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黒猫の魔導書  作者: 巌沢雪乃
元騎士団長、転生する

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3/4

午前の出来事

 元気な女の子、そんな言葉通りな雰囲気を持つ少女を前にやや狼狽える。相手が子供であるとはいえ、見知らぬ人物から親しげに話しかけられると困るものであるようだ。


「……あの子はスージーよ。覚えては……ないのね」


 悲しげな顔で耳打ちをしたルディアに、申し訳ない気持ちが湧いた。

 二人の間にある気まずい空気に気付いていないのか、スージーはズンズンと歩いてソニアの目の前までやって来た。


「体は平気?」


 平気かと問われると微妙なところである。しかし心配させるわけにもいくまい、と頷く。


「ええ、大丈夫ですよスージー」

「ぷ、変なの!なぁにその喋り方!」


 言われて気がつく。ソニアが元々どのように喋っていたのかを知らないと言う事実に。


「えっと、その」


 ルディアは寄り添ってくれているが、明らかに様子が違っているはずなのだ。子の変化に気付けぬほど愛のない家族だとは思えなかった。

 伝えるべきか、この体に別人の魂が宿っているのだと。そんなわけのわからない状況を彼女らは信じてくれるのだろうか。そして、受け入れてくれるのだろうか。


「スージー、ソニアはね……ちょっと落ち着きなさいって神様に言われたみたいなの」


 ぐるぐると回る思考を断ち切ったのは、他でもないルディアの発言であった。


「あなたならわかるわよね。この子ったら木に登れば落ちて怪我をして、走ればお貴族様にぶつかって…挙げ句の果てには川で泳いで溺れて…」


 ルディアの言葉にスージーは頷く。


「だからきっと、怒られちゃったのね。だからこんなにおとなしい子になっちゃったの」


 それは、スージーのために話すだけではなく、自分を納得させるために発しているような声だった。

 神様に怒られたから全てを忘れて、性格まで変わって……そんな風に納得できるだろうか。普通ならできないだろう。

 どうやらソニアという少女は随分と愛されて過ごしていたようだ。


「うんうん、この前なんて小さい子をいじめてた男の子と大喧嘩してたもんね……そっか、でも元気なんでしょ?」


 無邪気な栗色の瞳がソニアを覗き込む。


「はい、元気です」

「ならよかった!」


 隠している事実はあるが、それに気付いてか気付かずか、ルディアは受け入れてくれるようであった。

 一度成人した身で恥ずかしいことではあるのだが、その気遣いに甘えさせてもらうことにした。


 満面の笑顔で抱きついて来たスージーにソニアは微笑む。

 しかしなんだ、ソニアは思いの外活発な……いや、活発すぎる子供であるようだ。なんとなく、ルディアの言っていることは間違っていないのかもしれない、なんて思いながら、スージーと別れの挨拶を交わして町の散策を再開した。




 その後は大きな出来事もなく、途中の屋台で肉の串焼きを買い、食べ歩いたりと穏やかな時間を過ごせた。


 帰宅する頃には日が昇り切り、暑さによって人通りが減る時間帯になっていた。家に着くとルディアは昼食の用意を始める。流石に何もしないわけにもいかないと手伝いを申し出てみたところ、「いいから休んでなさい」と断られてしまった。


 そうなると手持ち無沙汰である。

 庭に出た。明るい時間であるため、庭の全貌がよく見える。若い木が一本。そして何種類かの花が植えられた花壇。小さな倉庫。

 庭の中央は踏み固められており、草が生えておらず地面が露出していた。


 今朝、手頃な長さだと思っていた棒が視界に映ったので、今一度持ち上げてみる。表面が滑らかに削られたそれは、素振り用に手入れされたもののようであった。


 父、ゴルドは衛兵である。剣を握る機会も多いだろう。これは恐らく、ゴルドが訓練に使用しているものだ。似た仕事をしていた身として、家でも訓練を欠かしていないその事実はとても好感が持てた。


 ソニアは使い込まれた棒をしっかりと握り込み、振り下ろす。

 やはり棒の重さに体の軸が引っ張られ、前方へとよろめく。


「ふぅ……」


 前世のソニアはかなりガタイのいい方であった。扱っていた武器は長剣で、体重を乗せた一撃は獲物を容易く切り裂き、その実力をもって騎士団長という位にまで上り詰めた。

 そんな過去の記憶を思い浮かべながら手元の棒を見る。長さは長剣と同じくらい、ソニアの身長よりやや短いくらいである。


 体重や身長、それらを加味して考えると、もし今後剣を握るとしたら長剣ではなく短剣、あるいはナイフ等の短く軽いものがよさそうだ。

 少なくとも、木製の棒にすら振り回される現状で、金属の塊である剣を振り回せるはずもない。


「ご飯ができたわよ……あら?あなたのは倉庫にあるんじゃないの?」


 いつの間にか料理を終えていたルディアが玄関から顔を出し、ソニアの姿を見ていた。


「私のですか?」

「そう、前にパパと同じことがしたいって、自分の棒をねだってたのよ。飽きたからかすぐに倉庫に投げ込んでたはずだけど、また興味が出たのかしら?」


 ソニアは頷き、笑う。実のところ、剣を握らないというのはどうも落ち着かなかった。近々、近所で自分に合った棒でも探そうかな、と考えていたこともあり、ルディアがもたらした情報は非常に都合のよいものであった。


 では早速、と倉庫の方に歩みを進めようとしたソニアに待ったがかかる。


「その前に、ご飯にしましょっか」


 元より、昼食までの暇つぶしであったことを思い出した。はやる気持ちは抑えて、ルディアに連れられ居間へと向かった。

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