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番外編 〈記者と、一人と、存在してはならない船〉

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

暁日新聞(ぎょうにちしんぶん) 東京支局 編集部 17:22


淺倉詩織(あさくら しおり)の泣き顔は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。

梨花一枝春の雨のごとき、儚くも美しい涙ではない。顔中を真っ赤に腫らし、涙と鼻水が入り混じり、下唇を強く噛み締め――結局、社内のトイレの三番個室に二十分も籠もって咽び泣くような、そんな泣き方だ。



主任の山崎(やまざき)には、今日だけで三度も叱責された。

一度目は朝。取材申請書のフォーマットを書き間違えた。左手で書いたせいで字はひどく乱れ、朱肉が二ページ目まで汚れていた。二度目は午後。取材先への電話で声が小さすぎて、相手に回線が切れたと勘違いされ、先に切られた。三度目は夕暮れ時。淹れたてのコーヒーを不注意でひっくり返し、主任のカレンダーを汚してしまった。

「一体何をやっているんだ、浅倉(あさくら)?」

山崎主任の説教に、もはや余計な言葉は必要なかった。ただその表情で見下ろされるだけで、十分すぎるほどの重圧(プレッシャー)だった。「君は大学生か、それとも記者か?」

「記者です」と言い返したかったが、言葉にはならなかった。事実、彼女は卒業してまだ三ヶ月。まともに現場を歩いた取材記事は十本にも満たず、そのうち七本は没、掲載された三本の総文字数ですら、主任のコラム一本分にも及ばないのが現実なのだ。

だから彼女は、ティッシュを手に個室で蹲り、涙を拭って鼻をかんだ。「明日も頑張ろう」と自分に言い聞かせ、立ち上がって鏡を見つめ、顔の腫れ具合を確認する。

彼女の顔は、生まれつき少し丸みを帯びた、嬰児(ベビー)フェイス。それが今はトマトのように赤く熟れ、噛み締めた下唇も相まって、校庭でいじめられて泣きじゃくった中学生のようにしか見えなかった。

彼女は溜息を一つ吐き、制服のジャケットを整えた。濃紺のスーツジャケット――そのボタンは、彼女の体型ではどうしても留めることができず、今はもう諦めて前を開いたままにしている。トイレを出て、彼女はデスクの底に追い遣った、あの書き損じの申請書を書き直すべく席へと戻った。

ポケットの中のスマートフォンが、短く震えた。

美咲(みさき)からだ。

詩織(しおり)! 早く来て!!!

レインボーブリッジの方!!!

すっごく大きな船がいるの!!!

違う、三隻よ!!!!

後ろ姿が超かっこいいから撮ってあげる』

【画像ファイル】

詩織(しおり)は、三秒間その画面を凝視した。

それから彼女は席に戻り、書きかけの申請書を机の引き出しの奥へ押し込むと、カメラバッグを掴んで出口へと走り出した。





東京湾岸 臨時封鎖線外縁 18:51


封鎖線は長く引き伸ばされ、オレンジ色のコーンが列をなしていた。自衛官たちが険しい表情で立ち、その後ろには、野次馬として集まった市民たちが膨れ上がっている。

詩織(し織)は人混みの外側で背伸びをしてみたが、何も見えなかった。彼女の身長は百四十八センチ。周囲の平均的な肩の高さが、ちょうど彼女の頭頂部と同じ位置だった。

だが、彼女は挫けない。脇へと回り、隙間を探す。

東京の人間が野次馬をする際、そこには一種の集団的な習性(パターン)がある。誰もが正面に押し寄せるため、左右の両端は案外空いているのだ。詩織(しおり)はその小柄な体躯を活かし(そして、これほど小さな存在の邪魔をしようと思う者もいなかったため)、じりじりと前へ進んだ。二人の大男の間をすり抜け、配信中の男をかわし、老婦人を介助する若者の脇を通り――。

ついに、彼女は封鎖線の最前列へと辿り着いた。

船が、見えた。

一隻ではない。三隻だ。東京湾の彼方に、それらは静止していた。最も大きな艦の艦橋は聳え立つように高く、傍らに掲げられた旗が夜風にたゆたっている。灯火は落とされ、朧げな半暗の状態にありながらも、艦体の輪郭は鮮明だった。黒く、重く、周囲の海面や空の色とは一線を画す、異質なコントラストを描いている。

詩織(しおり)はカメラを構え、フォーカスを合わせ、シャッターを切った。

それから彼女は、ただそこに立ち、眺め続けた。

なぜかは分からない。けれど、あの船を見ていると、説明のつかない感情が込み上げてくるのだ。恐怖ではない。それはもっと……あの船は何かを待っている、それもひどく長い間。周囲の時間から切り離された場所で、ずっと待ち続けているような、そんな感覚。

「あの船を、取材したい」

その考えが脳裏に浮かんだ瞬間、彼女自身も驚いた。けれど少し考えて、こう思った。――試してみない理由なんて、どこにもない、と。

ゴムボートを見つけたのは、封鎖線から南へ二百メートルほど離れた、打ち捨てられた小さな渡船場だった。


盗んだわけではない。ただそこに停まっていたのだ。船体は古び、薄い水垢が層を成していたが、備え付けの(オール)の状態は意外にも悪くない。詩織(しおり)は周囲を見渡し、記者証を取り出すと、誰もいない空中に向かって告げた。

「記者です。少しの間、お借りします。……必ず、お返ししますから」

応答はない。そもそも、ここには誰の気配もなかった。

彼女はゴムボートを水へと押し出し、ヒールの低いローファーを脱いで岸に置いた(これを履いたままでは、海の上では滑りすぎる)。カメラバッグをしっかりと固定し、乗り込んで(オール)を握る。

一漕ぎ。ボートは左へ四十五度傾いた。

二漕ぎ。右を補うが、今度は行き過ぎて、右へ四十五度。

三漕ぎ目、彼女は両側を同時に動かすよう試みた。前進した距離はおよそ二メートル。だがその速度は、浴缸バスタブの中に閉じ込められた亀のようだった。

詩織(しおり)は眉を寄せ、姿勢を正して再試行する。重心に問題があるのだと気づいた。彼女は上半身に肉が付きやすく、重心が通常より高いため、ゴムボートが左右に揺れやすい。漕ぐたびに、推進させることよりも平衡を保つことに力を削がれてしまうのだ。

「大丈夫、落ち着いて」

自分に言い聞かせる。プログラミングのバグに遭遇しても慌てるな、問題点を探せ――そんな心境で調整を試みる。

「ゆっくり行こう」

そうして彼女は、ゆっくりとした、ひどく歪な軌道を描きながら、巨大な影へと近づいていった。

船縁に辿り着くまでに、四十分を要した。

途中で一度転覆しかけ、一度は(オール)を海に落とした。身を乗り出して拾い上げようとした際に自分まで落ちそうになったが、記者証のストラップが船縁の突起に偶然引っかかり、なんとか引き戻すことができた。

彼女は手帳にこう書き記した。『記者証のストラップ、意外な命の恩人』

それから顔を上げ、眼前にそそり立つ船壁を見上げながら、乗船する方法を探した。

縄梯子が一本、舷側から垂れ下がっていた。彼女のために用意されたものかは分からないが、確かにそこにあった。

詩織(しおり)は一番下の段を掴み、深呼吸をして登り始める。

三段目で、問題に直面した。

縄梯子の間隔は、標準的な体格の成人男性向けに設計されている。彼女にとっては歩幅が大きすぎる。さらに、上半身のせいで重心が前へと倒れやすく、一段登るごとに前方にのめりそうになるのだ。腰を後ろに突き出し、足を前に踏ん張るその格好は、木登りの下手な猫のように滑稽(こっけい)だった。

七段目で動きを止め、ロープを固く握りしめて下を見た。

ゴムボートが下で揺れている。海面はどこまでも暗い。

「大丈夫」彼女は自分に言い聞かせる。「システムエンジニアだって、サーバー室で梯子に登ることはあるはず。私はエンジニアじゃないけど、概念は同じよ」

論理としては破綻していたが、今の彼女にはそれが道理に思えた。

彼女は登り続けた。

甲板に降り立った瞬間、彼女は異変を察知した。

何かを見たわけではない。感じたのだ。甲板の空気は外の夜風よりも少し重く、気温は数度低い。そして説明のつかない「何かが大勢ここにいる」という圧迫感。満員のエレベーターに押し込まれたような感覚なのに、そこには誰もいないのだ。

だが、人影はあった。

旧式の海軍制服を纏った二人の男が、舷側の手すりに立ち、彼女を見つめていた。

詩織(しおり)も彼らを見つめた。

輪郭ははっきりしている。だが、彼らに当たる光の加減が、普通の人間のそれとは違っていた。まるで光が彼らの身体で一度足を止め、そこを透過すべきか思案しているかのような、不自然な質感。

そのうちの一人が、日本語で口を開いた。

「……貴様は、人間か?」

詩織(しおり)は少し考えた。哲学的な問いだと思ったが、誠実に答える。

「記者です」

水兵たちは顔を見合わせた。

五秒ほどの沈黙が流れた後、問いかけた方の水兵が言った。

「……これは、提督に報告すべきか?」

もう一人が答える。「報告しておけ。あの方が気に留めるかは分からんがな」

甲板の風は強かった。

詩織(し織)はカメラを構え、数枚シャッターを切った。風に煽られた記者証のストラップが舞い上がり、傍らにいた水兵の顔に当たった。

水兵は反射的に手を伸ばし、それを払いのけた。

その手がストラップに触れた瞬間、詩織(しおり)は微かな涼気を感じた。冷蔵庫から取り出したばかりの何かの側に、手を近づけた時のような冷たさ。

水兵は自分の手を見つめ、それから詩織(しおり)を見た。

「……邪魔な紐だな、それは」

「分かってます」詩織(しおり)は言い、ストラップを襟元に押し込んだ。「でも、ポケットがないんです」

彼女は周囲を見渡し、口を開いた。

「あの、取材をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「取材……誰をだ?」

「最高責任者の方です」

詩織(しおり)は手帳を開き、左手でペンを構えた。

「つまり、船長さん? それとも司令官? 一番偉い方です」

水兵たちは再び顔を見合わせた。

やがて、案内役とおぼしき水兵が溜息を一つ吐き、言った。

「……ついてこい」

艦橋は想像以上に高く、長い道のりだった。薄暗い廊下をいくつも通り抜け、時折他の水兵たちとすれ違う。彼らが彼女に向ける表情は、例外なく同じものだった――「これは一体何だ」という困惑と、「どう扱えばいいのか分からない」という当惑が混ざり合った顔だ。

詩織(しおり)はその一人一人に、丁寧に会釈を返した。

大抵の水兵は一瞬呆気に取られ、それからひどく戸惑った様子で、ぎこちなく会釈を返してきた。

艦橋の入り口に辿り着くと、案内役の水兵が扉を叩いた。

「提督」彼は言った。「……一人の記者が、取材をしたいと申しております」

内部に数秒の沈黙が流れた。

「入れ」

艦橋は想像よりも広く、窓面は横に長く取られていた。そこからは東京湾の外周を縁取る夜景が一望できた。密集した光の粒は、まるで空の星々を裏返して敷き詰めたかのようだ。

窓の前に、一人の男が立っていた。

背の高い後ろ姿。詩織(しおり)には年代の判別がつかない深い色の軍服を纏い、肩章の形状も独特だった。彼女はカメラに手を伸ばした。直感が「これは必ず撮らなければならない」と告げていた。

やがて、彼が振り返った。

詩織(しおり)は二秒ほど、静止した。

顔の輪郭、眼差し、佇まい、そしてその身に纏う歳月(さいげつ)の重み――それは単なる老いではない。途方もなく長い時間を経てきた者にしか宿らない気配だ。何年も生き抜いてきた巨木の、樹皮の奥に刻まれた計り知れない年輪。

彼は、彼女を見つめていた。

彼女は今の自分の惨状を自覚した。髪は海風にかき乱され、切り揃えた前髪は斜めに歪み、ジャケットは前をはだけ、白いシャツは風に吹かれて三箇所も皺が寄っている。左手に手帳を握り、右手にペンを構えて(緊張のあまり、自分が左利きであることを忘れ、ペンを持ち間違えていた)。内股気味に、艦橋の床の真ん中に立っているその姿は、どこからか転がり込んできた糯米の団子のようだった。

彼女は背筋を伸ばし、喉を整えた。

「……こんにちは」

彼女は言った。声は、ほんのわずかだけ震えていた。

暁日新聞(ぎょうにちしんぶん)記者の、浅倉詩織(あさくら しおり)と申します。……取材をさせていただいても、よろしいでしょうか?」

彼はすぐには答えず、彼女を頭の先から爪先まで一瞥した。その眼差しは値踏みするようなものではなく、もっと未知のものに対する驚き――誰かに驚かされたというよりは、「人生で一度もこのような状況に遭遇したことがない」という、純粋な驚愕に近いものだった。

「貴様は」

彼はようやく口を開いた。日本語。ひどく重厚な声音だ。

「……独りで来たのか?」

「はい」詩織(しおり)は言った。「ゴムボートを漕いできました。櫂を一度落としたので、少し時間がかかりましたが。……四十分くらいです」

彼は再び、沈黙した。

案内役の水兵が傍らから補足した。「提督、彼女は記者だと申しております」

「聞こえている」

彼は言った。

またしても、沈黙。

詩織(しおり)はその隙に手帳を白紙のページへとめくり、ペンを左手に持ち替えた。

「……あの、この船のお名前は?」

彼はそのペンを持ち替える動作に目をやり、答えた。「陸奥(むつ)だ」

陸奥(むつ)……」

彼女はその二文字を書き記した。「……では、この船はどうして東京湾に停泊しているのですか?」

「……来るべき場所が、ここだったからだ」

彼女はその言葉も書き留めた。核心を逸らされたような気がして、微かに眉を寄せたが、すぐには追求せず次を尋ねた。

「……では、どうしてこの船を連れてこられたのですか?」

「同じ理由だ」

手帳に『同じ理由』と書き、彼女はペンを止めた。「記者の直感が、この人は手強いと言っている、けれど試さずにはいられない」という表情で顔を上げた。

「……もう少し具体的に、お話しいただけますか?」

彼は三秒ほど彼女を見つめた。それから、ひどく意外なことに、彼の口角が微かに動いた。

笑みではない。だが、無表情よりもわずかに何かが滲み出していた。

「具体的に話したところで」彼は言った。「……貴様には、持ち帰れんこともある」

詩織(しおり)はその言葉も書き記した。記事にできるかは分からなかったが、素晴らしい言葉だと思った。

そして彼女は勇気を振り絞り、告げた。

「……最後の一つ、質問です」

「言え」

彼女は手帳を握りしめ、深く呼吸をした。

「……お名前を、伺ってもよろしいでしょうか?」

彼は、沈黙した。

それは片時(かたとき)躊躇(ためらい)などではない。それは――艦橋の空気すべてを一段低く押し下げ、案内してきた水兵が思わず半歩脇に退くほどの、ひどく重厚(じゅうこう)な沈黙。

そして、彼は言った。

山口多聞(やまぐち たもん)だ」

詩織(しおり)は手帳にその四文字を書き記した。『山口多聞(やまぐち たもん)』。

書き終え、彼女は一度手元を確認したが、ペン先を止めたまま動かせなくなった。

彼女は右手でポケットからスマートフォンを取り出し、ブラウザを開くと、検索欄にその名を打ち込んだ。

――『山口多聞(やまぐち たもん)』。

検索結果が次々と並ぶ。

一、日本海軍中将。

二、ミッドウェー海戦。

三、一九四二年。

四、……一九四二年六月、空母飛龍(ひりゅう)沈没、提督殉職――。

詩織(しおり)はスマートフォンの画面をゆっくりと暗転させ、ポケットに戻した。そして再び顔を上げ、目の前に立つこの男を見つめた。

「あの……」

彼女の声は、先ほどよりもさらに小さくなっていた。

「……失礼ですが、今、おいくつ……なのですか……?」

彼はその問いには答えなかった。

だが、部下を呼んで彼女を追い払うこともしなかった。

彼はただ背を向け、再び窓の外に広がる東京(とうきょう)の灯火へと視線を戻して言った。

「貴様のゴムボートは、こちらで繋ぎ止めておいた」

彼は淡々と告げる。

「帰る時は艦尾へ向かえ。下ろすよう手配しておく」

詩織(しおり)は一瞬呆然としたが、すぐに悟った。会見は、終わったのだ。

彼女は手帳を閉じ、深く、深く頭を下げた。

「……取材を受けていただき、ありがとうございました」

彼は振り返らぬまま、ただ一言を添えた。

「……そのストラップは、襟の内側に入れてから行け。風が強い。梯子を下りる際に事故が起きては|寝覚めが悪い」

彼女が視線を落とすと、記者証のストラップがまだ風に煽られて泳いでいた。

「はい」

彼女はそれを襟の中へ押し込んだ。

「……ありがとうございます」

 彼女が去る際、案内役の水兵は艦尾(かんび)まで付き添ってくれた。そこにはもう一人の水兵が、本当に縄梯子(なわばしご)の下でゴムボートを繋いで待っており、(オール)までもが一本、新調されたものが船の中に用意されていた。

 詩織(しおり)縄梯子(なわばしご)の頂端で、一度だけ振り返った。陸奥(むつ)の黒々とした甲板、半分ほど灯を落とした灯火、そして遠くの欄干に立ち、静かに自分を見送る旧式海軍の水兵たち。

 彼女はカメラを構え、その光景を一枚の記録に収めた。

 この写真が持ち帰れるものなのかは分からない。それでも、彼女はシャッターを切った。

 帰り道を漕ぐ速度は、来た時よりも少しだけ速かった。彼女が経験を積んだせいだろう。

 ゴムボートの上に座り直すと、彼女は記事本を開き、先ほどの取材記録を読み返しながら、いくつかの箇所に丸をつけた。

 最初の丸は――『|来るべき場所が、ここだったからだ。』

二番目の丸は――『具体的に話したところで、貴様には|持ち帰れんこともある。』


 そして最後の一欄。彼女が左手で記した、歪ではあるが、確かな意志が宿る四つの文字。

山口多聞(やまぐち たもん)。』

 彼女はその名を長い間見つめていた。やがてその傍らで、誰にも聞こえないほどの小さな声で、ぽつりと呟いた。

「……取材、ありがとうございました」

 その言葉は海風にさらわれ、誰の耳に届くこともなかった。

 だがその直後、背後の陸奥(むつ)の灯火が、一度だけ瞬くように明滅した。

 ごく短く。まるで、誰かがその声に気づき、静かに応えたかのように。


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