01. 同じ屋根の下で 1-1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
また夢を見た。
なぜ夢だとわかるのか? 正直、理由なんか知らないし、知りたいとも思わない。ただ、あの感覚が来た時点で分かる——ああ、またロクでもないやつだな、って。
とうの昔に廃墟と化した病院だった。
単なる空きビルじゃない。一度「洗浄」されたような場所だ。受付カウンターはひっくり返り、ベッドは倒れ、壁のペンキは大きく剥がれ落ち、廊下全体が強盗団にでも襲われた後みたいになっている。天井から垂れ下がっている切れた電線がまだ火花を散らしていて、パチパチと点滅しながら、通路一帯を死にかけの魚の目玉みたいな光で照らしていた。
そのとき、歌声が聞こえた。
最初は遠くから。上の階からのようでもあり、地下からのようでもある。英語じゃない。二秒ほど立ち止まって耳を澄ませてみたが、発音はドイツ語っぽい。少なくとも、その辺の系統だ。どっちにしても、俺の一生とは無縁でいたい言語だ。
声のする方へ歩き出す。
廊下の突き当たりに、白衣の老人がゆっくりと浮かび上がるように姿を現した。蝋人形みたいに痩せこけたシルエットで、乾いた皮膚が骨にへばりついている。老人は車椅子を押していた。車椅子には人間が——いや、「人型の何か」が座っている。光が足りなくて顔までは見えない。ただ、そいつの身体がずっと震えているのだけは分かった。皮膚の下に何かが詰め込まれていて、今にも突き破って出てきそうな震え方だった。
白衣の老人がふいに立ち止まる。
それから振り向いて——まっすぐ、俺を見た。
その瞬間、背筋がざわりと冷えた。驚いたからじゃない。あの目を知っていたからだ。
「まさか、あなたにまだこれほどの力が残っていたとは。驚きましたよ、周さん」
……チッ。
その声も、知っている。
ワイスマン。
「無駄ですよ、周さん」奴は俺を見つめたまま、口元だけをわずかに持ち上げた。それは笑いとは違う。笑いより、よほど気持ち悪い。「今、あなたと私は同じ世界にはいない。あなたは私に触れられないし、私もあなたに構っている暇はない。ただ——惜しいですね。手元にもっと重要な仕事がなければ、あなたをもう少しじっくり研究してみたかった」
そう言い終えた途端、車椅子の上の「それ」が急に身じろぎした。不機嫌になったようにも、怒ったようにも見える。ワイスマンはすぐさま腰をかがめた。その仕草は、機嫌の悪い老人を世話する介護士みたいに手慣れている。ただ、どこからどう見ても、出来損ないのシングルファーザーにしか見えないのが問題だ。
奴はその「何か」の耳元に顔を寄せ、低い声で何かを囁いた。そこは聞き取れなかった。
最後の一文だけは、はっきり聞こえた。
「Ja, mein Führer.(はい、我が総統閣下)」
次の瞬間、俺は目を覚ました。
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