甲斐性なし
兵は神速なるを尊ぶという。
今ここぞ、という場面であるからして、アルファ軍はドタバタと準備をすすめていた。
というかムシル泊地ジョー・シドウ司令官率いる潜水艦戦隊も、まともな休息すら無く錨を上げていた。
「艦隊行動訓練は道中行う。っつーかお前たちにはいまさら必要も無いだろう?」
実際に舵を取っているのは姉妹艦のアンドロイド同士。
僕たちがあれこれ指示を出さなくても、いや、出さないからこそピッタリと息のあった艦隊行動を見せてくれた。
「うーん……こうも見事な操艦を見せられると、やっぱり自分の存在意義を疑っちゃうなぁ……」
「以前にも申し上げましたが麻実也艦長、アンドロイドとしては『艦長』という存在は頼もしいものなんですよ?」
「そういうものなの?」
「ハイ♪ こうして潜望鏡を覗いていても、麻実也艦長の存在を感じるだけで、乙姫はガンバれますから♪」
「感じてるのは艦長の存在だけかい、副長?」
砲雷長がいらないことを口走り始めた。
「最近の副長は脚もほっそりしてきたし、お尻も丸みを帯びてきて、存在だけじゃなく艦長の視線まで感じてんじゃねーの?」
人間の視線でアンドロイドの体型に変化が生じるものなのか、はなはだ疑問ではあったけど、副長の乙姫は顔を赤くしていた。
「な、なにを言ってるんですか、砲雷長! アンドロイドの体型がそうそう変わる訳ないじゃないですか!」
ほら、否定した。
とはいえ、最初に逢ったときよりも、乙姫の印象は少しだけ大人びている気もしていた。
もしかして、本当にいろいろと変化が出るものなの?
「もー、麻実也艦長まで……。それはきっと私が落ち着きのある大人の女性になったせいだと思いますよ?」
「つまり副長はあれか。艦長と出逢うことで大人の階段をのぼっちまったってことか。こりゃめでたいや、主計長! 今日は赤飯にしようぜ!」
「のぼってません! 麻実也艦長にそんな甲斐性はありませんから!」
うわ、ひでぇ……。
「いえ、違うんです麻実也艦長! 砲雷長、麻実也艦長はヘタレなだけです!」
潜水艦の艦長なだけに、ますます沈みそうだね、僕の心。
しかもヘタレなのは事実だし……。
処女と童貞をからかうような戯れ言は、それからもしばらくは続いた。
だけど僕の胸には、漠然とした不安がある。
『この戦争が終わったら、どうなるんだろうか?』
より具体的に言うなら、僕は乙姫を降りることになりはしないだろうか?
軍人としてはしっかり稼がせてもらった。
戦争が終わったら退役させられることもあり得る。
そして乙姫だって……。
戦争が終わったら、兵器などというものは金食い虫でしかない。
解体処分だって考えられる。
戦争よ長引いてくれ、などと不謹慎なことまでは考えないけれど、惑星アルファ移住となって以来の、大きな節目を感じていた。




