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寄港へ

「麻実也兄ちゃん、オイラ先に行かせてもらうよ!」


桜姫からの通信だ。


すでに追撃の態勢に入っている。


というか、反応が機敏過ぎる。


「サクラちゃんも目を回しているのではないでしょうか?」


乙姫も不安視するほどの展開の早さだ。

というか、波状攻撃のおかげで桜姫にはもう魚雷は無いはずだ。


輸送船団に有効な武器といえば、規定以上のエネルギーを無理矢理ブッ放す主砲だけである。


「ちょっと待てライゾウ! 僕も魚雷撃つから、射線から離れろ!」


あいよ、という軽い返事ひとつ。

桜姫はスキーのシュプールかドリフト走行のように、尻を振ったカーブを披露した。


「船員のアンドロイドたち、本当に大丈夫なんだろうか?」


乙姫でなくとも、心配になってくる。




とはいえ、射線は空いた。

真っ正面には集団でモタモタと進路を変えようとする輸送船の群れ。


「麻実也艦長の故郷、日本全国一億二千万魚雷ファンのみなさま、大変お待たせいたしました!

これより日本国出身伊藤麻実也艦長が英雄になるとき……スーパーヒーロー・アワーの開幕です!」


魚雷を撃てるせいか、乙姫がノリノリだ。

潜望鏡を覗きながら嬉しそうに独り言を呟いている。


「おーけーろっけんろーる……しぇげなっべいべーーっ!」


そんな号令でも魚雷を発射してくれる乗組員《クリュー》たちが素敵すぎる。

艦首から一番魚雷が放出された。


「ちょい左、まだ左……ヨーソロっ! てーーいっ!」


細かく調整を入れながら残りすべての魚雷を撃ち尽くすと、乙姫は満足そうな顔を僕に向けた。

頬がほんのり紅く染まっているけれど、本当にアンドロイドなのかと疑ってしまいたくなる。

……というか。


「ねぇ、乙姫? 魚雷を撃つときに艦首の向きをいつも微調整するよね? 音や熱を追いかけていくような魚雷って、存在しないの?」


「存在しますけど……麻実也、あのようなものがお好みなのですか?」


珍しく、少しイヤそうな顔だ。


「いや、そういうのがあればもっと楽になるんじゃないかと思ってね……」


「麻実也艦長、お言葉ではありますが……」


コホンと乙姫は咳払い。

なんだろう? イヤな予感しかしないぞ。


「魚雷というものは狙った場所へまっすぐ走ってくれればそれでいいんですよ? それが潜水艦であり、魚雷というものなのです!」


なんだか変なとこにこだわってる。

もしかして、なにか劣等感《コンプレックス》でもあるのかな?


「それが証拠に、ご覧ください麻実也艦長!」


バイザーには次々と輸送船を葬る魚雷の姿が。


「乙姫の魚雷はことごとく命中しています!」


そういうものなんだろうか?


「そういうものなんです、船乗りというものは! 誰が撃ってもどこに撃っても当たるような魚雷なんて、なにが面白いんですか!」


いままで見てくれで誤魔化されてきたかもしれないけれど、もしかして乙姫って劣等生なんじゃないんだろうか?

確か地球人のスカウトも連続二桁失敗を記録してたみたいだし……。

僕が思っている以上にポンコツ潜水艦とか、クセのある性格とか、あまり平均が取れていない気がするのは気のせいだろうか?




なにはともあれ、待ち伏せの水雷戦隊が残りの輸送船を仕留めたところで、僕たちの出向は終了だった。

補給母艦で燃料と弾薬を補充して、拠点ムシル泊地へと舵をとる。


いささか気の抜けた艦内だったけど、きっと乙姫は寄港まで毎日、僕の健康維持のため寝室に来るのだろう。

ウブでヘタレな僕としては、嬉しいやら困るやら。

いや、ウブでヘタレだからこそ嬉しいばかりである。


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