屠竜鋼の短剣
「お待たせしましたぁ!」
商人は背に大きな箱を背負って、二人の前にやって来た。
「ささ、こちらへ」
やけに腰を低くして先を歩く商人。ソニアとスージーは顔を見合わせ、その背中を追い始めた。
目的地は思ったよりも近く、中央通りを外れてすぐにある料理店であった。
そこは客が少なく……いや、全くと言っていいほど客がおらず、カウンターの前で退屈そうに煙草を吸う老人がいた。
商人が店主に会釈をすると、店主がため息と共に店内の隅にあるテーブル席を指差す。
三人はその席へと向かい、テーブルを挟んで向かい側になった椅子の内、片方に商人。もう片方にソニアとスージーが座った。
無言のまま少し待っていると、老人がお茶を持って来た。
「注文は?」
「あ、これとこれとこれ、それとこれもお願いしますぅ。お二人も、代金はこちらが持ちますから好きなだけ頼んでくださいよぉ?」
ぶっきらぼうなその声はあまり歓迎されていないのでは、と思うが商人はお構いなしにメニュー表を指差した。
好きに頼めと言われても、二人は先ほど料理を食べたばかりである。腹が減るわけもなかった。
とりあえずと、二人分の果実水だけ注文をした。
「これで全部か」
その問いに商人が頷く。二人もそれに続き頷いた。
店主がゆっくり店の奥に入っていくのを見送り、向かいに座る彼が口を開く。
「さて、早速ですがその短剣について、改めてご説明をと思いましてぇ」
そこまで言った彼は「あっ」と口を開けて、自らの広い額をパチンと叩いた。
「申し遅れました、わたくしはグルドウィン帝国で武器商人をしております、オーランドと申す者ですぅ。親しみを込めてどうぞ、オリーとお呼びくださいねぇ」
【グルドウィン帝国】、この名前にソニアは聞き覚えがあった。大陸の北の方に、山のように巨大な竜の骸があるそうだ。弧を描くように佇む骸に囲まれるように帝都を構えている……と、聞いたことがある。
行ったことがないのだ。詳しいことは知らない。
前世でのソニアが戦死してから300年、帝国はまだ残っているようだ。
「えっと、わたしは…」
横で自己紹介をしようとするスージーの肩を叩き、それを止める。首を傾げる彼女だったが、ソニアが首を振ることでなんとなく意図が伝わったようだ。やけにキリッとした顔で口をつぐんだスージーはオーランドの方を見た。
「スージーです!」
全然伝わっていなかったようである。
「はぁ…ソニアです」
何が目的かもわからないのに相手に情報を与えるのは得策とは言えない。相手の身分が本物かなんて分かりようがないのだ。
そんなこと言えば、まずこうしてついて来ている時点であまりよろしくないのだが。
ため息を吐いて自己紹介をしたソニア。対してオーランドは朗らかに笑う。
「はっはっは、警戒されるのはわかっておりますとも。しかし、ご心配なさらずぅ。少しお話をさせていただくだけですので」
この状況においてもう聞くしかない。それこそ席を立って、変に恨みを持たれてもよくないだろう。
ソニアは姿勢を正し、頷く。
「では……」と、オーランドが語り出した。
帝国の特産品に竜血鋼というものがありましてぇ、これは同じく特産品である竜血晶を混ぜ込んだ金属なんですよ。
竜血晶は、古竜様が流した血が地面に染み、やがてその魔力が結晶化したものなんです。
まぁ、ここまでは前提としてお話しさせていただきました。
ここからが本題なのですが、その昔帝国に、あまりに凶暴で、狡猾で、強大な力を持った竜が現れたそうです。その竜は多くの人を殺め、恐れを込めてこう呼ばれました。
屠竜、と。
当然、討伐隊が組まれます。
多大な犠牲を出したものの、討伐は成功しました。
そして素材は、討伐隊の隊員とその遺族らに配られました。その内の魔石だけは国が回収したのです。
竜血晶を利用した竜血鋼についてお話ししましたね。
そう、屠竜の魔石は竜血鋼と同じよう加工されました。詳しい製法は知りません。ただ、製作過程ですら多くの負傷者がいたそうです。
屠竜鋼、そう名付けられた金属で造られた武具は非常に鋭く丈夫でした。しかし、問題がありました。
この武具は使い手を選ぶのです。
それを抜いた時にした質問を覚えていますか?もし武具に選ばれなかったら、多くの場合は抜くことすらできません。
屠竜鋼を使用した武具は、当時帝国で商いを行っていた商人、商会のうち皇帝との取引をしていた者らに配られました。
ある者は高値で販売をし、ある者は家宝として屋敷に飾るようになりました。
そしてある者は……認識阻害の魔法を掛けた上で商品に紛れ込ませ、いつか現れるかもしれぬ選ばれし者を探す旅に出ました。
私は、その旅に出た商人の二代目となります。
「とまぁ、これがお話ししたかったことなわけですねぇ」
話を聞き終えたソニアは何かを言おうとして、しかし何も浮かばず口を閉じた。
スージーはなんだかよくわかっていないようで、「ほぇー」と気の抜けた声を出している。
「はいよ、お待ち」
と、ここで店主が料理と果実水を運んできた。
「遠慮なさらず」と差し出された果実水に二人は口をつける。
先ほどの話を聞いてやや疲れを感じていた頭に、思っている数倍は甘く濃厚なそれはとてもよく沁みた。




