の上の空。ベガ(Vega)の上の空。そして、上の空に見えないだけで、完全に別のことを考えているノヴァ。
小さいスピーカーで底拍だけ流して、五人がもう一度定位置に戻る。
ノヴァが少なくとも一周は大人しくしていてくれると思っていた。
甘かった。
口は閉じている。でも動きが、より精密に「場所を選ぶ」ようになっていた。フォーメーションの入れ替わりで、いつもより半寸だけ余分に詰めてくる。葉綺安がセンターラインへ戻るターンのタイミングで、ノヴァは引かない。半歩遅れて、肩がかすかに触れる。偶然みたいに。あるいはポジション移動の時、もっと広いルートがあるのに、俺に近い側の線を切ってくる。鏡の中で俺と視線がぶつかって、何事もなかったように外れる。
一回は偶然。
二回は癖。
三回目からは、完全に意図的だ。
葉綺安にも、当然分かっている。
だから四回目のフォーメーション入れ替えで、彼女はほとんど真正面からぶつかりに行った。避けなかった。避ける気がなかった。
ロラがすぐに止める。
「ちょっと、二人とも! これ振り付けの練習? それとも骨の強度テスト?」
ノヴァが半歩引いて、息を整える。額に汗が浮いていて、声はまだ平静だ。
「あたしは何もしてないけど」
「してる」葉綺安が冷たく言う。
「ただ決められた通りに動いてただけ」
「どこに広い道があったか、分かってて言ってる?」
「それは、あんたが敏感すぎるんじゃない?」
この一言は、軽かった。
でも、こういう場面で軽ければ軽いほど、皮膚の下に針を差し込むような感触になる。
俺がちょうど口を開こうとした瞬間、左手の死神の指輪が、ひやりと冷えた。
軽くはない。
でも「見ろ」という合図には十分だった。
顔を上げる。
今度は右端だけじゃない。
鏡の壁全体は、不自然なくらい普通だった。五人の影、バー、スピーカー、長椅子、隅の剥がれかけた塗装まで、くっきりと映っている。でも、視線がプール側を掠めた瞬間——俺はそれを見た。
水の痕だ。
底に元からある汚れじゃない。鏡の中のプールの縁に、細い線が走っていた。水が内側から溢れ出して、また引いていったような、濡れた光の反射だ。
視線が止まった。
次の瞬間には、消えていた。
最初からなかったかのように。
でも俺の奥歯は、もうきつく噛み合っていた。それを見たのが俺だけじゃなかったからだ。
ベガも見ていた。
一番右端に立っていた彼女は、顔色が一気に落ちた。同じ場所を、目が離せないまま凝視している。肩が、誰かに後ろから押さえつけられたみたいに、すうっと沈んだ。声も出ない、動きもしない。ただ、一瞬でガラスみたいになった。薄くて、触れたら割れそうなくらい。
「Vega?」
ロラが最初に気づいた。
その声で、全員の視線がベガに向く。
彼女は、ゆっくりと目を瞬かせた。今どこかから戻ってきたみたいに。
「……大丈夫」
「全然大丈夫に見えない」俺は言う。
彼女は俺に返事をしなかった。視線はまだ鏡の方にある。目を離した瞬間、そこからまた何かが出てくるのを怖れているみたいに。
ノヴァもその視線を追った。
今度は、彼女の余裕に本当の亀裂が入った。細い、でも確かな亀裂だ。鏡のどこかがおかしいのは見えている。ただ、自分が何を見たのかを、まだ掴み切れていない顔だ。
葉綺安が鏡を見て、それからベガを見て、苛立ちが限界に近づいているのが分かった。
「また何かあったの?」
誰も、すぐには答えない。
「分かってるけど言えない」という状況が一番厄介なのは、こういう時だ。「何かある」のは全員が知っている。でも、それを「全員が分かる言葉」にする方法が、誰にも見つからない。
俺は二歩前に出た。
「ちょっと止めよう」
ルナが今度は反論しない。ただ、俺を見る。
「何が見えた?」
「見えたかどうかも分からない」俺は鏡を見据えたまま、声を抑えて言う。「ただ、さっきあっちが変だった」
「どっち?」
プール側に顎を向ける。
「右」
ロラがすぐにそっちを見た。今は何もない。二秒ほど見てから、彼女の表情が「苛立ち」と「鳥肌」の中間に変わる。
「やめてよ、ほんとに」声が低くなる。「今、昼間だよ?」
「昼間の方が厄介なんだよ」俺は言う。「夜に出てくるなら、夜のせいにできる。昼間も平気で動くってことは、こっちの都合なんか最初から気にしてないってことだから」
その一言が落ちた瞬間、地下室の空気が一段冷えた。
温度が下がったんじゃない。人間が先に冷えた。
ルナは鏡を数秒見つめてから、口を開いた。
「午後は右側に近づかない」
ロラが即座に続ける。
「じゃあポジション組み直す」
ノヴァがその時、ごく小さく笑った。
いつもの「踏み込む」笑いじゃない。張り詰めすぎた時に、本能的に何か音を出して息を逃がそうとする、あの笑い方だ。
「なるほどね」彼女は言う。「鏡まで、どっちかの味方を始めたか」
その一言が終わると同時に——
鏡の右側の、あのガラスの奥を、何かが掠めた。
人影じゃない。
白い布地の端が、引きずられるように通り過ぎた、そんな感じだ。「見えた」というより「見えたかどうかを確認する時間すら与えられなかった」くらいの速さで。
ベガが息を呑んだ。
今度は俺だけじゃない。全員が聞いた。
葉綺安まで、その方向を向いて、表情が完全に変わった。
「今のって——」
「聞かないで」ベガが低く言った。
速くて、硬かった。もう一音でも続ければ、何かが本当に呼び出されてしまうみたいな、そういう硬さだった。
いい。
俺だけじゃない。
少なくとも三人が、今のを受け取った。
ルナはそれを察した。無理に練習を再開しようとするのをやめて、今日の午後で初めて、まともな判断を下した。
「十分休憩」彼女は言った。「全員、鏡から離れて」
誰も反論しない。
口答えすらしない。
ここまで来て、まだ強がるのは、ただみっともないだけだ。
みんなが散り始めた時、ノヴァが俺の横を通り過ぎた。肘が、軽く当たった。
「うっかり」を装った当たり方じゃない。
本当に、隣に生きている人間がいるかどうかを確かめたくて、反射的に触れた当たり方だ。
俺は横目で彼女を見た。
彼女はすぐにその不自然さを引っ込めて、笑ってみせた。
「何?」
「ようやく怖くなったか、確認してた」
「怖くない」返しが早い。
「じゃあ今、なんで俺に寄ってきた?」
彼女の口元が動いた。でも今度は、すぐに言い返してこなかった。低く、一言だけ。
「あっちに立ちたくなかっただけ」
本音だった。
本人が、たぶん一番気に入っていない本音だ。
俺は二秒ほど彼女を見て、笑わずに返した。
「それは、初めてまともな判断をしたな」
彼女は顔を上げて俺を見た。いつもの柔らかい攻め方を仕掛けようとして——なぜかそのまま止まった。俺の横に立ったまま、半歩も前に出ず、かといって引きもしない。
この女は今、踏み込んでいない。
本当に、触れられたのだ。
そして葉綺安はその一幕を見て、顔色が地下室の照明ごと暗くしてしまいそうなほど、険しくなっていた。
単純な嫉妬じゃない。
誰かが誰かに近づいた、という話でも、もうない。
葉綺安には、今はっきりと見えていることがあった。
ノヴァ(Nova)は遊んでいない。
少なくとも、もう「遊びだけ」じゃない。
俺はこの数人がそれぞれ散って、それぞれ何もないふりをしていくのを眺めながら、胸の中に、ひどく嫌な直感がじわりと込み上げてくるのを感じた。
夜になると、この別荘全体が「死んだふり」を始めた。
安っぽいホラーみたいに全部の電気が消えたり、ドアが勝手に開き始めたりするわけじゃない。そこがむしろ厄介だ。廊下の灯りは点いているし、浴室には温水が出る。一階のダイニングの冷蔵庫も相変わらずブーンと唸っている。一見、何もかもが正常で、昼間のあれこれは全部俺たちの集団神経衰弱だったんじゃないかと錯覚しそうになるくらい。
だが俺には分かっている。こういう場所が「普通のふり」を覚えた時点で、たいていはもう、どこから手をつけるかを決め終わっている。
彼女たちから半分冗談で「軍官房」と呼ばれている個室に戻って、まず内側から鍵をかけた。黒い武器バッグをベッドの横に引き寄せ、中身を一通り確認する。短刀、符弾、予備マガジン、まだ使える鎮煞符が二枚、それからアイドル合宿の別荘で絶対に出番が来てほしくない代物。
左手の死神の指輪は静かだった。冷たさが骨に張り付いて、関節の中に小さな氷の欠片を詰め込まれたような感触だ。
小雪は姿を見せない。これは二つに一つだ。ひとつ、俺を相手にするのが面倒になった。もうひとつ、あいつも「見張って」いる。
個人的には、二番目の方が嫌だ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




