第19話 ようやく本番ですの?
「おじ様」
「なんだ!」
「ずいぶん楽しそうに追いかけられていましたけれど、あちらの方々は?」
「楽しそうに見えたか!?」
「少なくとも、追いかける側は」
おじ様の眉間に、また一本皺が増えた。
ずいぶん走らされたらしい。髭は少し乱れ、肩で息をしながらも、片手だけは懐の帳簿をしっかり押さえている。その後ろでは領主様がエルンの肩越しにこちらを窺い、壊れた扉の向こうからは全身を黒いローブで覆った五人が広間へ入ってきていた。
手には剣や短剣。袖口や首筋に覗く黒い文様にも見覚えがある。
どうやら、おじ様が新しいお友達を連れてきたわけではなさそうだ。
「セドリックの部下だ! ヴァルターを殺して、俺たちに全部被せる気らしい!」
「まあ。それはずいぶん欲張りなお話ですこと」
脱税に軍用品に殺人まで。
一晩で随分と盛りだくさんになったものだ。
「では、こちらの方々は斬ってもよろしくて?」
「今それ聞くのかよ!」
「だって先ほどは、衛兵さんを壊すなとおっしゃいましたでしょう?」
「そいつらは衛兵じゃねえ! 好きにしろ!」
「まあ。それなら話が早いですわ」
思わず口元が緩んだ。
それを見たおじ様が、露骨に嫌そうな顔をする。
「お前、絶対それ言わせたかっただろ」
「何のことですの?」
「その顔で誤魔化せると思うな!」
失礼ですこと。
こんなに美しい笑顔なのに。
先ほどの衛兵さんたちには随分と気を遣った。投げるにも殴るにも、あとで使い物にならなくならないよう加減していたけれど、今度はその必要もないらしい。
ようやく剣を使える。
それだけで少し気分がよくなった。
「では――遠慮なく」
剣を抜く。
五人もほとんど同時に散った。
けれど、こちらへ向かってきたのは二人だけ。残る三人は左右へ大きく回り込み、その先にいる領主様を狙っているらしい。
あら。
せっかく許可までいただいたのに、素通りされては困る。
「お急ぎのところ申し訳ありませんけれど――」
一番近い一人の剣を外へ流し、その肩口へ刃を走らせる。武器を落としたところへ左手を添えて押し返すと、ちょうど後ろから来ていた二人目へまともにぶつかった。
「少々、お付き合いくださいな」
二人目がよろめいた隙に足を払い、床へ膝をついた肩へ柄を落とす。
残る三人の足が止まった。
顔はローブに隠れて見えないけれど、それまでばらばらだった剣先が、すっとこちらへ揃う。
ふふ。
ようやく相手をしてくださる気になったらしい。
「五人もいらっしゃるのですから、もう少し強気でもよろしくてよ」
三人が左右と正面から踏み込んできた。
正面の剣を半歩ずれてかわし、その腕を取って左から来た一人の進路へ押し込む。二人がぶつかって足を止めたところへ、右から短剣が伸びてきたので、それだけ剣で弾いた。
すれ違いざまに腕を浅く斬る。
三人目も武器を落とした。
残った二人はすぐに離れ、今度は少し距離を空けて左右から来る。
先ほどよりはいい。
「そうそう。せっかく人数がいるのですもの」
一人の突きをかわし、その勢いのまま背中を押す。
向かった先には、もう一人。
二人がぶつかって体勢を崩したところへ、片方には柄を、もう片方には剣の腹を一つずつ。
仲良く床へ沈んだ。
最後に残った一人が背後から剣を振る。
半歩横へずれるだけで十分だった。
空を斬った腕を掴み、そのまま勢いを殺さず前へ送ってやると、黒い身体が広間の床を派手に転がっていく。
「はい、おしまいですわ」
思ったより早かった。
少し静かになった広間で、五人とも床に転がっている。
先ほどの方々と同じ程度なら、こんなものだろう。
「……すごいですね」
後ろからエルンの声がした。
振り向くと、目を丸くしたまま、床の五人とこちらを交互に見ている。
「ふふ。もっと褒めてもよろしくてよ」
「えっ」
今度は困ったように眉が下がった。
「今、褒めたのでしょう?」
「そ、そうですけど……」
「でしたら遠慮なさらずに」
「自分から続きを要求する人、初めて見ました」
「あら。せっかくの正当な評価ですもの」
褒められたのだから、素直に受け取ればいいだけなのに。
エルンはまだ何か言いたそうだったけれど、おじ様の怒鳴り声が先に飛んできた。
「お前ら、呑気に話してる場合か! セドリックがまだいる!」
「あら。忘れていませんわよ」
「今ちょっと忘れてただろ!」
「失礼ですこと」
忘れるわけがない。
むしろ、先ほどから一番気になっている。
すると、その名前を待っていたように、壊れた扉の向こうから足音が聞こえてきた。
先ほどの五人とは違って、走ってはいない。
こつ、こつ、と一定の間隔で近づいてくる。
やがて姿を現したセドリックは、広間へ入るなり床の五人へ一度だけ目を向けた。それで終わりだった。
眉も動かない。口元も変わらない。
息一つ乱さず、昼間と同じ整った髪に、同じ落ち着いた顔をしている。
「……全員ですか」
「あら。ずいぶんゆっくりしたご登場ですこと」
「急ぐ必要がありませんでしたので」
「皆様は随分急いでいらっしゃいましたけれど」
「彼らには彼らの仕事がありますから」
部下が全員床に転がっているというのに、まるで予定の一つが終わっただけみたいな口ぶりだった。
どうやらこの方、自分が追い詰められているとはまだ思っていないらしい。
そういう余裕は嫌いではない。
「大変ですのね、部下というのも」
「あなたには縁のなさそうな立場ですね」
「あら。よく分かっていらっしゃる」
少し気に入った。
少なくとも、おじ様よりは話が早そうだ。
「なんでそこで俺を見る!」
「見てませんわよ」
「今見ただろ!」
おじ様が何か言っているけれど、今は放っておこう。
セドリックの目がこちらの剣へ落ちる。
「あなたが赤のダリアですか」
「ご存じでしたの?」
「有名ですから」
それは悪い気がしない。
まあ、当然ではありますけれど。
少し顎を上げると、セドリックの口元がほんの僅かに動いた。
「でしたら自己紹介の手間が省けましたわ。あなたのお名前も存じていますし」
「光栄です」
「それで――」
剣先を軽く持ち上げる。
「あなたは、あちらの方々より楽しませてくださるのかしら?」
昼間に見た時から、この男のことは少し気になっていた。
領主様の側近として立っていた時には、目立つようなことは何一つしていない。あの黒い印の方々のような嫌な気配も、この男自身からは感じなかった。
それでも、おじ様が倉庫の奥で何かを見た時、この男の目だけはきちんとそちらを追っていた。
何を隠しているのかまでは分からない。
ただ――隙がない。
こういう方が、弱いとは思えなかった。
「期待に添えるかは分かりませんが」
セドリックが腰の剣を抜いた。
「私も、あなたには興味がありました」
「あら。それは光栄ですこと」
昼間は領主様の側近と、監察官の護衛。
お互い、あの場でわざわざ余計なものを見せる理由はなかった。
けれど今は違う。
「でしたら、もう遠慮はいりませんわね」
「ええ」
次の瞬間、右から剣が来た。
受け流し、そのまま返そうとした時には、セドリックはもう半歩下がっている。追えば、今度も剣先一つぶんだけ先に間合いを外された。
なるほど。
力で押すわけでも、速さだけで勝負するわけでもない。こちらが斬れる場所に長く居座らず、反撃へ移る瞬間だけを綺麗に外してくる。
先ほどの黒い方々と一緒にしては失礼だった。
「お上手ですわね」
「余裕がおありのようで」
「だって、まだ楽しいですもの」
少し試してみたくなった。
今度はこちらから踏み込み、左へ回ろうとする。
その先には、もう剣先が待っていた。
寸前で足を止めると、刃が髪の先をかすめて通り過ぎる。
「まあ」
思わず目を細めた。
そういうこと。
こちらが動いてから追っているのではない。肩の沈みや腰の向き、踏み出す足へ力が乗る瞬間――そんな小さな変化から先を読んで、こちらより早く待っている。
ふふ。
面白い。
それなら、読ませて差し上げましょうか。
「今のはお見事でしたわ」
「ありがとうございます」
「褒められて嬉しくありませんの?」
「戦いの最中ですから」
「真面目ですこと」
もう一度、剣を交える。
右から来た斬撃を左へかわし、次も、その次も同じように左へ。
三度。
セドリックの目は、そのたびにこちらの肩や足元を追っている。
ちゃんと覚えてくださっているようで何よりだ。この方なら、三度も見せれば十分でしょう。
「ところで、あの黒いお洋服の皆様は、どういう集まりですの?」
「戦いながら聞きますか?」
「黙って斬り合うだけでは退屈でしょう?」
「あなたは随分余裕ですね」
「今さらお気づきになったの?」
セドリックの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「世界には、人より遥かに長く生き、人より強い者がいます」
「ええ」
「驚かないのですね」
「強い方がいることくらい、不思議でもありませんもの」
むしろ歓迎だ。
「その力を欲しがる人間もいる。一方で、人の国から金や物資、情報を得たい者もいる。互いに必要なものを持つ者同士が集まっている――簡単に言えば、その程度の組織ですよ」
「ずいぶん現実的な集まりですのね」
「組織とは、大抵そういうものでしょう」
「それもそうですわね」
世界を支配するだの、人間を滅ぼすだのと言われるより、よほど分かりやすい。欲しいものがあるから手を組む。そのくらいの方が話は早い。
「では、カレドもそのために?」
「拠点の一つに過ぎません。ここを失えば、別を探します」
「あら。領主様が聞いたら悲しみますわよ」
「もう十分悲しんどるわ!」
少し離れたところから、ご本人の怒鳴り声が飛んできた。
おじ様の後ろから顔だけ出し、真っ赤になってこちらを睨んでいる。
「人の館で好き勝手言いおって!」
「お前は今それどころじゃねえ!」
おじ様に肩を押され、すぐ後ろへ引っ込んだ。
ずいぶん器用に威張る方ですこと。
こちらへ意識を戻すと、ちょうど四度目が来た。
また右から。
セドリックは当然、こちらが左へ逃げると読んだのだろう。斬撃より一足早く、空いている手が左側へ伸びてくる。
「捕まえました」
ふふ。
そう思いますわよね。
だから今度は左へ行かず、そのまま半歩前へ出た。
セドリックの手が誰もいない場所を掴む。その腕の内側へ入り、剣を持つ手首を取って引けば、身体が前へ崩れる。
そこへ膝を一つ。
「ぐっ……!」
初めて、セドリックの眉がわずかに動いた。
それでも倒れないのは、さすがだった。
そのくらいは頑張ってくださらないと、せっかくの楽しみが短すぎる。
手首を放し、その横を抜けながら剣を走らせた。肩口が裂け、セドリックはそこで初めて自分から数歩距離を取る。
「……なるほど」
傷へ指を当て、そこについた血をしばらく眺めてから、小さく息を吐いた。
「最初の三度は、わざとでしたか」
「ええ。三度も見せれば覚えてくださると思いましたの」
「私が読みに来るところまで?」
「あなた、頭は悪くなさそうでしたから」
「それは褒め言葉でしょうか」
「もちろんですわ」
「なかなか性格が悪い」
「まあ。褒めてくださってありがとう」
「褒めてはいません」
そうなの?
小首を傾げると、セドリックがほんの少しだけ呆れたように息を吐いた。
もう一度構えたものの、今度はこれまでと違って一気に距離を詰めてくる。剣を十分に振るには窮屈なほど近い。
なるほど。
こちらの動きを読み切れないなら、剣そのものを使わせなければいい、と。
悪くはない。
けれど、剣が振れないから何だというのだろう。
右手を外へ逃がし、空いた左手で胸を打つ。セドリックの身体が浮いたところへ足を掛け、そのまま横へ崩した。
転ぶ寸前に床へ手をついたのは見事だったけれど、立て直した時には、もう剣先を喉元へ向けている。
「剣を封じればどうにかなると思いました?」
「……少しは」
「あら。素直になりましたのね」
「否定しても仕方がないでしょう」
「賢明ですこと」
満足して剣を引く。
セドリックもゆっくり身体を起こし、肩の埃を払った。
その時、広間の別の入口から複数の足音が響いた。
今度は随分と急いでいる。
現れたのは、また全身を黒いローブで覆った五人。その中には、先ほど煙に紛れて逃げていった方々も混じっているようだ。
「あら。また五人?」
「撤収のために戻していた者たちです」
「人数だけはきっちり揃えるのですね」
五人は広間へ入るなり、ほとんど迷わず二手に分かれた。
三人がセドリックのそばへ。
残る二人は、おじ様たちの方へ向かう。
なるほど。
そう分けますのね。
こちらには三人、向こうには二人。
おじ様が戦えないのは見れば分かるし、領主様については数える方が失礼だ。となれば、エルンも戦力には入っていないらしい。
二人で十分。
そう判断されたのだろう。
ふふ。
それ、たぶん間違っていますわよ。
「エルン!」
おじ様が叫ぶ。
「分かってます!」
エルンは心底嫌そうに眉を下げたものの、すぐに領主様たちの前へ出た。腰を少し落としながらも、剣を抜くわけでも拳を構えるわけでもない。
相変わらず、戦う人には見えませんわね。
もう少しそちらを眺めていたかったけれど、こちらにも三人来る。一人が右、二人が左へ散り、その中央にセドリックが立った。
「三人もつけてくださるの?」
「あなたには、そのくらい必要かと」
「まあ。高く買っていただいて嬉しいですわ」
四人が一斉に動いた。
さっきまでとは違い、今度は左右から来る三人のどこを避けても、その先にセドリックの剣が待っている。部下にこちらの進路を絞らせ、その空いたところだけを狙ってくるらしい。
なるほど。
人数を増やすなら、こう使いますのね。
少し楽しくなってきた。
「先ほどより、ずっといいですわ」
「それはどうも」
右から来た剣を流し、左の短剣をかわしたところへセドリックが踏み込んでくる。半歩下がれば、今度は三人が一気に間を詰めた。
追い込んでいるつもりなのだろう。
なら、少し混ぜて差し上げよう。
一番近い一人の腕を掴んで引き寄せ、そのままセドリックとの間へ押し込む。振りかけていた剣がぴたりと止まった。
「皆様、少々近すぎませんこと?」
横から来た一人の足を払い、今押し込んだ男へ重ねるように倒す。三人目の剣はしゃがんで避けると、頭上を通った刃が起き上がろうとした仲間の剣へぶつかった。
「あらあら。仲良しですこと」
甲高い音が響く中、身体を起こしながら一人の脇腹へ剣の腹を叩き込む。よろめいた身体をもう一人へ押しつければ、二人まとめてまた床へ崩れた。
残った一人だけが距離を取る。
黒いフードの奥は見えないけれど、剣を握り直した手にはさっきまでより少し力が入っていた。
「せっかく三人もいらしたのに、もうお帰り?」
返事の代わりに剣が来た。
「つれない方ですこと」
踏み込んできた刃を横へ流し、そのまま手首を押さえて軽く捻る。武器が床へ落ちたところへ柄を一つ入れれば、それで終わりだった。
人数が増えれば、もう少しくらい困らせてもらえるかと思ったのだけれど。
その時、広間の反対側から聞き慣れた声がした。
「ご、ごめんなさい!」
あ。
謝りましたわね。
思わずそちらへ視線を向ける。
二人の黒い方のうち、一人がエルンへ剣を振り下ろしていた。エルンはいつものように身体をするりとずらしてかわし、そのまま相手の手首を掴む。
「本当にごめんなさい!」
腰を落として身体を入れ替えた次の瞬間には、黒い方の足が床から浮き、綺麗に背中から落ちていた。
もう一人はその隙にエルンを迂回し、領主様へ向かおうとする。
「そっちは駄目です!」
エルンが慌てて追いつき、振り向きざまの剣をひょいとかわした。今度は腕と肩を取り、相手が踏み込んできた勢いをそのまま横へ流す。
「すみません!」
また一人、綺麗に宙を飛んだ。
先に倒れた仲間のすぐ横へ落ち、それきり二人とも起きてこない。
思わず少し見入ってしまった。
力が強いだけではない。相手が踏み込んできた勢いに逆らわず、崩れる方へ身体を運んで、そのまま投げている。
そのくせ本人は、倒した二人を見下ろしながら、今にも介抱を始めそうなほど眉を下げていた。
「すみません……本当に……」
「エルン」
「はい!?」
びくっと肩が跳ねる。
「あなた、ちゃんと戦えるではありませんの」
「だから戦いたくないんです!」
「二人とも綺麗に飛びましたわよ?」
「そこ褒めないでください!」
ふふ。
やっぱり面白い方だ。
敵の皆様にはお気の毒だけれど、二人で十分という判断は見事に外れたらしい。
「お前ら、戦闘中に談笑すんな!」
おじ様の怒鳴り声が広間へ響いた。
「わたくしはもう終わりましたもの」
「僕も終わりましたけど、余裕はありません!」
「何で勝ったお前が一番疲れてんだ!」
領主様まで、エルンの背中から恐る恐る顔を出して倒れた二人を見ている。
「……お前、本当に商人なのか?」
「領主さんまで言わないでください!」
賑やかな方々ですこと。
広間を見回せば、さっきまでいた黒いローブはもう全員床の上だった。こちらへ来た三人も、エルンへ向かった二人も、最初の五人も誰一人立っていない。
残った敵はセドリックだけ。
ようやく、余計な方々がいなくなった。
「……認めましょう」
セドリックが静かに剣を下ろした。
「あら。何を?」
「剣技も、読み合いも、近距離での技量も、あなたが上です。部下を交えても結果は変わらない。少なくとも、この姿のままでは、私はあなたに勝てない」
「賢明ですこと」
思ったよりずっと素直だ。
満足そうに顎を少し上げると、セドリックがこちらを見たまま数秒黙った。
「驚かないのですね」
「何に?」
「普通は、多少なりとも謙遜するものかと」
「なぜ?」
今度は本当に言葉を失ったらしい。
上だと言われて、その通りだと思っただけだ。わざわざ違うと言う方が失礼でしょう。
「最初から申し上げてもよかったのですけれど」
「それでは私が納得しなかったでしょう」
「でしょうね」
だから実際に確かめていただいた。
その方がお互いに話が早い。
けれど、セドリックは負けを認めたわりに降参するつもりはないらしい。剣を下ろしたままこちらを見据え、むしろここからだとでも言いたげだった。
「ですが、それはあくまで、この姿のままであればという話です」
その声が少し低くなる。
昼間から感じていた引っかかりが、ようやく答えを見せてくれるらしい。
「先ほど、人より長く生き、人より強い者がいると申し上げましたね」
「ええ」
「私も、そちら側なのですよ」
セドリックの指先がゆっくりと変わり始めた。
爪が硬く伸び、手そのものが大きくなる。肩も服を内側から押し上げるように持ち上がり、その奥から骨が軋むような嫌な音まで聞こえてきた。
後ろで領主様が息を呑み、そのままエルンの背中へ半分ほど隠れる。おじ様もさすがに口を閉じ、無意識なのか片手が頭へ伸びて、カツラの位置だけはしっかり確かめていた。
エルンだけは何も言わず、眉を寄せながら変わっていくセドリックを見ている。
普通なら、ここで少しくらい怖がるものなのかもしれない。
けれど、わたくしにはもっと大事なことがあった。
人ではない。
そして、今より強くなる。
つまり――まだ続きがある。
それだけ分かれば十分だ。
剣を握り直し、一歩前へ出る。
「ふふ」
自然と笑みが深くなった。
「ようやく本番ですの?」




