決戦前
泊地へ戻り司令官室に入ると、初老に近い男がいた。
いわゆるオッサンだ。
それに大男。
どちらも制服を着込んでいる。
「おう、帰ったか」
ジョー司令官がニヤリと笑う。
なにかありそうな笑みだ。
「今回は大戦果だったな。おかげさんで中央も大胆な作戦に出ることになったぜ」
そら来た。
「お前さんたちの活躍が評価されてよ、潜水艦メインの奇襲作戦が立ち上がったんだ。この二人は新メンバーの艦長。フジシマのオッサンと大男のマキハラだ。船は乙姫型の三番艦藤姫と綾姫だ。もちろん乙姫と同じ改造が施されている」
ほほう? それで僕たち四隻の潜水艦に、なにをやらせようと?
「敵の艦隊が集まってるとこに行って、全部沈めて来るのさ」
乙姫型潜水艦四隻がメインとおっしゃるが、そうなると魚雷の数は四十八本。ほかに手勢はいかほどでしょうか?
「まあ、アルファ海軍総力で叩きに行くからよ、イトウ少尉のとこで言う連合艦隊総出撃ってとこだ」
なるほど大一番ですな。
「他人事みてぇに言うんじゃねぇよ。この一戦っつーか今回の戦さはお前たち斬り込み部隊にかかってんだからよ」
「つまりは一番槍を突き込んで、場を滅茶苦茶に荒らしておけと?」
「さすが乙姫は察しがいいな。その通りよ。まずは目を奪え。できれば抵抗してくる手足も奪え。あとは頭を狩るだけよ」
「そう上手く行くものなんですか?」
「行くか行かないかじゃない、行かせるんだよ。少なくともそれだけの能力が乙姫型にはあると、俺は信じている」
少なくとも兵站の不備が敵には生じていると、ジョー司令官は言う。
つけこむ隙はあるはずだと。
「心配するな、今回は俺も藤姫に乗って現場指揮を執るからよ」
あ、これ絶対アカン奴だ。
「ジョー・シドウの戦さってやつを、帝国の連中にたっぷりと味わってもらわねぇとな……」
その間、泊地はどうなるものやら。
もちろん副長がすべて仕切るんだろうけど。
予言しよう。
絶対ロクなことにはならない。
細かい作戦などというものは現地、もしくは当日寸前で説明されるものであり、大きな作戦……つまり軍略というものは一介の艦長ごときには伝えられない。
ただハッキリしていることは、敵の目を奪え。
つまり大型のレーダー施設を破壊しろ、ということだ。
急先鋒とか一番槍には、明確な仕事がある。
奇襲の一発で再起不能にするとか、抵抗力を奪うか。
あるいは敵の全力が出ないように混乱させるかである。
ジョー司令官の指示では、まず混乱させろと。
目を奪えと。
そして目にあてがおうとする手を討てという。
それだけだ。
それで俺たちの仕事はおしまいだと言っていた。
「そんな言葉、まったく信じてませんよ?」
乙姫は朗らかに言った。
「ジョー司令官のことですから、絶対に突っ込んでいきます。もしかしたら最前線まで。これは不謹慎なお話ですけど、乙姫は賭けてもいいと思ってます」
「それは困るな、乙姫」
「どうしてですか、麻実也艦長?」
「ジョー司令官がおとなしくしてる訳が無いってのは、僕も同じ考えだからさ。賭けが成立しないよ」
「だけどさー、麻実也兄ちゃん。潜水艦で突っ込んだら突っ込んだで、それなりに仕事はあるんじゃないの?」
「あり過ぎるから困ってるのさ。なにしろ敵の本丸に討ち入りするんだ。盛大に歓迎されると思うよ」
「やり放題だってさ、桜姫。楽しみだなー」
肝が座ってるのか能天気なのか、ライゾウは状況を楽しんでいるようだった。
それにしても気になることはある。
「何がでしょう?」
「いやね、藤姫や綾姫にはサポートのアンドロイドは乗ってないのかなって?」
「もちろん乗ってます。というか気がつかなかったんですか、麻実也艦長?」
「え? もしかしていたの? あそこに」
「二人ともオイラより小さかったぜ。あれは狭い潜水艦向きなんだろうな。麻実也兄ちゃんは乙姫姉ちゃんのことばっか気にしてたから、全然気がつかなかったんじゃないの?」
それはきっと違う。
僕が普通の人間で、ライゾウの勘の良さが野生的なだけだと思う。
まあ、乙姫の甘い香りに少しだけ心奪われてたのは確かだけど。
「とにかく、煩悩ためこんで戦さに備えとけって親分言ってたから。モリモリ食べて力つけとこうぜ!」
野生の少年はすでに腹を空かせているようだった。




